勝ったあとは楽しい話にするのが普通というわけではない
第四十二話 どうかその素敵な夢を
「はは、レインらしいや。ほら、立って」
後ろの方で笑いかけるヘラ。
そして近づき、手を伸ばしてきた。
そんなヘラの後ろで廻貌が浮いている。しかし何も言ってこない。
「すまんすまん」
オレは少し申し訳ないなと思いながらその手を掴んだ。
皹のある、子供とは思えない手だ。
……と、直前に頭が空っぽになったオレはその痛そうなところを触ってしまった。
「あっ、そこ……いててっ」
「あ、ごめんっ……うぎゃっ」
思わず仰け反ったヘラにつられ、バランスを崩したオレは尻餅をついてしまった。
そしてその前には、サニーに力を抑えられてすっかり元の姿に戻ってしまった『化け物さん』たちとスノーがいた。
そのスノーの口はさっきと違って糸で縫われていたが。
「あ……スノー?……喋れるか?」
「……」
静かに首を横に振るスノー。今まではいつの間にか封印は解かれていたのに、どうして今は解けないんだろう?
「お兄ちゃん、とりあえず場所を移動しよう。まずお兄ちゃんとヘラさんの治療からだね」
そう言ってオレの手を握るサニー。
サニーとスノーのことを忘れてしまったのに、さらには血に染まってしまったオレなんかの手を握ってくれる優しい弟。オレはなんて幸せ者なのだろうか。
「ありがとう、サニー」
「改まってどうしちゃったの?今日のお兄ちゃん、なんかおかしいよ?」
「何でもないよ。その……ちょっと嬉しかっただけ」
__________
デストロイヤー改めスノーとの戦いが終わったあと、場所を変えるとは言ったのだが、レインたちには家は無く、城に行こうとしたが状況が状況なので行くことができなかった。
……ということでイリスに帰ってきたのである。
「……戦いのあとでも迷惑をかけちまったな、ヘラ」
「いいんだ。このギスギスした状況で城になんか行けないしな」
「……カリビアのこと……だな?」
俺は後ろを向いて拳を握った。
言葉にされると、本当に心臓にナイフで刺されたような痛みが走る。
もちろん比喩だ。
「あぁ。ひどい有り様だった。あれは控えめに言って監禁だ」
「控えめでそんなのかよ……。助けに行かないと!」
詰め寄ってきたレインの腕を、すかさずサニーが掴んだ。
「ダメ。まずは治療しないと!」
「サニー……」
「そうよ、呪いから発生したダメージは私の力では回復できないの。だからちゃんとした薬で治さないといけないの」
大地の神も止めに入ってくれている。
呪いは神をも越えているのか……。
「どうして?」
「えっ?まぁ……神は人の祈り、願いで強力になっていくの。でもその中に呪いのようなマイナスのものが混ざると、逆に弱体化してしまうの。だから呪いは私たち神より上なのよ」
「うぅ……そこまで言うならわかったよ……治療すればいいんでしょ?もう……」
レインが腕を組む姿を見てサニーは満足そうに笑った。
そしてスノーがこちらに来てペコペコと頭を下げる。こうしていると普通の女の子だ。スクーレと可愛らしい店に行ってそうな……。
……と、そんな会話をしながら歩いていると、泉が見えてきた。この近くに俺の家がある。
「まあ!いつの間にここに泉が?」
大地の神が目はさすがに開きはしなかったが、驚いた。
この言葉は俺に向けられたものだと思うが、残念ながら俺にもわからない。生まれる前からあったらしい。神のスケールと比べられては困る。仙人かよ。
「知らん。大昔くらいからじゃないか?」
「あら、物知りでも知らないことはあるのね」
「悪かったな」
そう吐き捨て、歩みを早めた。
後ろで大地の神は冗談だったのに、とクスクス笑った。
「いつ来ても綺麗なところだよな。イリスって」
キリルが木に手を触れて見上げる。
いつ来ても、ということは……。
「あの戦いの時とかも来たのか?」
「あぁ。前とかもだけど……。あの戦いの時はゆっくりと見れなかったが、一目見て、ここは燃やすには惜しい、素晴らしい所だって直感したさ。羨ましいなぁ、このこのぉー」
「それはどーも……ぉふっ」
遊びで小突いてきているのだろうが、大人と子供だ。痛い。
「おぉっ!どうした、ヘラ!どうして腹を押さえる?!」
「誰のせいだ、誰の!」
珍しくキリルがボケるが、反応する余裕がない。痛い。
それより家の扉を開けて、早く治療しないといろいろ手遅れになってしまう。
「……ったく……ただいま、帰ったよー」
「お邪魔しまーす♪」
俺の後ろをムジナがいつものようについてくる。
……というかムジナの後ろに気配を感じないんだけど……?
「入ってこないのか?」
「なんか勝手に入るのは気が引けるんだよな……」
「また血まみれになってない?片付けた?」
「あー、スノーって、他人の家に入ったことないんだよなぁ」
キリル、スクーレ、レチタティーヴォと口々に理由を言っていく。俺の家は魔境かよ!
「お、お前ら、人の家を何だと……」
「大丈夫!図書館みたいな家だから!」
「ムジナ!?的確すぎる感想やめてほしいな!?」
そこまで図書館みたいなってほどじゃないし……本棚の裏が本棚になってるくらいだし……。多く見えても辞書とかだし……。
と、話し込んでいると、二階から下りてくる音がした。俺の声を聞き付けたお姉ちゃんが下りてきたのだろう。
「あら、おかえり。ヘラ。お友達たくさん連れてきたのね」
「おっ……お友達って……!そんなんじゃなくてっ!」
「うふふ、いいのよ。さ、みんな上がってって」
俺のお姉ちゃん……メノイは持っていた花瓶を玄関に置いて皆を中へ案内した。
サニーがお姉ちゃんにお辞儀をしている。どこかで会ったのだろうか。そしてその後ろに隠れているスノーがチラチラとお姉ちゃんを見ていた。
……さて、手も洗ったことだし、皆に出す紅茶の準備を始めるとするか。
昔から家事は俺の仕事だ。
ボタンが取れれば俺が直し、ムジナやヘッジさんが遊びに来れば俺が紅茶を用意する。料理はもちろん、掃除も俺の仕事だ。
ここだけ聞くと、なんだこの横暴な姉はとなるが、代わりに俺が頼んだ本を持ってきてくれる。
頼んでいない本も然りだ。
どうして人間界についての本をたくさん持ってこれるのかを疑問に思っていたが、俺の知らないところでリメルアと友好関係を築いていたらしく、さらにリメルアの友達であるマリフとも繋がりがあったようだ。
つまり、マリフの技術で引き寄せた本、そして黒池とキリルを誘拐するほど人間に興味があったリメルアの本を持ってきていたらしい。末恐ろしい。
「ムジナ、何人か数えてくれる?」
俺はこの中で一番付き合いが長いムジナに声をかけた。
すぐさま、オッケー!と聞こえ、数え始めた。
「ねーねー、ヘラ。レインがなぜか部屋の隅から離れようとしないんだけど」
「あー、放っとけ。あとで持ってくから」
「うん!じゃあレインを抜いたら……八人だね!ヘラも入れたからー!あ、スノーのリボンたちも入れないとね!十だ!」
「あいつらがカップの紅茶を飲む姿が想像できないんだけど……」
アリアとレチタティーヴォがカップの中身を飲もうとしてこぼすってことしか思い浮かばないのだが、とりあえずお茶うけだけ用意してあげよう。
「あら、ヘラ。気を遣わなくてもいいのに」
カップを机に置くと、スクーレがこちらを見た。意外だと思ったのだろう。真相はお前の部下に聞くといい。
「いつも通りだ。ムジナとかが来たら、もてなす。そうしないと俺が気に食わないのでね」
「変な人ね」
「何とでも言え。……レイン、早く座ってくれ」
次に、俺はレインの元に向かった。
だるまさんが転んだをしているかのように、後ろを向いて手で顔を覆っている。
「……ノートは」
「ん?」
「ノートは、とんでもないことをしている気がするんだ」
レインはボソッと呟いた。
俺以外の誰にも聞こえないように。
「……はぁ?もうこの時点でとんでもないことしてるだろ」
「ううん、違う」
レインはこっちを向いた。
その顔はひどく怯え、かつ落ち込んでいるように見えた。
俺は思わず息を呑む。
「前、ナニルに聞いたんだ。どうしてかはわからないけど、ハレティについてさ。そしたら……」
「そしたら?」
「ハレティは、悪者になってしまったって」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




