その7: ゆでタコ
7.ゆでタコ
いつの間にか日は暮れて西の空がオレンジ色に染まっていた。
私は小さくうずくまったまま、また眠っていたのか次に顔を上げた時には体が痛くなっていた。
「あ・・・楽になってる。」
頭痛はほとんどおさまっていた。
体を伸ばすと勢いよく立ち上がった。
「彼・・・帰ったのかな。」
あの後うつむいてしまった私に ごめん と何度も謝っていたけれどほとんど覚えていない。きっと寝てしまったんだろうけど。
「反省しないとな。」
今度きちんと謝ろう。
あんなムカクツ奴でもいろいろ迷惑かけたわけだし。
とりあえず、昨日のドレスのままの私は着替えることにした。
ホックをはずして後ろ紐をほどいていく。
ストンッとドレスが落ちる。と同時に後ろでドアの開く音がした。
「起きたかぁ〜??・・・・???!!!!ごめんっ!!」
バタンッと激しく閉まるドア。
そう、まだ彼はいたのです。
そしてまさに私がドレスを脱いだ瞬間ドアが開き、目撃されてしまったのです。
「なっ・・・なっ・・・なんでいるのよぉ〜!!」
私はドアに向かって思いっきりドレスを投げつけていた。
前言撤回!レディの部屋をノックも無しに入るなんて信じらんない。
着替えが終わり、彼にもういいよ。と告げるとすまなそうに入ってきた。
「ホントごめん。まさか着替えてるとは思わなくって。」
彼は下を向いたまま謝ってきた。
「なんでまだいるの?」
私はそんなことより。と話を変えた。
「あんな落ち込んだ顔して置いて帰れないよ。それに・・・」
「それに何?」
「俺ん家の鍵なくしちゃって。多分ベットのどこかにあるんだろうけどさ。」
そういうとベットの布団をめくった。
さっきまで私が座っていた左後ろあたりに小さな鍵が落ちていた。
「あった。」
彼は満足そうに微笑んだ。
そして、彼は鍵から私に目を移すと、言いにくそうに口を開いた。
「あのさ。俺基本的に隠し事とかできないタイプなんだ。だから正直に言うけどさ、実はずっと思ってたことがあるんだけど。」
そう言うと、私をじっと見つめている。
「なに?」
私は少しドキドキしながら聞き返した。
(なんなの?なんで見つめてるの?もしかして告白?!)
そんなこと考えてると、彼は突然立ち上がってクルッと後ろを向くと
「服!!よく見てみ。後ろ前反対だよ!
出てるからちゃんと直しな!」
そう言うと早足に部屋から出て行った。
え・・・・?
あっけにとられていたけど服を見てみる。
ホントだ。さっきあわてて着替えたせいだ。
私はなんだかもう恥ずかしいを通り越して、おかしくなってしまった。
昨日あったばかりの人に醜態をさらしてばっかりだ。
しかも、そんな姿見せてばっかりなのに告白なんてあるはずないじゃん。
1人で苦笑しながら服を直すと彼に声をかけた。
「ありがとう。直したからもういいよ。」
ドアを開けて彼が入ってきた。
でも、大きな目をさらに大きく、落ちてしまうんじゃないかと思うほどに見開いてドアを開けたまま固まっている。
「どうしたの?」
不思議に思って歩み寄ると、彼を見上げて(私小さいからね。)言った。
「俺、隠し事とか、腹ん中に溜め込んどくの苦手だし、鼻毛でてるよ。とか、たとえ女性でも思ったことは言わないと気がすまないから言うんだけど。」
「やだっ!私鼻毛出てるの?」
思わず両手で顔を覆った。
きっとゆでタコみたいに真っ赤だ。
すると、彼は私の両手をつかんで、むりやり引き剥がすと
「違う違う。そうじゃなくて、例え話だよ。でもさ。」
私の真っ赤な顔をじっと見つめる。
「さっきみたいに笑ってよ。笑った顔初めて見た。昨日から怒ってるか、悲しんでる顔しかみてないし。すごく、すごくかわいいよ。俺すごいドキドキした。なんでだろう。もう1回笑ってみせて?サラ。」
顔が近い。見つめてる。
私はそれだけで顔がこれ以上ないくらいに火照っていた。
顔を隠したいけど、腕をつかまれているからできない。
何でこんなこと恥ずかしげもなくいえるんだろう。
なんで昨日会ったばっかりの私の名前呼び捨てにするんだろう。
ナンデこんなにドキドキしてるんだろう。
・・・グウゥゥ〜。
沈黙を破ったのは私のお腹だった。
「だぁ〜はっぁ〜。くっくっく。」
彼と私はお腹よじれるくらいに笑い合った。
お腹もなるよ。朝から何にも食べてないんだから。
「ごめん。お腹すいちゃって。昨日のお礼になんかおごるから。食べに行こう?」
私はこのお腹をとりあえず満たすために近所の飲食店へ出かけることにした。
後ろからついてくる彼は、たまに吹き出している。
いまだに、グウゥとなるお腹を押さえては耳が赤くなっているらしい。
足早に斜め向かいの洋食屋に入ると、ソースのいい匂いがした。
「こんばんは。」