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怪奇討伐部Ⅳ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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リスト、帰国する

第二十六話 変装の達人




「……もう大丈夫だよ、イリア」


 綺麗に整えられた白いベッドの上で死神の彼は微笑んだ。

 ついこの間まで痛々しい切り傷を隠すために巻かれていた包帯には、もうどこにも血痕が無い。


 現在彼に欠けているのは皆を思い出すための記憶、ただそれだけだった。


「ほんとに?無理してない?痛くないの?」

「本当だよ。イリアってば心配しすぎだよ」


 死神の彼は、人間である少年の金髪の頭を撫でる。少年は安心したような顔をした。


「じゃあ、黒池さんたちに電話してくるね。明後日あたりにアメリカを出よう!」

「うん。行ってらっしゃい」


 少年は嬉しそうにスマートフォンを持って部屋を出た。


 ____そこで映像は途絶えた。


「……なるほどね」


 画面から目を離す。パソコンの隣に置かれた栄養ドリンクを飲み干す。作業用の回転椅子をグルリと半回転させると、メイク道具や首だけのマネキン、ミシンやそれで作った衣装が並んでいた。


「ったく、もうこんな時間か」


 薄暗くなった部屋の電気を付ける。

 すると部屋の壁には沢山の写真と沢山の新聞の切り取りが貼られていた。


「こんな時間だしもう寝るか。んんーっ……」


 背筋を伸ばし、パソコンの電源を落としたら着る服を用意する。全体的に灰色なので目立つところに置いた。


「……おやすみ」


 布団をかぶり、電気を消す。

 デジタル時計に表示された時間はすでに二時を回っていた……。


 __________


「師匠、随分大量ですね……」


 両手いっぱいに抱えた白い袋。その中には大量の箱が見える。そう、すべてお菓子だ。


「全部オレの物って訳じゃないぞ。ほら、イリア、ムジナ。クッキー買ってきたんだ。どうぞ」


 見たところ、チョコレートクッキーのようだ。そういえばスーパーで買ってたような……アレか。


「……知らない人に貰っちゃダメって聞いた」


 ムジナは真顔で突き放す。

 イリアくんは驚き、僕は笑いをこらえ、師匠は驚きを通り越して口をあんぐりと開けた。


「う……そういえばオレが甘いもの好きだってこと、出会って一度も言ってなかったな……ましてやこの状況だと、完全に怪しい人……不覚!」

「悪魔に正論言われてる……」


 僕は袋を床に置いて悔しがっている師匠を憐れみの目で見ながら呟いた。直後、師匠に睨まれたのは内緒だ。


「でもでも、ムジナ!リストさんはいい人だよ。貰ったら?」

「いいんだ、イリア……。退院祝いってことにしておいてくれ……」


 完全にへこたれた師匠。結局イリアを通して渡すことになった。


「師匠、立ってくださいよ。そろそろ出発しますよ」

「あ、あぁ……そうだな。もう慣れたものだよ」


 ニヤリと笑った師匠。その時にはすでにいつもの調子に戻っていた。



 そして東京の羽田空港に到着した。

 師匠よりムジナが初めての飛行機で目を輝かせていた。イリアの話によると、アメリカの教会で出会ったようだ。どうやら魔界からアメリカまで直行する魔術を使ったらしい。だが、その事も本人は忘れているようだ。


 一応僕の家に帰ってからマリフに面会しようと思う。幸い、夜でもまだバスは運行しているようだ。羽田空港からの直通バスに乗って家の近くまで行こう。


「イリアくんは日本は二回目だよね」

「うん。あの時はバタバタしてたから、今回は楽しみたいな」


 イリアくんは自分の半分くらいであろう大きさのリュックサックにペットボトルをしまいながら笑った。


「いいよなぁ、イリアたち子供は。こっちは仕事の後は仕事だぜ?まったく、嫌になるよ」

「師匠にだけは言われたくないですね……」

「はぁ?!」


 師匠はイリアくんたちに渡したチョコレートクッキー(自分の分)を頬張りながら言う。

 師匠はいつも僕がデスクワークをしている時に、煎餅を食べてばっかりで手伝ってくれないなんて口が裂けても言えない。


「とにかく、今日は遅いので僕の家に泊まりに来てください。あぁ、心配しないで。朝はしっかり起こすし、ご飯も作りますからね」


 僕は夜遅いのであくびをして目を擦っている三人に向かって言った。するとムジナが僕のコートの端をクイクイと引っ張った。


「ご飯って何を作るの?」

「そうですねぇ……まだ考えてませんでした」

「ならさ、シチュー……にしてほしいな」


 突然のオーダーに驚いてムジナを見ると、彼は少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。


「へ?シチューですか?」

「お兄ちゃんがよく作ってくれたの」

「そうですか。では、明日の晩ご飯にしましょう!いいですか?二人とも」


 後ろにいる二人を見ると、ムジナのことなら、と笑顔で首を縦に振ってくれた。


「では、今日のご飯は有り物でなんとかしますね。……そろそろバスが来ますよ」


 視線を右の方に向けると、直通バスがバス停に向かって来ているところだった。

 僕たちは鞄などをバスに載せ、家の近くで下りた。


「あのマンションですよ」

「よし、さっさと置いて休もうぜ」

「信号に気を付けてくださいね。ああっ、あと下駄で走らないでください!危ないですよ!」


「大丈夫大丈夫~♪」と言って、ガッサガッサと音を立てながら袋を持って走っていく師匠。二人が真似したらどうするんだ……。


「待って待って!リストさーん!!」

「イリア、速いよ!」

「二人ともー!?」


 嫌な予感は的中し、全員が走る羽目になってしまった。


「はぁ……はぁ……着きましたよ、ここが僕の家です」


 マンションの前で待っていた三人の間を通り、部屋の前まで来てから鍵を開けた。久しぶりの我が家だ。まず履き物を脱いだのは師匠だ。


「案外狭いなぁ」

「そうですか?まぁ独り暮らしなものなのでこれくらいがベストだと思いますよ」

「ふぅん」


 そう言いながら、自然に洗面台の方に向かう師匠。直後、僕を呼ぶ声が飛んできた。


「黒池!これはどういうことだ?」

「え?……あっ」


 師匠の手に握られていたのは、どう見ても僕のセンスとはかけ離れたタオルや歯ブラシだった。


「黒池、お前……」

「違うんです!それは上原先輩のものですよ!たまに忍び込ん……遊びに来るので、もう置いといてくださいって言ったんです」

「あー……あの引きこもりならやりかねないな……」


 認めちゃっていいんだ……。という言葉は飲み込み、僕はタオルと歯ブラシを元あった場所に戻した。


「お邪魔しまーす」

「イリア、靴脱いで」

「あ、そうだ。ここ日本だったね」


 そのまま上がろうとしたイリアくんをムジナが引き止める。……普通逆じゃないのかなぁ……。


「ふふ、お泊まり会みたいで楽しいですね、師匠」

「ま、これも仕事だけどな」

「そんなこと言わないでくださいよ。死神と一緒にいられるなんて、こんなに珍しいことは他にありませんよ?」

「……オレ、人魔なんだけどな……レアリティ低いのか……」

「そ、そういうつもりじゃないですよ!」

「冗談だよ」


 ____数時間後。


「さすがに疲れました」


 時計はすでに十二時を回っていた。

 他の皆は寝たそうに歯磨きをしている。

 椅子に座ってスマートフォンを見ると、上原先輩からメッセージが届いていた。


『黒池ちゃん、元気してる?明日来てくれるんだってね?連絡よろー♪』


「先輩……めっちゃ殴りたい」


 こんなことになったのは先輩のせいだ。しかしこうなったおかげで再びムジナたちに会えた。……記憶は飛んでいるが。


「とりあえず返信しとくか。えっと、『夜遅くに申し訳ありません』……っと」

「……黒池」

「____わひゃっ!?し、師匠!?」


 ……急に肩を叩かれたので心臓が飛び出そうになった。


「驚かせちまったか」

「ビックリさせないでください!師匠、歯磨き終わったんですか?」

「終わったぞ。廁にも行ったさ。おやすみの挨拶をしに来たんだ」

「そうですか。真面目ですね。……おやすみなさい、師匠」


 僕がそう言うと、師匠は目を見開いて立ち尽くした。そしてそのまま涙を流し始めた。


「えっ?師匠?!」

「……面狐……相変わらず面狐みたいだな、お前……っ……あははっ」


 師匠はそう言ったきり、振り向くことはなかった。


「黒池さん、おやすみなさーい」

「……おやすみ。今日はありがとね」

「えぇ。おやすみなさい。いい夢を見てね」


 呆然と師匠を見ていた僕の肩を再び叩く二人。僕は彼らの頭を撫で、寝室へと歩いていった。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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