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それまで!

作者: 滝乃睦月

 暑い。意識がぐらぐらする。そらそうだよね、夏だし。お天気お姉さんが今日の最高気温は三十八度って言ってたっけ。風邪ひいた時の体温みたいじゃん。狭い剣道場に三十八人。あれ? 部員って今何人だっけ? まぁいいや。お腹すいたなー。宮本先輩どこだろ? あ、ヤバイ。手ぬぐい落ちてきた。前見えない。

「メェーン!」

 高校入ってから初めての夏。友だちに誘われて中学から始めた剣道は本当は嫌い。なのにずるずると高校でも剣道部に入ったのははっきり言って好きな先輩がいるからってだけ。夏は暑いし冬は寒いし防具は重いし、洗えないから匂いだって気になるし。先輩に、こいつ臭いなって思われたら死ねる自信がある。まぁキレイに一本決まった時のあの感じは、けっこう好き。顧問がほとんど顔出さないから自由ってところもいいかも。

 だけどやっぱり、女子高生が毎日竹刀を振り回して叩き叩かれ筋トレ三昧ってのはいただけないよなと思うわけですよ。部活の後の間食のおかげで、徐々にビルドアップされていく自分の体を見たお母さんに「もう少しで剣道部じゃなくておで部ね」なんて笑われるし。大丈夫、まだ、大丈夫。宮本先輩がサッカー部だったら、あたしはマネージャーとしてそばにいられたのにとか休憩中の先輩にスポーツドリンクとタオルを差し入れたら「お前がそばにいてくれればいいよ」なんて言われたらどうしようとかそんな事ばかり考えてたらあっと言う間に夏休み。

 試合形式の稽古の後、外した小手の上に面を置いて休んでいた。道場の正面に掛けられた時計を見たら十一時三十分。やった、後少しで解放される。汗で濡れたキャミソールが張り付いて気持ち悪い。

「佐々木、大丈夫? 具合悪い?」

「はいっ?」

 油断していた。声の主は宮本先輩だった。あたしの真横にちょこんとしゃがんで心配そうな顔をしてこっちを見ている。

「だっ、大丈夫です!」

目の前に先輩の顔。顔ちっさ。近い、近いんすよ先輩。あ、先輩ベリー系の甘い制汗スプレーの匂いする。やばい、いい匂いする。このまま近くに・・・・・・いやいやそんな事よりもあたし臭くない? 大丈夫か? 練習前に制汗スプレー使ったからいけるかな。心臓の音が大きくなって、どんどん自分の顔が熱くなっていくのがわかる。恥ずかしくて少し横にずりずり動く。

「ん? ごめん俺汗くさいか?」

「そんな事ないです! 先輩いい匂いします!」

 食い気味に返してしまってさらに恥ずかしくなる。

「大丈夫です・・・・・・」と言ってまた少し横にずりずり動く。

「佐々木、ちょっとガマンしろよ」と言って先輩はあたしの頭とおでこに手を置いた。

「熱中症かもしれないから防具外して休んでていいよ。今濡れタオル持ってくるから」と言って颯爽と走って行った。

 やばい。にやける。惚れてまうやろーってもう惚れてんだよバカヤロー。とはいえ誰にでも優しい宮本先輩だからあたしだけ特別って事はないんだろうな。彼女いるのかな? 今度聞いてみようかな。でも意識しちゃうかな? もしかしてだけどあたしの事好きなのかな? あー、にやける!

 一人もぞもぞしていると宮本先輩が濡れタオルを持って戻ってきた。

「これ首に巻いて休んでろ。ひどくなったら言えよ」と言ってあたしの頭をポンっと叩いた。

 あたしは心の中で「一本」と呟いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 妄想気味の主人公がコミカルに描かれているところが面白かったです。スポーツものの爽やかさも感じました。 [一言] ありがとうございます。
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