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18、結婚式について



 そして結婚式当日。

「きれいだよ、由香里」

「うん、ケイ君もすごくかっこいい」

 よかった。今日の由香里は調子よさそうだ。

 こんなに元気なら、このままのボディでもいいんじゃないだろうか。そう思わせるほどに。だけどそうはいかない。機械は壊れる時は一瞬だからな。

 今までだって、いきなり止まった由香里の画面を見て何度焦ったことか。

 控室で新婦のドレスを着た由香里の手を握る。ほっそりした手。出会ったころと何も変わらないひとつひとつを忘れないように、胸に刻む。

 これで。

 結婚式が終わって、新居に行けば、新しい嫁ロボットが来ている。そして、今日の夜には、由香里は新しいボディになるんだ。(ローニンが手配済み、夕方までに荷物が届いているはずだ)

 これで、この由香里の顔ともお別れだ。

 今までありがとう。本当に、本当に、ありがとう。

「ケイ君?」

 ギュっと抱きしめると、由香里も俺にしがみついてきた。背中をポンポンとしてやる。こんな風にあやしたって、ロボット相手に意味ないかもしれない。だけど、そうしないではいられなかった。


「そろそろお式でございます。新郎はこちらへどうぞ」

 結婚式場の案内ロボットが俺を呼びに来た。

 新郎は先にチャペルに入って、最前列で新婦が来るのを待つんだ。「じゃ、行ってくる」と声を残し、俺はチャペルに入った。

 もうすでにチャペルには幾人もお客さんが来ている。

 ローニンの姿と、その隣にローニンの恋人ロボットが座っているのが見えた。俺のおやじはあそこだ。

 一番前に座ると、隣に弟がいた。

「いよいよだな。緊張してるか?」

「あ? 全然」

 うそ。すっげえ緊張。手先が冷たくて汗ばんでる。


 チャペルの後ろまでびっしり人が入った。そもそも結婚式ってあんまりないんだ。だから、みんな物珍しいんだろう。

 一度チャペルの後ろの扉が閉まった。

 ざわめきが消える。

 厳粛にパイプオルガンの音が流れ始めた。いよいよ結婚式だ。なんかゆったりした曲が流れている。ううー、心臓がバクバクする。

 チャペルの後ろの扉が開き、オルガンの音楽の調子が変わった。高いファンファーレが鳴り響く。新婦入場だ。

 立ち上がって後ろを見る。人が多くて由香里の頭しか見えん。だけど、入ってきたのはわかった。招待客が静かに、だけど確実にどよめいた。「恋人ロボットじゃないか」という声が聞こえる。

 そうだ。普通結婚式は嫁ロボットとするものだ。

 恋人ロボットじゃ長くは暮らせないし、いろいろと不便だ。

 だけど、俺は由香里と結婚したかった。今までの姿の由香里と、愛を誓うんだ。

 ゆっくりと由香里が俺の横に並び、二人でそろって立った。

 招待客は座って俺たちを見守っている。物珍しそうに、由香里と俺を見比べているんだ。


 式はゆっくりと進み、誓いの言葉となった。

「あなたは、病める時も健やかな時も、これを守りこれを敬いこれを愛することを誓約しマスか」

 たとえ、由香里がどんな顔になっても、

「はい、誓約します」

 緊張しすぎて、声が裏返ってしまった。

「あなたは、病める時も健やかな時も、これを敬いこれに従いこれを愛することを誓約しマスか」

「はい、チカイます」

 由香里の声も震えていた。

「指輪の交換を」

 リングピローに乗せた指輪を、彼女の薬指にはめる。

 彼女の手はあったかかった。俺が緊張していて冷たい手をしているのに、彼女はちゃんとあったかい。ああ、本当にこのままずっとこの由香里と一緒にいられたらどんなに良いだろう。

 指輪をつける手が震える。

 指輪をつけ終えると、ベールを取り、招待客の方を向いて礼をした。

 拍手が、拍手が沸き起こった。チャペル内に温かい拍手が響く。

 壊れかけている古い恋人ロボットと結婚する俺に、たくさんの拍手が送られた。最初は物珍しそうにしていた招待客たちが、俺たちを祝福してくれている。ああ、俺たちの気持ちがみんなにも伝わったのだろうか。目頭が熱くなる。ふと見ると、ローニンがブルブル震えて泣いてるのが見えた。ひでえ顔だ。アレが見えなかったら、俺のほうが泣いちまうところだった。


 由香里の手をギュと握る。俺たちはこんなに祝福されて、これからも一緒に生きる。たとえ、どんな容姿になっても、俺は君を愛し続けるよ。そんな思いを込めて彼女の手を握ると、由香里もかなり力いっぱい俺の手を握り返してくれた。めちゃめちゃ痛かった。




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