はじめまして、メイさん。⑤
更新おそくなりました。すみません!
これからもボチボチ投稿していきますので、よろしくお願いします。
グゴオオオオオオオオ。
キング・ペンギンの凄まじい咆哮。ついに俺の試験の始まりだ。対面の柵がゆっくりと上がる。
俺は鞘付き聖剣を正眼に構えた。
首筋を汗が伝う。
さあ、来い!
よちよち歩きでソイツは現れた。白と黒の毛並みで、オレンジ色の愛らしいくちばしとモヒカントサカを持ち、へたくそに歩く40センチ程度のペンギン。
「は?」
『最恐』の異名を持つと聞いてビビっていたが、その名の通りただのペンギンじゃないか。
グゴオオオオオオェェェ。
鳴き声はマジだった。
「え、ちょっ」
キング・ペンギンの鳴き声に合わせ、俺の周りに魔法陣が展開する。赤、青、緑のそれは危険信号を発するかのように輝きだし――
「うそおおおおおおおおおん」
灼熱の光線、氷の長槍、雷のムチが俺に襲いかかった。初めて見た攻撃魔法は、魔法使いのものではなく、かわいらしい見た目をした悪魔的モンスターのものだった……
俺は恥なんてそこらに捨て、転げまわるようにして逃げる。
俺のいたところはジュウジュウと焦げたり、氷漬けになったりと凄まじい攻撃力だ。
あのペンギンを倒さないことには試験は終わらない。だが激しい弾幕の前に俺は逃げるばかりだ。
「くそ。あのくりくりした目が憎たらしいっ」
まだ柵の近くで暇そうにしているキング・ペンギン。
あ⁉ アイツ今鼻ほじりやがった!
短い羽根で器用に鼻をほじって見せるペンギン。
ケッ。
なんと鼻くそをこちらに飛ばす仕草をしてきた。
アイツぶっころしてやる! 魔法なんて知ったことか!
俺は頭にきてペンギンに突っ込んでいく。
普段は見せない超回避。怒りはときに人を覚醒させる。急に動きの変わった俺にペンギンは一瞬怯んだ。
「っしゃおらぁ! リーチ!」
俺は聖剣を持ち上げて構えた。あと二歩で間合いに入る。
ニヤリ……
「んな……………………ぐほっ」
あと一歩の距離。踏み込んだ瞬間に地面が沈んだ。そこにはあらかじめ魔法で作られた落とし穴があった。
怒りはときに、人の注意力も奪う。
「キョウヤさん⁉」
客席からはハルの悲鳴。
俺は何の抵抗もできずに穴に落ちた。尻から落ちたためダメージは少ない。
だが……
穴の上から俺を見下ろすペンギン。堂々とした仁王立ち。人をバカにしたような目。短い羽根を股間に伸ばして、
って、おい待てお前! それはシャレにならな――
ちい~~~~~~~。
天から降り注ぐゴールデンシャワーが俺と聖剣を濡らした。
……コロス。
「行くぞ相棒。あの人を人とも思っていない悪魔を倒す!」
汚れた聖剣を拾い上げ、地上まで大ジャンプ。普段俺の腕を苦しめる聖剣は驚くほど軽かった。それどころか身体も軽い。今だって3メートルを超えるジャンプをした。
これならイケる!
俺は調子に乗って、ハルが聞いたら喜びそうなことを口走っていた。
「お前、あのアホ神とはいえ、神に作られたんだろ? こんなに馬鹿にされていいのかよ。聖剣だろ! 真の力とかがあるなら見せてみろよ!」
はたから見たら無機物に話しかけているわけだが、この時の俺は『通じた』と感じた。
俺は聖剣を鞘から引き抜く。いつもは重くなるくせに、ここぞとばかりに軽くなる聖剣。
柄から切っ先までの闇色。剣身に輝く星々。
客席ではハルのテンションがマックスだ。
「聞きました⁉ キョウヤさん真の力とか言ってましたよ‼」
メイディアーマは考え込むように付け足す。
「聖剣とも言っていたな」
「上位の魔法武器のようだが、聖剣はないだろう。それこそ神の残した聖遺物だ。教会が手放すはずがない」
エレンスは俺の剣が聖剣だとは信じなかった。いろいろな意味で3人は俺に注目する。
やっぱり、俺の聖剣が一番かっこいい。そんなことを考えていると、
「おお、なんだこれ⁉」
剣身に何本もの星が流れている。流星群だ。
グゴオオオオオオオオ。
相変わらずの鳴き声で魔法を撃ってくるキング・ペンギン。とりあえず今は敵に集中だ。あの人間をバカにした態度、許すまじ。
飛来してきた氷の凶器を聖剣で叩き折る。秒間4発の斬撃で全て防いだ。
見える。見えるぞ。俺はコンマ零秒の世界を体験している!
俺を焼き殺そうとする熱線。どこを狙っているかバレバレだ。前転し、跳躍し、次々にペンギンの魔法攻撃をかわしていく。
俺は徐々にペンギンと距離を詰める。
「●ね! 鳥類がぁ!」
大上段からの振り下ろし。
剣身を流れる流星が収束していき、やがて一条の彗星となった。彗星は青い尾を曳き、黒い剣身を青白く輝かせる。表面に銀河のように浮かび上がった複雑な魔法陣。
俺は漠然と悟った。これが聖剣の真の姿だと。
「まずい! 全員私の後ろに下がれ!」
客席ではメイディアーマがハルとエレンスを背に庇い、防御魔法を展開する。
「おらああああああああああああああああぁぁぁ」
俺はありったけの力で聖剣を振った。その瞬間、光の爆発。凄まじい衝撃波が吹き荒れ、ペンギン、地面、客席と次々に破壊していく。
あれ……これやりすぎじゃ……
俺はあまりの衝撃に耐えられずそのまま気絶した。
闘技場の外、バスは休憩に入り、ベンチに腰掛け茶を飲んでいた。今日は不思議な出会いの連続だった。水の魔法一族、ヒュドールの少女、珍しい髪色と格好をした少年。さらに別な街からやってきた有名冒険者。特に後者はビックイベントだ。『千剣』はフレンシア王国屈指の強者。彼に集る冒険者たちを散らすのには苦労した。特別手当は出ないものだろうか。
そんなことを考えながら日光を浴びていると、
「ん? ……地震か?」
突然の地響き。木々にとまってのんびりしていた鳥たちが一斉にはばたく。
地震の時の対応は決まっている。とにかく守衛の詰所に戻らなければ。
「今度は何だ⁉」
閃光弾のような眩しさが辺りを照らした。バスは目を細めながら空を見上げる。
「これはっ………………」
闘技場の一つから天を刺す光が伸びていた。光は意思をもつようにゆっくり形を変え、巨大な鍵をかたどる。世界中の誰もが知るそれは、正義と友愛の神の象徴。
バスは呆然と光の鍵が消えゆくのを見守った。
――この感覚は朝のものと同じ。俺はそっと目を開けた。
白亜の神殿。
間違いない。神の家だ。しかし、いつもの椅子に神はいなかった。
「おーい。じじぃいるかー?」
呼び掛けても返事がない。ただの屍にでもなったか。まあアレでも一応神だし、簡単には死なないだろう。
もう一度呼び掛け、神がいないことを確認する。
物音ひとつしない。
「よし、やるか」
俺は神の宝物を求めて家捜しを始めた。
この部屋には椅子しかない。特に何もなさそうだ。
部屋の左側にはレースカーテンで仕切られた部屋があった。カーテンを開けてみるとそこは寝室だった。思ったより小さいベッド。それ以外は何もない。俺は流れるようにベッドの下を確認する。
「まあさすがに何もな………なんだと⁉」
妹物の薄い本があった。1つ目の宝物をそっと回収し、寝室を後にする。
寝室の反対側には両開きの扉があった。
開けてみると広大な廊下が続いている。
どうせ独り身のくせに贅沢な……
俺がそんなことを考えながら歩いていると、近くの部屋からチャプチャプと水音が。
「ここか」
いくつもあるドアの一つ。ノブに手をかけガチャリと回す。
「「あっ」」
そこには風呂から上がった全裸の神がいた。
「きゃああああああああああああああぁぁぁぁ」
「ちょ、どうしてお主の方が悲鳴をあげるのじゃ⁉ 早く閉めんか!」
俺は悲鳴を上げてその場にうずくまる。
「汚い。あまりにも汚いものが俺の視界に」
「お主一回シメてやろうかの。神に対して失礼じゃろうが」
「くそ。なぜラッキースケベがお前なんだ。望んでねーよ」
「わしは少しドキッとしたがの♡」
俺は無言で神に襲いかかり、一回シメてやった。
泣き喚く神をしり目に俺は質問する。
「なんか分かんないんだけど、俺覚醒したっぽい。なんで?」
「うぅ……汚されてしまったのじゃ……」
未だ泣きベソで女座りをする神。
「おい、もう一回シメてやろうか?」
「はい。すいません」
一瞬で正座になる神。
俺が言うのもなんだが、こいつにはプライドとかないのだろうか。まあいい。
「んで、なんで俺覚醒したんだ? いろいろあってあんまり覚えてないんだけど」
「別にお主が強くなったわけじゃないわい。この貧弱なザコめ」
神は力では俺に勝てないと悟ったのか言葉で反撃してきた。
まあ、その貧弱なザコにお前何回も負けてるんだけどな。
俺は問答無用で殴る蹴るをした。
再び涙目にされた神が言う。
「お主と聖剣の親和性が上がったのじゃよ」
「つまり?」
「より聖剣の力を引き出しやすくなったということじゃ」




