幼馴染の豹変
家具職人ジョグの幼馴染で経理士をしていたムラールが政治家に転身した。
彼は政治家になった途端、自己保身に走り、貴族ファーストの行動を取り始める。
そのことを嘆くジョグ達……
その日、シルバーハイブ亭では常連客の一人であるジョグ達の一団がくだを巻いていた。
話題はもっぱら、ジョグの幼馴染で経理士をやっていたムラールの事だ。
「あいつは変わっちまったよ。
職人達の生活を守るため、政治家に転身する。
その言葉を信じてみんなで応援したのに、
政治家になったらどうだ、貴族にとり入ることばかりに夢中になって
俺達の生活は苦しくなるばかりだ」
仲間たちがなだめたり、一緒になって愚痴ったりしていた。
「トゥラム、おかわり! 同じのもう一杯!!」
ラム酒をジョッキで差し出す。
「エルフはいいよな。そういうのとは無縁だもんな」
それを受け取りながらジョグが言った。
「いやいや、ダークエルフとかいるだろ。あいつらの悪辣さ聞いたことないの」
「実際、あったこと無いからな」
「会ったことがあったら、今、ここには居ないよね君。あいつら人間大嫌いだからね」
「ところでトゥラムは、今の話聞いてどう思った」
「そう、それ。エルフの見解ってのを聞いてみたいな」
「そうだな・・・
あんたら、窓の外には何が見える?」
「馬車が路地を曲がるとこ」
「ムラールの野郎に虐げられてる市井の人々が見える!」
少々面食らいながらも男たちが口々に答えた。
「それじゃあ、今度はあそこにある鏡の中には何が見える」
「もちろん自分の姿だろ」
「ところでジョグ。家具職人のあんたなら、鏡の作り方は知ってるよな」
「もちろん。ガラスに薄く伸ばした銀箔を貼り付けるのさ」
「なるほど。
窓も鏡も同じガラスで出来ているのに、鏡の方は少しハクがついただけで、もう自分の事しか見えなくなってしまう……
つまりは、そういうことなんじゃないのかな」
男たちは妙に納得したような顔をした。