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取り戻せないスターダスト - 1

誰もいなくなった部屋で、時間だけが淡々と流れていく。

とうに部屋を出て行った者達も遂に見送りに来なかった者達も、誰も彼も揃って陰鬱な辛気臭い顔をしていて、だというのに去っていくその足を一瞬でも止めて別れの言葉を告げた者は、ただの一人もいなかった。最初から最後まで落ち着いて自らの席を離れずにいた男と、その傍らに影のように立つ男に、彼らが目さえ合わせようとしなかったのは、そうする事でなけなしの罪悪感から逃れたかったのかもしれない。

あるいは単純に、下手に関わって巻き込まれる危険を避けたかったか。

あるいはもっと単純に、自他共に馬鹿と認める男など意識の端にも引っ掛かっていなかったのか。

どれでもいい。お前達がそうしたいのならそうしろと、俯いて立ち尽くしていた男は思っていた。

ずっと噛んでいた唇は、色を失い白くなってしまっている。

これで有象無象はいなくなった。その事に、奇妙な落ち着きさえ感じていた。

こうなってしまう前に何も行動しなかった者達が、たとえ無駄と分かっていても何もしてくれなかった者達が、今更ここに留まって中途半端な慰めの言葉を呟いたとして、一体それをどんな顔をして聞けばいいというのだ。


「んじゃあ、そろそろ行くよ」

「先輩っ!」


気安く口など開けない雰囲気を、いつものように容易く打ち破ってみせる呑気な声と、それに被さる悲痛な叫び。席を立ち、散歩でもするように気楽に歩いて行こうとする男を、無理にでも引き止める事は彼には出来なかった。

そう、腕を掴もうと前に立ちはだかろうと、たかが一人の抵抗などとは関係なしに時間は流れていく。時は個を顧みてくれない。誰も、消えようとしている一人の男を顧みない。本人でさえも。


「先輩が……先輩が何をしたっていうんです……!」


悲嘆よりも憎悪と無念に満ちた声は、男の表情を幾らか悲しげに歪ませる。

しかしその変化でさえ、己の悲劇的な運命へ向けられたものではなかった。己の消失が、一人の心に致命的な杭を打ち込みかねない事を憂慮し、また先を案じてのものであった。

男の表情はすぐに見慣れた微笑へと戻り、頑張りすぎたからかなあ、とのんびり呟く。

どうか怒ってくれと、彼は心中で懇願した。世界から消える間際まで口汚く呪詛を吐き散らし続けてくれたなら、自分はその怒りを受け継ぐ事が出来る。だから頼むから、そんなにも晴れやかに笑わないでくれ、と。


「なあ」


彼の願いも虚しく、聞こえてくるのは常春の陽気を纏った声。


「いつか、お前が……なったら……」


やめてくれ。

彼は俯いたまま、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。

俺が唯一聞きたいのは、感謝の言葉でも別れの挨拶でも遺言でもなく、あなたの心残りだというのに。


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