4モフ目
生産回&微飯テロ注意
鳥の声で目を覚ませば窓の外はまだ暗く。メニューで時計を確認すれば6:00。
睡眠時間は現実の半分のはずなのにしっかり寝ている気がする。まあ、24時間ログインを可能にするために病院でも何かしらの処置を行っているんだろう。
「きゅーい?」
「まだ寝てていいよ、淡雪」
「きゅいー」
同じベッドで丸くなっていた淡雪が頭を持ち上げるが、すぐにまた眠りの海へと沈んでいく。
さすが幼体。よく寝る。
昨日、モフナーがログアウトする前に行ったベッドの上のマグロ亭。前に見た掲示板の通り、カルパッチョがうまかった。
食事をしながらモフナーがしゃべることしゃべること。
意識不明だったとき、毎日そばにいてくれたそうだ。初日も僕がいる病室の隣からログインしていたって。ありがたいけど病院に迷惑だからやめなさい。
目が覚めたなら本日の目標、アイテムボックス作成のための下準備をしようか。
まだまだ暗いが、本が読めないというほどではなくなってきている。
皮革加工の方はリアルでもやっているからざっと読み流し、付加をじっくりと読み進める。
読み切ったとき、部屋にはしっかり朝の日差しが入ってきていた。
街はすぐに活動を始める。
「あー、堪能したー」
活字中毒とは僕のことだ!…手書きだけど。
入門書とはよく言ったものだ。書かれているのは本の入口。でも、これですべてなんだろう。必要なのは作業の進め方だけ。あとは実際に触媒を集め、試行錯誤するしかない。特別なアイテム以外は使い手の想像力でほとんどのものが実現可能。
まあ、レアな触媒が必要になってくるけどな。しょうがないことだけど。
これで後は作るだけ。まずは。
「まずは飯にしようか。ね?淡雪」
「きゅい♪」
「おっちゃーん。今日の朝飯はー?」
「きゅっきゅいー?」
「パンとベーコンと目玉焼きだ」
「ラピ○タパン!?」
これで食欲がそそられないわけがない。
焼きたてのライ麦食パンの上に、焼き溶けた香ばしい脂香るベーコンと半熟の目玉焼き。
完璧な逸品だ。
ごくり
神妙に手をあわせ
「いただきます」
うまい
「ベーコンを出てきた脂で揚げるように焼くのがポイントな」
テイストキングも叫んで納得するだろう。
「やっぱりこの宿当たりだよな」
「きゅい」
「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか」
「ごちそうさん」
「あいよ」
さあ作業を始めよう。
まずは皮から革にするために、鞣し(なめし)の工程だ。鞣しにもいくつか方法があるけど、とりあえずタンニン鞣しで言えば。
皮を水につける
石灰で脱毛する
濃度の違うタンニンに順番につけていく
漂白する
油をひく
と、おおざっぱにいえばこのような工程で出来上がる。
タンニンというのはお茶の苦味のあれだ。
で、このタンニン鞣しをまともにやろうとすると一か月もかかったりするんだけど、そこはこのゲーム世界。桶に水を張ってウサギの皮を入れ、入門キットに入っている薬を入れればあっという間。
ウサギの革 品質:普通
鞣された革。つぎはぎにすると耐久性が落ちる。
まあジャケットとか、一枚で大きい面積のある物は難しいということ。ちゃんとパーツごとに作って縫製すれば問題ない。
そして作るものといえば、現状絶賛放置プレイの僕の武器。グローブだ。これなら一羽分の革で作れるし、入門用に丁度いい。
まずは僕の手を紙にかたどり。指ぬきグローブとしてデザインを書き起こす。
甲の部分は革を二重にしつつ、【付加】のために六芒星を刻む。
「【付加】のためだからな!厨二じゃないからな!あくまで【付加】のためだからな!」
よし。誰も聞いてないけど言い訳完了。
この型紙を革に写して革包丁で切る。
不思議接着剤で軽く張り合わせ、ディバイダーで縫い目に合わせて溝を引き、菱目打ちというフォークみたいな道具で縫い目に穴をあける。
縫った後にコバを処理すれば。
ウサギのグローブ 品質:普通
ウサギの革で作ったグローブ。甲の部分が二重になっており防御に寄与。
攻撃力3
まあ、こんなものか。
≪スキル:皮革加工 が有効化されました。≫
よし!
ちょうどいい時間だから昼にしよう。午前中こもってたから屋台にしようかね。
「きゅいー」
淡雪は大ぶりの魚の網焼きを食べてご満悦のようだ。
かくいう僕は海鮮パスタを大皿で抱え込んでいる。ハーブのきいた二枚貝と白身の切り身がよくだしに絡んでうまい。
これだけうまい魚だとご飯と刺身で食べたいなー。どっかで醤油が手に入らないだろうか。
さて、帰って続きをやりますか。
「帰るよー」
「きゅーい」
宿に帰ってきて早速、【付加】の入門キットから魔法陣の書かれた布、魔法布というらしい、を取り出し、床に広げる。
「淡雪。集中するから静かにしててね」
「きゅい」
ベッドに飛び乗り丸くなる淡雪。
まだ寝るのか。
気を取り直して、魔法陣の中の二つの円。それぞれにグローブとキットの触媒、透明度の低い水晶のようなものを乗せる。
魔石のかけら 品質:低
モンスターから得られた魔石のかけら。砕けた際に大部分の魔力が抜けている。
まあ、入門キットだからこんなものだよね。
では、いざ!
スキル;付加
力を糧とし道とし その力新たなる器に移せ 新たなる力をなせ
片手で開く本の方に視線を固定していて恰好がつかないが、一応発動したようだ。魔法陣が輝き、僕のMPが減る。
正確なウサギのグローブ 品質:普通
ウサギの革で作ったグローブ。甲の部分が二重になっており防御に寄与。エンチャント+1
攻撃力3+1 命中2
ふう。成功した。
≪スキル:付加 が有効化されました。≫
よし、これで前提条件は整った。
さあ、アイテムボックスだ。
材料は革5枚。最大限使って、腰につけるベルトとともに二つ作る。
ファスナーなんてものはないから単純な被せ蓋式。金具についてはキットを買ったときに一緒に買ってある。
大きさは腰の横につけれる程度。二時間もあれば縫い上げれるだろう。
革は布を縫うようには縫えない。一本の糸の両側に針をつけ、縫い目の穴の中で交差するように縫いこんでいく。初めて革を縫ったときはうまく縫い目が整わなくて苦労したものだ。
一目一目無心に縫っていく。VR世界だというのに覚えた動きは結構再現されるようだ。
縫い上がったのは17時を回ってからだった。
【付加】に必要な魔法陣は鞄の内側に刻んである。
「では」
魔法布の出番だ。
鞄を作っている間にMPは回復している。
魔石のかけらも用意して、いざ!
「ふははは!できた、できたぞー!」
【付加】は驚くほどあっさりと成功した。
アイテムボックス 品質:普通
ウサギの革で作られたアイテムボックス。重量無制限で50個までアイテムを入れられる。質量保存の法則は気にしてはいけない。
よし。これでそこまでアイテムの量を気にしなくてもよくなった。これ以上のものは、ランクが上のモンスターの革が必要になる。
一度全部装備してみようか。
頭:
体:麻の服
上半身:
腕:
手:正確なウサギのグローブ
下半身:麻のズボン
腰:ウサギのベルト
足:
靴:端革の靴
右手:
左手:
その他:アイテムボックス×2
うん。ちょっとそろってきた。
時間は18:03、か。夕飯食べても時間があまるな。
トトもまだ呼んでないし、グローブの具合を見るためにも夜の狩りと行きますか。
時刻は19:06。現実では9:30を過ぎたところだ。平日の朝となればさすがにプレイヤーの姿は少ない。道具屋に寄ってきたがまあまあの時間だろう。
「さて淡雪。トトを呼ぶから交代な?」
「きゅい!?」
「大丈夫だって。また呼ぶから」
「きゅう」
ああ、寂しそうな淡雪もかわいいなぁ。
「それじゃあ、淡雪を送還っと」
スキル:召喚
我が呼び声に応えよ 汝我が友トト 来たりて現れよ
お馴染みの魔法、陣?いや、淡雪のと色が違う。淡雪はオレンジで今は黄色だ。
個体か種族で色が違う?
ま、気にしてもしょうがないか。
「よろしく、トト」
「ぷう」
さて、普段はプレイヤーがいて遠慮していたところを回ってみますかね。
草原に入って十分。そいつは音もなく目の前に現れた。
ソルジャーアント メス
アクティブ
兵隊アリ。巣の外に出て餌を集めたり外敵を駆除したりする。顎の力は強力。
「トト、やれるか?」
「ぷう」
トトは前傾姿勢になり後ろ足に力を貯める。やる気は十分のようだ。
ギチギチギチギチ
ソルジャーアントも顎や体の節を鳴らして威嚇してくる。
では、戦闘開始だ。
蟻はまずトトに狙いをつけたようだ。
二匹が瞬間にらみ合う間に、ステップを踏んで蟻の横に回り込む。
「せいやっ!」
足の節にこぶしを叩き込むが、微妙にねらいがそれて外骨格が阻む。微妙にたわんで衝撃を逃がされたようだ。
だが、意識がトトから外れてこちらに向く。
トトはその隙を逃がさずサマーソルトキック。が、蟻は寸前に察知し後退。
僕は正面から追撃して触角を狙う。
今度は外さない。蟻の動きが鈍くなった。
トトが頭に飛びつき触角をかじる。さすが重歯目の歯。するどい。触角の一つが落ちた。
そのまま正面から踏み込んでアッパーカット。トトはすでに離脱している。
以外に軽い?浮いた体にボディーブローだ。そのままひっくり返れ。
蟻はじたばたもがいている。
さあ、どっか調べの、何かあった時に言ってみたいことNo.1。
「こんなこともあろうかと!」
ロープで蟻の足をひとまとめにする。閉店ぎりぎりの道具屋に飛び込んだかいはあったな。
ほんと、備えあればだな。
さて、どうやってとどめをさすかだけど.虫なら穴があるよね。ね。
てなわけで。
「せいやっ!」
腹の穴を確認して拳を突き込む。ギチギチギチギチと蟻がうるさいが気にしてはいけない。
突き込んだ穴、気門から内臓を握って引きずり出す。呼吸ができなければ死ぬしかないだろう。
しばらくのたうち回ってようやく息絶えた。
「ふう。トト、おつかれ」
「ぷう」
さすがに疲れた。狩りは続けるにしても、少し休憩したい。が、まずは解体しないとな。
ソルジャーアントの胸殻 品質:普通
兵隊蟻の胸部外骨格。軽くて丈夫。耐衝撃性に優れる。
いい物が剥げた。これで胸当てでも作ればいい防具になるだろう。
こんな大きなものでもサイズに関係なく収納できるアイテムボックスさん、最高です
「トト、おいで」
「ぷう」
近場にあった岩に登り、トトを抱える。首から背中にかけて撫でてやれば、
「うーん、モフモフ」
夢中になりすぎないように注意せねば。
「トトもそのうちブラッシングしようなー」
「ぷう」
二十分ほど座っていただろうか。気づけばトトの感触に夢中になっていた僕は、体で振動を感じた。
「地震?」
ゲーム内で地震が起きる?何かイベントか?
あたりを見回せば何もなく、いや、土のにおい?今まさに掘り起こされたような土のにおいが漂っている。トトも鼻をぴすぴすさせて、かわいいなぁ、もう。
じゃなくて。
目を凝らせば街道の向こうから土煙が近づいてくる。
かすかに聞こえるのは馬の鳴き声か。こんな時間に何に追われてる?
「トト、様子見に行くぞ!」
「ぷう」
街道にたどり着いて確認すれば。
どっごぉぉん
「は?」
馬が爆発した!?
ひひぃぃん
ひぃぃぃん
目の前を群れが通り過ぎる。馬の背中に、こぶ?
爆裂ドリアン
パッシブ
森の中にはえる果物。熟すと少しの衝撃で爆発してすさまじい臭いをまき散らす。爆発しないように上手く処理したものは美味。
モンスター食材?爆発力は結構あるな。馬の数がどんどん減って…
「って、くさっ!!」
ドリアンが臭いとは聞いたことがあったけど、こんなに臭いのか。
…トト、涙目になるほど臭いんだね。
こうしている間にも次々と馬が吹っ飛んでいく。これは素材ゲットのチャンスか?
とりあえず見える範囲の馬から解体する。
野生馬の毛皮 品質:良
馬の皮。家畜の馬に比べ少し硬い。
野生馬のコードバン 品質:普通
馬の尻の革。かなりの運動をこなしてきた馬からしか取れない。
馬肉 品質:普通
生でよし。焼いてよし。運営は馬刺し好きが多い。
最後の情報いらねぇよ!?
ドリアンもいくつか不発弾が残っていた。これも食材アイテム扱いで収納できるようだ。
解体しながら群れを追いかけること三十分。あたりが静かになっていることに気が付いた。全滅したか?
先頭に追い付くと十頭ほどの馬が一塊になって倒れていた。いや、一頭だけ折れた足で立ち上がろうともがいている。
競馬の世界では、足の折れた馬は安楽死させるらしい。だが!モフモフ好きとしてはこの状況を放ってはおけない!放っておいてはいけない!
ホース メス
パッシブ
一般的な馬。乗用としてよく使われる。
買っておいたポーションをアイテムボックスから取り出して、馬に近づく。馬はもがくのをやめてこっちをじっと見つめる。警戒しているわけではなさそうだ。かといって生きるのをあきらめている感じでもない。
馬の前からぴったり三歩。そこで足を止める。
「なあ、その足、治させてくれない?」
声をかけて一歩近づく。嫌がるそぶりはない。
一歩。もう一歩。
見つめられるがただそれだけだ。
ポーションの栓を抜き、患部に振りかける。びくっと反応するもただそれだけ。骨折はすぐに治り、馬は戸惑うように立ち上がる。でも、逃げない。
これは、もしかするか?
「なあ、一緒にこないか?」
「ぶるるる」
肯定、と受け取っていいかな。
「スキル:テイム!」
≪ホース メス のテイムに成功しました。名前を登録してさい。≫
いよっし!
「ぶるる」
「さて、名前だな」
ホース:シンシナティ Lv:2
HP:65
MP:13
STR:21
VIT:18
DEX: 3
AGI:28
INT: 5
MIN: 5
スキル:疲労軽減 障害踏破
おお。なんかステータスがすごい。
「よろしくなシンシナティ」
「ぶるるるる」
≪召喚可能枠がありません。送還されます。≫
白っぽい魔法陣が展開されてシンシナティは送還された。
やっぱり魔法陣の色が違うんだよな。気にしてもどうにもならないけど。
せっかくテイムできたからやっぱり乗りたいよな。馬具を作って【乗馬】の有効化。蟻の鎧も作って。
「やることが一杯だ」
「ぷう」
それに、召喚可能枠。どうやったら増えるのかねぇ。
「帰ろうか」
「ぷう」
楽しくなってきた
生産回だと妙に筆が乗ります。
皮革加工の内容は実際の作業手順をもとにしていますが、大幅に簡略化しています。