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始まる異世界生活⑥

 

 俺たちは街を出て、ブルージョ街道という道を南へ進んでいる。


 街道というのだからもっと広い道を想像していたのだが、馬車がようやくすれ違えるほどの幅しかない。辺りには広葉樹がまばらに立ち、一面が草原に覆われた大地が広がっている。夏の日差しが無ければ丁度良いピクニック先になりそうだ。


 そういえば。


「俺たちまだ自己紹介してなかったな。俺は、天ヶ瀬京也あまがせきょうや。好きなように呼んでくれ。ちなみに初心者だ」


「初心者さんなんですか⁉ 立派な剣を持っていたから、てっきり中級冒険者さんくらいかと思ってました」


 やっぱりこの剣すごいんだなと、俺は腰に下げた剣の柄を撫でて言う。


「実は昨日冒険者になったばかりなんだ。できればこの仕事について色々教えてほしい」


「私も冒険者始めて間もないんですよ」


 彼女は苦笑しながら言った。


「あんまり教えられることはありません。そうだ。私も自己紹介」


 少女はてってと俺の前に走ると、ぺこりと頭を下げる。


「私はハル・ヒュドール。ハルって呼んでくださいね。見ての通り魔法使いやってますっ」


 ハルはスカートを揺らして、背中に差していた100センチほどもある杖を掲げた。

 杖は陽の光を上品に照り返し、檜皮色の木目を強調している。先端部の宝珠が怪しく輝いた。

 なんというか。


「かっこいいな」


 俺は無意識にこぼしていた。


「えへへ。そうですか?」


 ハルは照れくさそうに杖を背中に戻し、歩き始める。

 俺も慌ててハルを追った。







 それから俺はハルにこの世界の一般常識を聞きながら歩いた。

 絶対に戦わないほうがいいモンスター。グール、グリフォン、コカトリス、セイレーン、スライム、アカアシアリ、ウナギなどなど……なんか最後の方おかしくね?


「なあ、俺のイメージだとスライムって弱そうなんだが……」


 俺はスライムと聞くと、ついついあいつを思い出してしまう。

 あの、青くて、ポヨンとしてて、先がとんがってて、にやけ面をしたかわいいやつ。そこらへんの木の棒なんかでも倒せそうな。


「何言ってるんですかキョウヤさん……」


 ハルは信じられないものでも見たような顔をしている。


「いいですか? スライムは切っても切っても分裂してまた再生します。打撃なんて効きません。倒すためには炎魔法を使うか、塩で溶かすしかないんですっ」


 俺はナメクジかよっ、と突っ込みを入れた。

 ハルはまくしたてるように続ける。


「大きいものになると、そのまま取り込まれて窒息死した後、じわじわと消化され……」


「ひぃ⁉」


 スライムこわ!


「わかったならいいです。スライムに会っても、戦わないで逃げてくださいね?」


 ハルは俺の悲鳴に満足げに頷く。

 もう一つ気になることが。


「あのさ、ウナギって俺の国だと高級食材として重宝されてたんだけど」


 俺の言葉に、ハルはまた驚愕の表情をした。


「う、うう、う、ウナギを食べる⁉」


「どうした? 今度はなんだ?」


 この世界のウナギがどんなものなのか興味が出てきた。

 ハルは震える声で語り始める。


「ウナギというモンスターはですね、全国重要指定モンスターにも登録されている超危険モンスターなんです。確認されている討伐数はたった3体……それを食べる?」


 なんか重要とか危険とか、すごい言葉が並んでますよウナギさん。


 俺はウナギの話題をどうにかそらし、日本のことをオブラートに包んでハルに話した。東京の風景や車なんかの技術、俺の地元の岩手県について。

 ハルは俺の話を真剣に聞いてくれた。途中途中肩を震わせて何かに耐えるような表情をしていたけど。


「ぷふっ……そ、そうなんですね。キョウヤさんは面白い人です」


 あ。これ俺の話完全に信じてないな。

 でも、女の子に面白い人と言われるのは、なかなか好印象なのでは?


 そんな話をしているうちに、街道の先に森が見えてきた。あれが目的地のセレクト大森だろう。

 林森にしては木々の背が低いし、木々の間隔が広くて手入れの行き届いた人工林のようだ。

 ハットの話によると、セレクト大森林は広さこそ国内一だが初心者向けの比較的安全なフィールドらしい。


 俺がついに冒険者初仕事と浮かれていると、ハルに待ってくださいと呼び止められた。


「どうした?」


 振り返ると、ハルがハットから渡された筒状の道具を地面に刺して固定している。

 俺が首をかしげているの見て、ハルは丁寧に説明してくれた。


「これは光弾っていう魔道具で、こっちの小さな石に魔力を込めると、この筒から照明弾が打ち上げられるんです」


「たしか、ギルドを出る前に受付でもらったやつだよな。何の意味があるんだ?」


「万が一森で迷ったときは、これを打ち上げて出口の方角を調べるんです」


「なるほど~」


 異世界でも遭難(そうなん)対策とかあるんだなーと、リアルな異世界事情に触れた俺は密かに感動しつつ、ハルの作業を手伝った。

 穴に棒を挿し込む共同作業だ。







 森に入ってから1時間が経過した。

 俺たちが受注したクエストはオオトカゲの幼体駆除だ。しかし……


「なあ、そのオオトカゲの子供とやらはどこにいるんだい?」


 俺はハルに尋ねる。

 ハルはこの上ない笑顔で。


「知りません♪」


 俺はたまらず深いため息を吐いた。


「なっ、なんですか。呆れたみたいな顔して。怒りますよ?」

「ちがう! あんまりにもオオトカゲの子供が見つからないから。すまん!」


 俺は顔の前で手を合わせるが、ハルはふいっとそっぽを向いてしまう。

 俺たちは森の中を1時間も歩いたのにもかかわらず、いまだに討伐数はゼロだ。

 忘れていた空腹感が戻ってきたり、歩き続けた苦痛で精神的に疲れてしまった。ハルも似たような状況なのかもしれない。


「はぁ~。そうだよな~。ゲームみたいに、そこに行けば必ず敵がいるってわけじゃないよなー」


 俺のつぶやきに、そっぽを向いていたハルがくすりと笑った。


「やっぱり、キョウヤさんは面白い人ですね」


「ええ? 俺そんなに面白い?」


「面白いです。ちょくちょくよく分からないこと言ってますから。さっきも……げーむ?とか」


「あぁ。そういうことか。ゲームも俺のいた国の言葉なんだ」


 ハルが楽しそうにへ~と言って。


「後でキョウヤさんの国のこと、もっと教えてくださいね。面白そうですっ」


「おう」


 ちょっと待て。これはつまりあの伝説の……『デート』のお誘いではなかろうか。

 俺は勝手な解釈でやる気をみなぎらせていると。


 カサカサ………カサ………


 近くの草むらから音がした。



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