駆け抜けるビクトリーロード - 14
それから、暫くして。
目覚めたウィルヘルムは、控えた部下達によって、西園寺と真神が帰っていった事を知らされる。
報告を受けた彼は、最上の布と綿が敷き詰められ、鳥の巣のように丸く作られた寝台の上で、呆と宙を見ていた。
さて、そう言われても西園寺とは、真神とは一体誰だったか。
「う、うむ――」
とりあえず体を起こそうとして、彼は呻いた。
部下達の前で無様な姿をいつまでも晒すのは耐え難いが、どうにも調子が最悪だ。痛む頭と揺れる視界。ぐらぐらと視線が定まらないのは、まるで首でも締められたかのようである。
首。
その瞬間、彼は全てを思い出していた。
頭痛も忘れて跳ね起きる。勢いで掛け布が派手に飛ぶ。被さってきた一枚を叫びながら蹴り飛ばし、奴らは、いやそれより今は何時だ、魂はどうなったと、白目を剥きながら続けざまに喚いた。
「じ、時刻は、23時……分、であります。
……その、あの二人による当事務所内への侵入と、ウィルヘルム様への救護とが合わさり混乱が起こりまして。ウィルヘルム様の回復を待ち待機すべきか、指示を待たず出るべきかで意見が別れ……しかしながら、待機せよと命令があったという噂が途中から飛び交い始め、かと思えば逆の命令を受けたという者も現れ……」
「どうでもいいわ馬鹿共めがその要領を得ない不快な口を閉じろ!!
数は!! 我が事務所が獲得した魂の数はどうなっておる!! 不足分は巻き返したのか!!」
「は、ははあっ!!
22時直後にようやく会議が決着し、新人一同も含めて外を懸命に見て回っておりますが、その」
続きを口にするのが恐ろしくて堪らないとばかりに、低頭した部下が唾を飲み込んだ。その僅か数秒の沈黙が、彼の胸の内で膨れ上がっていた不安を、一気に全身を凍り付かせる程の恐怖に変える。
「現在のところ、他に狩るべき魂は残っておりません――」
事務所が辿る運命にというより、この後に吹き荒れる嵐を思って沈痛に項垂れる部下達。
彼はあんぐりと嘴を開いて固まった後、ぴぃ、と笛を鳴らすような音を喉の奥から立てて、寝台から転げ落ちた。
「号外ー、号外ー」
「号外だよー、死神通信何十年ぶりだったかの号外だよー、読まないと損だよー」
「何百年ぶりかも?」
「そもそも号外発行するような媒体でしたっけ?」
一瞬、顔を突き合わせたカラス達の動きが止まる。
が。
「とにかく号外だよー」
「そうだよー」
気を取り直したように、再び活気付いた声がかあかあと折り重なって響き渡る。制作に関わっている側としては、手抜きとはいえ自分達の作った冊子がまともに読まれていない現状に対して、一応はそれなりに思う事があったのかもしれない。
賑わっているとは言い難かったが、それでも時々何名かが呼び声に招き寄せられては、薄っぺらい臨時号を受け取っていった。




