初戦闘、初勝利、初敗北
翌日から、本格的に訓練が始まった。
騎士たちが模擬練習をしている中庭、昨日と同じで、雄叫びを上げまくっている。
うぉぉぉ! って。
その騎士たちが手にする武器、これは統一されていないようだ。
エトムートさんのようにデカイ剣が半分、もう半分は、槍だったり、斧だったり、全部木製のようだが、これは安全を考慮しているのだろう。
騎士といえば剣と盾、侍の刀と同じく、誇りそのものだ、失くしたら処刑もの、それくらい重要だどこかで読んだ気がしたが……あっちの騎士道とこっちの騎士道では少々違いがあり、武器の自由があるのかも知れない。
「この武器の剣術は正直、僕も詳しくないので……やはり、ここは実戦あるのみですかね?」
自虐的苦笑いを浮かべるエトムートさん。
あらら……分からないのに、これどうでしょう? って言ったんですか……
「そ、そんな顔しないでください。 基本的に素手の格闘術と変わらないと思いますよ? えぇ、きっとそうです!」
そんな顔ってなんだ!俺はイケメンだろ!……冗談なんだけどなんか自分で行って悲しくなってきた。
エトムートさんの説明は、俺への解説というより、自分への説得に近い。
「さっき、実戦と言ってましたが、それは一体何とですか?」
エトムートさんとの模擬戦? 外の魔物との戦い?
「それはですね……ちょっと待って下さい。」
すぅぅ……と大きく息を吸い込み、エトムートさんは
「ディアーヌ!来てください!」
と叫ぶ。
うぉぉ……イケメンが大きな声で叫んでる……ひぇ~
思わずビックッと身震いをしてしまった。
周りの木製武器の打ち付け合い、雄叫ぶが音が聞こえなくなるほどよく通る声である。
あたりをキョロキョロと見回してみると、一人、とんでもないスピードで駆けてくる。
周りの騎士のように鎧は着ておらず、胸当てとその下に黒とオレンジのワンピースのような服のみ、装備している。
徐々に近づいてきた、どのような顔か伺える。
取り敢えず、服装から女性、背丈が、俺のへそと鳩尾の間ぐらいの身長。 (ちなみに俺の身長は175cm)
子供みたいにあどけなく可愛らしい顔で白髪…………ッハ! あ、アレは……ね、ね、ねねね、猫耳! 尻尾もある!
髪同様耳や尻尾も白く、白猫を思わせる。
か、かわええええええ!
あわわわ……としているうちに俺とエトムートさんのところに到着した様子。
少女は首を傾げ「?」という顔をしている。
「……副団長、何の用?」
顔を俺に向けエトムートさんが言う。
「彼、エイトさんと模擬戦をして欲しいんです。」
そこで区切り今度は俺に少女を紹介する。
「彼女はこの春入ってきた新米、ディアーヌです。 幼いながら才能があります。 ですが、技術が追いついていないので、彼女の訓練も兼ねて、一緒にお願いします」
すると、ディアーヌと呼ばれていた少女はエトムートさん同様俺を見る。
「……この前召喚された、セラの使い魔?」
「そうですよ」
セラ……ってのはセラフィーの愛称かな?
あと、しゃべり方に特徴がある、静かだけどしっかりと聞こえてくる。
まぁいい、モフらなくては。
「早速、やりませんか?」
俺の頭のなかはモフることでいっぱいだ。
戦ってさり気なくモフってやる。
「分かりました、それでは、やりますか」
『……ワタシの意見は?』 とディアーヌは呟いていたがエトムートさんは聞こえないふりをしながら
「これをどうぞ」
と言って木製のジャマダハルを渡してくる。
「ルールは頭部への一撃、もしくは両肩を地面につけさせたほうが勝ちということにしましょうかね」
「「了解です」」
と俺と渋々顔のディアーヌ。
構えも何もわからないので、ボクサーみたいに両手で拳を作り胸辺りで構える。
右手にはジャマダハルをメリケンのように持つ。
一方のディアーヌは日本刀のような刀を片手で持っていた。
「それでは、よーい、始めっ!」
エトムートさんの合図とともに、ディアーヌは、一直線に駆け出してくる。
「うおっ!」
先ほどエトムートさんに呼ばれたとき同様、とんでもないスピードで突っ込み、刀を上から下へ大きく振り下げてきた。
右へ飛ぶことで避けることが出来たが、耳元には空を切ったことで出来た風を感じ、ギリギリだったということが分かる。
危な。
元いた場所に目を向けると日本刀が振り下ろされ、地面に突き刺ささるが、ディアーヌ自身、そのスピードをコントロール出来ていないようでスルーっと地面を滑っている。
幸い、突き刺さった刀がブレーキになったようだが。
さすがは身体能力が長けている獣人だ、とんでもない速さだ。
てか、この威力、木刀でも危ないのでは……!?
骨の1,2本簡単に折れてしまいそうだ。
威力に驚愕していると、ディアーヌは再び突っ込んでくる。
「……はぁぁっ!」
この叫び、昨日も聞いたな。
昨日の甲高い声を思い出す。
そんなことより、目の前に集中しなくては。
避けるだけでは何も出来ない。
先ほどと同じように右へ飛ぶ、と同時に殴る要領でジャマダハルを突き出してみるが、リーチが足りず、空を切るだけだった。
俺が避けたため、ディアーヌは地面を滑っている。
やはり、走りを伴う攻撃は隙が大きいようだ。
この瞬間は俺に背中を向けた状態になり、こちらの攻撃が通りやすそうである。
が、そこは流石獣人、ジャマダハル再び繰りだそうと俺が足を動かしたところでサッと素早く向きを変え、こちらを見た。
「……今度こそ」
彼女も初戦闘の俺に負けるわけには行かないのだろう、表情や言動はクールだが目には負けたくない、という闘志が宿っている、ように見える。
すでにこちらに向け駆け出しており三度距離は縮まっている。
先ほどのように避けることは可能だが、それも限度があるだろう。
獣人の方が身体能力が圧倒的だ、こっちがバテてしまうかも。
……こうなったら!
俺は両足の筋肉にムチを打ちディアーヌに向かって走る。
徐々に、互いの距離が近づいてきた。
アニメで見るような、二人が交差して、片方が倒れる……みたいな状況だが、あんなことをして、俺は勝つ自信がない、もし当たったら、俺の体がとんでもないことになってしまう。
なので……
ディアーヌが刀を振り下ろす前にスライディングし彼女の股下を抜ける。
「……ッ!?」
驚いて声にならない声を漏らすディアーヌ。
あ、ちなみに俺の視界には下着がはっきり見えております、ハイ。
ふむ……黒か……いい趣味!
黒下着の次に視界に映るのは猫尻尾だ。
その尻尾を引っ張る。
引力のせいで、ディアーヌは尻餅をつく。
ここが……チャンス!
俺はスライディングの状態から立ち上がり尻餅をついたディアーヌの後ろに立つ。
そして、彼女の背中を撫でる。
「……にゃぅ!?」
猫らしい声を出すディアーヌ。
倒すチャンスだったんじゃ無いのかって? 残念! モフるチャンスだったんだよ!
猫の背中は撫でられると気持ちいいところらしいからな!
彼女の猫要素は耳と尻尾だけで、背中は普通の人間なので、背中がくすぐったくなっただけかもしれないが、それでもいいだろう。
猫を飼えなかったから、触れ合いはなかったが、その分ネットで集めた知識を総動員させる。
次は、耳の後ろだ!
モフモフモフ……
「………にゃ……」
と言ってふにゃ~っと溶けるようにディアーヌは地面に落ちていく。
落ちたな……確信。
両肩が地面についたので、ついでに、俺の勝ちだ。
「勝負あり、ですね」
エトムートさんは地面で横になったディアーヌに声をかける。
「はい、起きてください、終了です」
すると、ディアーヌはハッと起き上がり。
「……おぼえておきにゃさい……!」
と、猫モードが少し抜けていない口調で捨て台詞を吐き、タッタッタと何処かへと駆けていった。
「あ……行ってしまいましたね…… それにしても、見事でしたね。 まさか、あの状況で尻尾を掴むとは、ですが、剣術の訓練であったので、ジャマダハルを使って欲しかったんですがね……」
と苦笑いをするエトムートさん。
「す、すいません……」
俺の猫好き、という部分で勝ったような気がする。
「そうですね……何戦かする予定だったのですが……しょうがないですね、次は僕とやりましょうか」
まだ陽は空で輝きを放っている。
エトムートさんの言うとうり、終わる時間にしては早い、なによりジャマダハルを使っていない、アドバイスを貰おうにも貰えない。
「はい!」
副騎士団長、その実力、見せてもらうぜ!
「それでは、構えてください……よーい、初め!」
勝って有頂天になっていた俺は、エトムートさんに向かって、特攻してしまう。
「うおぉぉ!」
右手のジャマダハルを突き出す。
「あまいですよ」
エトムートさんは剣を抜くこともなく、俺の突き出した右手を掴み、そのまま、柔道の投技のように、俺のことを宙に浮かせた。
「うぉ!?」
そのまま、地面に叩きつけられる。
突然のことに受け身が取れなかった俺氏、敢え無く気絶。
あわあわとしているエトムートさんがゆっくり、ブラックアウトしていく。
おはよう世界。
気絶から目覚めたら、自分の部屋のベッドの上にいた。
外は真っ暗。
なので、こんばんわのほうが正しいね、まぁ、どうでもいいが。
頭はズキズキと痛むが、それ以外に変なことはない。
気絶は人生初体験だったわけだが、あんな感じなのね。
痛みを伴う以外は睡眠と変わらないかもしれない。
「あ、起きたんですね!」
セラフィーがベットの横に椅子を置き、それに腰を掛けていた。
なんというデジャヴ。
召喚された時と同じセリフ。
「うん、おは……こんばんわ」
ダメだ、寝起き? いやこの場合、気絶起き? どちらにしろ、目が覚めた後はボーッとしてしまう。
「大変でしたね~ エトムートさんが慌てたましたよ。 回復魔法を掛けてくれ! って私のところに来て、びっくりしましたよ~」
「そ、そうんだ」
確かにあわあわしてたかもしれない。
ぼやぁ~っとしか思い出せないが。
「あと、ディアーヌちゃんが、『……ざまぁ』 って言ってましたね……何かしたんですか?」
「な、何も…… 模擬戦で勝っただけで……」
下着?モフリ? ナ、ナンノコトカナー
「へぇ、それは凄いですね! ディアーヌちゃんは結構負けず嫌いですから、頑張ってくださいね」
セラフィーが純粋でよかった。
「と言うか、回復魔法、使えるんだ」
「はい、どの属性でも、学べば使えますよ」
ほぉ……俺も使えるのか~
「そんなことより、ご飯食べに行きましょう! 私お腹すきましたぁ」
セラフィーがお腹を抑えながらうぅ……と、恥ずかしそうに、空腹であることを申告する。
もしかしたら、俺が長い時間寝ていたのかもしれない。
俺の世話に付き合わさせて悪いな……と思いながら、痛む頭を抑え、体を起こす。
起きると、自分の服装が変わっているのが分かった。
なんか、肌触りが絹に似ている紺の半袖と、黒の長ズボン。
何も掛けていなかった壁には、見たことのない黒と紫のローブ。
その隣には、気絶する前まで着ていた、前の世界の部屋着が掛けられている。
よく考えれば、着替えとかしてなかった……
「セラフィー、なんか服装変わってるんだけど?」
「あ、汚れたので着替えさせていただきました」
ほぉ……誰が脱がせたんだい?
もしかして、セラフィーが……キャッ 俺お婿に行けない! 責任てっとよね!
いや、まぁ、エトムートさんとか、そこら辺だろうけど。
「あと、あのローブは、メイドさんが急いで作ってくださったものなんです!毒ってことなので、紫にしてみました」
黒に紫……なんか、ダークヒーローっぽくていいかもね。
「ありがとう」
感謝の言葉を述べながら、ベッドから這い出し、早速、そのローブを着てみる。
全体的に黒の割合が多いため、暗殺者みたいだ。
細部には金なんかで彩られて入るが。
「おぉ……なかなか似合ってますよ!」
と、セラフィーが褒めてくれる。
「どうも。 さっ! ご飯食べに行こ」
褒められるのは少々恥ずかしいので、照れ隠しのために食堂に行くことを促す。
今日のご飯も美味しゅうございました。
その翌日、昨日と同様、模擬戦を中心とした、訓練を始める。
「まず、昨日の反省ですが……」
華麗に俺を気絶させたエトムートさん。
昨日のことから、どうにか立ち直った様子だ。
1時間ほど「スイマセン」「大丈夫ですよ」合戦があったので、立ち直っていなければ、また、合戦が起きそうだったので良かった。
あの時の周りの視線が痛かった。
『副団長があんなに頭を下げるとは……あいつ何者なんだ……!?』
とか言っていて、なんか勘違いされそうだった。
事情を知っている騎士達が必死に説明していたので、良かったが。
「ディアーヌは力を込めすぎです。 6割位の力で十分だと思いますよ」
「……了解」
速すぎて直線的な動きしか出来ていなかったから、その通りだと思う。
「エイトさんは……昨日は剣を使っていませんので……もう一度、戦ってみてからアドバイスしますね」
「はい」
まぁ、昨日はモフった挙句気絶した、ってだけだしね。
というわけで、模擬戦が始まる。
「よーい、初め!」
ディアーヌがその合図と同時に駆けてくる。
が、アドバイスを意識してか、昨日より速くはない、と言っても、十分速いのではあるが。
ディアーヌは刀が届く距離に来ると、やはり、アドバイスを意識しフルパワーで振り切る、ということはなく、ある程度のところで力を抑えているようだ。
その分、こちらへの攻撃の回数が多く、防ぐのが大変になっている。
昨日の攻撃が薪割りのような感じだとすれば、今日は指揮棒を振るう指揮者のような感じ。
当然、戦闘2回目の俺が防ぎきれるはずもなく、首筋に刀の刃が当てられてしまう。
「……フ……勝った」
と、ディアーヌは静かに喋り、感情を表に出さないようにしているが尻尾と耳は最大限動かして喜びを表現している。
やばい、可愛良い、モフりたい。
ディアーヌはほんとはツンデレだったんですが、クーデレのほうが僕の好みだったので変えちゃいました☆