6.聖女優梨愛
おい、ちょっと待て。
どういうこと?!へっぽこ神!
ここでスマホ取り出して問いただしてもいいかな?
シリアスなんて吹っ飛んで、完全にコメディにしかならないけど。
『ああ・・・すまぬ』
『すまぬじゃないわよ!あんたの盛大な勘違いのせいで、クリスティーネが苦しんでるじゃない!』
『神とて、ずっとクリスティーネに張り付いているわけではない。それに、色々と邪魔された・・・』
『言い訳はいいわ!クリスティーネがいうテオ様を早く出して!』
「神の使徒瑤子様、テオドール様をここにお呼びいたしますので、お待ちいただけますか?」
突如念話をキャッチしたとばかりに、アレクサルト教皇が声を掛けてきた。
え、念話駄々洩れ?!
そんなわけあるわけないですよ。あなた様の表情を見ればすぐにわかります。と言わんばかりの笑顔で、消えた。
『ちょっと、へっぽこ神、アレクサルト教皇って何者?!』
『ああ、あれは だ』
『聞こえないよ!』
『そんなはずは、 だ。わかったか?』
全くわからん。得体がしれないってこわいね。
「 見ろ!」
誰か何か言った?
「人の話を聞け!こっちを見ろ」
ああん?誰よ神の使徒たる瑤子様に向かって、命令口調って誰?!」
声の方向を向いて睨むと、吠えてる皇帝がいた。
「ああ、皇帝の血を継がない、お飾りの皇帝か。何か用?」
あたしの言葉に集まっていた臣下が騒めく。
あ、腹が立ってたから本当のこと言っちゃった。
でも、いいよね。どうせここで種明かしするんだから。
「何を貴様!不敬罪で殺されたいか?!」
「あんたこそ、誰に向かって言ってるの。その言葉まんまあんたに返す。黙っててくれない?」
おーおーおー、見事な口パク。滑稽だね。
これなんの魔法なの?威圧してるだけ?
ストレス解消にビデオでも録画しておいて、後で楽しもうかな?
横で青い顔して立っている優梨愛さんをみた。
自分の思い通りにならなくて、焦っているのか、それともここは自分の書いていた世界ではないことに気が付いた?
待っている間、話してみよう。
その前に、緊張しているクリスティーネに声を掛けないと。
「クリスティーネ、アレクサルト教皇が帰ってこられるまで、心を落ち着かせて待っていましょう」
「はい。わたくしは本当にテオドール様にお会いできるのでしょうか?」
「ええ、アレクサルト教皇が嘘をつくはずがありません。もう少しだけ、頑張りましょう」
そう、もう少しだけ頑張ってもらいたい。
優梨愛さん次第で、これからも変わる。
「優梨愛さん、で大丈夫?これは本名?それともペンネーム?」
優梨愛が息を呑んだ。まさか、そこを聞かれると思っていなかったのだろう。
「ペンネームです。自分の名前で流石に小説を書きません」
ですよね。それは完全に夢小説だ。
「ここでは優梨愛さんと呼ばせてもらうわね。あなたは今の状況わかっている?」
「いえ、瑤子さん・・・は」
「ああ、完全に生身だから、本名」
「そう、ですか」
「あなたの描く小説だと、このままクリスティーネを断罪した後、どうするつもりだったの?」
「クリスティーネにテオドールを会わせて、辺境で暮らしてもらおうと思ってました。幽閉に近いですが、愛する人と一緒なら幸せかと」
やっぱりそうだよね。優梨愛さんの書く小説は優しい。誰かの死があるから幸せに誰かがあるというものは、書いていない。だけど悪役令嬢が断罪されるというのは、鉄板だ。
隣で皇帝がそんなこと出来るか!ってエアで叫んでる。
仕方ない、声をだす許可を与えよう。
「しゃべっていいわよ。皇帝君」
「ユリア、小説とか名前とか色々わからないことだらけだが、クリスティーネがあれだけのことを国にしておいて、死罪それも見せしめの為に、ギロチン以外にはあり得ない」
「そんなはずはないわ。聖女の私の願いを聞いてくれるでしょ?」
「皇帝自ら国を危険にさらせたことを許せば、国としての根底が崩壊する。よって、そなたの願いでも出来ない」
二人が睨みあうように見つめあっている。
根気負けしたしたのは、優梨愛。自分が作り出した世界でないことに、気が付いたようだ。
「瑤子さん、ここは小説の中では、ないのですね?」
「ええ、無数ある世界の一つで、似ているけれどあなたが作り出した世界じゃない」
優梨愛は膝から崩れ落ちた。
どうして・・・。
わたしはある日突然こちらの世界にやってきた。
自宅のベッドで寝ていたはずなのに、目が覚めたら全く別の場所に寝ている。そのことに気づいた時、パニックに陥った。
ここはどこ?!
誘拐でもされた?
でも、部屋の中はびっくりするほど豪華で、誘拐されて監禁される場所とは全く違って見えた。
部屋の中をうろついていると、ドアが突然開き、誰かいるのか!と声を掛けられた。
振り向くと、そこには完全に乙女ゲームに出てくるような皇子がいた。
実際は皇帝だったけど。
どうやら皇宮の一室のベッドに転移したらしい。
「何者だ?!」
焦った私は書いていた小説のセリフを言った。
「わたしは、異世界から来た聖女。この世界を光で満たしましょう」
辺り一面に聖魔法をかけるイメージで手を翳してみたら、キラキラと輝いた。
本当に成功するとは思っていなかったが、それですぐに信じてもらえた。
ちょっとチョロすぎない?と心配になったぐらいだ。
後で聞いた話では、テオドリーコの護衛の古傷がなくなったから信用したと聞いて、ホッとした。
それからとても大事にしてもらった。
だからどんどん好きになっていった。
身分が違いすぎるから結婚どころか、恋人にもなれないなんて。
悲観する日もあったが、話の流れが自分の書いている小説に酷似していることに気が付いた。
もしかして!
そうだ、私の書いている小説ならば、大丈夫!
テオドリーコとこの国で幸せになるためには、婚約者のクリスティーネが邪魔だった。公爵令嬢であることに加えて神託で決まった婚約。これを覆すには、聖女として君臨するしかなかった。
だから小説にそって自分の行動を決めてきた。何もかも順調だった。
悪役令嬢のクリスティーネの断罪が終れば、私の人生は順風満帆で恐れるものはない。
悪役令嬢クリスティーネにとっても、断罪されて婚約者破棄されたほうが、幸せになる。そう信じて疑わなかった。私の提案を一度も出来ないと言われなかったし、どんなわがままも聖女のいう事なら。と受け入れられていたから。
「この世界の神リューウールから、あなたが自分の世界に戻りたいと願って欲しいと言われています」
まさか、こんな形でお別れになるなんて、思いもよらなかった。
読んで頂き、ありがとうございました。
色々と迷走中w