駆け抜けるビクトリーロード - 7
冥府に存在する多数の組織の中でも最前列に立っているのが、各地に設置され、直接人間の魂を狩り集める死神達の事務所である。その事務所複数が集まってひとつの領地を構成し、そして複数の領地をまとめて新しくひとつの枠と数え……と、段階的に囲いが出来ており、そしてそれぞれの区切りごとに、またそこを管理する組織が作られている。
ここも、そんな複数領地を束ねる組織のひとつ。
各領地からの報告や要望は一旦ここに集められ、そこから更に上へと送られる。事務所達を束ねる大事務所とでも呼ぶべき、要は仕事という観点からは存在意義の無い中継地点のひとつだった。
「今日はこんな所ですかね。
そちらはどうですか、何か残っている事は」
「こちらも終わりました。ところで、先々週の事故で一家全員引っ張ってしまった件の報告書がやっと届いていましたが」
「ああ、一人は助かる筈だったっていう。
一応上に送っておこう。こちらでやる事は特にないと思う」
「わかりました」
件の報告書に、淡々と封をする。あとは配達役に任せれば良い。
冥府では、規定の仕事を規定通りにこなす事が主流である。時々規定から外れた案件は、こうして規定の範囲に押し込めてしまえばいい。それで問題はなくなる。毎日のように、朝から晩まで人間は死んでいるのだ。流れ作業になって当たり前であり、人と死神の歴史の長さを考えたら、いい加減流れ作業に出来ていなければおかしい。
事故、疫病、災害、戦争などで突発的に死者が増えたとしても、それは同じ事。何人死ぬ予定です、死にましたで済む作業に、乱れなど余程の事がなければ生じようがないのである。あえて生じる状況をというなら、単純な死者の数以外の要素が絡んでくる場合だろう。
「明日の査定ですけど、だいたいは終わってから確認するだけで良さそうですよね?」
「それでいいよ。どの領地のどこが一番勝ちになるか、ほとんど分かってるか知らされてるかだからな」
「せめて査定日終了まで待ったらどうでしょうね、さすがにフライングが過ぎるんじゃ」
「先に、今回上にあがってくる連中用の席を空けておけって事じゃないか。デキる男として。まあ、そういう連中はどうせここも駆け足さ」
――とはいえ、やはりどこでも口頭で簡単な確認をする程度で済ませていた。
年に一度の査定だろうと、あくまで直接動くのは各地の事務所であり、上が行うのは、最終的に出た数の集計を行い結果をまとめるだけ。しかも事前に申し合わせて勝敗を決めてあるか、話し合う必要すらなく勝負が決しているかで、本気で競い合おうとしている事務所などごくごく稀だった。
となれば忙しくなるとはいってもあくまで普段と比較してに過ぎず、大きな波など生まれない。せいぜいその日の休憩時間が短くなるか雑談が減るかといった、ささやかな変化である。
終われば、再び元通り。規定と慣例に身を任せた、事なかれ主義なお役所的流れ作業の日々に戻る。
「あれ」
「どうしました?」
「事務所からの申請書、こんな所に埋もれてた」
「ええ、まずいですよそれ。でかい所じゃないでしょうね」
「日付は……良かった、まだちょっと前だ。ラックがひとつ壊れたから届けて欲しい、だとさ。番号はSN88の……悪いけどどこなのか調べて、後回しにできそうならそうしといて」
「わかりました」
言われた側は言われたままに、机の下から引っ張り出した厚いファイルを繰り始めた。
査定の件はこれきり話題にのぼらず、発掘された申請書に「明日」のラベルを貼って本日の業務は終了する。それはその日どこででも見られたような光景であり、つまりは、査定などその程度の扱いだったのだ。




