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紫ちゃんと人生

「お兄ちゃんは私のこと好きですよね?」


 俺と紫のいつものやりとりが始まる。


「好き好き、愛してるぞー」

「心がこもってないのでりぴーとわんもあ」


 リテイクを要求される、いつもの紫なら言葉だけでも満足するんだがな……


「なんかあったか?」


 俺がそれとなく水を向けてみる。


「ん? 何にも無いよ? ただちょっとお兄ちゃんが私を好きじゃないって妄言を吐いたクラスメイトとお話ししただけ」


「お話……」


「そそ、お話(肉体言語)」


 なんか不穏な感じなんですけどねえ……

 正直に言えば俺はこの妹に正面から向き合ったことはない、だって重すぎるし。


「ま、まあ良いんじゃないか? 問題起こさないようにな」


 手遅れ感はあるが一応釘を刺しておく。


「なんか悩みがあるなら聞くぞ、聞くだけだが」


 そう聞くだけだ、受け止めるのとはまったく別の話だ。

 俺のキャパを超える重い話には付き合えない、これそういう話が出そうな流れなので予防線を張っておく。


「お兄ちゃん……私はお兄ちゃんのこと好きですよ、でもだからってお兄ちゃんに私を好きでいて欲しいっていうのはわがままですか?」


「別にいいだろ、人間なんて何であれ対価を求めるもんだ、「ありがとう」があれば生きていけるとかいうブラック企業のトップがおかしいだけだ」


「じゃあ私がお兄ちゃんを愛してるのでお兄ちゃんも私を愛してください!」


「それはそれ、これはこれ」


 俺に多くを求められても困る。


「ねえ……私は何でお兄ちゃんのことが好きなのかな?」


「時々不安になるんだ……私がお兄ちゃんを好きな理由が説明できなくって……」


 ああ、この手の疑問に答えはないんだよな、とはいえ兄として妹に道を示さないといけない、年長者の務めだ。


「好き嫌いに理由はいらんだろ、感情を理論で説明したがるのは精神科医くらいだよ」


 紫は気にしすぎだろう、兄妹愛というものがあると俺は信じている。


「ふふっ、お兄ちゃんはぶれないですねえ……」


「世間から疎まれてると好意が欲しくなるんだよ……」


 凡人の俺にも愛情を向けてくれる(いもうと)が俺はなんだかんだいっても好きなのだろう、それを愛と呼ぶのかは分からないがな。


「しょうがないですね、まったく。お兄ちゃんは私がいないとダメダメですね!」


 得意げに胸を張る紫、コイツはダメ人間にも優しい人間の鑑だな。


「俺はお前が将来ダメなやつに依存しないか不安だよ」


 そう言うと紫はドヤ顔で返す。


「そうですか? もうお兄ちゃんが好きなだけですよ?」


「俺がダメ人間だからバッチリ心配は当たってるよ」


 身をもって示す、兄としては心外だがダメ人間を否定できるほどできた人間ではない。


 兄として立派な人格者でありたいとは思うのだがそんなすぐにはどうにも並んだろう。

 俺にできるのはこの妹を少しでも自立させることだけだ。


 コイツを独り立ちさせるのが兄としてできる数少ないことだ。

 なんたってコイツは何でもできるからな、超人の神話や人月の神話なんてものがあるがこいつなら銀の弾丸にでもなれそうだ。


「一人で何でも背負い込むなよ、俺だって少しくらいの力はあるぞ」


 そう言うと何故か紫は不機嫌になった。


「むぅ、お兄ちゃんに独り立ちされたら私が困るじゃないですか!」


「なんだよそのキレ方!?」


 あさっての方向に起っている紫、ここは一つなだめておこう。


「俺はデキる妹が好きだぞ」


「ふぇ!? あっあっそうでしたか! では私はお兄ちゃんの理想の妹って事ですね」


 飛躍しすぎじゃないかな……

 本人は頭がから湯気が出そうな雰囲気を放っているのでよしとしておこう。


「じゃ、俺はそれなりに生きてくよ、お前は頑張ってくれよ」


「分かりました! バッチコイです!」


 こういうくだらないやりとりをしながら俺たちの日常は続いている。

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