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5、彼女と手をつなぐことについて


 恋人ロボットとはいえ、彼女には家があった。

 当然、俺は未成年でまだ高校生だったから、一緒に住むことはできなかったんだ。それで、親父が恋人ロボット専用の家に寝泊まりさせていた。これって、家に帰るっていうよりは、普通にメンテナンスなんだけどな。

 起動している時間は一日3時間。だけど、メールはその他の時間もできた。

―― ピローン♪

『おはよう~^^ 昨日、ケイ君の夢見ちゃった。今日は部活?』

 こんな感じで、朝っぱらからメールもくれる。ロボットも夢を見るのか。

『今日は部活ないよ。学校のあと待ち合わせしよう』

『やったあ! じゃあ、4時に駅でね』

『了解~』

 なんてやりとりができる。


 放課後、駅で待ち合わせると、彼女は白いシャツにプリーツスカートという、いたって普通の女子高生のような恰好をしている。実際に高校に通っているわけじゃないけど、こういう細かい設定もできていて面白い。

 恋人ロボットは顔が映像だけど、慣れてしまうと結構普通に見えてくる。まあ、あまり凹凸はないけどな。だけど、表情はすごく自然だ。

「よう!」

「ケイ君~」

 俺が手を振ると嬉しそうにこっちに走り寄ってくる。こんな顔もなんの違和感もない。俺好みのショートカットに爽やかな笑顔。うん、可愛い。

 二人で並んで歩くと、俺よりも少し背が低くて、たぶんバランス的にちょうど良いんだろう。俺はわりと小さい方だけど、女の子と歩いてる感があるからな。

 なんか、良いな。

 女の子。

 この世界には女はいないけど、どうしていないんだろう。

 本物の女がいたら、きっとすごく・・・いいんだろうな。

「ケイ君? 何考えてるの?」

 彼女が顔を傾げながら俺の表情を覗き込むように上目使いをしている。可愛い。

「え、別に」

「うそっ、他の女の子のこと考えてたでしょ」

 うお、すげえ、ある意味当たってる。

「そんなわけねえだろ。千沙のこと考えてたんだよ」

「えっ、」

 彼女は顔を赤らめた。可愛い。

 良いなあ、女の子。

「公園まわって帰ろうか」

「うん」

 連れだって、駅の向こうにある公園に行く。そこは広くて木もいっぱいあって、芝生の広場とかもあって良い雰囲気なんだ。


 今日こそ。

 今日こそ、手を繋ぎたい。

 そう思っているのに、彼女はちょっとボーイッシュすぎるというか、サバサバしてるところがあって、あんまり甘えてこない。それはそれで良いんだけど、せっかく恋人ロボットなんだし、手ぐらい繋ぎたいじゃないか。

 どうする。

 俺、どうする。何て言って繋いだら良いんだ? 頼み込むのか? それじゃダメだ。もっと自然に。自然な流れで

 そっと。

 何も言わず、そっと彼女の手に俺の手を重ね、そしてその手を握った。

「・・・」

 彼女が俺の方をちょっと見ている。

 くっ、この後どうする! どうする、俺! 頭ん中で、頑張れ俺! と何かが応援しているが、具体的な指示が来ない!

 どうしたら良いんだあああああー!


 という俺の大騒ぎしている脳内を見せないように、彼女の方へ顔を向け俺にしては優しく、微笑んだ。微笑んだ、ってのが大切だ。こう、ぎこちなくならないように、それでいてそっけなくないような、そんな微妙なさじ加減で微笑む。この顔で男が決まる!

 余裕を持った男の微笑み。

 それを彼女が感じ取ってくれたかどうかはわからないけど、彼女は顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向いた。

 心なしか嬉しそうな顔をしているように感じる。

 俺の都合のいい思い込みか? いや違う。きっと彼女も喜んでくれてるはずだ。


 彼女と初めて手をつないだ。


 彼女の手は、ロボットとは思えないほどに柔らかくて温かくて、思ったよりもずっと華奢だった。

 うわあ。女の子の手。

 手汗出てきた。ヤバい。

 しかし、ここで手を離すわけにはいかない。せっかくつないだ手だ。離すもんか。

 そう思ったらつい、ギュっと握ってしまった。手汗は出てるし、握りすぎてるが、どうも自分の手なのにうまく調節できない。

 その時、彼女のAIが何を学んだのか。

 俺の手を握り返してきた。

「ぐぎゃぁっ!」

 骨! 骨! 折れる!!!!

「ちょちょちょちょちょちょちょ、は、はなし、離してっ!」

「えっ?」

 彼女はキョトンとして俺の手を離した。

 うわ、指がなんか変な方向に曲がっちゃった気がしない? コレ。

 涙目でみっともないが、ここは彼女にきちんと言わなければなるまい。

「千沙、強すぎる。もうちょっと手加減して」

「え、でも、ケイ君と同じくらいが良いと思って。違った?」

 おい、俺の握力50だぞ。普通より強いんだぞ。そんな女子いるか!

「女子のほうが、力は弱いんだ」

「そうなの? どれくらい?」

「よく知らねえけど、30キロくらいじゃねえか?」

「わかった」

 彼女は手を顔の前にあげて、ニギニギしてみせた。こ、こええ。さすがロボット。

「いやいや、全力で握るな! 確かに今、俺ちょっと強かったけど、普通はもっとソフトにな?」

「ソフトに? このくらい?」

 彼女が俺の手を握ってきた。うーん、ちょっと弱いが、ま、強いより良いか?

「そうだな。また不都合があったら直そう」

「わかったぁ」

 彼女はニッコリ笑った。

 可愛いが、怖い。しかし、良いんだ。これで良いんだ。きっとそのうち自然に手がつなげるようになるさ。

 俺たちは手をつないで公園をあとにした。そして彼女の寮まで送って行った。

「じゃ、またね」

「うん、またね。メールするね」

「ん」

 手を振って別れる。彼女はいつも俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれる。

 最初は3時間っていう設定だけど、学校帰りだけだったら3時間もいらないなあ。まあ、そのうちもうちょっとデートの範囲を広げるとするか。


 で、帰ってきてから知ったんだけど、手をつなぐとき「恋人つなぎ」ってのがあるんだって!? 指と指を交互に絡めてつなぐらしい。

 なんかヤらすぃー!

 でも良いかも。手汗かかなくなったらやろうかな。ていうか、手汗どうしたら良いんだろ。みんなロボット相手でも、手汗出るのかな。

 気になるからちょっとロボットのトリセツを検索した。

『恋人ロボットと手をつなぐときに不快感がある場合、恋人ロボットの手の温度を少し低めに設定することをお勧めします』

 とあった。

 ということで、早速彼女にメールで頼んでみた。

『デートの時は、少し冷たい手にしてくれない』

『わかった。私の手が熱くてごめんね。明日は2度くらい下げてみるね』

 だって。

 2度ってすげえ。そんなことが自由自在って、便利だな。

 変なところで感心したのだった。



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