26モフ目
今回は会話文九割の説明回となっており、ゲーム内容としては一切進みません。
おはようごさい……ません!どこだここは。見渡す限り上下左右前後真っ白な空間だ。明るいけどまぶしくはない。
「ロ…インを確認。…識レ…ルク……」
なんだ?
「誰かいるのかー!?」
……。
返事がない。
これはあれか?
「とうとう死んで異世界行っちゃうのか?」
「そんなわけないじゃないですか」
「うわっ!」
急に背後から声をかけられた。耳元への吐息付きで。
ぞくぞくしちゃう。
「ふむ。意識はしっかりしているようですね」
「オラトリオさんと、えっとー、名前覚えてないけどたしか担当とか言われた先生」
事故の後、VR空間で目を覚ました時にいろいろ説明と検診をされたおぼえがある。
「担当の先生忘れるとか、毛皮丸さんもひどいですねぇ」
「そんなこと言われても、もう主観で三か月くらい前の話ですよ?」
うん。三か月も前の一度しか話したことがない人なんか忘れていても怒られないと思う。
「で、この状況で二人そろっている理由っていうのは?」
「「大変申し訳ありませんでした」」
「は?」
いきなり謝られても訳がわからないよ。
「まず。現在の現実時間は六月一日13:06です」
「は?」
待て待て待て待て。半月近く時間が飛んでいるぞ!?
「直接的な原因というのは悟くん、毛皮丸くんの容体が、治療中に急変したことにあります。それにともない意識を失い…」
「フェルザードからログアウトしました。それで」
「まだ体が再生中だから、意識が戻ったときに話せるよう、ヴァーチャル空間にいれた?」
「そういうことです」
なるほど。ならこの状況もわかる、か。
「で、二人して謝ってきたのは?」
「これは事実として受け止めてもらいたいのですが」
「はい」
「この件は、警察が介入する『事件』になっています」
「……はい?」
「事の起こりは美穂さん、モフナーさんが用意したメディアにウィルスが仕込まれていたところから始まります」
「ウィルス!?」
「事故の責任を感じていたのでしょう。言葉巧みに医療プログラム反対派に思考誘導されてウィルス入りのメディアをダイブ機器に接続しました」
「かなり高度なプログラムで、我々のセキュリティソフトをかいくぐり毛皮丸くんにつながっている機械に感染。そこから毛皮丸くんの再生に齟齬が起こり多臓器不全を引き起こしました。幸い脳に損傷はなかったのですが、再び意識を取り戻すのに、これだけの時間がかかってしまいました」
「美穂が、僕に対して殺人未遂?」
あ、久しぶりに名前を呼んだ気がする。
うん。げんじつとうひだよ?
「いえ、そちらは思考誘導、というかもうマインドコントロールの域ですね。そのために罪にはなっていません。が、カウンセリングでの治療が完了するまで、ログインは禁止になっています」
「よかった、って言っていいのかな」
「微妙なところですね。まあ、妙に攻撃的になるところが出るようでしたので、ここで食い止められてよかった、とは言えるでしょうか」
「で、またゲームの方に戻りますが、ウィルスの影響でクライアントが一部意図しない挙動をしていました。具体的にはスライムイベントで毛皮丸さんに鎌が刺さった一連の流れですね。既に対応部分の削除修正は終了しています」
「なら、もうログインできる?」
「いえ、さすがに経過観察をしたいので、現実時間で一週間ばかりはここで過ごしてもらいたいです。まあ、検査はこの空間にいる限り自動で行われるので、自由にしていてもらって大丈夫です」
「暇を持て余しそうな」
「そうだろうと思いまして、ここに毛皮丸さんの浮遊岩と従魔たちを連れてこれるように現在スタッフが作業中です」
「その間、というかこれまでの浮遊岩の成長ってどうなっていますか?」
「順調に成長しています」
「……巻き戻し効きます?」
「なるほど。成長はつぶさに観察したいですか」
無言でオラトリオさんを見つめ、強く握手を交わす。
「では、倒れられたその日の状態まで巻き戻すということで。……後の保証はどうしましょう?」
「保障?」
「ゲーム内で命の危険にさらされたので、その分の補てんといいますか。もちろん、それだけで補てんはされないというか、所詮はゲームなのでアイテムをわたしてはい終わりというわけにもいかないので、現実でも補償はされますけど」
「……浮遊岩に水源を作れるアイテムと、ここで暇つぶしができるだけの革素材と木材」
「えっと、それでいいんですか?」
「ぶっちゃけ思いつかない」
「……わかりました。そんな程度では足りないので、あとは後日相談ということで」
「そういや、犯人って捕まったんです?」
「……まだ、ですね」
「そうですか」
「すいません」
「これは二人に文句を言ってもしょうがないでしょう。でも、セキュリティはきっちりおねがいしますね」
「それはもう」
「……」
「……」
「……」
「間がもたないですね」
「二人ともログアウトしたらどうです?浮遊岩来るまでそんなにかかるんです?」
「いえ、一時間もかからないです」
「じゃあ、少し一人にさせてください」
「わかりました」
「それでは」
……。
いった、よね。うん。行った。
淡雪たちが来るまでに少し泣こう。
たとえモニターされていたっていい。僕にわかる範囲だけでも誰もいないここで。
笑顔で迎えてやらなきゃな。だからちょっとだけ。
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お読みいただきありがとうございます。
ようやく「敵がいる」設定を出すことができました。ここに着地をさせたいがためにモフナーの行動が少々強引になってしまいましたが。
今後の展開として反対派の刺客とやりあう展開はありえます。ただここまでの登場キャラクターに刺客は存在していないことはここで明言しておきます。




