デストロイヤー戦3
第四十一話 ひとりぼっちの少女-急-
「うおっ!」
発砲の衝撃で狙いがぶれる。
だが、ほぼゼロ距離発砲だったので、二発目は不要だ。
銃口から発せられた凶弾は、狙った通り妹の一部でもあろうアリアを貫いた。
「よし!」
転倒して怪我をすることを恐れた体が反射神経で足を踏み出したにも関わらず、勢いを殺しきれなかったため『デストロイヤー』に背中を向ける状態で体勢を整えることになった。
「こうしちまえば、作戦も意味がないだろ、『デストロイヤー』!」
「……アリア……レチタティーヴォ……」
『デストロイヤー』は悲しそうに呟いた。
危険な海の水でできた塩をかけられ、目も当てられない状態になっている呪いの類いであるレチタティーヴォ。
そして銃弾が貫き、風穴が開いたアリア。
……もう立ち直れないだろう。
「諦めろ、『デストロイヤー』。お前に目を渡すわけにはいかないんだ」
オレは『デストロイヤー』にレイピアを向けた。
「目?何のこと言ってるの?」
「え?だってどう見ても左目が無いじゃないか。てっきり目が欲しいのかと……」
ボタンになっている左目が気にならないとは、誰も思っていなかっただろう。
では、何が欲しいのか……?
「目なんか欲しくない。ワタシが欲しいのは____」
「いた!はぁ……はぁ……お兄ちゃん!!」
『デストロイヤー』が口を開けたそのとき、後ろから荒い息づかいと共に、オレを呼ぶ声がした。
振り返ると、そこにはオレの弟である、サニーがいた。
……ここまで追いかけて探しに来てくれたのか!
「サニー、危険だからこっちに来い!」
「大丈夫です、ヘラさん」
ヘラがサニーを保護しようとしたが、断った。サニーは息を整え、『デストロイヤー』の方へと一歩、また一歩と歩み始めた。
「お兄ちゃん……やっと三人揃った……!」
『デストロイヤー』はレチタティーヴォとアリアから目を離し、オレとサニーを見て嬉しそうに言った。
「……それで、何が欲しいんだよ。『デストロイヤー』」
「ワタシは……ワタシはそんな名前じゃ嫌。ワタシは……女の子らしい名前が欲しいの。ワタシは……お父さんとお母さんがワタシに話しかけてくれる前に殺しちゃったから……名前、無いの」
オレはいまいち覚えていないのでサニーの方を見ると、視線を下にしていた。
……本当のようだ。
「だから、名前が欲しかったの!!」
『デストロイヤー』が叫ぶと、戦闘不能にしたはずの『化け物さん』たちが黒いオーラを出して浮かび上がった。
まるで完全復活を遂げたとでもいうかのように。
「まだ倒しきれてなかったのか!?」
「お兄ちゃん、今のうちにこれを!」
サニーが全力で袋を投げてきた。
見覚えのある白い紙袋。
これってまさか……。
「薬?」
「そう!痛み止め、安定剤とかが入ってるから!もう少しで……もう少しで完治するはずなんだ!だから……飲んで!お願い!」
急いで紙袋から中身を取り出すと、いつも飲んでいた薬が出てきた。
白く、少し大きい。だが、前とは違ってコーティングされており、さらに二等分されていた。
圧倒的に飲みやすさが向上している。
「……一か八かだ!」
これで記憶が戻ったりしたら逆におかしい。だって……薬ひとつで治るなんて……。
だが、やるしかない。オレは、愛すべき弟にかけることにした。
「ヘラさん。もちろん薬なので効き目は少し遅いです。なので……手伝ってくれませんか?」
「時間稼ぎか?……いいぜ、手伝ってやるよ。……確実に王手をかけられるんだろうな?」
「えぇ、確実です。……なんせ、お兄ちゃんにしか教えてもらえてないんですから」
「……っ、来るぞ!」
……後ろの方で戦闘音が聞こえる。
ヘラたちが戦ってくれているのか。
あぁ、頭が超いてぇ……割れそうだ……。
あの薬、本当に効くのか……?
幸い、オレに注意が向いていないようだ。
その代わり、オレはこの痛みに耐えねばならないが……!これが本当の荒療治、ってやつか……!
「記憶を取り戻して、『デストロイヤー』を止めるつもりかァ?」
「はん、無理無理。名前なんか無い。適当に付けた名前など、意味は無い。魂に刻み込まれた名前は、死神すら届かねぇよ」
どちらかの『化け物さん』が言った直後、遠くの方からバチッ!!という音がし、悲鳴が上がった。
死神と言っていたので、この悲鳴はムジナのものだろうか。名前を読み取ろうとして失敗したのだろう。
「お前らのことだからレインを狙うと思ったんだがな」
「あいつの力はもう見定めた。それに、そうさせないように、そこの神が密かに結界を張ってたみたいだから近づけん。……どこまで知っているんだ?」
「災厄に教える筋合いはないわ。でも、あなたたちがどうやっても、その子の体からは出られないということだけ教えてあげる。……多分それが最期の足掻きだったのでしょうね」
なんだ、どいつもこいつもオレのことナメやがって……。というか、足掻き?オレたちが何かやったというのか?
……少し……少しだけ頭の隅に残るビジョン。
血まみれの部屋……倒れている赤ちゃん。その上にはモヤモヤとした何か。
そして二つの死体……。
これが本当の記憶の一部……!?
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!どうして、こんなのが本当の記憶なんだ!?こんなのをずっと求めていたなんて……。どうして、どうして……?
「……ぅ、あっ……」
さっきのを皮切りにどんどん溢れ出す記憶。そして、その記憶はずいぶんと昔まで遡った。
「……これが……そうだ、思い出した……」
激しい戦闘音が聞こえる方へと重い体を向ける。それに気づいたヘラが「やったんだな」という顔で頷いた。
そうだ、オレはやったんだ。
これで、やっとかわいい妹のためにお兄ちゃんらしいことをできる。
ぐわんぐわんとする頭を横に振る。
サニーとヘラが押さえてくれている間に前へと進まないと……。
「……『化け物』共……この戦いはオレたちの勝ちだ」
「薬の一つや二つ飲んだだけで思い上がるなよ!!」
さらにオーラが増幅したアリアが先陣を切った。
もうギリギリの体力なので、首を少し傾けることぐらいしかできない。
それでも、避けることはできた。
……顔に切り傷が入ってしまったが。
それが、目に見えないほど速く、何度も何度もオレに襲いかかってきた。途中から避けなくなったが、なぜか急所を狙うようなことはされなかった。
____そして、とうとう彼女の前に立った。
片目でありながらも涙目で睨む姿は、痛々しい以外他にない。
「お兄ちゃん……」
「……ごめん……ごめんな、オレが悪かった。記憶を消すなんて、心の強さで軽減できるのに……オレは全部消してしまった。消すことを拒まなかった」
オレは足の震えに耐えきれず、すとん、と座り込んだ。そしてそのまま彼女の足元で項垂れた。
「お兄ちゃんはお兄ちゃん。お兄ちゃんがワタシのこと楽しみにしててくれたの、お母さんのお腹越しにわかってたの」
「……っ」
「だから名前なんてもういい。三人で暮らそう?」
彼女はにこっと笑った。
……今こそ、言うべきだ。
お母さんが生きてた頃、教えてもらったあの事を……!
「……その事なんだけど、さ」
「もしかして……嫌なの?」
「そんなことない。『デストロイヤー』……いや、お前の本当の名前は『スノー』だ。そうだろう?ムジナ、調べてみろよ」
急にふられたムジナは大きな目をして驚き、すぐに首を縦に振って確認し始めた。
力を削いだり、名前がわかれば確認が少し楽になる。それを知ってのことなので、ムジナはどうしてかを聞かなかった。
「本当だ……。名前は『スノー・ラプル』。現在の家族は……レインとサニー」
「ワタシの名前……スノー……」
スノーは驚きを隠せない様子で復唱する。
そうだ、スノーはスノー。オレたちの妹だ。
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「おかーさん!次生まれる子は何て名前にするの?」
昔、オレは椅子に座るお母さんに尋ねたことがある。
これはまだサニーが物心つく前の話だ。
髪の長いお母さんはにこっと笑い、口に人差し指を当てた。
「これはまだお父さんにもサニーにも言ってないことなんだけどね。……この子は『スノー』にしようと思ってるの。出産予定が冬だからね。二人には内緒よ?」
「うん!内緒にする!」
__________
「オレにだけ、こっそり教えてくれたんだ。夏だったかな。まぁ生まれてきたのはとんでもない呪いだったけど」
緊張の糸が切れたオレはその場で胡座をかいて座った。頭に懐かしい大切な思い出を浮かべたまま。
「だから、この戦いはオレたちの勝ちだ。『化け物』め!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




