3.クリスティーネの加護と枢機卿の罪
ああ、なるほど。
あたしが現れたタイミングがあの読んだばかりの断罪の場面なら、藁にもすがる思いのはず。だからこそ、神が気にかけているというのが、信じられないのだろう。
あたしだって今の現状が信じられないからね。
なんだって、こんなタイミングなわけ?
とりあえずクリスティーネを見下している奴なんて無視して、椅子に座らせてあげなきゃ。
「あの、教皇さん。クリスティーネとあたしが座って話せるようにして欲しいです」
「わかりました。では、すぐに準備をさせて頂きます」
パチンと指を鳴らしたと思ったら、すぐにテーブルと椅子が用意された。しかもそのテーブルの周りは天蓋で覆われ、あのムカつく皇帝を隠してくれる。
これが魔法?
何とも素晴らしいとしか言えない。
「ありがとうございます!」
あたしの満足そうな笑顔に、同じような笑みが返ってくる。
ここは天国ですか?
ビデオ撮影Okですかね?
そんなあたしを不安そうに見つめる碧色の瞳。
ああ、クリスティーネ。待ってね。神の使徒らしいこと言うから。
「それから、この状況を作り出した不届き者、枢機卿を所望します」
「おお!使徒様自ら裁いて下さると!なんと素晴らしい。すぐにでも捕らえてまいります」
煌びやかで素敵なイケメン教皇様の眩しい笑顔と、その悩殺ボイスグッジョブです。
邪魔だったんですね、その枢機卿。わかります。
教皇を見送った後、クリスティーネに意識を戻した。
「神が何故クリスティーネを気にしているか、という疑問にお答えします」
息をのむ声があちらこちらから聞こえる。
それはもう、気になりますよね。
自分たちがやらかしたことが、罪になるかもしれないのだから。
勿論、クリスティーネを虐めた奴は問答無用で、罪にするけどね。
「神からの神託を伝えます」
『クリスティーネは、我の昔愛した女の子孫。その女が死してもなお、自分との子孫が未来永劫幸せになるよう祝福を送った』
「そう申しておりました。それなのに・・・。そこに何故か手が加えられ改ざんされたと嘆かれ、あたしを遣わしたのです」
「わたくしが、創造神リューウール様の子孫・・・」
「ええ、そうです。血も薄まると同時に加護も薄くなりましたが、間違いありません」
あの残念神がスキルに鑑定を付けてくれたので、クリスティーネのステータスを見てみた。
間違いなく称号に載っていた。
創造神リューウールの祝福と加護(極小)
突込みどころ満載である。
極小って!ご利益あるのか?ってレベルの気がする。
だけど、嘘ではない。薄いが加護は加護である。
周りの雰囲気がガラリと変わった。
何事かと不思議に思って見渡すと、教皇が早くも枢機卿を捕らえて現れたらしい。
イケメンでイケボで仕事が早い。
こんな人と恋愛は出来なくていいけど、近くでずっと見ていられる権利くれませんかね?
リューウール神?
「わたしが何をしたというのです」
この声だけでギルティ決定。
媚びるようなネットリとした言い方マイナス一万点。
「神の神託は必ずしもクリスティーネを指すものでは、ありませんでした。時が経つことで神託が変わることはおかしくありません」
ほおほお。それはあたしに喧嘩売ってるよね?
あのポンコツ神がぼかしていったのは事実。だが、それを補うためにやってきたあたしをコケにするのは許しまじき行為。
そのお腹のお肉から脂が出て、痩せ細るまで説教してやろうかしら?とも思ったけれど、関わりたくない男の為に時間をかけるのは、面倒。
「それに帝国の一臣下として、正しい神託をお伝えすることは、帝国を良きほうへと導くことになるでしょう。聖女ユリアと共に帝国に栄光あれ」
欲に塗れた偽信者とは、こういう男のことを言うのね。わかりやすっ。
権力になびくのは当たり前というのを堂々と言うなんてね。
一応鑑定。
はい、真っ黒も真っ黒。
神の使徒であるあたしもびっくり。
それに名前、アッポーって、そのままじゃない。笑える・・・。
それよりもこいつ、隣国にまで通じてやがる。この阿保の皇帝だったら、隣国にあっという間に飲み込まれちゃうわね。
別にあたし的にはいいけど、クリスティーネがこの国で幸せになりたいなら、どうにかしないとね。
アッポー枢機卿
『アレクサルト教皇を陥れるために、隣国の枢機卿と共謀し。皇帝を意のままに操るための策の一つとして神託を改ざんした』
※注目※ 証拠となる密約は、腹回りの布の中に隠されてある。
ということで、時間も勿体ないからさっさと片付ける。
「アレクサルト教皇、内密なお話があります」
小声で呼ぶとすぐに来てくれた。
近くで見ると、ほんと眼福。
「なんでございましょう」
今度は耳が幸せ。
折角異世界に来たのだ。こんな男片付けてもっとお話をせねば!
「アッポー枢機卿は、隣国と繋がっております」
「やはりですか。こちらでも気づいておりましたが、証拠がなくて」
「あの太い腹にあります。あの腹でしょ?少々布がごつくても解らないのをいいことに、布で隠されています」
「なるほど。それは盲点でした。ありがとうございます」
その笑顔、キュンキュンする。
ではサクッと、クリスティーネの婚約が神託として正しいことを証明しましょう。
「アッポー枢機卿、先ほどの言葉に嘘偽りはないと、このあたし神の使徒瑤子に誓えますか?」
なんでそんな驚愕?
あ、もしかして教皇は、あたしたちの姿を見えないようにしてた?
教皇を見ると先ほどの笑顔が五割増しになった。
「あ、いえ、その神の使徒というのは・・・」
「その名の通り、あたしが創造神リューウールの使徒 瑤子。あなたが覆した神託に神は非常にお怒りです。さあ、あなたがここで申立したことを正しく伝えてください」