ハレティの人徳
人徳とは
第四十三話 次の行動
「……ぷっ……あはははっ!」
「な、何がおかしいんだよ!」
思わず吹き出してしまった。当然おかしなことを言っているからである。
「だって……だって、あいつが良い奴だったときがあるか!?あは、おっかし!」
あいつは正直、敵としてしか見たことがない。
始めに出会ったのは、なんとハレティが部下を殺したところだ。しかもムジナが利用されている時に、だ。
その後も何度か仕掛けてきており、シフをも拐った。
しかも俺たちは惨敗して……嫌がるムジナを尻目に、シフを人間界に戻した。
……最終的には成長して戻ってきたシフに魂を消され、殺されたが。
消された後も、この世界の掟のせいで雨が降り、地上は大変なことになった。
良いことをしたなんて、スクーレの強化くらいだ。
「……まとめ役、とか?」
「それくらい俺にもできる。とにかく、ナニルさんの占いは本当に当たるから否定はしないが、もしそのときが来たらぶちのめしてやればいい」
ちら、と机の方を見る。
幸い、そんなに気にしていないようだ。一番注意しないといけない大地の神も大丈夫そうだ。
初めてハレティと会ったあの日、あいつから感じた力……。もしかしなくても、ハレティは神と関わりがあるだろう。この話し合いが終わったらリメルアの館に顔を出しに行くとするか。
「スノーちゃん、だっけ?口の痛くないの?」
「……ん」
お姉ちゃんがスノーと話している。……話している、のか?
とにかく仲良くしているようで安心した。
「メノイさん、スノーのこれは僕とお兄ちゃんが揃ったときにしか解けないみたいなんです。……今はお兄ちゃんってば端っこにいるので影響が届いていないですが」
「ごめんごめん。今行くよ」
レインははにかみながらサニーの元に歩いていった。
ふ、と目を離すと、いつの間にかスノーの口の封印は解放されていた。……どんな仕組みなんだ。
「すごいわ!見たことのない類の呪術ね!」
「僕たちもどうやってるのかはわからないですが、これで平和が約束されるなら安いものです。ね、お兄ちゃん」
「うへ?!ま、まぁそうだな!うん!」
絶対わかってないだろ、こいつ。と思いつつ、俺はレインを手洗い場に連れていった。
戻ってくると、サニーが寄ってきた。
手にはさっき置いた紅茶のカップが握られており、俺とレインに渡した。
……なんか少し色が違う……?
「ヘラさん、誠に勝手ながら、紅茶に呪術をかけさせてもらいました。その傷を治すためのもので、全て飲むと全快します。味は変わってないので、安心してくださいね」
「そこまで……なんか申し訳ないな」
「いえいえ。むしろ謝るのは僕の方です。ヘラさんたちには何のメリットもないのに、ここまで手伝っていただいて……感謝しようにも、しきれません!」
サニーの真剣かつ必死な顔を見て俺は心を打たれた。
もし俺がサニーたちと同じ状況なら、一人で立ち向かっただろう。だが、彼は俺たちを頼ってきた。……俺たちを信用してくれているからできたことだ。
俺なんか到底できないだろう。ムジナにさえ頼ることはしないだろう。
「……はは、サニーはすごいな」
そう言って彼の頭に手を置く。
サニーは何事かというように目を白黒とさせていた。
「え?え?」
「俺より世渡りがうまいってことだよ」
ふと手元のカップに視線を落とす。
さて飲もうかと思ったとき、レインが話しかけてきた。
「なぁ、ヘラ……自分の傷は回復できないのかよ?治癒系使えるんだろ?」
「疲れてんだよ!」
「あ……ハイ」
疲れていては何もできないということはわかっているはずだろう。
……実のところ俺も試したのだが、インキュバスがやるには普通より大きな力が必要らしく、疲れている体では実行できないようだ。
「ふふふ、冷めないうちに飲んじゃってくださいね」
「お、そうだな!」
レインが一気飲みする。
だが、熱かったのかすぐにカップを机に置きに行き、口を押さえた。
「ん、んー!……熱すぎだ!!」
「そんな一気飲みするからだ」
「……だからみんなホットじゃなくてアイスなのか……」
涙目になりながらスクーレたちの方を見るレイン。正直、炎を操る俺には熱さなんてクソッタレなのだ。なので、皆の加減がわからない。
……だから向こうでキリルが震えていたのか……。ロシアの人だから熱いのは楽勝だと思ったのだろう。
「飲み物だけはどうしても加減がわからなくてな……ムジナが来たときは、いつも遊んでる途中に飲むから少しぬるくなるんだよ」
「先に言ってくれ!……あ、でも疲れとれたかもしんない」
「嘘、マジで?」
もう一度カップに視線を落とす。
そして俺は三口で飲み干した。
……確かに力と疲れが回復したような感じがする。ついでに眠気も吹き飛んだ気がする。
「ほんとだ……ほぅ、これは研究のし甲斐があるなぁ」
「解剖とかはやめてくださいね?」
「しないって!」
まさかこう切り返されるとは思わなかった。
……なら、皆が休憩している間に俺はやるべきことをやらねばならない。
まずはカリビアさんを助ける算段を立てないと。
俺は地図とティーカップを載せたお盆を手に自室へと戻った。
ちなみにさっきの紅茶ではない。皇希がくれた緑茶というものだ。
美味しい淹れ方は本で調べた。
その本には昔ながらの飲み方が書かれており、古臭く感じると思うが、餡と共に食べるのが俺は好きだ。
皆にも騙されたと思ってやってみてほしい。
「あー、何も思い浮かばねー!」
彼は自由まであと一息だというのに断った。
ヘッジさんはどう思っているんだろうか。
……皇希と電話をしたときに言ってた通り、本当に……。
いやいや、そんなことを考えてもキリがない。ポジティブ思考こそ生き物にとって最上の甘味。……のはず。
ネガティブになって引きこもっていた俺が言えることじゃないけど。
「あ、ヘラ。こんなとこにいたんだー」
聞き慣れた陽気な声が聞こえ、首を少し後ろを向けるとニコニコしているムジナの姿が目に入った。
「こんなところって、俺の部屋だよ」
「まぁまぁ、いいじゃん。……カリビアさんのこと、考えてるんでしょ?」
ムジナは本棚から一冊取り出し、丸テーブルの前に座った。
そこは扉から一直線上にあり、今俺がいるところはそのテーブルの右前だ。
「まぁね。……注意すべきはヘッジさんだ」
「お兄ちゃん、最近忙しそうだったけど、まさか悪いことしてないよね?」
「誰も悪いことなんかしてないさ。みんな自分の正義を胸に動いてる。それが、誰かにとって悪だったとしてもね」
俺は引き出しから一枚の紙を取り出した。この間、フローラとウィルがここに来たときに貰ったものだ。
そこにはスグリさんに聞いたとされるヘッジさん、ヌタスさんの計画が記されている。
そこにはスグリさんから聞いたこと……つまり、カリビアさんの瞳のことについても書いてあった。
そのことについて話そうと後ろを向くと、ムジナは浮かない顔をしていた。
「……オレはどっちの味方をすればいいのかなぁ……?」
ムジナは目を細め、下を向いた。
「好きな方を選べばいい。俺は何も口出ししないから」
「……うん」
前を向き、少し困りながらもにっこりと笑ったムジナ。直後、下の階から俺を呼ぶ声がかかった。お姉ちゃんだ。
「ヘラー、お客さんよー!ふふ、今日は多いわね!」
「え?誰だろう……ムジナ、ちょっと見てくるね」
「行ってらっしゃい」
ムジナは床に座って本を開きながら手を振った。
俺が部屋を出たあと、一人残されたムジナが目を擦ったことは誰も知らない。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




