平和な朝ごはん……?
第二十七話 決行
翌日。
カーテンを開き、空模様を確認する。
……雲がちらほら見えるが、いい天気だ。
仕事の一環で自分の部屋にいるのは久しぶりだ。
僕は彼らの朝ご飯を作るためにキッチンへと向かった。
イリアくんのために洋食にしようと思ったが、師匠もいるというのに加え、日本食も食べさせてみたいから和食にしよう。
「味噌汁、白ご飯。梅干しは……刺激が強いかな。ふりかけにしよっと。あとは目玉焼きでいいかな」
独り暮らしなので料理は慣れている。それにたまに職場でも上原先輩と師匠のために作っている。
「……あとはタイマーをセットしてっと……ほら、みんな起きて!」
寝返りの痕跡はないし、誰もベッドから落ちていないものの、クーラーはつけていない。
ムジナから漏れだした冷たい水蒸気で温度、湿度共に良好だったのでみんな気持ちよく眠れたようだ。
ちなみに僕は扉一枚隔てたところで眠っていました、はい。
「んー、結構起きないなぁ。こういうの慣れてないから……あ、ご飯置いてたら来るかな?」
そう言って後ろを振り向く。すると真後ろ、目と鼻の先にムジナが立っていた。
「____うひゃぁ?!……ムジナ?!」
「おはよ」
未だに早鐘を打つ心臓。もしムジナではなく知らない人だったら卒倒していただろう。
「なななっ、え?!」
ベッドの方を見ると、確かにムジナはいない。幻覚ではないようだ。
「プチトマトある?」
「ぷ、プチトマト?あるけど……食べるの?」
僕はムジナの背丈に合わせて腰を曲げる。僕の質問に、ムジナはニッコリと笑った。
「うん。好きだから」
「へぇ、変わってるなぁ。わかった、今は少ないけど、晩買って、シチューと一緒にたくさん食べよっか」
「やったぁ!」
僕とムジナの会話にゾロゾロとみんな起き始めた。
「ん~?プチトマトが何だってぇ……?」
「おはようございます、師匠。あと目を擦らないでください。雑菌入ったらどうするんですか」
「プチトマト好きなの?ムジナ」
各々が自由行動している。
師匠は目を擦り、イリアくんはムジナのもとへ向かう。
ずっとこんな平和な毎日が続けばいいのに……。
「レインとどれだけ食べれるか競争もしたんだよ」
「へぇ、まさか魔界にもプチトマトがあったなんて……」
イリアくんが興味深そうに聞いている。
僕も気になるところだが、そんな暇はない。
朝は戦争だ。どれだけ目覚めを良くし、どれだけ一日の栄養と活力を得られるかがポイントだと僕は勝手に思っている。
まぁ僕のような職種の人間だからだろうけど……。
「ほら、みんなご飯が冷める前に食べちゃって!イリアくん、和食は初めてかな?」
「うん!……へぇ、これがMiso Soup……」
「スープじゃないけどね」
まじまじと観察して嬉しそうに味噌汁を飲むイリアくん。よかった、気に入ってくれたようだ。……と、隣で師匠が味噌汁をこちらに向ける。
「黒池、濃い」
「わかりました。次から調整しますね。あ、お吸い物にします?」
「おぉ、その言葉を聞くのは何十年ぶりだろうか……!」
師匠はいつもお菓子を食べるときと同じような顔をした。そして目玉焼きを頬張る。師匠は食器を洗う僕に気を遣ってくれたのか、黄身を割らずに食べた。
「……僕も食べよっと。九時半くらいに出ますからね」
「「「はーい」」」
現在、七時半。
あともう少しだけ、このメンバーで過ごしたい。
もしもこの一件が終われば、みんな……みんなバラバラになってしまう……。
「……どうしたの?お腹痛いの?」
「へっ?」
気がつくと、前に座っているムジナがプチトマトを片手に顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?プチトマト食べる?」
「……ふふふっ、何ですか、そのジョークは。あははっ」
「え?何で何で?」
「だって、お腹痛い?って聞いておきながらプチトマト食べる?って!……ふふっ」
「もー、そんなに笑わないでよぉ!」
まるでプチトマトを入れたかのように口を膨らますムジナ。僕は久しぶりに声に出して笑ってしまった。こんなに心から笑えるのは、もしかすると人間の命を操作する死神の無意識に直面しているからかもしれない。
「はいはい、ごめんなさいね。……みんな食べ終わった?おかわりとかは?」
「味噌汁……だっけ?これ欲しいな。このお味噌気に入った!」
「赤味噌ですね。イリアくん、アメリカに帰っても飲む?」
「飲む!」
……イリアくんは味噌を。ムジナはプチトマトが好きなようだ。
「わかめ残してますね……そういえばアメリカの人は食べられないという噂を……。僕のミスです……」
アメリカの人は、わかめを消化する酵素が無いらしい。なので、食べさせてはいけない。
「イリア、こっち向いて」
イリアくんの隣であり、僕の前に座っているムジナが彼をつつく。イリアくんは不思議そうにムジナを見た。
「……んー、これならなんとかなりそう!魔法かけるけどいいよね?」
「へ?う、うん」
ムジナは椅子から降り、座っているイリアくんのお腹に顔を密着させた。
何かを唱えたあと、僕にビンを要求してきた。ジャムの空ビンを渡すと、ムジナはそこに水蒸気を込めた。
「吸って」
「うん。……けほっ」
「これで治ったよ」
「黒池、どうして食べてないのに水蒸気吸わせたんだ?」
隣で師匠が聞いてくる。確かにそう言われればそうだ。僕はとりあえず首をかしげておいた。
「わかめは日本から持ってきたわかめ付近の水のせいで外国でも繁殖したんだって。ヘラの本で見たよ」
「詳しいな!?というかそれ外来種ってやつだよな?あの、何だっけ?ホワイトバス?」
「ブラックバスのことですか?」
「それ!」
ホワイトて。
それにしても、日本は散々「外来種から自然を守れ」とか言っておきながら、日本も外国にとっての「外来種」を送っていたなんて。それに、守るのは自然ではなく人間だ。
……と、不意にスマートフォンが震えた。
画面を見てみると、上原先輩からだ。
僕はみんなに電話してくると伝え、通話ボタンを押した。
「どうしたんですか、先輩。あ、メッセージ見ました?」
『見たもなにも、これは何だ!』
「え?」
電話の向こうから聞こえてきた声は、いつもの気だるげな声ではなく、怒りが込められた声だった。当然僕は何も知らない。
『え?じゃない!予告状送ってきただろ!?』
「よ、予告状?!」
『とぼけるな。黒池ちゃん……いや、黒池。これからそっちに向かう』
「ちょっと待ってください!九時半に家を出て、そちらに向かいますから!というかその予定でしたし!」
『……嘘だ、って言うのか?』
「はい!それに僕、予告状なんか書きませんし!」
『……そうか……そうか……。なら後で転送する。しっかりと読んでおいてくれ』
その言葉を最後に、上原先輩は通話を終了させた。
三十秒後くらいだろうか。メッセージが転送されてきた。
「なになに?『本日午前十時にマリフ・ハルビレンが収容されている刑務所にて爆破を行います。黒池』……うわー、なんでこんなのに引っ掛かっちゃうの、先ぱ……」
……と言いかけた直後、違和感を感じた。
どうして情報が漏れているのか、ということだ。
とりあえずこれは師匠に相談した方が良さそうだ、と後ろを振り向いたその時だった。
「____っ?!」
僕の頭に鈍痛が走り、僕の意識は闇の中に落ちていった。
__________
「お待たせしました」
別室から黒池が戻ってきた。彼は浮かない顔をしている。
「……何かあったのか?」
「はい……それが、先輩からこんなメールが届いたんです」
「ん?……なるほどな」
見せてきた画面には『予告状』と書かれていた。……爆破、か。
「どうしましょう……」
「一応時間通りに向こうに行って、本当のことを話そう」
「わかりました」
「……それと、さ。黒池」
「はい?」
オレはさっき皆で気になったことを聞くべく、黒池を引き止めた。
「さっきの大きな音は何だ?そっちの部屋に行くか悩んだんだぞ」
「えっ……あぁ、棚の上の物が頭に落ちてきたんです。結構痛かったです……」
「ふーん。気をつけろよな」
「はい」
……現在、八時半過ぎ。
そろそろ準備しないとと言って黒池はどこかに行ってしまった。
イリアとムジナはベランダにいる。なんでも、景色がいいとか何とか。都会のどこが景色がいいのかがわからない。……オレはやはり江戸から離れられないのか……?
「リストさんも見る?向こうで鳥が飛んでるよ!」
「……そうだな。暇だし」
そう言ってオレはベランダの柵に体を預けた。
「……で、どうだった?」
「……おかしい様子はなかったよ」
ムジナが耳打ちする。どうやら彼によると、魂が黒池のものではないという。本当の黒池はどこへ行ってしまったのだろうか。
「そっか……。でも確かにあれは黒池じゃない」
「警戒する必要があるな。ましてやイリアは人間だ。もしもの時はオレが分身を使って囮にするからな」
「ありがとう、リスト。……ごめんね、記憶が不安定でしかも薬を忘れてきちゃって……」
「それを解決するためにあそこに行くんじゃないか」
「あはは、それもそうだね」
それから十分ほどだろうか。オレたちがベランダから外を見ていると、偽黒池が帰ってきた。オレたちはとりあえず気づかないフリをすることにした。
「「「おかえり!」」」
「ただいま、みんな。あと二十分くらいしたら出発だからね」
「「「はーい!」」」
……うまくいってると信じたい……!
でもまぁ、鎌を掛けておこう。
「なぁ、黒池。爆破予告があったのなら、剣持ってったら?」
「剣、ですか?あれ、そういえば僕、どこに置いてましたっけ?」
「……玄関」
「あ!そうでしたね!寝ぼけてたのでしょうか……」
……と呟きながら玄関に向かう偽黒池。玄関ならさっき出るときに気づいたのではないか?
「やっぱり剣は重いですねぇ」
「老化でも進んだか?いつもなら振り回してるじゃねぇか」
「恐らく筋肉痛か何かかと……」
「そうか」
「えぇ、そうですよ!」
そしてまた「そっちで待っててくださいね」と扉を閉められた。……ちょっとやり過ぎたのかもしれない。だがこれくらいがベストだろう。
偽黒池、お前の正体を暴いてやる……!
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




