だんじょん!2
「ん? 階段?」
「はい、ここから下へ向かいます。」
迫り来るウルフを切り倒し(主にディアーヌが)、危なげなく、地下へと向かう階段を発見した。
トコトコと3人の足音が鳴る。
松明が辺を照らしており、足元が見えないということはない。
下の階、つまり、地下一階に着くと、早速魔物がお出迎えしてくれた。
そいつの見た目は……
足が八本、その足には細かい毛がビッシリと生えており、胴はハート型。
何個もの、赤い目はギラギラとこちらを捉えて離さない。
体の大きさは3mを超えるのではないのだろうか。
いや、まぁ、簡単にいえば、そこには、デカイ蜘蛛がいるわけですよ。
それも、日本にいるようなゴキブリ駆除に役立つ程度の蜘蛛じゃなくて、南米とかアフリカとか、暑い地域にいて人を殺しそうな感じのやつ。
「……く、蜘蛛……虫……」
ディアーヌは階段まで戻り、ガタガタと震えている。
そういえば、屋敷の周りの魔物を手当たり次第潰していた時、デカイミミズみたいな魔物にもあわあわしていた気がする。
「これは、見た道理大蜘蛛です……軽い麻痺毒を持つので……気をつけてください……」
セラフィーも出来るだけ視界に入れたくないのだろう、蜘蛛を見ているようで、実は近くの壁を見ている。
……まともに動けるのは俺だけ? えぇ……この気持ち悪い者の相手をするのか……
仕方ないか、嫌悪感はどんどん湧いてくるが、こんなところで尻込みしていては、下の階まで到底行けないだろう。
ギュッとジャマダハルを握り直す。
「よし……」
この声が合図となった。
「キェェェェェ!」
うるさい鳴き声と唾のような液体を口から飛ばす大蜘蛛。
その間に、音量と醜さに顔をしかめながらも蜘蛛の前にたどり着く。
「せいっ!」
取り敢えず一番前の右足に一発、突きを入れる。
思ったより簡単に裂けたが、グチョ、とそこから、体液が飛び出し、肌に触れ、口に入り込んでしまう。
口の中に入った体液は、ネバネバ、ヌルヌル、としていて、非常に不快な気持ちになる。
「体液も毒ですので気をつけてください!」
セラフィーが助言してくれる。
え、そうなの。
ペッと吐き出したいが、その粘力のせいで、なかなか出てこない。
そんなことをしているうちに、大蜘蛛はこちらに尻を向け、ピューッと糸を飛ばしてきた。
「うぉ! ゴクン……あ……」
糸を避けるために回避動作をしたのだが、その勢い余って、口にどうにか留めていた大蜘蛛の体液が喉を通ってしまった。
うわ~飲んじゃった。
毒だし、何よりあの大蜘蛛の体液……おぇぇぇ。
麻痺毒、とのことだったので、体の何処かが動かなくなるのでは……? と、心構えていたが、どこかが動かないということはない、むしろ、体が少々だが軽くなった気がする。
軽い毒だから、大量に飲まなければ大丈夫、とかだろう。
良かった、いや、良くないけども。
再びこちらに向き直った大蜘蛛。
切り落とした足が再生を始めていた。
とは言っても、完全には戻っていないので大蜘蛛の体重が左に傾いている
さっき斬って思ったが、こいつは脆い、見掛け倒しだ。
大蜘蛛の左足に駆け込み、そちら側の足4本を貫く。
「キュァァァァァ!」
痛みに吠える大蜘蛛はバランスが取れず、地に腹をつける。
右足3本はカサカサと地面を削るのみで終わり、腹を地から離すには至らない。
その大蜘蛛の顔の正面に、立ち、顔を貫く。
「キャァァ……」
と、声を上げた後、地面を削る足から力が抜け、絶命したことを示す。
「よし……どうにかなったな」
「エイトさん、グッジョブです!」
「ありがとう」
「そういえば、体液が口の中に入っていましたが、大丈夫ですか?」
いや! 思い出させないで! 思い出しただけで、吐き気が……
「瑛斗さん! 大丈夫ですか? 顔色が……大蜘蛛の体液には吐き気を催す作用も!?」
「いや……多分違うと思う…… 体液自体は、飲んだら、むしろ、元気が出たくらいで……」
元気が出たのか? あんなものを飲んで? え……俺ってゲテモノ好きだったの……? 甘党のつもりだったのに……
「……アレを飲んで元気が出るって……エイトは……おかしい」
戦いが終わったことを察したのか、この場に戻ってきたディアーヌが、正論を放つ。
「いや、その通りだと思うよ……」
「取り敢えず、解毒薬を飲んでおきましょう」
とセラフィーが薬の入った瓶を渡してくれる。
「了解」
瓶の栓を開けグビグビと、飲んでいく。
大蜘蛛の体液を飲んだ時と同じように、体が軽くなった気がした。
あれ?
「まぁ、先に進もうか」
「……うん」
この階も大したことはなさそうだ。
精神的にはきそうだけれども。
「あ、そういえば、ここの階の魔物は、虫系が……メインだった気がします」
「……あぁ……うぁ……」
セラフィーがディアーヌへ、絶望をプレゼント!
ディアーヌは声を震わせている。
ディアーヌの慌てっぷりを見ているうちに、今度は蟷螂の様な魔物が迫ってきていた。
「はぁ……走るよ! 敵は俺が倒すから!」
「はい! 行きましょう! ディアーヌちゃん! ほら!」
「……うん……」
セラフィーがディアーヌの手を握る。
「行くよ!」
と声を出すと同時に走りだす。
「うぉぉぉぉ!]
目の前に現れる虫どもを雄叫びを上げながら駆除していく。
元の世界にいたら、害虫駆除業者にでもなっていたんじゃないかな、俺。
「み、見つけた……」
虫に対して無双しながら15分ほど駆けまわってようやく、地下への階段を見つけることが出来た。
こんな爽快じゃない無双は初めて……
地下2階は少々湿っぽく、生臭い空気が漂っている。
さて、この階は何がメインなんだ……?
「ここは、海の生物に似た魔物がたくさんいますね」
「……さかな……」
ピクンッ! と耳と尻尾が動くディアーヌ。
さすがはネコ耳さん、魚がいると思ったらさきほどと打って変わってやる気マックス。
生食はしないよね? ディアーヌの捕食シーンは見たくないよ? 俺。
「さて、それじゃぁ、行きますか」
ここを含めて、あと4階もあるんだ、うだうだとしている暇はない。
と言っても、先ほど全力疾走していたので、ゆっくりしたい、という気持ちはあるが。
この階に入って30分ほどした。
未だに、魔物とは遭遇しない。
「……さかな……いない……」
ディアーヌの落胆ぶりがやばい。
「なんでなんでしょうか? 魔物の姿どころか、声すらも聞こえないなんて」
「おかしいよね」
虫の階でこの現象が起こればよかったのに。
ところどころ、血痕が残っているだけで、他には何もない。
更に15分経過……
「何かあったのかな? こんな静かなのって……」
やっぱり、異常だよね? とセラフィー、ディアーヌに聞こうと、したその時。
「うああああああああああああああああ!」
と、角から、胸当てと簡素な小手のみの軽装冒険者が、耳を裂くような叫びながら、迫ってきた。
この階層で出会うとは珍しい。
声から察するに、とんでもない事が起きてそうだ。
やはり何か、異常が?
「お~い、どうした?」
すると冒険者はすれ違いざまに
「あんたらも、逃げろ!」
と言って、走り去ってしまった。
「……なんなんだろ……あの人……」
「なんか、すごく大変そうですね……」
色んな所を血に染めていてた。
一体何があったのだろうか?
「何があったかは気になるけど……逃げろって言っていたし……一旦戻る?」
「そうですね……そうしましょうか―――」
その時、先ほどの冒険者が走ってきた方向から、ドォォォン、と轟音が響いてきた。
目を向けると……乱暴に壁を崩しながら、口を真っ赤に濡らし、どこか笑っているような顔をした銀鮫が、空を浮かんでいた。
異様も異様。
明らかにレベルが跳ね上がりすぎ。
戦わなくても、その強さを肌で感じられる。
「さっきの、人間は……お? 違うようだが3人もいるじゃないか……」
その銀鮫は、引きずるような、重い声で、そう言った。
僕は蜘蛛が嫌いです