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1、幼馴染の結婚式について


 かつては両親が家庭で子どもを育てていた。そんな当たり前のことはもうなくなって久しい。

 人間たちは接触を嫌うようになり、コミュニケーションの手段も変わった。結婚もせず子どもも持たず、そんな人たちが増えると、少子化はどんどん進んだ。

 恋愛など体力のいることは極力避けるようになり、自分だけの恋人を作り出すことに成功した。

 それは、ヒト型ロボット ――

 愛だ恋だと浮かれては、人を傷つけ自分も傷つく。そんなことにはもうサヨナラ。自分だけの理想の恋人がいるのなら、わざわざ人間との恋愛などしなくても済む。

 ロボットはより精巧になり、いつどんな時も理想の“恋人”としての使命を果たせるようになった。

 恋人が欲しければお金を出して買うだけ。

 それだけで理想通りの恋人が手に入る。

 そこまで金がなければ、レンタルだってできる。

 子どもが欲しければ、人工的に作り出すことも可能になっていた。


 人工的に赤ん坊を作ることができるようになり、そのヒト型ロボットが完成する頃、それより前だったか後だったかは定かではないが、世界は大きく動いた。

どういうわけか“女性”が産まれなくなったのだ。

 それまではちゃんと人間同士で恋をして、結婚をして、出産をしていた。

 それなのに、生まれてくるのは男ばかり。

 どこの町でも、どこの国でも、世界中、男しか生まれなくなったのだ。


 子どもは人工的に作られ、恋人はロボット。何の問題もない。


 世界は男だけになった。

 人工的に赤ん坊の作り出せない国は廃れ、科学技術の発展した国だけが男だけで残った。



◇◇◇


 幼馴染が結婚すると言う。

 今の世の中で、結婚するということは、ロボットの嫁を買ったということである。

「結婚式するらしいよ」

 近所の仲良し、島田からも連絡がきた。

「マジで? 物好きだなあ」

「俺、結婚式初めてだからちょっと楽しみだよ」

 このご時世、ロボットを嫁として迎えるのに結婚式などする人は稀である。

「まあ、そうだな」

 たとえロボットの嫁であろうとも、家族を迎えるということは幸せなことなんだろう。

 どんな家庭を築いていくんだろうな。仲間内で初めての結婚式だ。アイツはなかなか人間味のあるやつだと思う。だから、ぜひ家庭を築いて幸せになって欲しいと俺たちは思った。


 結婚式の日、参列した誰もが驚いた。

 アイツが結婚したロボット嫁は、嫁ロボットではなかったからだ。

「恋人ロボットじゃないか」

 バージンロードを歩くロボットを見て、島田が唖然としている。

 白いベールの向こうの顔は、恋人ロボットのもの、つまり、映像だった。

「アイツはあのロボットが好きになったんだな」

 俺が言うと、島田は小刻みに何度も頷いた。俺たちは“好き”という感情が薄いらしい。愛するということが理解できないわけではないが、なんとしてでも彼女を手に入れたいというほどの気持ちはない。

 だから、アイツが嫁ロボットを買ったのではなく、今まで使っていた恋人ロボットをそのまま嫁にしたというのは驚きだった。

 普通はヨメにするなら嫁ロボットを買うからだ。嫁ロボットの顔は、通常の人間と見分けがつかないくらい精巧にできている。機能も違う。それを、恋人ロボットをそのまま嫁として迎えるということは、その恋人ロボットがよっぽど好きになったんだろう。

 嫁ロボットの表情もとても優しそうだった。

 今までアイツの恋人として愛されて、その人工知能が穏やかに育ったのだということはすぐにわかった。だからこそ、嫁ロボットとして結婚できたのだろう。

 そうでなければ、結婚はできない。

 恋人ロボットには“恋人としての機能”しか備わっていないからだ。

 だけど、嫁ロボットは違う。もっとずっと高性能で、女性として、妻として、母として、全てをこなせる機能が最初から組み込まれている。

 だから値段も高く、普通は俺たちみたいな若造にはなかなか手は出せない。


 確かに金がかかるから、恋人ロボットをそのまま嫁にしたい気持ちはわかる。だけど、だからと言って結婚するかというと、普通はしない。恋人ロボットではできないことが多い。だから家庭を築きたいのならば、嫁ロボットが手に入るくらいの金がたまるまで待つはずだ。だけどアイツはそれをしなかった。それはなぜかというと、あの恋人ロボットと結婚したかったからだ。それだけ惚れ込んだんだ。多少の不便(家事が下手とか、起動時間が短いということ)は気にしないつもりなんだろう。

「でもさあ、恋人ロボットじゃ、子どもはどうすんだろ」

 俺が言うと、島田は首をひねった。

「いらないんじゃないのか? 恋人ロボットじゃ子育ては無理だろうし」

 そうかもしれないが。

「だけど、アイツは家庭を築きたいんじゃないかな」

 だから子どもを欲しがりそうだ。

「そうだなあ、微妙」

 式の間、俺と島田はそんなことばかり話していた。

 いや、見てたよ? ちゃんと二人の幸せそうな顔とか、そういうのを見てたってば。

 だけど、俺たち以外の参列者もみんな、アイツと恋人ロボットのことをヒソヒソ話していたのは確かだ。

 それだけ恋人ロボットと結婚をしたことは、誰にとっても衝撃だった。


 式も一番のクライマックスで「誓いの言葉」があった。牧師が

「アナタはこのロボットを、病める時も健やかな時も愛し、敬い、守ることを誓いマスカ?」

 と言うと、

「はい・・・ちかいます」

 とアイツの感極まった声が響いた。

 な、泣いてる!?

 アイツが誓うと、花嫁のロボットも背中を震わせた。それから牧師の言葉に

「はい、チカイます」と涙声で誓っていた。

 俺はなんだかわからないけど、すごく、すごく感動した。

 愛を誓うことは、こんなにも覚悟があって、すごく大切で、そして感動的なんだ。

 アイツは身体が震えるほど、このロボットを愛していて、結婚できることが喜びだったんだ。

 それに応えるこの恋人ロボットも、ロボットなのに涙声になるくらいに、嬉しくて嬉しくてたまらなかったんだろう。

 ロボットにも愛情はある。それはアイツが育んだ愛だ。

 こんな結婚なら俺もしてみたいと思う。

 嫁ロボットじゃなくて、恋人ロボットと結婚したアイツはこれからも大変だろうけど、きっと病めるときも健やかな時も、このロボットを愛し続けるのだろう。

 幸せになって欲しい。

 アイツにも、恋人ロボットにも。

 俺たちはみんな、心からの祝福の拍手を送った。

「結婚おめでとう!」




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