勉強する?呪い
第十八話 知識は時に力となる
____……お兄ちゃんに会うまでに、また壊したい……壊したい……。
「……『デストロイヤー』、また変な夢見ただろ?」
アリアが話しかけてきた。
ワタシは首を傾げる。
「嘘つけ。じゃあその手にあるソレは何だ」
アリアは私の手からナイフを弾いた。
……ナイフなんて持ってたっけ?
「アリア、その辺にしとけ。どうせ俺らの破壊っぷりを見て真似したくなったんだろ」
「レチタ……そうなのかなぁ?」
そう言いつつナイフを丸呑みしたレチタ。冷たく、鋭い感覚がワタシにも伝わってきた。
……そう、ワタシたちはまさに三位一体。誰かが傷つくと全員がダメージを受ける。
「……」
「冷たいって」
「すまんすまん。でも傷つくよりはマシだろ」
「それは……そうだけどさぁ……」
アリアが見上げる。その真っ赤な双眸には空を飛ぶ鳥が映った。
「アリアは最近丸くなったよな。アリアって名前を付けられたからか?」
「……まぁ、それもあるかな。名前の力ってすごいよね」
「名前にはその人を縛る力がある。だから名前を捨てる人もいるんだぞ」
「イメチェンしたいがために?あーあ、やってらんねぇ」
アリアは地面に生えている花をむしり取り、口の中に放り込んだ。
モショモショと雑草を咀嚼する音が聞こえる。
たとえどれだけ可憐で綺麗だとしても、食べてしまえばもうそれは雑草と同じだ。
「お前も早く名前ができたらいいな」
レチタは花を食べるアリアを見、満足そうな顔をしてからこちらを見た。
「……んー……」
そんなレチタをワタシは皮肉ってるの?という顔で見返す。
レチタは「はぁーあ、めんどくせ」と呟き、その大きな口の中から一冊の本を取り出した。マジックなのかはさておき、今とんでもない技術を見せられた気がする。
「『音楽用語全集』?食っていいのか?」
……と、花を飲み込んだアリアが問う。
「アホか。読むんだよ、これから」
アリアを叩いたレチタは、大きな口の端の牙で器用にページを開いていく。……というか、置き場がないのでワタシの横腹に押し付けて読むのはやめてほしい。
「で、何でそんなの持ってるんだよ」
「クロウがくれた。これでも見て勉強しろ、だってさ」
「え?でも渡しているところ見えなかったぞ」
「寝てる時に突っ込まれたんだよ。起きたらメモが挟まってるこれが口の中にあった」
「よく窒息しなかったな……」
呆れるアリアを見向きもせずにページをめくり続けるレチタ。すると突然こっちを見てニタァ、と笑った。
「おい、今何のために開いてるのか気になっただろ」
「……んーん」
ワタシはブンブンと首を横に振った。
「全力で否定しないでくれよ……。とにかく、これで俺らの勝率はグン、と上がるはずだ」
「……?」
「音楽の用語にはいろんな意味があるらしい。速くしたり遅くしたり、強く、弱く、と……」
「んーで?それがどうしたってんだよ」
アリアはさっきの会話を気にしているのか、妙に荒々しく問うた。
「鈍いなぁ。『デストロイヤー』に指揮者の真似事をしてもらって、それに応じて俺らが暴れるんだよ。幸い、喋れないんだから、その内容を読まれることはない」
「ふーん、レチタにしては冴えてるじゃん」
「何だよ、『にしては』って。俺はいつでも天才だ」
レチタはまんざらでないという顔で言う。……それにしてもレチタの扱い、上手いなぁ……。
「……で、俺が気になったのはこれだ」
レチタが気を取り直して指したのは『ユニゾン』と書かれたページだ。……何となく察しがついた。
「あー、文章的にも『協力して行動する』ってのが伝わってくるな」
「じゃあ、決定だな!」
レチタは満足げに言い放ち、本を勢いよく閉じ、ボン!!という音が立った。
程無くしてそれはレチタの胃袋に収まることになる。
戦略は決まった。だが、ワタシは一つ心配なことがあった。だからワタシはレチタの頭に手を置いた。
「……ん」
「どした?……なになに?お兄ちゃんがいたら口の封印が解ける、と?でもまぁ暗号みたいなものだし、わからねぇだろ」
レチタはめんどくさそうに言った。
……そうだ。この世界で音楽というものは馴染み深いものではない。なのでお兄ちゃんにはわかるはずがない。
でもあの博識のインキュバスが一緒に襲いかかってきたらどうする?彼は音楽について調べていないわけがない。逆に興味津々だったりするかもしれない。
「……ん」
ワタシはレチタの言葉に頷いた。
ユニゾン。これがワタシたちの新たな戦略、だ。
__________
「おーおー、よくやってるねぇ。特別に運行テストしてるロボットの調整もうまくいってるみたいだし?これで調査も楽になるな!良かったな、刑事さんたちよぉ!」
薄暗く、気味が悪いフロアに響く、陽気な声。
ここはハッキリザックリ言ってしまうと刑務所。凶悪犯たちが閉じ込められている。そしてこの陽気な声の持ち主もまた、凶悪犯である。
そんな彼女は今休憩部屋で刑事二人と話している。……一人は監視だが。
「はぁ。お前、いつも楽しそうでいいよなぁ、マリフ」
「あはは、見たくないものまで見えてしまうから、楽しくはないさ」
マリフと呼ばれた女性は、特別に持ち込ませてもらった、額の上に付けているゴーグルを弄った。
「本当はそれ、持ち込んだらダメなんだぞ。だが、お前を連れてきた子供死神の熱弁でそれを付けられているんだ。わかってるか?」
「その話、何回目なんだい?いい加減飽きてきたよ。……でも、これが精神安定剤みたいなものなんだよね。悪魔のボクがこれだけで暴れる心配が無くなるんだから、安いものだよ」
マリフは皮肉たっぷりに言った。
刑事はため息をつく。
そしてまた、このフロアには重苦しい雰囲気が戻ってきた。
普通の人ならすぐに出て行きたいと言うだろう。
何せ、マリフは人間ではないのだから。なのでこの部屋の監視は人一倍きつい。
「……それで、俺たちを呼んだのはそのロボットの話か?」
刑事はマリフの手元にあるモニターを見て言った。モニターには砂漠の様子が映っている。刑事はそこに映る二人の影をコンコン、と小突いた。
「もちろん。あと、最近他の世界を見たら、『No Signal』って出てくるんだけど、どうしたのかなーって思ってロボット作ったんだよ。そしたら大当たり!神が介入してたのさ!」
「神、ねぇ」
「あ、信じてないって顔してる」
「当たり前だろ、そんな胡散臭い話」
「そーぉ?案外近くに神の力持ってる奴がいるかもしれないよ?」
「そんな馬鹿な」
おどけるマリフを尻目に資料に目を落とす刑事。本当は精神科に連れていくべきではなかったのかと何度思っただろう。
「ま、この機械はあげるよ。こんなの何個でも作れるし、世の中で活躍させてもらえるならこいつも本望だろう」
マリフは刑事の手を取り、機械を握らせた。……この機械のモニターとロボットの視点はリンクしているようだ。
「マリフ、お前はいつもそんな調子なのか?こっちの調子が狂うよ。はぁ……」
「な。目の前でため息なんてひどいなぁ」
「本当のことだろ?」
機械を渡し、手持無沙汰になったのか、マリフは少し長い囚人服の袖をバタバタさせた。それでもニコニコして楽しそうなマリフ。彼女のメンタルを調べてみたい、そう思ったのは各当番の刑事、誰もが思ったことであろう。
「はは、お前らには敵わねぇな。よーし、わかった。エジプト砂漠異変のヒントを教えてやろう」
「ヒントって言ってる辺りから胡散臭さと容疑者ってワードが頭を掠めたんだけどさぁ」
「馬鹿じゃないの?ボクはここから動けないんだよ?それにそこの監視カメラでずっと監視してた。できるわけない」
「それもそうだな」
そう言いつつメモを用意している刑事。やはり情報は何より大事なのだろう。
「よし、じゃあ言うよ。……まず、重要参考人だ。聞いて驚けよ?」
「勿体ぶるんだな……」
「重要参考人は、黒池皇希とレイン・ラプル!その二人だ!」
「はぁ?!」
レイン・ラプルはともかく、黒池となれば刑事なら誰でも驚くだろう。
黒池が配属されている課を話題に出すことは警察内でもタブーとされており、ましてやそのメンバーの名前を出すとなれば……あとは想像つく。
「ナイスリアクション!ねぇ、そこの刑事!撮った?撮った?」
「ま、まぁ……録音してるので……」
突然ふられた刑事は体をビクッとさせ、引き気味で答えた。
「あとで欲しいな!他人を驚かせるような物を作るのがボクの生き甲斐なんだからね!」
「は、はぁ……わかりました」
本来は絶対にダメだろう。だが、常にハイテンションなマリフの周りの調子を狂わせる空気と、人間ではない者だということで逆らえばどうなるかは目に見えている。なので「これが欲しい」と言われると、問答無用でそれを与えなければならない。
「あはは、ありがとう!さーて、製作活動頑張るぞー!」
マリフは伸びをしたあと、嬉しそうに席を立った。
こんな彼女の評判は、『こんなフリーダムな囚人は初めてだ。やりにくい』というものであった……。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




