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怪奇討伐部Ⅳ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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悪夢の後遺症

第三十一話 終わらない夜




 視界が歪む。

 あの時からどれくらい経ったのだろう?

 飛ぶことも許されない。

 不規則な呼吸は、体の不調を訴えるのに十分だった。


「エメスは抜けた……でも、門が見えない……」


 門というのはワープホールを守るものだ。そのワープホールがどこに繋がっているのかはわからないが、近づくのはやめておくことに越したことはない。


「あの人……ヘッジさんを頼れって言ってたけど、どうしてこんなに体が重いの……?」


 あの人……アナスタシアの呪いだということはわかっている。だが、神がこんなことやってくるなんて予想外だ。まぁノートのことだ、否定はできないが。


「……今日はあの宿で休ませてもらおうかな……」


 雪山に入る前の最後の宿だろうか、登山グッズなどが見える。今まではこういうものは無かったが、最近は普通の人間や悪い人間が出入りしていると聞いている。悪魔なので、悪い人間も受け入れているというのが悪いところなのだが。

 そうでもしないとやっていけないのだろう。まったく、腐ってる。


「見たところ、火はついてるみたいだ……すみませーん!」


 フラフラの体を引きずり、木製の扉をノックした。若い女性の声が聞こえ、しばらくしてから扉が開いた。


「あの、泊めてほしいんですけど……ってあぁっ?!」


 その女の人の姿を見た途端、驚きの声を出してしまった。

 長い金髪で片目を隠し、魔法使いに多い服装をした女性。


 ……行方不明になったナニルさんだった。


「どこかで見覚えのある人だと思ったら……サニーさんでしたか!……すごく疲弊しておられますね。どうぞ、こちらにお入りください」


 ナニルさんは一歩下がり、僕を入れるために扉をさらに開いた。


「あの、どうしてここに……」

「詳しい話はあとでします。まずは治療ですよ」


 問答無用で二階のベッドに連れてこられた僕は仕方なく横になった。


「でもこれ、睡魔のアナスタシアにやられて……」

「アナスタシア?!そう、ですか……これは結構時間かかりますよ?」


 棚から薬を取り出し、振り返る。

 その顔には焦りが見えた。


「気付け薬と、香料で完全に目を覚ましちゃいましょう」

「そんなので治っちゃうんですか?」

「アナスタシアは睡魔なのに、自分は眠ることができないんです。彼女の前で眠るということはその呪いがうつるということ。つまり、眠たくても眠れない。そして疲労や絶望で最終的には死に追いやられるんです」

「ですが、アナスタシアは眠りすぎてあのようになったと聞きました。それは……?」


 アナスタシアは眠りすぎたため、目が赤くなったという。彼女は元は悪霊だったのに、とある力を受けて霊から魔の者になったのだと。

 ……これはノートから聞いた話だ。


「それは一種の呪い。ずっと眠っている代わりに、これからの睡眠を削るということ。どれだけあくびしても眠れないということよ。でもあなたは幸い、少ししか呪いを受けていない。良かったですね」

「うーん、そんなのでいいのかなぁ?……いっか」


 そう言って薬などを受け取る。

 一つは柑橘系だ。気付け薬にも同じにおいが付着している。だが、柑橘系なので不快には思わなかった。

 薬を口に放り込む。

 そこで夢の中で見たことを思い出した。


「……そういえば……夢の中でお兄ちゃんに会った」

「お兄ちゃん?……あぁ、レインさんですか」

「でも、全部偽者だった」


 どこまでも暗い眼窩、生気を感じられない顔、本能が拒絶したあの姿。

 それを頭に思い浮かべるだけで寒気がし、体を震わせた。


「偽者……確かにあの人にはそんな逸話がありますね。偽者で油断させ、元の世界に戻れなくする呪いです」

「なんて卑劣な……」

「でも本当に幸運だったのは、レインさんが生きているということです。なんせ死んだ人と再会すれば、この姿でもいいから一緒にいたい、とアナスタシアの思惑通りになってしまいますからね」


 確かにそうだ。もし、お兄ちゃんが死んで、お兄ちゃんが夢にでも出てきたら、覚めないでと思ってしまうだろう。

 しかし、本当にその状態でアナスタシアの手に堕ちていたら……。どうなってしまっていたのだろうか。


「まぁ、とりあえず摂取できたみたいなので、あとはのんびり横になっていてください。私がどうしてここにいるのかを話しますから」


 ナニルは後ろの椅子をベッドの横に置き、座った。

 その時、ちら、と長い金髪の間から赤い目が見えた。


「……あなたがバケツを持って、樹林に来たとき、私とラビスは人間に襲われました」


 このことはよく覚えている。

 人間たちがムジナさん、ヘラさんを探し、放った炎を鎮めるために水入りバケツを持ってきたときの話だ。


「あのあと、本当に死にかけていた私たちを助けたのは、とある死神でした。私たちはクノリティアの近くなので死神がいるのは自然なことだと思っていたのですが、私たちをクノリティアと正反対のこの場所につれてきたのです」


 そして一呼吸おく。

 再び息を吸ったナニルさんは少し悲しそうな顔をした。


「ですが、私たちを一通り治療したあの人は、それから帰ってきませんでした。どこに行くのかも告げずに。だから私とラビスは捜しました。エメスやワープホールの前。そしてアメルにも。……いろいろ捜し回っているうちに、私たちはとんでもないことに気づきました」


 僕は眠らないように目を擦った。


「……誰も……誰も話しかけてこなかったんです。気づいてもらえなかったんです。まるで私たちが死んでいるかのように……。これはあの死神の呪いだ、真っ先にラビスは呟いたんです。ここは現世か常世か。それがわからないまま、さ迷い続けました」


『捜している』から、『さ迷い続けている』に変わった。


「でも、私たちはある時を境に気づかれるようになったんです。それはアナスタシア、あの人があなたを襲ったときに、常世にいた私たちが容量オーバーということで弾き出されたんです。だから現世に戻ってこれました」


 容量オーバー、ということはあの大量のお兄ちゃんを生み出したときに弾かれたのだろう。それにしても、夢の世界に容量なんかあったとは。


 ……それなら、容量オーバーにしてしまえば次の犠牲者がいなくなるのでは?


 そう思った僕は、ナニルさんに告げた。だが、彼女は首を横に振った。


「いいえ、できません。夢の中はアナスタシアの領域。我が身のように感じることができるところなのです。なので、私たちのように邪魔者は排除するでしょう」

「そ、そんな……」


 僕はため息をついて天井を見た。

 木造建築特有の木目。ユラユラと揺れる照明。

 あの光のように、アナスタシアは手が届きそうで届かない存在。

 僕たちは一方的に被害を被ることしかできないのか……?


「ちなみに、彼女は夢魔の上位互換といった存在。現実世界でははっきり言って弱いですが、強力な幻術をかけてくるでしょう」

「……確かにかけられました。ノートのことをお兄ちゃんと思わせられました」

「でしょう?だから、その幻術に打ち勝つことができれば勝てると思います」

「簡単に言ってくれますね……」


 当たり前だが、ノートは一人称まで変えていたので簡単には見分けがつかない。

 さらに、面倒なことにお兄ちゃんの現在位置がわからない。たとえ合流できたとしてもそれがノートなのか本物のお兄ちゃんなのかはわからないだろう。


「うーん……彼だけがわかることを聞くことができればいいのですが……」


 その言葉を聞いたとき、僕の頭の中に一つの単語が浮かび上がった。


『妹』。


 ……それをお兄ちゃんが受け入れてくれればいいのだけれど……。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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