人気の女子からの告白は、脳内が超展開過多になるので心臓と脳と精神と体力に悪い。
「学園のマドンナ」や「学園のアイドル」、「ミスなんとか」みたいな人から告白されたら、というお話です。
これを読んで脳内シミュレーションして、しっかり備えましょう。
(色々調子乗りました!ごめんなさいっ!!)
よろしくお願いします!!m(_ _)m
「私と付き合って下さい!」
一夜幸聖の初めて受ける告白である。
告白してくれたのは、同級生の戸塚雅美、学園内でも人気がある女生徒だ。
整った顔立ちと、サラサラの黒のロングヘアは、「女性の美しさの体現したもの」と表現されるものだった。そして、人当たりの良さも人気の要因で、言動からは可愛らしさも溢れるキャラだ。そのギャップによって、学園内の男子の的となっている。
そして、どういう訳か、俺は今現在放課後の教室で告白を受けている。
「あ、あの、ちょっと考えさせて下さい!」
「……やだ……」
「えっ?」
えぇー……ちょっと待ってよー、ここですぐにオッケーしたら、まだ教室に残ってる男子生徒に殺されかねないし、断っても殺されますよね?あ!これってドッキリだったりします?
よくよく見ると、いつも戸塚さんと一緒にいる女子たちが、怪しい挙動をしている…。
よし、ドッキリの体で、構えよう。落ち着け…。
「あの…って、え?」
正面に向き直ると、今にも戸塚さんが泣き出しそうな顔をしている。
その瞬間に、俺の中でドッキリの可能性が限りなく0に近付く。
泣き出しそう、ってことは、恐らく俺の「考えさせて下さい!」が原因だろう。「考える」ということは断られる可能性も含んでいるのだ。それならば、ここで今すぐ振ってもらいたい、そういうことだろう。
そして何より、男子の人を殺すかのような目、もしドッキリと知っていたなら、そんな目はしないだろう。っていうか、男子ってほんと理不尽!!
「ごめん、目にゴミが入って……」
人差し指で涙をすくう。
えぇぇぇー!どっち?本当に目にゴミが入ったのか!?だとしたら、俺の「考えさせて下さい」発言によるリアクションではないということになる。そして、なぜこの場で返事が欲しいのかの理由付けがなくなってしまう!
確認せねばなるまい…!
「だ、大丈夫?」
「へ?あぁ、まだ時間あるから…」
あるからなんですかっ!?そんな、時間めい一杯使って、ゆっくり目に入ったゴミを取るんですか!?「時間があるから」という謎ワード…これは一体何!?これは単純に聞き返した方がいいよな…だって、噛み合ってないし…。
んんんっ!!待て待て待て!まだ、「目にゴミが入った」というのが本当か嘘かわかってないじゃないか!もし、さっきのが「振るなら振って下さい!」的な感じの涙だとしたら、「あの、なんで時間があると大丈夫なんですか?」なんて聞けるわけねえぇぇぇ!!
かといって、「その涙は嘘泣きですか?」とかも聞けるわけないし…。
どどど、どうしたらいいんだ…。
「あの、私の心配は…良いから…」
いやいやいや!そんなこと言うと、俺殺される!「あいつ、戸塚様に気遣われてる、ムカつく」っていうのと「あいつ、戸塚様の気遣いを無下にしようとしてる、ムカつく」っていう理由で、周りの男子に殺される!!申し訳ないけど、自分の命を第1に考えてるんです!むしろ、心配してください!(血涙)
っていうか、そもそも何に対しての心配!?!?目にゴミが入ったこと?それとも、「降られる準備はできてるから」っていうこと?なんか、進んでないのにどんどん先の迷路だけ拡張されていくんだけど!?
そろそろ黙ってる時間長くなってきたし、何か言わねば…。しかし、何を言えば…はっ!そうだ!そもそもドッキリか、そうじゃないかがわからなければ良いんじゃないか!つまり、どこかで撮影を敢行しているはずだ。しかし探す余裕など無い。
ん!?待てよ?俺は、泣いた理由ばかり考えていたが、そもそもドッキリなら泣くこと自体不自然なんじゃないか?そして、目にゴミが入ってもそう簡単に涙は溢れたりしない、と思う…。ゴミが目に入った、というのはフェイクか!となると、ドッキリという可能性もかなり排除できる。なぜなら、ドッキリという企画物なら、あのタイミングで泣くのはかなり不自然だからだ!演技で涙を流せる人もいるのだろうが、それには十中八九泣く雰囲気が足りてない!
よし!間違いない!
しかし、この状況…どうしたものかなぁ…。
やばい、俺の黙っている時間が長くなってる…。また、戸塚さんの目に涙が…。
くそおぉぉぉ〜!!
あぁ!もう!こうなったらヤケクソだ!どうにでもなれ!
「戸塚さん!」
「はいっ!」
「俺のこと、信じられますか?」
「えっと、それは、どういう…」
「先に答えを求めたのは戸塚さんですが、その前に教えて下さい」
一度うつむいた後、意を決したように顔を上げる。
「うん、信じる。一夜くんのこと、信じるよ」
その瞬間、俺は戸塚さんの手を取り、教室を飛び出した。このまま二人になれるところまで行くつもりだが、何せ右手に掴んだその人は戸塚さんだ。廊下を駆け抜ける際に目に留まらないわけが無い。
しかし幸いなことに、答えを渋ったおかげで、ギャラリーは教室に固まっていて、そこを突発したためほとんど人がいない。いれば必ず視線をもらってしまうのだが…。
一瞬後ろを見ると、各学年の男子達が鬼の形相で追いかけてくる。
ここで俺は一か八かの賭けに出た。
一瞬視線を切れる階段に飛び込み、一つ上の屋上を目指した。うちの学校では屋上は出入り禁止で常に鍵がかかっている。よって、行き止まりとなり追って来られれば、詰み。俺の人生の終わりだ。しかし、そこに付け入る隙が生まれる。「上に行けば行き止まりだから、下に行っただろう」と思いこんでしまうのだ。
つまり、この屋上出入り口前で決着だ!
答えはもう、決まっている。
「俺も好きです。戸塚さん」
そう言うと、戸塚さんは手で口を抑え、無言で静かにすぅっと一筋の涙が頬を伝い流れていく。
無理をして走ったせいもあって、疲れて言葉が出ないのだろう。
少し息を整え、戸塚さんが口を開く。
「…ありがとう……大好き……」
「俺も」
ゆっくりと戸塚さんを抱きしめる。それに応じるように、戸塚さんも俺の背中に手を回す。
次に、唇を重ね、お互いの未来を誓う。
思えば、たった10分程の出来事なのに、本当の気持ちに気づくまでにかなり遠回りをしてしまった。
振られると思い泣いてしまったこと。時間があると言ったのは、俺の「大丈夫?」の意味の解釈が「少し落ち着くまで待つ?」という解釈だったこと。「私の心配は良い」と言ったのも、俺が振ることをためらっている事への気遣いだった。
彼女は、学園内の人気者でアイドル的な存在だ。俺だって、ファンじゃない訳でない。
そして、今日から俺は、彼女の彼氏だ。
中の人は、休み時間に廊下で、人がそれなりにいるにも関わらず、告白をした…友人を知っています。青春っていいですよね。(遠い目)