いざ交換!
第三十五話 トレード
イリアが泣き止んだあと、ムジナは装置に向き合った。
暗黒渦巻くワープホール。彼は今、生身で挑もうとしている……。
「……ちょ、ちょっと、変なナレーションつけないでよ、リスト!」
「あ、聞こえてた?」
「聞こえてるわ!でも怖いのは怖いよ。暗いよ怖いよだよ」
ムジナはオレ、イリア、上原、マリフ、葛城……と、顔を見ていった。
最後の別れ、というわけか。
「ムジナ。気をつけて」
「うん。上原さん、黒池をよろしくね。……動向をしっかり見ててね」
「ん?どういうことだ?」
「なんでもない。じゃあね」
ムジナは上原のゴツゴツした手を握ってにっこりと笑った。
「あー、今生の別れをしてるのはいいけど、そろそろ終わってくれないかな?ワープホール閉じそうだからさ」
隣でマリフが呆れながら首を掻いた。
……こいつはこいつでフリーダムだな。こいつが一番悪魔っぽいかもしれない……。
「マリフ、お前には心がないのか?」
「嫌だなぁ、ボクだって昔は別れの時は涙したさ。でも、いろんな世界を見ていくうちに、別れを重ねてきたから慣れてきたのさ。上原、キミだってあるだろ?そういう経験」
「あ……なんかごめん」
上原がどんな経験をしたのかはわからないが、まずはムジナを送り出すのが先決だ。……すっかり長引いてしまった。
「……行くよ?行っちゃうよ?し、死なないよね?」
ムジナが生まれたての子ジカのように震えながらこちらを見ている。
「死なないさ。そうじゃないと、機械壊れてる」
「それもそっか。マリフが言うなら……確実、かな」
「なんだ、チキってるのかい?」
「はぁ?!ち、チキってなんかない!」
……バンジージャンプをする直前の人のように____
「だからナレーションやめて!」
「はいはい」
オレにもうナレーションさせないために、マントで口を覆われた。そこまでしなくてもいいのに。
「……行くよ?せーの!」
ムジナがワープホールに入り、重力に負担がかかり、高音とも低音とも重音ともつかない音が鳴り響いた。
最もひどい、試運転無しのぶっつけ本番。しかも人命……いや、死神命がかかったトリップ。
固唾を呑んで見守るなか、驚きの声が上がる。
画面の中の木々たちが消えていく様を目の当たりにしたからである。
「成功……した、のか?」
間が抜けたような声を絞り出す。
そして間髪入れずに、トランシーバーの機械音が鳴った。
『無事、こっちに到着したよ』
「ムジナ!」
「ちょっと貸してくれるかい?……ふふふ、ちゃんとボクのマシンは動いてくれたね。今後のためにレビューしてくれるかい?」
いつでもマイペースだな、この発明家は……。自分の事しか考えてないのか。
『はは……また今度ね。……でも……』
「でも?」
『次元の狭間で女の子を見た気がしたんだ。でも、ほとんど真っ暗で見えなかったけど……』
「大方テレポートやワープに失敗したんだろう。人間だけではなく、悪魔も実現できない人が多いんだ。だからヘラやヘッジが珍しいんだ。時空に穴を開けるのは容易ではない」
では、オレがあの悲劇の日に見たのは何だったのだろうか。自分だけではなく、オレのような他の人をも送り込める能力の持ち主だったのだが……。
『って、その口ぶりなら、その子を知らないの?何でも見えるんじゃないの?』
「あのねぇ、確かに自由なんだけど、時空を漂う少女なんて見たことないわけだよ。場所の問題じゃない。時間の問題だと思う。大昔から生きているか、大昔に死んだかのどちらかだと思うわけよ」
『イレギュラーってやつだね。なるほど、謎だ』
「わかってないのかよ……」
マリフは呆れてトランシーバーをこちらに渡してきた。……というかいつの間にオレは回収係になったんだよ。
『お電話代わりまして、レインでーす』
「電話じゃねぇんだよ」
『ごめんごめん。やってみたかっただけだよ。いつもカリビアがやってたからさ』
「そうか……で、レイン。何だ?」
わざわざレインが出るということは、何かあったに違いない。
『とりあえずラジオは返すよ。旅をするにおいていらないからね。旅をするにおいていらないからね。でも、少し気をつけてほしいことがあって……』
「気をつけてほしいこと?」
『うん。中に悪霊以外に何かいる。でも、オレの力ではどうにもならなかった……だから、安置しておいてほしい』
「置いとくくらいなら何とかなるが……わかったよ」
直後、鈍い音がした。
ラジオが投げ込まれたのだ。
……安置とは一体。
「投げるなよ……」
『だって腕だけ吸い込まれたら怖いじゃん』
「それはそうなんだけどさ……安置しろ、じゃなかったのか?」
『ま、そうだね。オーパーツって知ってる?オーパーツなら、傷つかないでしょ?』
「お前……自由にオーパーツにすることができるのか?」
冗談半分で言ってみた。
まぁこれが本当ならとんでもないことになりそうだが……レインがそんなことできるはずがない。
『え?うん』
「は!?」
なんてこった。
『壊れやすいのってあるじゃん?そういうのをやってきたんだよ。あとは世界が守ってくれる。面白い作りでしょ?』
「面白くないよ……それ科学者が聞いたら悲しむやつだよ……」
『あ、でも作ったことないオーパーツも世に出回ってるみたいだよ。多分それが世間で言われてるやつじゃない?』
「そうなのかなぁ?……そうなのか……」
「納得しちゃったよ」
後ろでマリフが苦笑いしている。
この人、オーパーツができる瞬間とか見てきたんだろうな……。
「これはこっちに置いとくとして……デスいる?」
『ん?デス?代わるの?』
「話したいことがある」
しばらくしてデスの声が聞こえた。
おそらく、出ろよ、嫌だの攻防が繰り広げられたのだろう。
『……何?』
「デス、こっちに戻らないのか?」
『まだやることがあるから戻れない』
「何をするんだ?」
『…………それは言えない』
「どうして?」
『あー……その……黒池には内緒にしててほしいんだが……』
黒池に内緒にしておきたいこと。結構覚えがあるのだが……。
『魔界に川崎組がいる。それを糾さないといけない』
「……川崎組、か。組ということはヤのつく人たちか」
『あぁ。魔界ではもうすでに取り引きを目の当たりにしている。リスト、君が愛した魔界を踏み荒らされるなんて嫌だろう?』
「当たり前だ。なら尚更協力させてくれよ」
『ダメだ。人間の問題は人間であるオレが糾すんだ』
奥歯を噛み締めながら言ったような声。
聞く限りでは、止められず、悔しい思いをしたのだろう。オレはそれをオブラートに包み、口に出した。
『え?違うぞ。……『デストロイヤー』がデストロイしたんだよ』
まさか文字通りデストロイしたなんて。
『うぅ……思い出したくねぇ……』
レインの呻く声が聞こえる。モザイク必須だったのだろう。
「ひとまずこれで人間界の問題は解決した、か。切っていい?」
『あ……待って。もう少し……話していたい』
相手はいつの間にかレインに代わっていた。そのレインは、泣きそうな声で言った。
「ダメだ。もうエネルギーがない。遺言ではないけど、最後に一言ならいけるかもね」
牢屋の壁にもたれ、ふっと笑うマリフ。
お前には少し説教が必要だな……。
だが、彼女が言っていることは本当のことだ。ワープホールが歪み始めている。
だからオレは……。
少しだけ、息を吸った。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




