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はじめまして、メイさん。①

久しぶりの投稿になります。

不定期の投稿になりますが引き続きよろしくお願いします。

 翌日、俺は冒険者ギルドにてテーブルに突っ伏していた。


「ダメだ……もう死ぬ……」


 俺はかすれた声でこぼす。

 結局俺は昨日も食べることを忘れ、さらに帰り道に川の水を飲んだら腹を壊した。

 しかも、ハルの前で大泣きしてしまったという大恥。

 美少女の前で男が泣き喚くとかかっこ悪すぎだろ。恥ずかしい!


「あ~だめだこりゃ。終わった。もう死にたい」


「死にたいとか簡単に言っちゃダメです。怒りますよ?」


 頭を上げると、小さなとんがり帽子を頭にのせたハルがいた。真剣に青い瞳を向けてくる。

 げっそりとやつれた俺を見て、ハルは不安げな表情をして言った。


「どうしたんですか? 昨日のクエスト終わりからから様子がおかしいです」


「わるい。もう絶食二日目で、さすがに体がな」


 昨日の大泣きした件については触れないでおく。

 話を聞いたハルは驚いた表情で。


「まだ何も食べてないんですか⁉ 待っててください。今スープと軽い食べ物頼んできますから」


 ハルはそう言ってギルド内にある食堂に料理を頼みに行った。

 あわよくばハルが食べさせてくれないかなーと、淡い期待を胸に目を閉じる。寝不足ではない。慣れない環境に体が限界を迎えたのだ。

 少しだけ休もう。







 ぼーっとする意識の中、俺が立っているのは神殿のような場所だった。ギルドにいたはずなのにと慌てていると、聞いたことのある声が話しかけてきた。よくよく見ればこの神殿も見たことがある。


「なかなか苦労しているようじゃの」


 その声は神だった。地面につきそうな長い白髭に、白と金を基調としたローブ姿。

 俺はこの状況が分からず神に問う。


「どういうことだじじぃ。まさか、俺はあっちで衰弱死でもしたのか?」


「じじぃって……わし神なのにじじぃって……」


「そこはどうでもいい。説明をしろ」


「まったくもう仕方ないのう。特別にじじぃと呼ばせてやるわい」


「だ、か、ら、そっちはどうでもいいんだよじじぃ!」


 猛る俺に神もタジタジだ。


「ひぃっ、こ、これは夢じゃ。お主の深層意識がこちらに繋がったのじゃ。説明したから許してくれぇ」


 まるでおやじ狩りの絵面だな。

 俺は神を鼻で笑いつつ文句を垂れた。


「おい。ゲームつったら最初に金とかいろいろ貰えるだろうが。お前、俺のことサポートするとか言わなかったか? 全然使えねえなあ神サポート」


「そこまで言わなくても……」


 神がしょぼくれてしまう。

 だがそんなの関係ない。俺はこの際できるだけ神にたかってやろうと奮戦する。


「あ? 人の人生一つ奪っておいてこれで終わりですか? この剣一本で許されたと思ってるんですかあ? それともたかが人間一人って思ってるんですかね。とんだ神だな。はっはっはっ」


 俺は無感情の笑みで神に近寄る。

 神は元から白い顔をさらに白くして後退る。だが椅子に座っているのだ。背後は背もたれ。無駄な足掻きよ。


「耳が痛いもうやめてえ! 君を殺した☆ことは謝るしもっと神の恩恵あげるから許してええぇ」


 こいつ神のくせに人間っぽいし、見た目仙人なのにたまに口調合ってないんですけど。てかなぜ殺したの所でウインクした? とりあえず頬を引っ張ってやった。

 神が涙目になったのを確認し、俺は下卑(げび)た笑みを浮かべ神の顔を至近距離から覗く。


「え~? なんかくれるんすか? ほーらさっさとくださいな」


 手をワキワキとさせる。鼻息がかかりそうなほどの至近距離だ。

 神は顔を引きつらせて、汗を垂らしまくりながら慎重に言う。


「で、ではそなたに新しい仲間に出会う運命をやろう」


「俺にはハルがいるのでハルと一緒に暮らせる資金さえもらえればそれでいいです」


「え~とてもきれいな顔をした人なんじゃけどな~」


 なんだって?

 俺はハルとの勝手な妄想を置いておき質問する。


「どういうことだ?」


「その人はとても尽くすタイプで浮気はしないし、料理もうまいぞ。さらに言えば無欲な人じゃから、冒険で稼いだ報酬も蓄えていることじゃろう」


「ほほぅ。それで?」


 俺はその謎の子に興味がわいてきた。

 神はふぅむと(ひげ)を撫でつけて、きっぱりと言う。


「高身長でそなたより年上じゃ」


 と・し・う・え。なんて甘美な響きなんだ。というと、アレか? ライラさん的お姉さん!

 ライラさんみたいな見た目で……なおかつ優しい。厳しい人も好きだが、優しい人も捨てきれない!

 俺は神の提案を受けることにした。その謎のお姉さんと出会える運命をもらったのだ。


「ところで、なんでじじぃがその新しい仲間とやらについて知ってるんだ? もしかして、俺みたいに日本からやってきた転生者とか?」


「それは違うぞ。その人は生まれも育ちもこちらの世界じゃ」


「じゃあなんでそんな詳しいんだよ。会ったことあんの?」


「いいや、ないのぅ」


「じゃあどうして?」


 神だから、と言われたらそれまでだが、この神はそんな有能とは思えない。そこが気になったのだ。


「それなら()()じゃよ」


 神は大儀そうに、懐からそれを取り出した。それはあまりにも見慣れた今は懐かしきハイテク機器。スマートフォンだった。


「これで検索すれば大抵のことは分かるし、グー●ルマップを使えば婦女子の部屋の中まで入れる代物。しかもリアルタイム映像じゃ」


「なんじゃそれ⁉」


 そうか。これが神器か! 他がだめでもそれを持っているだけで全知全能。このじじぃも神だというわけだ。なんなら運命よりもそのスマホが欲しい。


「ちなみにこれを作ったのはお主の国の神じゃぞ。たしか大物主(おおものぬし)とかいう蛇じゃった。これで女子の(かわや)が覗けるとか言っとったな」


「まじかよ」


 少なからず日本に誇りを抱いていた俺からすると、神様何やってんのと言いたくなる。本当は神様も、人のように陽気な性格をしているのかもしれない。現に目の前の神がいい例だ。

 ふと、神が上を向いて呟く。


「ほう。お主、あの娘に呼ばれとるぞ? そろそろ戻るがよい」


「娘? ハルのことか。戻るってどうやるのさ」


 神が当たり前のように言ってきた。


「起きればいいじゃろ。そなたは今寝ながら夢を見ているのじゃから」


「そんなことわかってんだよ。それをどうすればいいのかって話だ」


「ふ~む。現実への強い執着(しゅうちゃく)、起きたいという意志とこの世界への拒絶かの」


 何となくわかった。つまりハルに会いたいって気持ちと、じじぃ嫌いって思うことか。

 俺は呪文のように呟き続ける。


「ハルに会いたい。ハルに会いたい。ハルに会いたい。ハルに会いたい。ハルに会いたい」


「キモいの~。あの娘が聞いたらドン引きすること間違いなしじゃ」


 俺は神を(にら)んで続ける。


「くそじじぃ死ね消えろ。くそじじぃ死ね消えろ。くそじじぃ死ね消えろ。くそじじぃ死ね消えろ。くそじじぃ死ね消えろ。」


「ちょ、露骨すぎじゃろ。仮にも神に死ねとかくそとか。…………………目を閉じるとお主の母親のヌードが思い浮かぶ呪いをかけてやる…………………」


 ん? 今凄まじい悪寒が。まあいいか。

 唱えているうちに意識が鮮明になってきた。異世界に飛んだときのように、視界が眩しい光に覆われていく。そして神殿の風景が遠のいていき――







「あ。やっと起きましたねキョウヤさん。ほら料理が冷めちゃいますよ?」


 目を開けると、木組みの高い天井とハルのほっぺが目に入った。

 間違いなく現実、ギルドの中だ。


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