寝起きドッキリ
「……んぁあ……」
寝起きならではの力の抜けた声が漏れる。
陽の光が窓から入り込み、床や花の入っていない花瓶、ベッドの上で横になっている俺を照らしていた。
この光で目覚めたようだ。
睡眠を邪魔してくれた光を、右手で遮ると眩しさで見えなかった視界に映る、見たことのない天井。
普段、生活している部屋ならば真っ白な天井が映るはずなのだが、俺の視界にはまるで、空をそのまま引っ張ってきたかのように真っ青な天井があり、自分の部屋ではないことが分かる。
「俺の知らない天井だ……」
と、勝ちを掴んだと同時に意識を失った主人公が目覚めた時にいいそうな厨二病的セリフをつぶやいてみた。
「って、そんな場合じゃないな」
本当にそんな場合じゃない。
ここは自分の部屋ではないのだ、ならば、なぜ、このような部屋にいるのだろうか。
もちろん、俺の寝相が悪いというわけではない。
悪くても、知らない部屋のベッドに飛び込むほどではない。
う~ん……
寝起き、ということもあり、頭が回らない。
仕方ないので、窓に目を向けてみる。
強い光でより目を覚まそうと思い、窓に目を向けたのだ。
この建物が一体どんな場所にあるのかも気になった。
「う……」
眩しさに、思わず目を細めてしまう。
2~3秒ほどで目が光に慣れ、この建物が一体どこにあるのかがわかる。
「おぉ……」
思わず、感嘆の声を出してしまう。
それも無理は無いだろう、目の前には、それはそれは美しい、湖がひらがっていたのだから。
湖は風に揺られゆらゆらと小さい波を立てており、その波に陽の光が反射していて、ギラギラと眩しく輝いている。
その湖の周りには多くの木々が根を張っており、力強さを感じさせる。
コンクリートジャンクと揶揄されてしまう程の都会に住んでいたので、このような大自然は、TVやPCなどの画面越しでしか見ることはなかった。
番組などで、美しい自然! みたいなものをボーッと見ていた時は、何の感想も持たなかったし、出演者の大げさなリアクションを鼻で笑ってしまったが、この風景を見た瞬間、その出演者なんかよりも驚いていたかもしれない。
風光明媚とはこのことを言うのだろう、写真家や画家がこの景色を目にしたら、すぐさま道具を手に取るのではないだろうか、どこに目を向けても絵になる。
この風景を眺めていたいところではあるが、それ以上に優先しなくてはいけないことがある。
意識は、湖を眺めることで、すっかり覚めてしまった。
おかげで先ほどより、思考ができる。
では、一体何があったのだろうか、記憶を探る。
徐々に徐々に寝る前のことを思い出す。
ネットで猫の動画を見ていたこと、雨が降っていたこと、課題が憂鬱だったこと、そして……
「魔法陣……? そうだ、魔法陣が! ……え?……」
ウトウトと眠りかけていたところで魔法陣のようなものがとんでもない光量で現れたのを思い出すが、そのようなことがありえるのだろうか。
魔法陣のせいで知らん家のベッドで寝ていたんだ! と言って納得できるだろうか。
「いやいや……」
そんなことは、常識的に考えられない。
なに? もしかして俺、そんなに中二病酷かった? こじらせすぎて幻覚見えるレベルなの?
と言っても限度があるだろう……
これは、アレだ! 随分と手のかかったドッキリだ!
まぁ、これもないだろうけども。
じゃあ一体……
「あ! 目覚めたんですね!」
なんなんだろう?
と、次の考えを出そうとしていたところで、声が耳に入ってきた。
その声は高く可愛らしい。
そのことから、少女だと思われる。
声の主へ顔を向けるとそこには、青く腰に届きそうなほど長い髪、青い目、そして、黒と青を貴重としたローブを羽織った美少女がおり、にこにこと可愛らしい笑顔をこちらに向けていた。
歳は……俺と同じく16歳くらいだろうか。
日本で生活をしていればまず見ろことはないであろう青い目や髪、服装に疑問が残る。
よく、コスプレイヤーがカラコンとか、かつらとか、染めたりなんかをしている画像を見ることがあるが、アレはもともと、黒髪黒目の人間が無理やり色を変えているため、少なからず違和感があるのだが、目の前の少女にはその違和感がない。
それに、何より、彼女の格好が珍妙だ。
ローブには金の刺繍が水を模している。
なんか……すごく、魔法使いっぽい格好だ。
「なにそれ……コスプレ?」
青髪青目に違和感はないし、彼女が纏うローブもなかなか様になっているが、そのような格好をする理由は……コスプレしかないだろう、と思い聞いてみた。
だが、その問は少女の耳には届いていないらしく質問の答えとは全く異なる言葉が返って来る。
「しかしびっくりしましたよー! 召喚をしたら人だったんですもん!」
この子は何を言ってるんだろうか?
コスプレしたキャラにでもなりきっているのかな?
というか一番びっくりしたのは間違いなく俺。
「あの……ちょっと何言ってるかわからんのだが」
すると少女は「あっ!」っと小さく声を出し
「そういえば自己紹介がまだでしたね! セラフィー・ラヴィンと申します! セラフィーとお呼びください!」
「あ……どうも、泉瑛斗と申します、あ、エイト・イズミのほうが良いのかな?…って! 分からないのは名前じゃなくて!」
つい条件反射で名乗ってしまった。
名前から考えるに日本人ではないのか。
ということは外国人がコスプレでもしているのか? いや、そもそも青い髪の人がいっぱい居る国なんてあったかな……?
てか、随分流暢な日本語を話す外国人だなぁ……
などと考えているとセラフィーと名乗った少女が目を大きく開いていた。
「え!? ということは、エイトさんは私の名前を最初から知ってたんですか!?」
なぜそうなるのだ。
「いや、名前も知らなかったけど、それよりも分からんのはこの状況だよ!」
起きたら知らない家にいたのに自分が今どこにいるより、目の前にいる少女の名前のほうが気になるような人はいないだろう。
何者なのかは気になるけども。
そのことを聞いてセラフィーは俺が何を説明して欲しいのか理解してくれたらしい。
「あ~なるほど! では分かりやすく言いますと…」
ここで一度区切り大きく息を吸うと
「瑛斗さんは私の使い魔です!異世界から召喚させて頂きました♪」
と、音符が見えるんじゃないかってくらい、弾んだ声で言った。
……ん?
修正して戻しました。