昔のはなし(十年前)
昔のはなし(十年前)
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「馬鹿、そんなの死ぬわけないだろう」
チッと、お得意の舌打ちをし、苦々しい顔をつくる。舌打ちと、すぐに馬鹿と罵る母の口癖はきっとこの婆さんの遺伝子から受け継いだものだろうと解釈した。二人とも人を不愉快にさせる天才だった。
「質問がくらだらないんだよ、馬鹿」
ノストラダムスの予言で丁度世間が騒いでいた頃だった。日付が近付き、テレビでも話題になっているから、学校でも一日に一回はその話題が小学生の僕らにも出てきたし、僕自身もわけのわからない、世界が終わるという漠然とした恐怖に身を震わせた。母親も本気とも嘘とも取れない様な顔で「若いのにねえ」とよく僕に言っていた。
しかし婆さんだけはこの話に関して、くだらないの一言で片づける。僕がしつこく婆さんにどうしようと相談すると婆さんは面倒臭そうに叫んだ。
「絶対死なない、滅ばない!もし滅亡したら私が死んでやるよ、馬鹿」
そう言ってから、がっはがっはと笑った。
世界は滅ばなかった。ノストラダムスの予言は外れた。しかし、婆さんはノストラダムスの予言の月に公園で猫に虐待を行っていた若者を注意して、その若者に刺されて死んだ。