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はじめまして、メイさん。⑥

 神の話によると、俺と聖剣が互いに認め合ったとき、真の力が発揮(はっき)されるそうだ。

 ん? 互いにと言うと今までこの聖剣は俺を認めていなかったのか。まあ、まだ出会って2日の仲だし。


「お主、よくコイツに認められたのぅ。そんなにザコいのに」


 と、学ぶことを忘れたらしい神がそんなことを言ってきた。もしかしたら、俺が叩くたびにおつむが弱くなっているのかもしれない。かわいそうに。


「お主今、失礼なことを考えておったの?」


「いや。逆に失礼じゃないこと考えてると思った?」


「くぅ~~。やはり目を閉じたら(みだ)らな格好をした母親が思い浮かぶ呪いを……」


「今なんか言ったか?」


「なにも」


 どうせ神のことだ。大したことは言ってないだろう。

 そういえば俺は聖剣についてほとんど知らない。この際だから聞いておくとするか。


「この聖剣ってどうやってできたんだ?」


「それか? それは3000年前くらいに鍛冶(かじ)の神「ヘーパイストス」が出しておった『夏休みの工作2』を見て作ったのじゃ」


「小学生の宿題かよ……」


(あなど)ってはならぬぞ? なんせ神を材料にして作ったからの」


「はい?」


 なんだって? 神を使っただと?


(なつ)かしい話じゃ。どうせなら最強武器にしようと頑張ったのじゃよ。航海(こうかい)の神「プリン」を捕まえようとしたら予想外の抵抗を見せての。あの激闘(げきとう)は下界の歴史書にも残る――」


「ちょっとまて」


 俺はたまらず(さえぎ)った。

 武勇伝(ぶゆうでん)を聞かせるのが楽しかったのか、どことなく不機嫌(ふきげん)になった神。

 航海の神「プリン」も気になるがそれどころじゃない。


「おいじじぃ。さっき神を材料にしたって言ったよな?」


「そうじゃ。その剣はプリンで出来ている」


「……その言い方はやめてほしいんだが。とにかく、これって神殺しだよな?」


 しばしの沈黙(ちんもく)

 神はそっと肩を組んできて、こう言った。


「便利な言葉があっての。バレなきゃ犯罪じゃないん――」


「ばれたら犯罪なんだよこのバカ」


 俺はそれ以上は言わせまいと、神の後頭部を引っ叩く。

 この神は思った以上にロクでもない。人殺しをした上に神殺しまでしていた。

 俺は聖剣をそっと撫でる。


「理不尽に命を奪われた神様。かわいそうに」


「目の前でそんなことをされるとさすがに良心が痛むんじゃが」


 驚いた。このロクでもない神にも良心があったとは。


「お前ほんとどうしようもないな。神って言い張ってるけど嘘だろ」


「何じゃと⁉ わしは(れっき)とした神じゃ!」


「どうせ悪魔を(つかさ)る神かなんかだろ?」


「悪魔を司るってなんじゃ⁉ わしは自由と停滞(ていたい)を司る神「イオ」なのじゃあああぁぁ」


 子供のように(わめ)き散らす神。

 ……自由と停滞?

 俺は遠い日本での記憶を思い出す。俺には二十六歳になる兄がいた。家で働きもせずに食っちゃ寝していた粗大(そだい)ゴミだ。

 兄はよく、「俺たちには仕事を選ぶ()()がある!」とか「()()()()()()()()みるのも人生なんだぜ(キラッ)」とか、大人としてどうかと思うことを言っていた。

 ……自由と停滞。

 俺ははたと気づく。


「なんだNEE――」


「それ以上言ったら、お前が気に入っているあの娘の顔をお前の母親そっくりにする呪いを――」


「すみませんでしたごめんなさい」


 俺が初めて、心から神に謝った瞬間だった。

 そのあとは犬派か猫派か、ごはん派かパン派か、きのこ派かタケノコ派かで茶番を繰り広げた。


「はあ……はあ……。思い知ったか菌類め。タケノコに非ずんば人に非ずだ」


「うぅ、ひっく……ぐすん。きのこもおいしいのに……。ていうかわし神じゃし人じゃないし」


 それにしても、今回は随分(ずいぶん)長い間こちらの世界にいる。そろそろ現実世界に帰りたいのだが。「じじぃ死ね」と思ってもなかなか起きないのだ。


「なあ。そろそろ帰りたいんだけど。何で俺は起きないわけ?」


 神は(ひげ)をいじりながら言う。


「深い眠りについた場合、ちょっとやそっとじゃ起きないじゃろ。お主は今気絶してるわけじゃし」


「なるほど。……起きるまでここ散歩して待つわ。んじゃっ」


「ちょ勝手に⁉」







 長い廊下はどこまでも続いている。床には真っ赤な絨毯(じゅうたん)が敷かれ、足裏が心地いい。両サイドには無数のドア。

 どこまで歩いても変わらない景色に飽き、適当なドアを開けてみる。


 壁や天井まで埋め尽くされたアニメポスター、棚に並んだ露出度高めの美少女フィギュア、本棚に詰まったライトノベル、等身大の抱き枕。


「うわ~」


 一応オタクをしていた俺が軽く引くぐらいすごい部屋だった。さり気なく鬼っ子青髪モーニングスター妹メイドのラバーストラップをくすねて部屋を出る。


 隣の部屋。

 最初は薄暗くて何があるのか分からなかったが、


「うわ~。うわ~」


 最近自分はMなんじゃないかと考え始めた俺。それでもこれはない。

 三角木馬や無造作に置かれたムチ、何に使うのかよく分からない縄。使いかけのロウソク。


 俺はそっと扉を閉めて見なかったことに――


「やっと見つけたのじゃ。人の家を勝手に歩くでない!」


「………………」


「何じゃ? 人をまるでカノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキでも見るかのような目をして」


「うわ~。うわ~。うわ~」


 できなかった。

 キレて襲い掛かってきた神を返り討ちにしていると、だんだんと意識が覚めてきた。目が閉じていくのに感覚がはっきりしていく不思議な感じ。


「待つのじゃ! 1発。1発でいいから殴らせてくれ。ああ⁉ あああああああああぁぁぁ」


 うるさい神を最後に目が覚める。







 目に入ったのはハルのほっぺ。


「よかった。キョウヤさんやっと起きてくれましたね」


 白く細い指が俺の前髪を優しく撫でる。後頭部には思ったよりもかなり固いが温かな感触が。

 0.000001秒の間に、俺の高スペック脳みそは答えを導き出した。

 膝枕ですねそうですね間違いない!


「大丈夫ですか?」


 ハルが心配してくれている。大して具合は悪くないがここで一芝居(ひとしばい)


「ちょっと頭痛が」


 俺は寝返りをうって、お腹側の方に転がった。ナチュラルにセクハラしようとしていると、


「股に顔を突っ込んでくるとは、キョウヤは大胆だな」


 俺の頭上から理知的で涼しげな声が。バッと顔を向けると、眼鏡の奥の黄色い瞳と目が合った。


 アレ⁉


 本来そこにあるべき顔はなく、


「あの……キョウヤさん。そういうことは……えっと、その……」


 ソワソワしたハルがメイディアーマの背中越しに(のぞ)いてきた。

 俺は何故かメイディアーマに膝枕されていた。


「きゃあああああああぁぁぁぁあああぁあ」


 悲鳴を上げてメイディアーマから離れる。メイディアーマは眼鏡の位置を正しながら、


「可愛らしい声も出すのだな」


 と理解し(がた)いことを言ってきた。


「きゃあああああああぁぁぁぁあああぁあ」


 ショックで錯乱(さくらん)した俺の肩を、ハルが(つか)んで揺する。


「どうしたんですかっ。落ち着いてください!」


「これが落ち着いていられるかああああああぁ。何なのアイツ⁉ 起きる前と後でキャラ違うじゃん!」


「もう。落ち着いてくださいってばっ」


 ハルの手がキュッと締まり、


「いだあ⁉ ちょっ痛い痛い。いやマジでこれはダメぁあ⁉ いだだだだだてかハル力つよ……」


「今女の子言っちゃいけないこと言いましたね⁉ もう怒りました!」


 ぐいぐいとハルの指が肩に食い込む。


「やめっ、それ以上はあああああああああああああっ」


 肩から変な音がしだすまでハルはやめてくれなかった。力が強いと言ったことが相当気に(さわ)ったのか、ハルは今もほっぺを(ふく)らましてそっぽを向いている。どうしたものか。まさか本当にほっぺを膨らまして怒る女の子がいるとは思わなかった。もう少し見守っていたい。


 俺らのやり取りを見ていたメイディアーマは、意味深に(つぶ)いた。


「私は(あきら)めないぞ」


 ほんとうに、俺が気絶しているうちに何があったのだろう。







 ようやく機嫌(きげん)を直してくれたらしいハルが、この状況を説明してくれた。


 俺が試験会場を破壊して気絶した後、一先(ひとま)ず俺は控室に運び込まれた。当直の治癒術師(ちゆじゅつし)()たそうだが特に問題はなく、ハルとメイディアーマが一緒にいることに。硬い地面に寝かせておくのもためらわれ、メイディアーマが膝枕をしたそうな。


 そこまでは俺も理解した。だがどうして俺を(いと)おしそうに()でたりする展開に⁉


 俺はメイディアーマに向けて身構える。

 メイディアーマはスッと立ち上がり、(すそ)(えり)を正した。俺の身長は175センチくらいあるが、それよりも10センチも高い。悔しいが顔も僅差(きんさ)(主観的意見)でアイツの方がいい。

 非の打ちどころのないイケメンがどうしてこんなことに。


『その人はとても尽くすタイプで浮気はしないし……』

『高身長でそなたより年上じゃ……』


 唐突(とうとつ)にそんな言葉が浮かんだ。最近聞いた気がするが、どこで聞いたか思い出せない。ただ……嫌な予感しかしない!

 俺はこっちを見つめるメイディアーマに、己の貞操(ていそう)の危機を感じた。


 何かに目覚めたらしいメイディアーマに臨戦態勢で威嚇(いかく)していると、ハルが横からつついてきた。そっちを向くと、二枚の紙きれをつまんでいる。

 細かい文字が並んだもの。ゼロがたくさん並んだもの。俺は文字が多い方を先に見る。


「4等許可証? よかった。受かってたのか」

「はい。ですけど……」


 ハルは気まずそうに、もう片方の紙を差し出してきた。


「請求書、1、10、100…………2000万。……二〇〇〇万ソフィア⁉ はあ⁉」


 俺はそのふざけた紙をつかみ取り中身を読んでいく。


「破壊した壁と客席の修復及び、慰謝料(いしゃりょう)を請求する、だと?」


 何度目を(こす)ってもゼロの数は変わらない。

 ハルが俺の肩をポンと叩き、聖母のように微笑んだ。


「大丈夫ですよ。私が貸した71ソフィアには利息も期限もありませんから」


「チャラにはしないのね?」


「チャラにはしませんよ」


 俺はハルに微笑み返し、そっと、気絶することにした。




二章完結になります。

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