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10、執事養成学科について



 ロボットのAIを育てるのって、ものすごく時間と手間がかかる。それはこの時代に生まれたものならば誰だって知っていることだ。初等教育の時から習っている。

 だから、たとえ恋人ロボットを手に入れたとしても、それを“恋人”のように育てるのは、持ち主の俺の仕事なわけだ。その作業を怠れば、いつまでたっても“恋人”のようにはならない。

 高校生の時のような簡単な恋人関係ならば、まあ、一日3時間くらい会って、デートしてれば色々覚えてくるが、今はもう、俺も大人だ。もっと大人の関係を教えなきゃならん。ま、ざっくり言っちまえば、エッチなことをしたいわけだが、ただエッチしたいだけだったら風俗ロボットと変わらない。だったらわざわざ高い恋人ロボットなぞ買わずに風俗に行けばいい。恋人ロボットではなくて、自分用の風俗ロボットというのもあるらしいから、そっちを買う(または借りる)という手もある。

 しかし俺を含めだいたいの男は、自分の“恋人”を欲しがる。

 そりゃそうだ。

 ただヤるだけの関係じゃなくて、やっぱり人間らしい関係のほうが絶対に楽しいはずだ。恋人ロボットは自分好みに育てられるとはいえ、ある程度人間らしい感情も持っている。ちょっとした価値観などは、出荷するときにプログラムされていて、どんなふうに育っているかを俺は知らない。だから彼女の性格を隅々まで知っているわけじゃない。それが日々のふれあいを通して、俺好みの女の子に育って、俺のことを愛するようになって、俺だけの恋人になるというのを味わえる。

 こういうのが楽しいんだ。

 しかも、ある程度大人の個性があるとはいえ、男関係はほぼまっさらだ。そこは俺がきちんと育てなきゃならん。ゆっくりじっくり育てていかなければ、たんなる風俗ロボットになってしまうから、気を付けなければならんが、ああ、早くヤりたい。いや違う、ちゃんとした恋人になりたい。それも違うか。なんていうんだろ、スムーズにいい雰囲気になりたい。

 ふむ。


 由香里とデートして、彼女の家まで送る。そのうち、この部屋でいちゃいちゃできるんだろうけど、まだ彼女は俺のことを部屋にあげようとはしない。それとも俺が言えばいいのか? そういうタイミングもわからんしなあ。

 まあとにかく、一人で家に帰って、俺はさっきのやつらを思い出した。

 執事養成学科。

 ロボットAIを育てるスペシャリスト(の卵たちの学科)だ。まっさらなロボットAIをいちから育て立派な恋人を作って出荷するまでを担う、超エリート集団だ。(実際にはいちから育てるのではなくて、ある程度育ったAIを育てるらしい。例えば、よく育ったAIをコピーしていらない情報を削除したものを、改めて育てるというのが一般的のようだ。コピーや削除、上書きができるのがAIの便利なところだよな)

 そうだ。さっき知り合ったじゃないか。早速連絡することにした。

 最初から恋人ロボットをいかに自然に恋人らしく育てて、いちゃいちゃできるか? なんて聞かないつもりだった。

 しかし、メッセージで連絡したらすぐにコールが来て、長話しているうちに、ポロっと言ってしまった。

「だからー、まだキスしかできないんだぜ? もどかしいったら! もっと早くエッチにこぎつけられないかが知りたいんだよ」

 ド直球。

 あほすぎる、俺。

『できますよ。恋人ライフマニュアルって雑誌、知りません?』

「知らない。どんなの?」

『ロボショップで売ってますよ。タイプ別にある程度までAIを育てることができるんです』

 やった! やっぱり持つべきものは執事養成の友だちだ。いや、まだ友だちじゃないが。しかし詳細を聞いてもよくわからなかった。

『じゃ、明日研究室で』

「おう、よろしく」

 ということで、よくわからなかったため、直接話そうということになった。それで明日、彼らの研究室に行くこととなった。もちろん、由香里を連れて。



 次の日、執事養成学科の研究室へ行った。ここはエリート学科でもあるので、最新式の設備が並んでいるうえに、新しくてきれいだ。

 そして見慣れない光景として、女子、つまりサンプルAIが大量にうろうろと歩き回っていた。隅の方で目をつぶったり顔画面が真っ黒のまま椅子に座っている個体がずらりと並んでいるし、学生が数人の女の子を連れて歩いているのもいる。

 しかしそこに由香里が入っていくと、野太い歓声が巻き起こった。

「おー、よく来てくれた」

「待っていたよ」

「先日はどうも」

 と、方々から聞こえてきたり握手を求められたり。そして由香里に群がる学生たち。うん、お前ら……

 確かに、ここにいるサンプルAIと由香里は何かが違った。

 やっぱり由香里はできあがったロボットなんだな。だからそこらにいるサンプルとは出来が違うし、なんというか、本人からもプロの貫禄のようなものを感じる。

 そして群がる学生たちは増え続けた。

 って、おーい。違うだろ!? 由香里を見せに来たんじゃねえ。俺がなんとかいう雑誌の情報を教えてもらいにきたはずだ。

 どこだ、教えてくれる学生。って、顔、思い出せん!

 由香里を中心に、俺は執事養成学科の野郎どもにもみくちゃにされている。こっちの話を聞け! と言いたいが、もう、こいつらの勉強熱心には呆れて口もはさめない。みんなして由香里の隅々まで観察してるんだ。

「ちょっと会話してみてください」

「由香里、しゃべらなくていいぞ」

「え、でも」

「うおおおー!」

「いいリアクションだ!」

「声かわいいー!」

 って、お前らのリアクションのほうが恐ろしいわ。

「なるほど、とても自然ですねえ」

「出荷されたときからこんな感じの性格でしたか?」

 出荷とかいうなよ。

「それにしても、このパーツカスタマイズはすばらしい」

「この爪の形!」

「いやいや、かかとだろう!」

「絶妙なバランスの頭身」

「ふむふむ、表情も自然ですねえ」

 だんだん野郎どもは、俺のことそっちのけで由香里の観察を始めた。しかし、感心なことは、こいつらは由香里に指を触れないし、話しかけない。それは自分たちが接したことで由香里のAIが俺の育てたい方向と変わってしまうことのないようにする配慮なんだろう。普段からそういう作業しているから、無意識なんだろうが。

 だんだんのけ者になった俺は、いつの間にかこの集団からはじき出されていた。

 って、おい!

 俺の恋人だぞ!?

 と、思ったその時、向こうのパーテイションのかげから、顔だけ出しておいでおいでしている男がいた。あ、あいつだな。俺と情報交換したやつ。




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