五十九話 英雄の棺桶
少しでも近づけば周囲の空間ごと抉り食らおうとする異形の誘導、それは至難を極まるかと思われたが、意外にも呆気なく終わった。
異形は、はじめからグラスなど目にすら入れてなかった。
グラスを無視して、異形はただひたすら巨人を突っ込んでいってしまったのだ。
異形から見れば、グラスは食おうとすればそのたびにぬるぬると逃げる鰻、それに対して巨人は巨大でありながら極上の旨味を全身に持つ最高級の逃げない牛。
どちらが労働に対して旨味が多いかなど、論ずるまでもなかった。
だが、巨人はその巨躯に反しておかしいぐらい俊敏だ。
確かに動きはのろい、しかし圧倒的なまでの体表面積がそれを埋める。
異形は飛びつくたびに、巨人へ殴り飛ばされ大地にクレーターをつくりあげていった。
だが、異形はそのたびにカウンターのように拳の肉を抉り食らい、回復していく。
まるで永遠機関。千日手。ループ。
あえて優劣を定めるとすれば、分があるのは異形にあるはずだった。
異形は巨人の肉を食らえば回復するし、徐々に巨人の動きにも対応し始めている。
それに対し、巨人は殴れば殴るほど肉を食われていく。
だが・・・だがしかし、それは一つの条件があった。
一回の捕食で、異形の全ての傷を回復できる分のエネルギーを確保できるかどうかという条件だ。
もちろん、そんなことはありえるわけない。
異形の体の傷は、徐々に徐々に増えていっている。
『・・・まずいぜ兄貴。親父殿の体の罅が増えていってる。これじゃあ、直ぐに破綻するぞ』
「・・・・・・」
異形が負ければ、世界が滅ぶ。
巨人が負けても、世界が滅ぶ。
どちらに転がっても、結果は同じ。
実に不快なことに、人間達の考えと同じように二匹にはここで相打ちしてもらわなければ世界が滅んでしまうのだ。
だが、このままではそのバランスも崩れる。
使うしかない―――最終手段を。
「・・・グラス」
『なんだ?』
「後は頼みましたよ」
『・・・はっ?』
「コーカサス、アラクネ、アルゼンにも伝えておいてください。怪物が少々増えますが一匹も通すなと」
『ちょ、待てって兄貴!急に何を―――』
グラスの言葉を最後まで聞くことなく、ベルゼは通信を切った。
自らの創造主は正気すら失っても尚、世界の脅威へと立ち向かっている。
ならば、己が躊躇ってどうする。
世界を救いたければ、主との約定を守り通したければ―――
「この命一つで、世界が救えるならば安いものです・・・!!!」
覚悟を決め、【廃具の棺】に手を押し込む。
目的の物は直ぐに見つかった。
【廃具の棺】から手を引き抜けば現れたのは、更に小さな箱。
金属的光沢を持ち、青い光の線を模様を描くようにはしらせる機械的な箱であった。
その箱は、禁忌の兵器の鍵。
使用者を破滅へ導く禁断の箱。
だが、ベルゼは一切躊躇することなくそれを割った。
真っ二つに割れた箱の中から溢れ出るのは、瞬く光の雲。
多種多様な色に輝く雲は、吸い込まれるようにしてベルゼの体内へと消えていく。
もう取り返しはつかない。
これを吸った以上、元の体に戻ることも不可能。
しかし悔いは無い。悔やむ気も無い。
「我が命は、主がためにッ!!!起動【英雄の棺桶】!!!」
ベルゼは、未来を捨てた。
*
まるで、ではない。ような、でもない。
地獄、絶望、死、そうとしか言えない戦場で、大陸最大国家の王は地平線へ目を凝らす。
「・・・あの異形の魔物はやはり・・・」
異形が遠くへ飛んだことにより若干和らいだが、それでもまだ痺れる体に鞭をうち、笑う膝を意思で押さえ込み立つ。。
王は、まだ一度も異形の原型となるものを肉眼で見たことは無い。
だが、理解できてしまう。
あれこそが・・・
「・・・・・・魔神」
皆の声を代弁するように龍と人の混ざり者の王が呟く。
その言葉に答えるものもいない。肯定の意を表す者も、否定の意を表す者もだ。
それも当然であろう。それ以上の結論がないのだから。
「くっくっく、ここまでの威圧は生まれて初めてだ」
人の王は全身で笑う。
「エクス王、もしや一戦交えたいなんて馬鹿げたことをいうつもりはなかろうな?」
後ろからかけられた声に振り向くことは無い。
誰が後ろにいるかなども、もうわかりきったことであるからだ。
「残念ながら、アレには勝てんさセレス殿。なるほど、これが真の強者に相対したものが味わう絶望か。この半生で一度も味わえないわけだ・・・あんなものが何体もいたら、この世界は存在していない」
「黄昏ている場合ではないぞエクス王。魔神の威圧で、連合は本当に壊滅状態だ。更に最悪なことに湖国の巫女もが異形の威圧で気絶した・・・目覚める兆しも無い。これ以上に最悪なことは無いといっていた自分をぶん殴りたいぐらいだよ」
「自傷行為なら後にしてもらおう。我々のやることは変わらん。自らの国を、この大陸の存亡をかけ剣を取るのみ。・・・怪物の出現は止まっておらん。むしろ激化してるぐらいだからな。いくぞ世界最強の魔術師―――【七色の彗星】よ。我々の義務を果たしにいこうぞ」
「森国に伝わる古き英雄の名か・・・今ならその名を名乗っても、罰は当たらんだろうな。【落天の彗星】が残らなかったことは残念であるが、無いものを強請ってもしょうがあるまい。この杖と英雄の名にかけ、義務を果たそう」
「・・・・・・龍神様は我々に託を残された。ならば、その信頼に応えるのが我ら龍人族の勤め。・・・・・・共に地獄へ付き合おうぞ」
「ふははははははは!ルフ殿も今日はいつになく饒舌だな!これは明日は槍が降るかも知れんぞセレス殿」
「それは、いかんな。そんな奇怪な天気を見逃すわけにはいかない。是が非でも明日まで生き残らなければいけなくなったぞエクス王」
王たちは、日頃の堅苦しい肩書きも何もかも忘れ、まるで古き友のように笑みを交わす。
彼らの中で、明日の朝日を見れると思っているものは誰一人としていない。
だが、彼らには義務がある。
誰に強制されたわけではない。己が己に課した義務だ。
国の頂点に立つものならば、己の民を守るのが務め。
やけを起こしたわけでも、自暴自棄になったわけでもない。
このまま呆然と立ちすくみ死ぬぐらいなら、せめて民を食い殺そうとする怪物一匹でも多く屠る。
それが彼らの信念であった。
「ああ、我らの門出を空も祝福しているようだぞエクス王。空に銀の光がはしっているではないか」
「なんと、星々まで祝福してくださるとはありがたい。これはもう引くことは出来んな」
あくまで陽気に、王は笑う。
そうでもしなければ、いまにも足が止まってしまいかねないから。
彼らは王とはいえ、恐怖と言う概念を知る生物であることには違いないのだ。
二人の王の陽気な言葉を聞き、龍人の王も顔をあげる。
空には、確かに銀色の軌跡がはしっていた。
しかし、ルフはその軌跡・・・流星に疑問を持った。
流星は、この世界では滅多に見ることが出来ない。
ルフとて片手の指で数えられるほどしか見たことが無いほどだ。
だがしかし・・・流星はあんなにも不規則な線を描くものであったか?
そう思うのも束の間、銀色の軌跡は不規則な線を描きながら地平線へと飛び―――巨人へと落ちた。
銀色の軌跡は、巨人の頭蓋を叩き割るように脳天から落ちたのだ。
巨人は血飛沫を上げ、脳が揺れたことにより眩暈でもおきたのか千鳥足で大地を踏み叩く。
もう何が起きても驚かない、そう決めていた王達であったがこれには驚きを隠せなかった。
遠くにいたからこそ、彼らは見えることが出来ていたのだ。
巨人の頭を殴った銀色の軌跡の正体を。
「・・・なあ、エクス王。見間違えでなければ、あれは人のように見えたのだが」
「残念ながら、あれは人ではなく人型といったほうがよかろう」
巨人から離れた場所で浮かぶ美しき銀の光を放つ人影。
だが、人と言うにはあまりに大きく、あまりにも人間にしては部品が多かった。
「全身が銀色の人間など、存在せん」
見るものが見れば、理解できただろう。
そして、ひっくり返って気絶するほど驚愕しただろう。
物理法則の埒外、空想の産物、実現不可能な難題―――人型決戦兵器と。
*
「やれる・・・こいつなら・・・!」
いつもの穏やかで丁寧な口調とはまるで正反対の野獣のような獰猛な口調でベルゼは腕を振り上げる。
それに連動し、眼前の銀腕が持ち上がり、既に構えていた大型マテリアルライフルで500ミリの弾丸をばら撒く。
ベルゼが起動した禁忌の兵器―――【英雄の棺桶】は雑な言い方をしてしまえば人型ロボットだ。
だが、ただの兵器ではない。それだけで、神の興味を引くことはありえない。
【英雄の棺桶】は、極めて特殊な状況下で開発された決戦兵器だ。
元は魔術が支配する星、一部の研究者の手によって宇宙進出にまで発達した技術は、最終的には恒星間移動まで発展し、銀河を掌握するまでに至った。
才能による性能の差が激しい魔術を使い宇宙進出まで技術を極めた世界は、後にも先にもこの世界だけであった。
そうして技術開発は暴走を続け―――ついに世界の扉をこじ開けるまで至った。
世界の扉の先にあったのは魔術ではなく科学の世界。
法則もまるで違う世界に魔術の星は瞬時に適応し、資源確保、安全確保という名の虐殺を開始した。
言葉が通じない、よって彼らは動物と変わりない。
そう自分勝手な理論を押し付け蹂躙する。彼らには躊躇の文字は無かった。
だが、科学の世界は決して弱者で終わることはなかった。
科学の世界の王は、魔術世界側にいる一部の良識ある穏健派と接触。
言語翻訳機を完成させ、そして魔術世界の技術の一部を盗み取った。
穏健派としては、正直に言えばたいしたことの無い技術であったが科学はその認識を凌駕した。
魔術世界の技術によって難問とされてきた技術的難題を解決、高火力兵器を開発し、敵軍の技術を少しずつ少しずつ、まるで飴を口の中で転がすように奪い取って言った。
そして開発されたのが【英雄の棺桶】の原型―――【亡者の返し刃】。
だが、【亡者の返し刃】は未完成な部分が多く、直ぐに敵に略取されてしまい、より高度なものへと変わり科学の世界へ牙を剝いた。
普通ならば、ここで科学の世界は終わりであった。
蹂躙される科学の世界は、予めこの展開を予想しており、事前に仕掛けておいた安全装置によって改良型【亡者の返し刃】奪ったのだ。
魔術世界は、科学世界を蛮族ととらえ、科学世界の技術を侮っていた為起こった悲劇だ。
彼らは、安全装置など仕掛ける知恵など無いと決め付けていたのだ。
そこからは、まるでお手玉のようであった。
奪った機体を改良し、奪われ改良され、【亡者の返し刃】は加速度的に強化されていった。
そして完成してしまったのは・・・【英雄の棺桶】。
対恒星級戦艦用に創られたこの兵器は―――恐ろしいことに使用者の生存を仮定していない。
出撃するたびに敵軍に拿捕されパイロットが殺されてしまうため、ならば最初から生き残ることを前提にする必要はないと研究者の狂気が加速してしまった結果―――パイロットへの生命維持装置が外され、その部分に詰め込むように兵器が追加されてしまったのだ。
【英雄の棺桶】は最終戦争発動時、両手では足りぬほどの惑星を壊滅させた。
無数の人々を焼き払い、踏み潰し、撃ち殺した。
【英雄の棺桶】は、敵にとっても味方にとっても畏怖の象徴となり、積み重なった怨念と畏怖と嫌悪は呪いとなって顕現した。
機体が負ったダメージの半分を、パイロットがその身に受ける【肩代わり】の呪い。
敵艦との接触時の衝撃、光学兵器による熱線の熱、実弾兵器の反動、その半分がパイロットに襲い掛かるのだ。もちろん、生身の人間に耐えられるようなものではない。
機体が破損するよりも早く、パイロットが死ぬ。
故についた名が【英雄の棺桶】。
数多の命を喰らい、血を啜り、勇ましきパイロットの死を見届ける超合金棺桶。
まさに、かの兵器にはピッタリの名であった。
その火力は凄まじく、一撃で巨人の頭を揺らし、基本武装の一つであるライフルは巨人の肉を奥へ奥へと抉っていく。
だが、ベルゼは無傷ではない。
先ほど脳天へ突撃したことによる衝撃で【肩代わり】が発動し、左手が指先から肩にかけて骨が見えるほど複雑骨折を起こしている。
だが、その傷も十数秒後には黒い霧に包まれ元通りに直ってしまった。
もう一つの禁忌―――【夢現の境界線】。
こちらは、【英雄の棺桶】の副装として開発されたナノマシンだ。
【英雄の棺桶】を使用するには、最低でも鋼鉄以上の強度を持つ人間が必要であった。もちろんそんな人間は存在しない。
そのため開発されたのが【夢現の境界線】。
効果は体内で瞬時に増殖するため、どれほどの傷を負っても瞬時にナノマシンが補填する。
一見すばらしいものに聞こえるかもしれないが、あまり傷を負いすぎればナノマシンの機能が暴走し、使用者の許容を超えるほど増殖を始める欠陥兵器だ。
実験場であった惑星は、十の被検体が暴走したことにより滅んだ。ありとあらゆる生物がナノマシンに分解されてしまったらしい。
まさにハイリスクハイリターン。しかし、ベルゼには丁度いい兵器であった。
既に惜しむべき命などないのだから。
「装填!対惑星級艦プラズマブレード!」
『承諾・展開・対惑星級艦プラズマブレード』
機械的な音声の後、次元を歪ませ出現したのは細く長い棒だ。
長さは百メートル以上あるのに、直径はたった二メートルほどしかない。
しかし、棒は機能を起動した瞬間、その倍以上の刃を形成した。
プラズマ化するほど超高熱の炎の刃。
斬るではなく、惑星級宇宙艦を溶断するために作られた兵器。
ベルゼは【肩代わり】によって右手が焼けるのにも目もくれず、一気に加速し巨人の足首にプラズマブレードを振り抜く。
音は無かった。巨人の足首の一部は、瞬間で蒸発した。
「ははははは!!!やはりか巨人!お前が無効化できるのは魔力が関わる攻撃のみのようだな!!!」
巨人に対する有効性を確認したベルゼは更に加速し、巨人の股をくぐり抜け右太腿の内側を回転するように溶断する。
もちろん、巨人が目で追えているはずが無い。異形に手を取られていた巨人は、呆気なく太腿の四分の一を切断された。
筋肉ごと足の靭帯を切断され、巨人は苦痛の叫びをあげながら前へと倒れていく。
だが、完全に倒れきる前に炭化した傷口が弾けとび、大量の怪物を産み出すと共に再生し、巨人は踏みとどまってしまった。。
ベルゼはコックピットで大きく舌打ちをした。
神話にも語り継がれるように、直ぐに再生する相手に有効なのは傷口を火で焼き再生を阻害する方法である。例を出すならば、ヘラクレスのヒュドラ退治のようにだ。
だが、巨人の場合ただ再生するだけでなく傷口から怪物を産み出すため、炭化した部分を押し出してしまうようだ。
残念ながら、プラズマブレードは傷をつけることはできるが有効ではなかった。
ベルゼは笑う。
まだ、手詰まりではない。
プラズマブレードは、ただの【英雄の棺桶】の基本武装。
本番は・・・
「これからだ!いざご覧あれ、宇宙艦隊一個師団を持ってしても太刀打ちできぬと謳われた【英雄の棺桶】の六百六十六の兵器を!起動!3SMT!」
『承諾・装填・3SMT』
【英雄の棺桶】の背面装甲が開き、中から巨大な三つの塔が現れる。
どう考えても収納できそうに無いほど長い塔一つ一つが、不規則に点滅する。
真っ赤なその光は、よくよく見れば塔にへばりつく筒から発せられるものであった。
「―――焼き払え」
『承諾・点火』
短く簡潔なベルゼの指令に応じ、【英雄の棺桶】はそれを解き放った。
大量の筒は、一斉に火を吹き怪物の群れへと飛び込み―――全てを蹂躙した。
*
現実世界で本能により体が暴走する中、体の主導権をかけて戦う理性は今・・・
「ぬああああああああああああ!!!」
雄たけびを上げながら逃げ回っていた。
左右にステップを踏み、ときおり大地を蹴って空へ跳躍し、ただひたすら前へと駆ける。
何故そこまで必死に逃げているかと問われれば、彼は息継ぎの暇すら惜しんで叫ぶだろう。
―――後ろに巨大な蟲がいるからと。
本能とも言うべき蟲の形態は一番最初の頃・・・つまり『巨虫』だ。
つまり、移動速度が絶望的なまでに遅い。
正面からは牙が怖いので、後ろに回り込めば楽に片付きそうだと楽観論で行動しようとしたところ・・・その考えは一気に覆された。
本能である芋虫は、口から様々な糸を吐き出したのだ。
『巨虫』であったころ自分が持っていたスキルの内の一つ【粘糸生成】によるものなのだろうが・・・まさか、それを応用して粘度を極限まで下げて液状にし、自らの足元にばらまくことで滑るように移動して速度を上げるとは思いもよらなかった。
更に本能は、とりもちのついた縄のようなものを使い俺を口に引きずり込もうとしてくる。
本能だけなので知能が低いかと思ったら、まさかの展開だ。
本能は、理性よりも断然巧くスキルを使っている。
―――ソリャソウダ。相手ハ本能ダゾ?知識トイウ枷二囚ワレテル【俺様】ト一緒二シチャ駄目ダロ?
「そうゆうお前は、喋るのがきつくなって消えたんじゃなかったのか?!」
―――イヤナ、本能モ【俺様】ノ存在ガ邪魔ミタイデナ。クッツケル必要ガ無クナッタンダヨ。マア、ソレダケ本腰入レテ殺ソウトシテイルトモイエルガナ
「暇ならなんかアイデアでも出してくれ!このままじゃってふぉ?!」
地面にこすり付けるようにとりもちロープが振りぬかれ、間一髪ジャンプで避ける。
あまりにギリギリのタイミングでの回避のためか、着地に失敗し真っ黒な地面に転がる。
痛みは無いが・・・
『ギガグゲゲゲゲガガギギギギギギギギ!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
今の回避失敗によって、本能との距離がまた短くなってしまった。
そもそも、人型と芋虫ならば比べるまでも無く人型のほうが速いのだが、芋虫は滑走を使っているので本能と理性を比べると本能のほうが地味に速い。
刻一刻と、彼我の距離が詰められていく。
「おいいいいいいい、なんかないのか!!!」
―――情ケネエナ。マア、ココデ死ナレルト困ルノハ俺ダカラナ。助言グライハシテヤルヨ。
―――押シテ駄目ナラ?
「引いてみな・・・って、それが駄目だから今こうなって・・・ッ!そうかっ」
青白い影がいうように、俺は押す・・・逃げるのをやめ、あえて本能へ突撃した。
すると、本能はとりもちロープを切り離して口を開きながら突撃してくる。
あのまま、飲み込む気でいるのだろう。
だが・・・
「その手には乗らん!」
俺は、本能とぶつかる瞬間に右に飛んだ。
すると、猛スピードで滑走していた本能は方向転換することもできず俺の横を滑っていってしまう。
そして見えたのは、無防備な本能の腹。
絶好のチャンスだ。
「くたばれっ!」
左足を軸に、拳を本能の横っ腹に叩き込む。まるでゴムの塊を殴ったような感触だ。
突然の真横からの衝撃に、本能はくるくると回りながら飛んでいった。
「やったか・・・?」
―――ウンヤ、全然。
俺が抱いていた微かな希望は、もうひとりの俺が否定した。
それを示すように、本能は回転がとまると体の向きを変えて、何も無かったように滑り始めた。
若干予想はしていた。一撃でいけるとも思っていなかった。
しかし、まるで無傷なのは少し凹んだ。
―――【俺様】ッテ本当二頭アルノカ?ホボ摩擦ゼロで滑ッテルンダカラ、イクラ腰ガ入ッテテモ横二滑ルダケダゾ。ソレニ、最初二言ッタトオリ規模ハ本能ノ方ガデケエンダカラ、ソンナ温イ一撃ジャア億年カカルゼ。
呆れた声が、横から聞こえてくる。
少しむっときたが正論だ。
つまり、要約するなら叩くなら上か下、背かどてっ腹ということだろう。
あの巨体をひっくり返すのはどう考えても不可能なので、可能性があるなら背しかないのだが・・・
「あの巨体に登るのかどうかというのは置いておいて・・・どうやってあの妙に固そうな背の装甲を貫けっていうんだよ」
本能の背中は、ピンポイントで甲殻で覆われていた。
自身の弱点である場所は理解できていたのだろう。
本当に本能だけで知能が低いのか疑問に思うレベルで、嫌味なほど頭が回る。
―――チャンスガ出来ルカ、イイ案ガ思イツクカ。ソレマデ逃ゲルシカネエナ。
「結局そうなるのかよおおおおおおおおおお!!!」
戦いは、まだ終わらない。
( ´・ω・`)<今回の話進んで無くない?
( ´・ω・`)<そんなー




