13、彼らが見たらすぐにわかったことについて
次の日の放課後は、学校で待ち合わせをした。執事養成学科の研究室に行き、昨日のあえぎ声のことを、ローニンに相談するためだ。なんだかんだ、今一番頼りになるのはあいつしかいない。
由香里を連れて研究室に行くと、またもや学生たちがわらわらと由香里を見つけて群がってきた。
「うわっ、由香里ちゃん、初体験!?」
「ヤっちゃったんだ」
「もっと表情見せてください」
「ちょっと声も聞かせてください」
って、え?
なんでわかるの?
ヤっちゃったって……なぜ知ってる?
「色っぽくなりましたねえ」
「良いエロさですね」
まじで? エロいか、今?
こいつらにかまっていると、話ができないので、しかたなく由香里をそこに置いて、俺はローニンのデスクへ行った。
ローニンがニヤニヤしている。
「さすが、行動が早いですねえ」
「お前もか。なんでわかった?」
「見ればわかりますよ。全然雰囲気違いますから」
そうなのか。俺にはいまいちわからんが、そういうことにしておこう。
「で、どうでした?」
「どうって、恋人ロボットだと思うと興奮するよ! やっぱ風俗のとは違うよな。すっげえ芸が細かくてさ、おもわずアソコがん見しちまったよ。いやあ、技術ってすげえな。ま、ヤった感じは風俗ロボと甲乙つけがたい感じ? そりゃ、あっちはプロだけど、やっぱり性能で言えば恋人ロボットのほうがよくできてるよな。気持ちよさで言えば由香里は経験値がないから、」
「よく喋りますねえ。そういうことを聞きたかったんじゃないんですが、まあ良いです」
うっ、確かにしゃべりすぎた。しかし、ローニンに何を聞かれたのか俺が理解できないぞ。
「男と女がヤることは古今東西だいたい同じことなんで、そこを聞きたいわけじゃないんです。恋人ロボットの初体験で彼女がどんなふうに変わったかを、具体的に聞きたかったんですが」
「ん? 由香里の変化ってことか?そんなのお前たちのほうがよっぽど食いついてきたじゃねえか」
俺には、由香里の雰囲気が変わったことなんてわからなかった。けど、こいつらは、俺たちがここにきたのを一目見ただけで由香里の初体験を言い当てた。
ローニンは俺と由香里を見比べて、少し腑に落ちないような顔をした。
「そういうもんですかねー。いえ、楽しんだならいいと思いますけど」
「けど?」
「彼女のこと……どう思っています?」
「どうって」
そういわれて、ちょっと考えた。
由香里は可愛い。よくできていると思う。
「そうだな。最高の彼女だと思うよ」
ローニンは俺の顔をじっと見て、それからニヤっと笑った。
「それは良いですね。安心しました。じゃあ、雑誌の効果もあったってことですね」
「あー、それそれ。実はさ」
俺は、由香里の喘ぎ声のことを伝えた。声の高さや息遣いなんかは、さすがに風俗ロボットのほうが断然よくできている。そりゃ、由香里は知りようがないからな、仕方ないんだけど、なんていうか、もっと、こう、攻めたくなるような息遣いとかしてほしいんだよな。
「ロボットは呼吸していませんからね、そういうのは課題なんですよ」
ローニンはテケテケとパソコンに何かを打ち込んでいた。
「どの恋人ロボットもリードする男の興奮度と呼吸で学習するので、まあその辺は根気強く教えていくしかないですね。喘ぎ声だけならなおさら、そうしたほうが良いですよ」
「そうなのか。うん、わかった」
そうだよな。
風俗ロボットじゃなくて、普通の恋人ロボットだもんな。俺専用のロボットを俺が育てなくてどうする。
プログラムしたものをぶち込むのは簡単だけど、恋人ってそういうんじゃないもんな。
俺が由香里のおっぱいを見て大興奮すれば、由香里もそこから学ぶってことだよな。
ローニンが言いたいことはきっとそういうことなんじゃないかな。
「由香里、行こう」
「うん」
俺の一声で由香里は野郎どもの群れからぴょんと飛び出してきた。
「あああ~、もう帰っちゃうんですか」
「もう少し、いましょうよ」
「よかったら、うちのサンプルの子たちと遊んでいきませんか~」
などと、やつらは俺と由香里を引き留めるが、遊んでる場合じゃねえ。俺と由香里の関係に、お前らはいらんのじゃ。
「じゃっ」
と、由香里を引っ張って部屋を出ると、奴らは「また来てくださいねー」と手を振ってくれた。