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取り戻せないスターダスト - 3

目の前に注がれた一杯に、彼の心と体が悲鳴をあげた。

これ以上は無理だという判断を下す理性。その根拠となる、力の入らない手足、ぐらぐらと揺れる頭。既に焦点が定まらなくなりつつある目には、並々と湛えられた酒が恐怖の具現化としてしか映らない。

作り声ではなく、自然と助けを乞う。


「もう許してください……本当にもう、ダメです。ダメなんです……」

「なぁんだ、ここでギブアップかい?」

「許容量には差異があります。これを飲んだら身動きが取れなくなりますよ、絶対に」

「それでも急性アルコール中毒にならない点だけは強みだな、人間と違って」


それならいっそ酔い自体存在しなければいいのにと、つくづく忌々しい思いをコップ酒を睨む目に込める。

冥府の酒は、肉体を持たぬ者の魂を酩酊させる。その理不尽さと不可解さ。

否、あるいは冥府の住民にもまた、地上の生物のそれとは異なる肉体が実は存在しているのかもしれない。

霊体、エーテル、マナ、それらに該当する何か。

だが実態は自分のようなまだまだ下っ端の存在には知りようがなく、知ったとて何が変わる訳でもなさそうだった。酒を飲めば酔える。酔いに強く楽しめる者もいれば、自分のように弱くて楽しめない者もいる。それで充分ではないか、今は。

こんな時でも、堅物な性格らしく固く結んであった襟元を彼は緩める。ほとんど効果がない事を知りつつ、開いた喉をぱたぱたと掌で扇がずにはいられない。


「ああ、きつい……」

「お前は相変わらず弱いな、酒に」

「そんな事を言われても、こればかりは直せません。それに、こうも引っ張り回される日が続くと……」

「どこもそういう時期だからなあ。まあ、もう少しすれば落ち着くさ」

「早くそうなってくれるよう願います」

「はははは、切なる願いってやつだな」


隣に座る男は笑い、手付かずのコップ酒を代わりに飲み干すと、水を注文してくれた。やたらと愛想のいい禿頭の店主が、はいよ、と無駄に勢いのある返事と共に、彼の前にそれを置いてくれる。

有り難く口をつけた時、隣で何やらごそごそという音がする。

見れば男が椅子に座ったまま上半身を屈めていて、何をしているのか、まさか酔ったのかと訝しむ間もなく、再び上体を起こすと、片手に握っていた大きな瓶をカウンターに乗せた。瓶は白色の和紙で包まれていて、大きさとうっすら透けたラベルの文字から、おそらく酒瓶だろうと分かる。普段見ない大きな鞄をぶら下げていると思ったら、中身はこれだったのかと驚いた。


「確か持ち込みは禁止ですよ、ここは」

「生真面目だねお前は。大丈夫、飲まないから。これは見せびらかそうと思って持ってきた」

「……先輩は結構、そういう所がありますよね」


仕事では頼りになりすぎるくらい頼れるというのに、時折こうして子供っぽい面を見せて悪さをする。だが全体で見れば、せいぜい呆れ声で一言咎めてみせる程度の些細な困った一面なのだ。日々その背中を追いかけていると、自分もいつかはこうなれるのだろうか、いや到底なれはしないだろうという、羨望とも諦めともつかない感情に足元から浸かっていく感覚に囚われる。

まあ、見習わなくてもいい所もあるだろうが。

さすがに少し咎めるような顔になった店主を男は軽く手を振ってかわし、瓶の首を縛る紐を解いていく。はらりと和紙が広がるのに幾らか遅れて、驚愕する声が小波のように店内に広がっていった。


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