8、大学生ロボットについて
大学時の彼女(恋人ロボット)は、1人暮らしの女子大生という設定だった。年齢は俺と同じってことになっている。
でも精神年齢AIは結構大人だ。なんでだ? なんで精神年齢AIが大人なんだ? 色んな常識も理解しているし、ある程度性格も出来ている気がする。
前にも言ったけど、AIを育てるのってすごく手間がかかるんだ。それは“AI学習”って授業で学校入ったらすぐに習うから誰でも知っている。生活の中にはロボットはいたるところに使われていて、AIを育てながら共に成長していくというコンセプトの町づくりもなされているくらいだ。
だから新しい恋人ロボットのAIがかなり育っているのを肌で感じて、はたしてこれはどうやって誰が育てたのか? と疑問に思ったんだ。
「そりゃお前、プログラムが8割、あとは教育係がやるんだよ」
シレっと親父が教えてくれた。
「なに、教育係って」
「やってることはプログラマーと同じだけど、声色や顔色を用いてAIを育てる技術者がいるんだよ。お前んとこの大学にもあるだろ、執事養成学科みたいなやつが」
「あるけど、執事じゃないじゃん」
執事ってのは「オカエリナサイマセ、ご主人様」だろ? あー、なるほど。執事ロボットを教育する人材を養成しているってことか。納得。
「執事養成学科はエリートだぞ。そこの科に友だちがいたら、詳しく聞いてみると良い」
「ふうん」
確かに、執事科はエリートらしい。
使えるロボットAIを育てるためには、人間の方もデキた人間じゃないとならない。そうしないと、ロボットのAIがひん曲がって育ってしまうとか。教育って大切なんだな、と妙に感心した。
とはいえ、同じ大学でも俺は繊維学科だからなあ、エリートの執事養成学科の人間とお近づきになる機会はないだろう。
◇
最初の恋人ロボットは1日3時間しか起動していなかった。でもそれで全然問題なかった。まあ、夏休みとかちょっと物足りない気もしたけど、高校生なんてそんなもんだ。一緒にいて、デートしてチューして、それで満足だ。(ま、俺は時々風俗に行ってたけど。人間同士じゃないから、これが普通)
しかし、今度の恋人ロボットは起動時間が長くなった。平日は5時間。そして土日祝日はなんと12時間。
バイトもあるし(勉強も?)他にももろもろ忙しいけど、彼女との時間がぐっと増える。これは、いちゃいちゃの予感・・・?
ぐふふ。
おっと、エロい顔してたか、俺?
気が付くと、彼女といかにエロエロな生活をするか、そんなことばっかり考えている。気を付けないとエロい顔が板についてかまぼこになっちまう。
しかし、いくらそんな野望を持っても、そこらへんに関してはAIは育っていないらしい。ていうか、経験のある恋人ロボットなんて、ちょっとイヤだよな。ということは、そういうところは俺が育てなければならないわけで、大人彼女を手に入れたからと言って、いきなり風俗店みたいな楽しみ方はできないわけだ。
うん。
うん、楽しみ。
ということで、学校帰りに彼女と待ち合わせをするところからスタートだ。
設定としては、彼女は女子大に行っててウチの大学よりコマ数が少ないから、こっちで待ち合わせ、ってことになっているわけだ。細かい設定だけど、こういうのって必要なんだよ。自然な設定ができないと、AIも自然に育たないんだ。
待ち合わせ場所は学食。まだ彼女は来てない、と。
学食で一人コーヒーを飲みながら彼女を待ちつつ、どんな奴らがいるのかを観察してみた。
基本的に男子校(そりゃそうだ、男しか生まれないん)だから男が多いのは当たり前なんだけど、チラホラ女子も見かけた。あれなんだろ? 誰かの恋人ロボットなのかな。それとも、大学所有の学生ロボットかな。
女子ロボットだけでお茶してるグループがあるし。
「何見てるの?」
急に声を掛けられてすっげえびっくりして飛び上がった。
「わっ、ああ、由香里」
「あそこの女の子たち見てたんでしょ」
さすが女の子設定。あ、コレ俺の新しい彼女(恋人ロボット)。な、大人っぽいだろ?
「いや、違うよ・・・ていうか、そう。あの子たちって何なんだろうって思って」
彼女は俺の向かいに座りながら、向こうの女子グループをチラっと見た。
「この学校の執事養成学科の女の子たちでしょ?」
「執事養成学科の? へえー」
「わかってないでしょ。サンプルAIよ?」
そう言われてやっとわかった。なるほど、執事養成学科でAIを育てるためのサンプルのロボットだ。実験と実践を兼ね備えてるから、本物のロボットでAIを育てながら学ぶんだろう。
「なるほどねー。と、じゃ、行くか」
「うん」
コーヒーも飲み終わったし、俺たちは立ちあがり、学食を出た。
恋人らしく手を絡め、広いキャンパスを散歩する。これだけでも立派なデートコースになる。なにせ大学が広い。ナントカ庭園なんて名前の付いてるところもあるくらいだ。
他愛のないお喋りをして、庭園を歩いてまわる。ベンチに腰を下ろして誰もいないのを見計らってチューをする。
ここらへんのAIはあんまり育っていないけれど、最初のロボットよりはずっとスムーズに手もつなげたし、キスもできた。雰囲気も良い。
俺は、誰もいないのを見計らって恋人らしい雰囲気を作って、彼女のAIを育てていた。
ところが、俺が気づいていなかっただけで、俺たちを見ているヤツがいたんだ。