23モフ目
お読みいただきありがとうございます
おはようございます。今日も今日とて石拾い。
そういえば、とうとう【付加】の取得者が出たようで、第一陣の中にアイテムボックスが出回り始めた。
うん。ようやくかよ。
いい加減ベルトリスに移るプレイヤーが増えてきて、同じように移動してきた大五郎からそんな話を聞いた。
プレイヤー達は目下馬をテイムしようと頑張っているようだ。攻略組も徒歩で強行突破していたのが限界に来たらしい。ちなみに三つ目の街はまだみつかっていない。村ならそれなりに近いところにあるのにな。
≪おめでとうございます。従魔:マイスナ がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
マイスナはずっと浮遊岩の拡張作業を頑張ってくれている。今の面積はだいたい1ブロックほど。僕が寝てる間も活動してくれるマイスナさん、マジ、パネェっす。
そろそろ家を建てるかな。
フェルトパペット:マイスナ Lv:5 up
HP:27 up
MP: 8 up
STR: 9
VIT: 7
DEX: 9 up
AGI: 5
INT: 3
MIN: 3
≪従魔:マイスナ は 機織り を習得しました≫
順調に生産系の道だな。
現在のメンバーは、淡雪、シンシナティ、ドリー、プラムだけど、誰一人レベルは上がっていない。というのも一週間のうち半分ほどログアウトしていたからだ。といってもログアウトしたからって意識はなかったんだけど。理由は、僕の体の治療が少し進むときに、ダイブ状態では進められなかったこと。医療用VR筐体を一度外さないと治療ができない箇所だったらしい。それにかこつけ、連続ログインし続けている筐体に不具合がないかどうかの検査もしたらしい。
そのせいかどうかわからないけれど、ゲーム内でも少々だるかったので戦闘は避け、石拾いに集中していた。運営と運営経由で医者にも問い合わせたけど特に体に問題は出てないらしい。今は調子も戻ったしね。
蛇足としてゲーム自体のメンテナンスもその時にあったらしいけど、アップデートもなにもない、本当にメンテナンスだけだったらしいので僕にはほとんど関係ない。
さて、家を建てるとすると木材が必要になるな。森で切ってきてもいいんだけど、金はかなりあるので、ここは買うことにしよう。林業ギルドで大量に買ってもアイテムボックスで持ち運びには特に問題はない。というか、ログハウスキットというのがあったのでそちらを購入。
今回は全員で移動することにしようか。
といわけで浮遊岩です。
うん。みんなが一堂に会すると壮観だな。早くワタツミも呼べるようにしたいものだ。
「では、割り振りを発表します。まず淡雪とプラム」
「きゅ」
「ぴぃ」
「二人はゆっくりでいいから持ってきた石で拡張作業を」
「きゅ」
「ぴい」
「マイスナは僕の手伝い」
ぴっ
「トト、シンシナティ、ドリーは悪いけどやることがない」
「ぷう」
「ぶるるる」
「めぇ」
「何かあったら頼むからのんびりしててくれ」
四本足じゃあ作業できないもんね。
「さて、始めますか」
まずはキットの丸太の皮をすべて剥こう。専用の道具があるらしいけどそんなものは持っていないから、ナイフで気合で剥く。剥いた後を整えるのはマイスナに任せる。
一通り剥き終わったら丸太の杭をさし、土台にする。地面が岩だから打ち込めないので、杭の周りに石を融合させて固める。場所はコアルーム階段の上だ。
次に土台用と書かれた半割の丸太を杭に渡す。その上に一番太い丸太を乗せ、「井」の形になるようにする。後は生えていた時の方向が互い違いになるように組んでいく。組む時の溝はもう彫られているので、その点は楽だけれど、五段目あたりからは【祝福】でSTRを強化してもつらくなってくる。
遠慮なく淡雪の力を借りました。さすがドラゴン。飛んだら楽々です。
十段積み上げたところで、今日の作業は終了。
おはようございます。今日の作業は梁からスタートする。長い柱一本、短い柱二本をセットとした二セットを、対になるようにほぞ穴に打ち込む。
「空圧掌!」
打ち込むだけならハンマーを使うより早くできるな。六本ともさっさと終わらせてしまおう。
それぞれの対になった柱に、屋根の形に面をとられた梁を乗せる。そしてこれも空圧掌で打ち込む。
これで屋根はいったん置いておいて、次はドアと窓だけど、どうやって穴をあけようかな、これ。当然のこぎりで開けるんだけど、そののこぎりを通す穴をまずどうやってあけるか。
トトにかじってもらう?ムリそうだよね。
シンシナティに乗ってチャージ?狙ったところに行かない。
淡雪のブレス?ログハウスごと吹っ飛ぶ。
何かいい手はないかな……と、ステータスを見たら、【槍】にいい物があるじゃないか。
「いけっ、スパイラルシュート」
手からわずかに離れた槍が回転を始める。回転速度が一番高まったところで、システムアシストに従い、槍を投げる。
ズガンというような音を立て、槍は丸太の壁に半ばまで刺さって止まる。
「うん、いけるな」
これを窓の分だけ繰り返す。
そうして最後の部分につき立った槍を引き抜けば、手の中で砕けポリゴン片をまき散らして消えていく。
「Oh。耐久値なくなったか……」
まあ、槍のことは後回しだ。ログハウスを進めよう。
槍で開けた穴を鑿で拡張し、鋸を通してドア枠、窓枠を切り抜く。次に角材、板材を組み合わせてドアと窓を作り、取り付ける。ちなみにガラスがないので、窓は落とし戸だ。
あとは淡雪に手伝ってもらいつつ屋根を張れば外観は完成だ。
疲れたから今日はここまでだな。
モフって癒されようそうしよう。
トトさん、逃げるんじゃありませんよ?プラムが赤面するような撫で方でモフってやるからね。
おはようございます。今日は床を仕上げます。
プラムさん。息も絶え絶えなトトはゆっくり休ませておいてね。
ホーラコワクナイヨー。
床を張るにはまず、壁に掘られたほぞ穴の高さに合わせて束石を置くところから始める。
次にほぞ穴に木材を組み込んでいくんだけれど、コアルームに下りる階段のスペースを作るために構造を少し変えておく。床下収納なノリで、床を上げたらあら階段が!
隠しスペースっていいよね!
こほん。あとはフローリングを張る要領で床板を張っていく。根性がないから隠し釘にはしない。床板を張るのは全体の四分の三ほど。残りは土間だ。土じゃなくて石だけど。台所というか、竈とか作らなきゃいけないからね。
というわけで、僕の拠点となるログハウスは昼頃には一応の完成を見た。
何で一応か?だって家具とかないからね。少なくともベッドくらいは作らないと。ドリーにくるまって寝るのもいいんだけど、そろそろ熱くなってくるからな。
そう思うとドリーの毛も一度刈った方がいいんだろうか。
ちらっと見ればびくっとするドリー。
ちらっ
びくっ
ちらっ
びくっ
ちらっ
びくっ
……。
あれは喜んでいるのかもしれない。ドM的な意味で。
むしろ悦ぶ?
……深くは考えまい。
さて、気を取り直して。
ベッドだ。枠は作るとして、布団をどうするか。
ファンタジーの庶民だと藁に布をかけるのが一般的か?これは寝にくそうだからパスだな。
宿のベッドはどうだったか。【鑑定】はしていなかったけど、感触としては現実で使っている綿の布団とそう変わらなかったな。つまりそれくらいの布団は手に入れられるということだ。
でも、せっかくのファンタジーだ。そこらにはない素材で寝てみたい。
羽毛布団ということで淡雪の毛をむしるか。
びくっ
羊毛も柔らかいよな、ドリー。
びくびくっ
トトはせいぜい枕だな。今も抱き枕だけど。
視線を向けるたびにびくっとする二匹。うん。ドリーは絶対喜んでいるよな。
≪従魔:ドリー は 感覚転化 を習得しました≫
……何を覚えてやがる。システムメッセージ自重しろ!
≪システムメッセージをオフにすると、レベルアップなどが把握できなくなる可能性があるため、おすすめできません≫
そうじゃねぇよ!
『感覚転化:与えられる刺激を別の物に変換する。変換できるものとできないものがある。』
これあかんやつや。
僕の視線とか、自分の羞恥心とかを絶対変換するだろう。快感に。
どんだけだよ運営。
まあ、覚えてしまったものはしょうがない。切り替えて布団の調達に行こう。
そんなわけでベルトリスまで来た。お供はマイスナとプラム。
「あれ、毛皮丸やっほー」
振り向けば、そこにはモフナー、ヒサゴさん、田吾作さん。
「わ、新しい子?」
「ん、ピクシーだ」
「うわぁ、かわいい!」
急に注目を浴びたからか、プラムは僕の後頭部に回り必死にしがみつく。
痛い痛い痛い!耳の付け根の毛は痛い!そしてまた禿げる!
「で、こんなとこでどうしたの?とっくに次の街なり、行ってると思ってたんだけど」
「ちょっと布団の調達にな」
「なんで布団?寝袋持ってるよね?」
「拠点ができたから、ベッドが欲しくてさ」
「なにそれ!」
モフナーに首根っこを掴まれ路地裏に連れ込まれた。
そしていろいろ搾り取られた。
「ぐすん。もうお婿に行けない……」
顔を手で覆ってしゃがみこむ僕の周りを、三人が取り囲んでいる。
「モフナー。昼間から何やってるの!」
「え、いや違……」
「プラムちゃん怯えてるよ?」
「えっと……」
まあ、壁ドンされてにっこり微笑まれて拠点の情報をあらいざらい吐かされただけなんだけど。
うん。面白いからもうしばらくこのままにしておこう。プラムは氷砂糖で機嫌を取っておこうか。
「大変申し訳ありませんでした」
最終的に、モフナーが正座させられることになった。
「ぴぃ?」
「うんプラム。放っておいて大丈夫」
「ちゃんと反省してる?」
「してるしてる。だからもういいでしょ?助けて毛皮丸~」
田吾作さんとヒサゴさんのアイコンタクト。うん。嫌な予感がするね。
「反省の兆しが見られないようなので、これより焼き土下座に移行します」
「石も抱えようか」
「いやー!やめてー!」
コアラのように泣き叫ぶモフナー。
「じゃ、そういうことで」
うん。これ以上かかわってはいけない。
情報を仕入れるなら冒険者ギルド。
ということで、ギルドで聞いてきたここは繊維街とでもいうようなところ。糸から布から、糸になる前の繭とかわたとか。まあ、いろいろある。
ギルドにたまたま依頼に来ていた宿のオーナーによれば、布団はそれぞれの手縫いらしい。なんでも宿のランクに合わせて作っているんだそうな。となれば僕も作ることになるわけだけど、うちには【裁縫】持ちのマイスナ先生がいる!というわけで、僕が寝たい素材を探しているわけなんだけど。
「何か面白いものないかねぇ」
ぴっ
「あんまり変なのだと縫いにくいって?」
ぴっ
「まあ、ガワは綿かスパイダーシルクあたりを考えているんだけど」
ぴっ
「そう。中身なんだよなぁ。やっぱり淡雪を剃るか?」
ぴっ
「おっと、これなんだ?」
目に入ったのは、軒先につるされていた袋の名前。
「何かいるものがあったかね?」
「これ、ちょっと見せてくれない?」
「はいよ」
店員に袋の中身を見せてもらう。
変温コットン 品質:普通
まとうものの心地よい温度を察知して自身の温度を変える。ただし、限界あり。
「これで布団作ったらどうだろうか?」
「いいんじゃないかな?貴族は好むっていうよ」
貴族いるのか。
「どれくらい量ある?」
「布団一組の中身にするくらいの在庫はあるよ」
「買った」
「値段聞かなくていいの!?」
「いくらだ?」
「5万Fだ」
「買った!」
「売った!」
降下の詰まった袋と引き換えに十分な量のコットンをもらう。
「あと、どっかにスパイダーシルクの布扱ってるとこない?」
「贅沢するなぁ、兄さん。三軒向こうで扱ってるはずだよ」
「よし。いってみるよ」
「ありがとうございましたー」
さあ、これで目途はついた。あとは角材を買って帰らないとな。
どこまで連続でいけるか……
途切れても怒らないでください
今回を持って10万字を突破しました。




