1モフ目
初めての投稿になります
目を開けば、そこは見知らぬ港町だった。
僕、毛皮丸こと飯田 悟はここ、フェルザードという名の世界の、パツダという港町に降り立った。といっても、ここは異世界などではなく、今日サービスが開始されたVRMMORPG、ゲームの世界だ。
事の起こりは一週間前。幼馴染の鮎川 美穂と一緒にゲームセンターからでたところ、トラックに突っ込まれた。なんとか彼女を突き飛ばして逃がしたけれど、僕は間に合わずにめでたくサンドウィッチ。
目が覚めたのは今日。病院のVR筐体の中だった。もとい、VR世界の中だった。説明してくれた先生によると、僕の体は生きているのが不思議なほどぐちゃぐちゃだったらしい。治療には最低でも一年、再生細胞を使わなければいけないらしい。その間体はずっと激痛にさいなまれる。で、僕さえよければ治療のテストケースとしてVR世界で過ごさせてくれるらしい。ようするに麻酔替わりと。
速攻でゲームに飛びつきました。
で、現在僕は件の幼馴染、キャラネーム モフナー にすがりつかれ、泣かれてる。
「よかったよー、ほんとによかったよー!!」
まあしょうがないので甘んじて受け入れておく。
まわりのプレイヤーの視線が痛いけどな!
さて、このゲームの魅力の一つにモンスターを手なずけることができるというものがある。それに対応して、プレイヤーにはキャラメイク段階でランダムに初期段階のモンスターがプレゼントされる。僕の相棒というのが
「きゅい」
種族名 ラヌーゴドラゴン 個体名 淡雪
モフモフの毛皮には全然足りないが、先が楽しみなふさり具合のドラゴンだ。小さい羽根をパタパタさせながら、絶賛指を甘噛み中。町中だからダメージは入らないが、地味に痛い。
ちなみにモフナーの相棒は
種族名 キャット 個体名 ニャコ。
一般的な猫のモフり具合だと思う。
「ぐすっ」
ようやく泣き止んできたみたいだ。
「そろそろ勘弁してくれないかな?周りの視線が痛い」
「むぅ」
まだ不満みたいだけれど、なんとか離してもらった。
「ほんとはもっと一緒にいて無事を祝いたいんだけれど、いろんなところに報告に行かなきゃいけないから今日はこれで落ちるね」
「そか。うん。おばさんたちにもよろしく」
「よろしくされました」
おたがいにおどけて敬礼をかわすと、モフナーはログアウトを選択して落ちていった。
「さて」
改めてあたりを見回してみれば、まわりにいるのは人、人、人、人、もとい獣人のひとだかり。このゲーム、いわゆる人間は存在せず、プレイヤーアバターはすべて獣人になる。攻略を進めれば飛行型とか水生型になることもできるらしいが、現状すべてのプレイヤーが陸上型だ。
ちなみに僕は犬耳にしっぽがついただけのアバター。モフナーは手足や背中まで毛皮に覆われたウサギ型のアバターだ。獣度はプレイヤーによってランダムらしい。
人の流れは大方町の外に向かっている。早速戦闘を行うのだろう。残っているのは生産職組か。
このゲーム、世界に存在するものはすべて。存在しないものはプレイヤーのリアルスキル次第で何でも作れることになっている。もっとも車みたいに世界観を壊すものは運営からストップが入るらしいが。
そして僕が狙うプレイスタイルは両方。せっかく24時間ログイン状態なんだ。ひとができないところまで行ってみたい。そして我にモフモフ王国を!
そのためにもまずは情報収集。町レベル以上のところなら必ず一軒あるという図書館を探して僕らは歩き出した。
「図書館のご利用ですか?一回50Fになります。複写用の紙は一枚10F。100ページの本は一冊900F。筆記具は100Fになります」
道に三度ほど迷った僕らは、MPCに案内を頼み、ようやくのことで図書館にたどりついた。淡雪の目が若干冷たい気がする。
「本と筆記具をお願いします」
財布から1050Fを支払う。初期費用5000Fだからそれなりに余裕がある。
このゲーム、おそろしいことにストレージのような初めからある空間収納は存在しない。すべてのアイテムを自分で持ち運ばなければならないのだ。
「あ、召喚獣は入館不可ですよ」
入ろうとしたところで受け付けのお兄さんから声がかかる。
Oh
つぶらな瞳で見上げてくる淡雪を泣く泣く送り返す。
まあ、出るときに召喚すればいいんだけどね。
テイムモンスターも売りなこのゲームだけれど、どこでも自由自在とはいかないらしい。
しょっぱなからモンスターを送り返しているのは僕くらいなもんだろう。
さて、気をとりなおして読書タイムとしゃれこみましょうか。プレイヤーは僕だけのようだし。
はっ
気が付けば窓の外が暗くなりかけている。かなり集中していたみたいだ。途中で何度も読み終わった本を取り換えていたのに気が付かなかった。
「ずいぶん集中してましたねー」
横を向けば司書のおねーさんがいた。なんか困り顔?
「ええ。楽しく読んでます」
「楽しいところ申し訳ないんですけど、閉館の時間です」
ありゃ、これは失念していた。
「すいません。すぐ片付けます」
荷物はそんなにない。複写用の本とペンを皮袋に突っ込む。
「またのご来館をお待ちしています」
司書さんに見送られて図書館を後にする。
「まずは淡雪を呼ばないとだな」
スキル:召喚
我が呼び声に応えよ 汝我が友淡雪 来たりて現れよ
意識して召喚の詠唱をすれば足元に現れる球形の立体魔法陣。中から出てくるのは当然淡雪だ。
「おまたせ淡雪。ご飯でも行こうか」
「きゅい!」
ゲーム内時刻は19:04。プレイヤーの飢えも渇きもあるこのゲーム。ログイン時間がゲーム内で12:15。そこからずっと飲まず食わずだったので空腹度もいい加減限界に近い。
一番最初に見つけたモンスター可な食堂に入ることに決め、夜の港町に踏み出した。
予定は未定。狙いはもろくも崩れ去る。行けども行けどもモンスター可な食堂が見つからない。
淡雪の前を見ていた顔もだんだん下を向いてきた。
うん。掲示板を見たらいい店乗ってるかも。
早速メニューから攻略掲示板にアクセスしてみる。
食堂 モンスター可 検索と。
【モフモフ】パツダのモンスターもいける食堂 宿【まうまう】
1.名無しのモフモフさん
このスレはパツダの町でモンスター同伴可の食堂 宿の情報を共有するスレです
こぞって書き込んでください
2.名無しのモフモフさん
メインストリート真ん中あたりのベッドの上のマグロ
カルパッチョうまー
3.名無しのモフモフさん
メインから東に3本入った南地区 ぎりぎり崖っぷちのサザエ
パスタうまー
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回ってみればどこも19:00閉店だったよこんちくしょー。
待てよ?宿なら高い確率で食堂併設だよな。
スルーしてた書き込みの中から宿に関する分をピックアップ。よさそうなところは、と。
ウミガメの甲羅亭
町一周回って図書館裏まで帰ってきたよコンチクショー。
ぼやいてもしょうがないから扉をくぐる。
「いらっしゃい!泊まりかい?一泊二食で500F。召喚獣は、そのサイズなら食事代だけでいいよ。二食で200Fだ!」
一泊700Fか。
「三泊たのむ」
「あいよ。部屋は304だ。カギはこれな。食事はすぐできるがどうする?」
「それじゃ頼む」
「そっちの子は肉でいいかい?」
淡雪をうかがえば首を上下に振る。
「いいみたいだな。じゃ、適当な席にすわっとくれ」
出てきたのはいわゆる焼き魚定食といったところか。パンなのが残念なところ。淡雪には生肉が皿に盛られて出される。
【鑑定】スキルはまだ有効化されていないから情報が取得できない。
「うまいか?」
「きゅい♪」
量、味ともに満足して部屋に引き上げる。
ベッドとテーブル、小さい棚があるだけの簡素な部屋だが、当面の拠点としては問題ない。まだまだ先の話だけど、もっと住環境をよくしたければ部屋を借りることも家を建てることもできるだろう。
荷物を転がして靴を脱ぎ、ベッドに転がる。寝る前に今日得た情報の確認だ。
図書館は本当に情報の宝庫だ。まさかかんな最初の町から重要な情報がいくつも転がっているとは思わなかった。最優先で用意したいのはこれ。
アイテムボックス
重さや大きさを無視して物を入れれる魔法のカバン。生産スキルの【皮革加工】、魔法スキルの【付加】を有効化すれば作成可能になるらしい。両方とも有効化するには方法は二種類。NPCの職人に弟子入りするか、入門書を読み込んで入門キットを使って初心者メニューを成功させるか。
NPCに弟子入りすると時間がとられる気がする。よって自力で頑張ろう。
決めることを決めれば後は明日だ。
おやすみ、淡雪。
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