2、子どものころについて
俺が物心ついたころ、俺の家族は父親だけだった。
母親だと思っていた人は、精巧につくられた人型ロボットで、男しか生まれないこの世界で、嫁ロボットと呼ばれ、妻と母の役割をするロボットであった。
「ケイさん、あーん」
彼女は俺をケイさんと呼んでいた。母親役なのに、随分と他人行儀だが、こんなもんだ。あんまり親しくなりすぎるとロボットだと思えなくなってしまうという父親の判断で、このように呼ぶことにしたらしい。
「ママ、まんま」
その頃の俺は、これがロボットだとは知らなかったので、ママと呼んでいた。
幼稚園に通い始めるころから、これがロボットであると認識しだし「ママ」ではなく「モモさん」と呼ぶようになった。
モモさんのおっぱいを吸った覚えはないが、抱っこしてもらった記憶はある。
「抱っこ!」
「まあ、ケイさんは甘えん坊ですねえ」
モモさんは、とても優しく俺を抱っこしてくれた。嫌がらないでいつでも抱っこしてくれた。良く考えりゃ、人間だったらそんなに長い間持てないダロってくらい、いつまでも抱っこしてくれた。うん、ロボット母は伊達じゃない。
抱っこしてもらうと、モモさんは良い匂いがした。女の人の匂いだ。
そして、柔らかくてあったかかった。
ナイスバディで乳が垂れることもなく、いつまでも美しかった。俺はモモさんに抱っこしてもらうのが大好きだった。
ちなみに手触りだけでは、これがロボットであるとは思えないほどの肌触りだ。技術ってすごい。
そんなモモさんの胸に顔をうずめることができるのは、子どもの特権だ。すりすりしてもポフポフしても嫌がられないし怒られない。うん、子どもって最高だな。
はあ、作り物とは思えないあのおっぱいの弾力。技術万歳!
モモさんを触ってロボットだと認識するのは無理だ。ロボットっぽいところといえば、ちょっとした動きに無駄がないところだろうか。迷いがないというか、それくらいだ。
必要な時には思うぞんぶん甘えられて、ふとしたときに、ロボットだと思い出すくらいのちょうどいい距離感だったと思う。
俺が5歳の時に、親父はもう一人子どもを貰った。
子どもは国の宝だから、子どもを引き取ると国からがっぽりお金がもらえる。だから子どもが嫌いじゃない大人は、結構子だくさんだったりする。
反対に、子どもがあんまり好きじゃない大人もいる。その場合はとくに子どもなどもらおうとはしない。それはそれで良いと思う。
ちなみに、結婚しないと子どもは持てない。まず男親だけでは子育てができないからだ。だから子どもを育てたいと思うなら、嫁ロボットを買うか、複数の執事ロボットを買うか、少なくとも誰かと(勿論男同士だが)共同生活をして子どもの面倒を見られる条件が整わなければ子どもはもらえない。
まあ、そんなことで、ウチにももう一人子どもが来た。
モモさんは母親としてもとても優秀だった。だけど親父は、子どもは二人で良いと思っていたみたいだ。俺の兄弟はあと1人だけだった。
とにかく俺には弟ができた。
これは単純に嬉しかった。
ところが、俺は弟があんまり好きじゃなかった。
遺伝子的には他人だからな。なんていうか、あんまり馴染まなかった。
しかも、モモさんがおっぱいをあげているのを見て、嫉妬した。モモさんはちゃんとおっぱいにミルクを仕込んで、飲ませていたんだ。
くそっ、俺の時も多分そうしてくれたんだろうけど、覚えていないし!
良いなあ。モモさんのおっぱい飲めるなんて。と、普通の子どもらしく弟に嫉妬したため、弟のことをあんまり気に入らなかった。
そのせいか俺たちはよくケンカした。
モモさんはいつも困りながらも、ケンカ両成敗していた。さすがだ。
ちなみに、このころ一度モモさんは修理に出されて、帰ってきたら10歳くらい老けた顔になっていた。
親父の注文で、年相応の顔にしてもらったんだってさ。多分乳も垂れたんじゃないかな。
弟はあの弾力のあるおっぱいに顔をうずめることはあまりできなかったにちがいない。