その10:始まり
10.始まり
私たちは陽子たちが帰ってくるまでの1週間をほとんど一緒にすごした。
もちろん、学校、バイトはきちんと行ったしトモも仕事には毎日行った。
朝は必ず連絡をとり、休憩時間にはメールを、一日の最後には必ず私たちは一緒にいた。
相変わらず私をバカにする彼を、私は懇親の思いを込めて反撃し、そしてキスをした。
あの日、結婚式の日。
トモは私を天使だと思った。外を見る私を綺麗だと思った。そして惚れたと悟った。
と私に話してくれた。
私は、トモをただの巨人だと思った。怪しいやつだと思った。むかつくと思った。そして好きになった。
とトモに教えた。
「なんだよそれ。」
呆れ顔で私の頭をぽんぽんと叩くとゴロンっと床にねっころっがった。
「普通、かっこいいとか、運命感じた。とか言ってくれるんじゃないのかよ。なんだよ。」
そう言うと、すねたように丸くなって泣きまねを始めた。
「だって、追いかけてくるし、人が気にしてることをズケズケ言うし、最低な奴だと思ったんだもん。」
私は悪びれる様子も見せずに、正直に話していた。
「でもね。それが運命なんじゃないかと思う。最初から、すっごくかっこよくて紳士的だったらそれ以上のこと求めても期待できる結果が得られるわけじゃないじゃない?でも、最初が最低だったらこれから素敵なとこ見つけていけるし。ドキドキだってたくさんできるじゃない?
あぁ、こんな面ももってるんだなって。だから私にはこの出会い方が運命なんじゃないかって思ってる。」
そう言うと、そっとおでこにキスをした。
トモはそのまま私の腕をグッと引き寄せると耳元で囁いた。
「俺、さらのそういうとこ好きだ。全然飾ってないし、素直だし。子供っぽいのに大人だし、俺、さらのこと全部ほしくてたまんないよ。」
そう言うと今度は深い、長いキスを私にくれた。
「ねぇ、」
しばらく身体を預けた後、ふいにトモが言った。
「明日空港まで迎えに行くんでしょ?一緒にいかない?」
そう、明日は陽子達が新婚旅行から帰ってくる日。
私は学校もバイトも休みだから出発の見送りが出来なかった分、出迎えはなにがなんでも行くことにしている。
もちろん、陽子達にはナイショで。
「でもトモは仕事でしょ?」
胸がドキドキして、うまく力が入らない身体で私はなんとかトモの腕から顔を上げて聞いた。
「それがさ、先輩、帰国そうそう、仕事がまってんだよね。で、部長から迎えに行けって言われててさ。ちょうど昼だから、飯も食ってこいって。しかも明日は会社でないでそのまま空港行っていいって。なんだかんだ言って、部長も案外優しい人なんだよ。」
そういうと私の返事を待たずにまた長いキスが始まった。
「だからさ。さら。俺のもんになってよ。
俺、さらのこと大事にする。だからさ今日はずっと一緒にいていい?離したくないんだ。離せないんだ。」
私はうれしさと恥ずかしさで俯くと、「私はものじゃないもん。」
と意地悪を言ってしまった。
「あたりまえだろ。でも俺の気持ちだから。全部知りたいんだ。」
私は涙が溢れて、ますます顔を上げずらくなってしまった。やっと搾り出した言葉が
「私も全部知りたい。」
心から思った言葉だった。
そして、私たちはたくさんの時間を共有した。
お互いの全てをさらけ出すように、ときには笑いあいながらときには切なく甘い時間をすごした。
−ピンポーン−
玄関のチャイムがなった。
こんな時間に誰?と思ったけど、今私はトモの腕の中。
しばらくはまだ、この幸せをかみしめていたい。
(無視しよう。)
そう思って私はまた布団にもぐった。
−ピンポンピンポン ピンポーン−
激しくなるチャイムに今度はトモが気づいた。
「誰?こんなにチャイムならして、いたずらじゃん?俺で出やるよ。」
そう言ってトモは下だけ身に着けるとパンツ一丁で玄関に出て行った。
私はふと携帯を見た。まだ1時。…13時??アレ?13時ってことは・・・やばいっっ!!!
そう思ったときトモが血相を変えて走ってきた。
「今何時?」
「昼の1時だよ。」
私は大急ぎで下着を身に着けながら叫んだ。
「完全に到着時間すぎてる。携帯連絡してみるから。」
そう言うと私は携帯から陽子の番号を探し出す。
すると、トモが私の手を握って、
「もう、遅いよ。」
と私から携帯を取り上げるとスッと私の視界から横にずれた。
すると、私の視界には部屋のドアの前に口をアングリとあけた陽子達が立っていた。
「えっっ??」
私は一瞬何が起こったのかわからず、ただ見つめるだけだった。
そしてトモが部屋のドアを閉めると
「また寝坊しちゃったね。」
と満面の笑みで私のおでこにキスをした。そして、
「とりあえず着替えちゃおうよ。」
・・・まだ思考回路が正常に動かない。
なに?今の?
なんでいるの?
そして私は自分の姿を見る。 下着姿だ。
だんだん正常運転を始める回路。
「「イヤアァァァァァァ〜〜〜」」
私は恥ずかしさと、また空港まで行けなかった自分の失態と、トモとの関係がより深まったのと。あまりにいろんなことがいっぺんに頭の中を駆け巡ったので大声で叫んでいた。
その後、新婚旅行の感想を聞く前に。お土産を渡される前に。私とトモの関係についてはじめからみっちり聞かれたことは言うまでもなく。
トモ達が会社へそそくさと逃げるように行った後。私はその日、日付が変わるまで陽子に説明し、日付が変わったころから陽子の話を朝まで聞き、その日の学校にはもちろん行けなかった。
そうして、私たちの新しい生活が始まったのです。