2モフ目
なんとか一週間で更新…
目覚まし機能で起きれば6:00。現実世界の二倍の速度で過ぎていくこの世界の時間だけれど、それなりにすっきりするらしい。
「おはよう、淡雪」
「きゅい」
身支度を整え、朝食を食べる間に今日の予定を決める。
「まずは何をするにしてもお金だよね」
今の僕の所持金では、入門キットはおろか、武器も買えない。
このゲーム、初期装備の武器なんてものは存在せず、プレイヤーが自分の使いたい武器を買って装備して初めて対応するスキルが解放される。
でも、今の僕には武器を買う金がない。となれば身一つで戦うしかない。初期戦闘スキルとして【格闘】を選択。
≪スキル:格闘 が有効化されました≫
昨日図書館にこもっていた時には完全にスルーしていたシステムメッセージ。イベントログを見返してみれば スキル:筆記 と スキル:読書 がちゃんと有効化されている。
プレイヤー:毛皮丸 Lv:1
HP:53
MP:24
STR:13
VIT:10
DEX:16
AGI: 9
INT:11
MIN:10
スキル:テイム: 0[1/2]
召喚:10
格闘: 0
筆記:20
読書:50
テイムのところの数字はテイム可能枠かな?
≪初めてステータスを見るプレイヤーの方へ。ステータス初期値はプレイヤーの方の経験をもとに独断と偏見にて算定しております。≫
誰がのろまだ!確かに脚は遅いけど大きなお世話だ!
DEXはあれだ。リアルで物作りを趣味にしているのが効いているんだろう。
それはともかく。
狩りをしていろいろかせがにゃ。
門を抜ければ街道の両側に広がる草原。プレイヤーは街道を行かず、両側の草原に散っていく。初期装備である麻の服、麻のズボン、端革の靴のままのアバターはほとんどいない。
これは早くいろいろ揃えないとな。
戦闘未経験者である僕が狙うのはウサギ。草原に幅広く分布している、初心者用モンスターだ。皮をはいでよし。肉を食べてよし。
プレイヤーが群れる場所を避けること30分。ようやく獲物の姿がちらほら見えるようになってきた。
誰も狙っていないウサギは、いた。淡雪を促し戦闘態勢に入る。
「きゅい!」
淡雪に牽制させながら背後をとる。そのまま延髄に向かってこぶしを振り下ろせば。
≪スキル:解体 が有効化されました。解体用ナイフがプレゼントされます。注意。このナイフは武器として装備できません。≫
なんだかナイフをもらったようだ。このナイフで剥ぎ取れってことだよね、やっぱり。
どうやら実際に捌かなくても解体はできるらしい。皮をはいで内臓抜いてなんてスプラッタとか勘弁してほしいからね。
で、毛皮が残ったわけだけど。
≪スキル:識別 鑑定 が有効化されました。≫
システムメッセージ忙しいな。
ともあれこれでアイテムの情報とモンスター、プレイヤー、NPCの識別ができるようになったわけだ。
まずは毛皮を鑑定してみようか。
野ウサギの毛皮 品質:難あり
解体技術が甘く、ところどころ破れた毛皮。使える個所は限られる。
……。さあ、気を取り直してどんどん狩りましょう。
最初だから仕方ないよね?ね?
ワイルドラビット オス
パッシブ
次のウサギを識別してみれば、こんな内容だった。
即、獲物に変える。
見つけた端から獲物に変える。
獲物に変え
獲物に
獲
気が付けば太陽が頭上高くで照らしている。
今のウサギでレベルアップもしたようだ。
≪おめでとうございます。プレイヤーがレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
プレイヤー:毛皮丸 Lv:2 up
HP:61 up
MP:32 up
STR:13
VIT:10
DEX:16
AGI:11 up
INT:11
MIN:10
スキル:テイム: 0 [1/2]
召喚:10
格闘:12
筆記:20
読書:50
鑑定:12
識別:12
解体:12
≪おめでとうございます。従魔:淡雪 がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
どうやら召喚モンスターのことを従魔と呼ぶらしい。
そういえば淡雪のステータスは一度も見ていなかった。
ラヌーゴドラゴン:淡雪 Lv:2 up
HP:32 up
MP:11 up
STR: 9
VIT: 9
DEX: 3
AGI: 7 up
INT: 7
MIN: 6
スキル:幼体
幼体?プレイヤーのスキルリストにはなかったものだ。お?説明みれるのか。
『幼体:モンスターの赤ん坊。睡眠の状態異常にかかりやすい』
寝る子は育つか!いや、実際育つかどうかは知らないけど。
腹も減ったし、皮袋も一杯になったから一度帰るとしよう。
昼時のパツダはプレイヤー、NPC入り乱れて人であふれていた。こりゃ飯屋は確実に混んでるな。余裕ができれば料理も取得したいところだ。
「淡雪。町を見て回って少し時間をつぶそう」
「きゅい」
港側にある商業区画に足を運んでみれば、プレイヤーの露店はまだまだ数が少ないようだ。リアルでようやく二日目の午前中。インしている人も物を売れるだけ生産してる人も少ないのだろう。
って、道を埋めてるプレイヤーの数は?まさか平日午前中からログインしているのが多いのか?うん。深く考えるのはやめよう。
多少なりとも開店しているプレイヤーの露店をひやかしてみれば。
「金属装備は皆無。皮革加工で多少先行してできたアイテムと、調薬のアイテムか」
革になる前のまだ皮の状態のアイテムとポーションの類。プレイヤーの露店はそれだけで占められている。
かといってNPCの露店はといえば。こちらは主に食料品などで占められている。
全体的に見ればまだ見るべきものはないかな。
皮と肉を換金するために冒険者ギルドにやってきた。ハンターギルドも兼ねるファンタジー世界の典型的なギルドだ。
現在番号札を握りしめ、買取の順番待ちだ。淡雪は送り返している。
くそう。モフモフ成分が足りない。我にモフモフを与えよ。
だんだん禁断症状めいてきたのをうつむいて耐えていると、視界に毛皮で覆われた尻尾が飛び込む。
うん。僕にもモフモフの尻尾があったんだよな。
ごくり。
「73番でお待ちの方―」
おっと、呼ばれたようだ。
うん。禁断の一線を乗り越えなくてよかった。
「お待たせしました。ウサギの毛皮と肉、各10個ずつで600Fになります」
まあ、こんなものか。プレイヤーがかなりの量を持ち込んでるだろうし。でも、入門キットを買うには全然足りない。手っ取り早く金が稼げるアイテムかなにかないだろうか。
依頼が張り出されている一角に足を向ける。
高額報酬の依頼はみんな難易度高いんだよな。
っと、一枚だけ、ほかの紙にうもれてるやつがある。
―求 竜の被毛!
竜であれば種類問わず
必要量 握りこぶしほど
抜け毛も可
委細相談
報酬
「報酬、いち、じゅう、ひゃく、せん……」
二十万F!?
破格なんてものじゃないな!依頼主は、錬金術師?なんかの触媒ってことかね。
とりあえず紙を剥ぎ取って受付へ持っていく。
「すいません、受注お願いします」
「はい。っと、これAランクの依頼ですが」
「大丈夫です。たまたま僕の従魔が幼竜でして」
「なるほど。それでしたら破格の条件ですね。はい。受理完了しました。いてらっしゃいませ」
外に出たら早速淡雪を召喚する。
二度目となる立体魔法陣。
「ご飯に行こうか。淡雪」
「きゅい♪」
結論から言えば飯屋は依然として混んでいた。多少の時間つぶし程度では変わらなかったようだ。たまたま人が少なめの屋台街があったから、昼はそちらでとることにする。
二人分で100Fのシカ肉の串焼きはうまかった。
「ところで淡雪」
「きゅ?」
「お前の毛をちょっとわけてほしいんだけど」
「きゅ!?」
びくっと固まった淡雪が微妙に後ずさりする。
「何も剃るとかそんな話じゃなくて。ブラッシングの時にでる抜け毛でいいんだよ。それだけでお金がうはうはだ」
「きゅー」
それは安堵の溜息か。淡雪よ。僕はそんな鬼畜じゃない。いっそロープで縛ってやろうか。
「きゅきゅ」
「…淡雪さん。何でほほに手を当てて微妙にうつむいてるの?」
まさか僕の思考を読んだ?まさかね。
まさか、ね。
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