11、情報雑誌について
いそいそとそのパーテイションに行くと、そいつは小さくうなずいた。
「ごくろうさまです」
いえいえ。って、どんな挨拶じゃ。
「コールで話したやつですけど、ちょっと見てください」
そう言いながら、こいつはパソコン画面を見せてくれた。
「こういう雑誌があるんですよ。いわゆるプログラム用の雑誌なんですけどね?」
いわゆると言われてもようわからんが、プログラム用なんだな。そうか、AIを育てるとはいえ、言葉がけやしぐさを読み取らせるよりも、最初からプログラムでぶちこんでしまったほうが楽ということか。ただし、それだと細かいところまで行きわたらない。ま、ある程度までということなんだろう。
画面には雑誌の表紙のような感じで、ロゴと写真(またはイラスト)と機能らしいものが表示されていたが、機能の部分がさっぱりわからない。俺一応プログラミングの成績良い方なんだけど、こういうの見ると自信なくすわ。
「えっと、つまり?」
俺が聞くと、こいつはほかの画面もどんどん見せてくれた。
「つまりですね、ここのプログラムの内容がかなり細分化されていてですね、その中から恋人に望むプログラムを選べばいいんです。簡単でしょ?」
「簡単、か?」
簡単そうに言われても、これを見る限り簡単には見えない。
「エッチ関係ですとたとえば、ここの縦列は恋に奥手からこっちに行くにつれて、積極的なタイプ。で、横列は経験値の高さ。こっちの商品は、縦列が潜在的なエッチ度で横列がツンデレ体質の多さを表しているんです」
うわあ、さすが恋人ライフマニュアル。
エッチい。
説明されてもよくわからんが、とりあえずなんかエッチいプログラムの商品だってことはわかった。こんなものまであるなんて、需要があるからなんだろうけど……すげえなあ。
恋人ライフマニュアルは、かなりこまかく設定されているようだった。パッと見でわからないくらいは細かい。こいつがいちいち説明してくれるからいいけど。
「あのさあ、便宜上面倒くさいから名前教えてくんない?」
「なんですか、便宜上って。ローニンです」
「浪人……ああ、すまん、ローニンな。で、この中からだいたいの好みのをインストールすればいいってことか?」
「そういうことです。簡単にできますけど、一度インストールするとがっつり性格に反映されます。普段AIを育てるときのように緩やかには変わりませんから、そのつもりで慎重に選ばないとならないですよ?」
なるほど。
「値段は? てか、これいくつか組み合わせてもいいのか?」
「組み合わせるというか、違うカテゴリーのもの同士だったら2つでも3つでもインストールできますよ。値段はものによって違いますけど……ほら」
テテテ、とパソコンを叩いて現れた金額は、小遣いでちょちょいと買える金額ではなかった。
「たかっ。そうかー」
「高いですけど、プログラムはみんなこんなもんですよ。でも、基本的な感じ方とかは出荷時にすでにプログラムされていますから、何も言わずに押し倒してもヤることはできますよ?」
「それじゃ風俗と同じだから嫌なんだってば」
「はあ、まあ、気持ちはわかりますけど。じゃ、とりあえず一番気になるところだけ入れてみたらどうですか?」
「そうするわ。ありがとうな」
「いえ。じゃ、今度また由香里さん連れてきてくださいね」
「えー……うん、機会があったらな」
「ぜひ」
ということで、俺は人だかりの中から由香里を引っ張り出して、研究室を後にした。
家に帰り、ゆっくりとパソコンで検討してみることにした。
そうだなー、一番気になるところってなんだろう。経験値なんて全然気にしない。むしろ、経験値はなくていいんだ。じゃあ何が気になるかっていうと……どんなカテゴリーがあるのか探しながら考えてみる。
「お、これ」
恋人ライフマニュアルは基本的に専用メディアを恋人ロボットに差し込んでインストールする形になっているが、その下の欄外に“雑誌”形態のものがあった。アナログだなあ。読み込ませるんじゃなくて、ただ読むだけとは。しかも本当に紙でできている雑誌まであるぞ?
どんなことが書いてあるのか、少しお試しで見られるようになっている。
どうやら、かなり昔に本当に出版された雑誌の特集を組み合わせたものらしい。「ハウツーエッチ」「私と彼の体を知る」「二人で満足するために」みたいな感じだ。実際に出版されていたということは、昔の女性が実際に読んだってことだ。つまり、女性が興味をもつようなものってことだ。
これ、いいかも。
これを由香里に読ませて、勉強してもらうんだ。そうすれば、それなりに興味が出てくるだろうし、どうしたらいいのかも書いてあるだろう。しかも女性目線だ。男の俺には理解できないようなことも書いてあるかもしれない。
値段も増設AIよりはずっと手頃だ。
試しにひとつ、いや、ふたつほど購入することにした。「ハウツーエッチ~積極的に楽しむために~」ていうのと「感じる体、男と女」っての。
あと漫画もあった。表紙絵を見る限り、かなりエグい。これは題名が色々ありすぎてよくわからなかったが、絵だからまあわかりやすいかなと思ってひとつ購入。さすがにこっちは結構高いけど、俺も読みたかったからいいんだ。
ただ不思議なことに、情報は本日中には配信されなかった。俺が読むだけじゃなく、ロボットにも読ませるため、画像ごと送られてくるらしいが、その準備があるとのこと。それでも単なる情報が日にちをまたいで送られてくることはかなり珍しい。
まあとにかく、次の日雑誌アンド漫画がやってきた。(紙媒体のものは高くて買えなかったから、メモリ型のもの。それでもそれなりに値段はした。いや、きっとそれだけの価値はあるはずだ)
由香里に渡す前にまずは俺が見てみることにした。結構詳しく体のことが説明されている。それに、女のことだけじゃなくて男のことも書いてある。へえ、性感帯ねえ。ふうん。えろっ。
ハウツーものだけあって、細かく書いてあった。「風俗のような声を出すと引かれます、可愛くあえぎましょう」みたいなことまで書いてある。うん、いいぞ。まさにこういうのを由香里に知ってほしかったんだよ。
雑誌はかなり良かった。過去に実際に女の子たちが読んだだけのことはある。
さて漫画だが……
え。
これ、普通に売ってたのか? エロすぎねえ? 絵なのにリアルだし、心拍数上がってきちゃったよ。やべ、ちょっとこれから風俗行ってきます。
◇
帰宅。
ということで、そっちはかなり刺激が強かった。
これ、どうしようかなあ。由香里に見せて良いもんか。ていうか、これを読んだ由香里のAIがどう育つのかが怖い。
でもなあ、シチュエーションとしては好きな感じだな。着物を着ていて普段はおしとやかなお嬢さんが、大好きな男の前ではエロく変身するって俺の理想かも。ぐふ、やっぱ読ませよう。
良いもん教えてもらった!