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始まる異世界生活④

 

 俺はハットに向かって言った。


「俺のステータスって、冒険者にとってどんな感じ?」


 ハットが何ともいえないトーンで言った。


「……初心者で力総合Eは平均的な数値ですけと……。冒険者は力仕事が多いので……体力、攻撃力、防御力、腕力、魔力が高いことが望ましいんですが……すっぽり抜けちゃってますね。むしろ僕より攻撃力低い冒険者志望の方は初めて見ましたね」


 う…… まあ、あっちの世界では体育以外運動はほとんどしてなかったから、しょうがないか。それに、俺は頭脳派(自称)なのだ。しょうがないしょうがない。……別に悔しくなんかないんだからねっ。

 俺は既に半泣き状態だが、ハットは気づかず続ける。


「技術もちょっと物足りないです。冒険者としては応急処置や調合は欲しい所ですね」


 日本じゃAEDの講習くらいしか受けなかったからな。調合なんてもってのほかだ。

 俺冒険者ぜんぜん向いてないじゃん。ライラさんの言う通り田舎のギルドに入ったほうがいいのではないか? ここのギルドは大きいらしいし、こんな初心者が入っても笑われるだけなんじゃ……

 俺はガラス製メンタルにヒビが入り、憔悴(しょうすい)しきった顔で言った。


「俺さっそく転職しちゃおうかな」


 ハットは自分の言っていたことがあまりにも本当だったことに気づき、慌ててフォローを入れる。


「あ、あんまり気を落とさないでください! ベジリック伝説の英雄ユグノーだって、最初は村でいじめられていた普通の男の子です。それに、最初から特殊スキルを持っている人なんて珍しいんですよ⁈ それも3つも」


「そうなのか……?」


「はい!」


 ユグノーが誰かは知らないが特殊スキル持ちは珍しいらしい。

 俺がちょっとは回復したのに安心し、ハットは俺のステータスについての疑問を口にする。


「観察眼を持っている人は何人か見たことがありますが、この停滞の神託(しんたく)と聖剣使いって何でしょう? 神託とか聖剣とか字面はすごいんですけど、説明はついてませんし…… 僕にはちょっとわからないですね」


 何となく心当たりはある。神託については俺もわからないが、聖剣はきっとこれのことだろう。

 俺は腰につけていた剣を机の上に置いた。ドゴっという重低音を響かせ、俺の剣は机をきしませる。

 机壊れないよね? 相変わらず重すぎ……

 そう思ったとき、机からより一層の悲鳴が鳴る。いよいよ心配だ。


「確かに聖剣と言われても違和感ないですね。世界には実際に聖剣や神剣があると聞きますし、キョウヤさんのももしかして…… ちなみに僕は英雄譚とか歴史書を読むが趣味なんですけど、黒い聖剣は聞いたことがありませんね」


 ハットはこの剣に興味津々なご様子。キラキラとした目を見る限り、本当に勇者や英雄が好きらしい。


 改めて見ても、とても綺麗な剣だ。片手直剣くらいの大きさで、全体的に黒く、鞘や装飾に何か青い文字が刻まれている。まだ鞘から抜いたことはないが、きっと美しい刃なのだろう。

 俺がそんなことを思っていると、机のきしむ音が止んだ。全くもって不思議である。


 ハットは未だに剣に見入っていた。

 この世界でも、この剣はそうとうな上物のようだ。神からもらったものなので、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。

 突如、部屋のドアが蹴り開けられ、ライラさんが姿を現した。


「おいハット! いつまで時間かけてんだ! もうギルドの営業時間は終わりだ。さっさとそいつを帰らせろ」


 ライラさんは部屋に入るなり、俺に鋭い視線を送ってくる。

 窓を見れば、外はすっかり暗くなっていた。どうやらライラさんがは、ギルドの営業時間が終わったから俺を追い出したいらしい。

 ふとライラさんは俺の聖剣(?)に気づき。


「なんだいこの剣は。あ"?」


 ライラは柄を握って何か深刻そうな顔をした。

 ライラさん、怒ってらっしゃる? 

 眉間のシワがえげつないことになっていく。それはもう深い深い……

 俺はライラさんに言った。


「どうしたんですか? あれ、ハットまで」


 見れば、ハットとライラさんが呆気に取られている。

 おっと、ライラさんの驚いた顔。脳内メモリーに保存完了。


「ギルド終わっちゃったみたいなんで、俺そろそろ帰りますね」


 二人の反応はよくわからなかったが、俺はとりあえず帰ることにした。

 俺はテーブルに乗せた剣をなんとか腰に戻し、ギルドを後にする。






 部屋に取り残されたハットとライラは、互いの顔を見つめ、驚愕の表情をしていた。

 ライラはハットに問う。


「あいつのステータスは?」


 ハットはこれですと、テーブルの上の魔法紙をライラに渡した。

 ライラはステータスの力の欄を見て。


「腕力F……雑魚じゃねえか。なんで腕力Aの私があの剣持てなかったんだよ……」


 しかめっ面のライラに、ハットは恐る恐る紙の左側の特殊スキル欄を指し。


「これだと思います……」


 二人は黙ってステータスを眺めた。







 ギルドを出て、俺は気づいた。


「飯がねぇ、泊るとこねぇ」


 辺りはすでに夜のとばりが降り、そこかしこの家から香しい料理の匂いが漂ってくる。

 ちくしょう! す●家の牛丼が食いてえよ! 家のベットでごろごろしてゲームしてえよ!

 俺は鳴りまくる腹を押さえ、夜の街を突っ走った。






 目を覚ますと、俺は中心街から少し離れた丘の草原で寝ころんでいた。

 朝日が東の空から顔を出し、街に今日の始まりを告げている。

 昨日は……そうだ。ギルドから出た後、空腹を忘れるためにダッシュしてここで力尽きたんだ。


「よっこいしょ……」


 立ち上がって、背中についた草を払う。

 初の野宿を地面の上で経験することになるとは。硬い地面に慣れておらず、身体のあちこちが痛かった。だが不思議と疲れは少ない。未だに異世界に(たかぶ)っているのか。


 顔を上げると、眼下にはレーザの街が広がっていた。街を巡る道にはもう馬車が走り、遠くの川では子供たちが水遊びをしている。所々にある木々の緑が風に揺れ、朝日を受けてきらきらと(きら)めいて見えた。

 俺はこの景色を見て、昔家族で行った絵画展を思い出した。その絵画展の絵の中に、この景色と似たイタリアの風景画があったことを覚えている。その絵の前で、俺が美しいと言うと家族に大爆笑されたが。

 胸糞悪いのでこの話はここまでだ。

 早朝だというのに、この街はもう動き始めているらしい。

 活気づいていく街を見るのは元居た世界でも好きだった。夜に冷えた空気を、人と太陽が温めていくのは心地いい。


 そういえば昨日は何も食べていない。が、もうお腹が空きすぎて、空腹は感じなくなっていた。

 俺は街を包む明るい雰囲気に身を任せ、中心街までトボトボ向かう。


「今日は稼がなきゃな」







 相変わらずでかい建物だなーと思いつつ、俺は冒険者ギルドの中に入った。

 ぶわっと吹いてくる熱気。俺は外より屋内の温度が何度か高いように感じた。

 時刻は早朝のはずだが、ギルドの中は武装した冒険者で大変賑わっている。特にクエストが張り出される掲示板の前は多くの人でモチャモチャしていた。もはや乱闘である。


「てめー! そのクエストは俺らが先に取ったものだぞ!」


「うっせ。受注したもん勝ちだ!」


「キャーっこの人お尻触ったあああぁ」


「っ⁉ 俺じゃねえぞ」


「隙あり!」


「あぁ、ずりいぞてめえっ」


「それだ! それを取れ!」


「どれよ~、わからないわ~」


「だからそれだって!」


 あの中に巻き込まれる勇気はない。空くまで待とう。








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