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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第四章 最古の恐怖
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五十五話 落陽

 世界で二回目―――一回目は魔王討伐――となる大陸連合軍、その動きは実に機敏なものであった。


 エクス王は近衛隊を引き連れ、既に死霊平原の目と鼻の先まで移動していた。

 少数精鋭をモットーとするグラシリアの中でも、一騎当千を誇る猛者たち全てを連れ、エクスは死地へと向かう。

 王都防衛の主力をごっそりと連れてきたため治安の悪化は予想されるが、今回は裏ギルドの一つが全面協力を申し出てくれた。

 何者にも悪としか呼ばれぬ彼らではあるが、ここで自分たちが邪魔したところで利益は薄く、確かに世紀末にもなれば多少の儲けは出来るかもしれないが、その前に貨幣制度が死んでしまったら、そもそも顧客事態が死んでしまったら意味が無い、戦力の出し惜しみをされて道連れになるのは避けたい、と世界に名高き悪の頭領はそう告げたのだ。

 大臣の中には信用できないと声高く叫ぶ者たちもいたが、悪の頭領はだまって自らの首を差し出し魔術による誓約を受け入れた。

 誓約にと使われたのは、主に奴隷契約にに使われる絶対遵守の呪いがついた隷属の首輪だ

 宮廷魔術師に命令し確認したが細工されていると言うことはなく、またそれを深く疑えばきりがないので、エクス王はそれを受け入れた。

 それに、エクスとて生まれたときから権謀術数が渦巻く王宮にて暮らしてきている人間、人を見る目はそれなりにあると自負している。

 その目から見ても、悪の頭領が虚偽を申しているようには見えなかった。


「陛下・・・やはり、王宮に戻られては・・・」


「王宮でも、戦場でも、死ぬ時間が多少変わるだけだ。それに汝等が死地に向かうのに、我だけが一人で待つのもつまらん・・・それに、ただで死ぬつもりも無い」


 エクスの視線の先には、十数人の集団がいた。

 華美な衣装を纏う踊り子、背丈を越える大太刀を背負う袈裟を着た壮年の男、全身を鈍色の鎧で覆う大柄な戦士、七色の星を自らに公転させる美女、不規則に揺れる影を纏った隠者、顔を白色に染め上げナイフを片手でジャグリングする道化、赤と白を基調とした儀礼服を身に纏う巫女、巨大な狼に腰掛ける狼娘、刃も何もついていない大剣を帯びる虎男、溶岩を固めたようにところどころから紅蓮に光を漏らす岩石の杖を抱える老人・・・いずれもが全て異色とも言うべき集団。

 グラシリア王国の支援によって創立し、運営が続ける冒険者ギルド・・・そしてその中でも、事実上トップの実力を持つ世界でも数少なき強者―――SSランク冒険者とSSSランクの冒険者。


「これだけの戦力が集っているのだ。世界で最も豪華な力だぞ?更に申せば、連合軍は我々だけではない」


「まあ、そういうことではあるな」


 突然背後から響く声に反応し、近衛隊隊長は素早く剣に手をかける。

 が、エクス王はそれを手で制した。


「貴殿が世界最高の魔術師であるということは、重々承知であるが・・・予兆もなく突然の転移はお控えいただきたい。敵かと思い危うく斬りかかってしまうではないか」


「エクス、貴様の腕なら斬る直前に判断し刃も止めることは出来よう。私はお前を信頼しているのだよ」


「それはありがたいことではあるが・・・やはり、」


「・・・戯れはそこまでにしてもらう」


「ルフ殿もいらっしゃておられたのか?」


「私もいますよ、エクス王」


「レイラ殿まで・・・もしや、全員連れてきたのかセレス殿」


「一々通信具を開くのも億劫でな。爺はどうせ前線に出る気は無いだろうから置いてきたが」


『ほっほっほ、私のように虚弱貧弱の商人に戦場に出る勇気などありませんぞ』


「開き直るな爺」


「セレス殿・・・メントレ殿の判断は正しい。戦を知らぬ素人が戦場に立たれても、迷惑なだけだ。・・・まあ、メントレ殿が戦を知らないかどうかと聞かれれば否定するしかないがな」


『ほっほっほ、随分と過大評価をいただいているようで光栄ですな。所詮商人である私が知るのは、紙の上でのことだけですよ。エクス様』


 嘘をつけ、一瞬だけ全員の心が一致した奇跡の瞬間であった。もちろん口にはしないが。

 メントレももちろんそのことに気がついていたが、笑って流す。


「・・・まあいい。ルフ殿、龍神様いつほどに到着なさられるか?」


「・・・・・・それはわからぬ。ただ、この死霊平原と龍神様が居城は決して近くは無い。だが、彼の御方が我らよりも鈍足と言うことはありえない」


「つまり、まだ来ておられないと言うことですね」


「ふむ、龍神様が戦場に出るのは歴史上でも片手の指ほどだ。なにやら準備でもあるのだろう。まずは我等だけで時間を稼ぐことを考えるとしよう」


『おやおや、セレス様にしては随分と気弱な発言ですなあ』


「当たり前だ爺。ここまで近くに来れば嫌と言うほどわかる。・・・足元しか見えんのだ、いいところ顎が雲に紛れて見える程度、あんな化け物どう対処しろと言うのだ」


 忌々しそうに見上げるその先には、天高く聳え立つ巨人の体。

 世界を支える柱と見間違えそうなほど巨大で太い足に、雲すら突き抜ける背丈、一本一本が大木のように太い髪の毛。

 全てがビックスケールであり、深く考えなくてもどれほど恐ろしいかも嫌と言うほど理解できる。

 

「エクス王、あれを切れると思うか?」


「足首でも数万回繰り返せば。ただし、あの巨人が無抵抗で受け入れ体力が尽きないというありえない条件がなければ無理だ」


「ルフ殿はどうだ?」


「・・・・・・龍神様より頂し宝剣を持って秘奥を放てば、小指の一本は落とせよう」


「レイラ殿は・・・論外だな」


「守護しか出来ぬ私に何を期待されているのですかセレス様」


「そして私は魔術は使えるが・・・あのような巨躯を滅するような魔術は流石にな。出来ぬことはないが、ここら一帯の魔力汚染は最悪レベルにまで達するだろうな。更に極悪な展開までいくと、巨人を滅することが出来ようと、最低でも『首無騎士長(デュラハン・リーダー)』『深淵闇骨師(ミッドエンドリッチ)』がわんさか湧くぞ」


『・・・それはご勘弁ねがいたいですなあ。最低でも精鋭十人単位の犠牲を強いるような化け物の軍団など魔神以上に相手したくない』


 前者は不死種の中でも最高クラスの近接戦闘能力を、後者は最高クラスの魔術、それに状態異常を操るまさに極悪ともいうべき存在。そして、それが恐ろしいことに最低レベルであり、上を見れば『邪毒骨竜(ベノムドラゴン)』といった龍種すら生みかねないのだ。

 そのため、セレスは滅多に戦場には出ない。激情することがあまりないエルフであったとしても、何を拍子に理性の紐が解け、その禁呪を発動してしまわないように。


「とにかく、言いたくは無いが我々にはあの巨人を撃つ手はない。我々にできることは、龍神様が到着するまで耐え切り被害を最小限にとどめることだ」


「そうではあるが・・・情けないことに具体的な作戦が思い浮かばん。あれほどの巨体、なにをすれば引き止められるか・・・」


『まあ、既に巨人は魔神と交戦しているようですがなあ。窓越しどころか、国にいても足元が揺れて老人にはきついですなあ』


 額に汗を浮かばせながら、メントレは苦笑する。

 先ほどから、ドンドンと派手な音を立て大地が揺れ続けている。

 原因なんぞ見るまでもない。このようなことをできるのは、先ほどから暴れまわっている巨人しかいないだろう。


「だが、穴倉に篭って震えているわけにもいかんだろう。さてと、狼が先ほどから念話で五月蝿いので配置の確認といこう。ルフ殿がつれてきた龍人達は全体に散らばってもらって・・・ルフ殿?」


 セレスが見ると、ルフはその感情が読めない眼を細め、巨人を凝視し


「・・・・・・全員耳を塞ぎ伏せろ。咆哮が来る」


 そう告げた。

 エクス並びその場にいた全ての者が一斉に地面に伏せ、眼を硬く閉じる。

 ルフの言葉を聞いたからではない。全員が共通して己の直感によって、その行動を取ったのだ。

 その直感は、正しかった。

 次の瞬間―――先ほどまでとは比べ物にならない大爆音が世界を覆った。

 地面が揺さぶられ衝撃波が全身をまんべんなく叩き伏せる。

 全てが終わった後、即急に回復したエクスは自分の眼を疑った。


「草原が・・・森が・・・ここは荒野であったか?」


 その眼に映るのは、草の衣を剥ぎ取られたむき出しの大地と、灼熱の溶岩そして地下から吹き出る水、それらが混ざり合い白煙を吐き出す地獄の光景。

 たった数瞬、たった数秒の間に世界は激変した。

 だが、それよりも恐ろしいのはこの地獄を作り出した咆哮を受けようと怯むこともなく二本の足で立ち続けているルフだろう。

 頼もしさ反面、恐怖も内側から湧いてくると言うものである。


「恐ろしいものだ。咆哮だけでここまでとは・・・」


「感心などしている場合ではないぞエクス王。今の咆哮で連合軍は大混乱だ。特に。耳がいい獣人は壊滅状態だ」


「なんとか魔術でどうにか出来ませんかセレス様」


「無茶を言うな。十人百人で無く万人だぞ。巨人のための魔力が尽きる」


『・・・残念なことに、こちらの補給部隊も今の雄たけびで半分以上壊滅しましたぞ。いやはや恐ろしや恐ろしや』


 全員が混乱を収めようと頭を唸らせていると、パンと軽くはじける音が響いた。

 その音に一瞬だけ全員がびくっと反応し、音の発生源を見ればそこにいた犯人はなんと意外なことに龍人の王―――ルフであった。

 無機質な眼で手を合わせているのを見ると、おそらく手を叩いて音を鳴らしたのだろう。


「・・・ルフ殿、あなたにそのような感情があったことは非常に驚くべきことであるが今はご遠慮願いたい。悪ふざけは少々」


「違う」


 エクスの言葉を遮り、ルフは告げる。


「第二陣が来る。可能な限り眼を何かで覆い耳を塞がせろ」


 ルフを除いた全員の顔が非常に珍しいことに一致した。

 全員引きつった笑みであったが。


 一秒だったか一瞬だったか一刹那であったか、詳しくはわからない。

 瞬きも終わる前に、世界の悲鳴と瞼の上から眼球を貫く閃光が連合軍を襲った。


 全てが終わった後、全員が疲れきった顔で立ち上がる。

 その表情に、数分前まではあったはずの希望は無い。 

 その耳に届くのは、部隊壊滅といった悲報ばかり。


「・・・近衛隊は隊長格を除いた全てが全滅だ」


「ドワーフもエルフも獣人ども同じく。特に馬鹿正直に学習せず巨人をみつめていたものは現在土の味について評論を述べているらしい」


「エレメル湖国は、お父様が閃光で気絶なさったそうです。他にも多数」


 戦況は、戦う前に最悪であった。


「・・・・・・なあ、まだ悪い報告と少しだけよい知らせがあるんだがいいか?」


「勘弁してくれセレス殿・・・」


「良い知らせは魔神と巨人を監視していた部隊は一人だけ残っていること。残った一人は、元々魔術による戦闘時に、光による眼への刺激を抑えるために濃い色つきの眼鏡をかけていたことが幸をそうしたようだ。そして悪い報告は二つ。今の攻撃は魔神によるものだが・・・どうにも、巨人へのダメージは極小との判断だ。すまんな、数分前の発言を撤回させてもらいたい。あの巨人を滅する魔術など、ありはしない。あったとしても・・・私は使えん」


「・・・・・・もう一つは?」


「巨人へのダメージは極小・・・であるが、傷はできているようだ。その傷から、少々信じがたかったが・・・大量の怪物があふれ出ているそうだ。その数・・・数十万体!」


 もはや、言葉すら出ない。

 その場にいた全員が絶句して、セレスの言葉を聞いていた。

 耳を傾ければ微かに聞こえてくるのは、大量の足音。

 巨大な獣たちが、大地を蹂躙する破滅への序曲。

 油の切れたロボットのようにぎこちなく首を傾ければ、その眼に映るのは地平線より湧き出る黒の塊だ。

 巨大な瞳を持つ触手の塊、六枚の翼を持つ怪鳥、全身から奇怪な緑の気体を噴出する団子蟲。

 これは、ただの一例だ。その後に待つのは、もはや言葉にすることも出来ない怪物たち。


「・・・はっはっはっは・・・文献に残っている魔王との最終決戦でもここまで絶望的ではなかっただろうな。あの古ぼけた紙束に書いてあるものが本当ならであるが」


「呆然としている場合ではありませんエクス王。セレス様、魔力に余裕はありますか?」


「なるべく温存しておきたいといいたいが、ここで躊躇するのも愚作、もはや巨人討伐には無用の長物であろうからな。幸い、隊長格は全員残っている。なんとか怪物の掃討程度は・・・」


『ほっほっほ・・・最悪と言う言葉が生易しく思える事態ですなあ。ところで、何故か私のいる場所からでも空に飛び上がる巨人の姿が見えるのですがそれは幻影か何かですかな?』


「「「・・・はあっ!?」」」


 メントレの震える声の内容に驚き、声を荒げ慌てて振り返れば自身の背の丈以上の高さを跳ぶ巨人の姿。

 二度あることは三度ある。そんな言葉が、皆の頭の中に思い浮かんだ。


「ぜ、全員伏せろ!衝撃に備えろおおおおおおおお!!!」


 腹の底にまで響くような、エクスの怒声が辺りに木霊する。

 しかし、その努力は空しく消えた。そもそも、たった一人の人間の肺活量で全軍に命令を通達することなどできるわけがなかった。 

 空から落ちる巨拳の隕石は、一切躊躇することなく大地に振り下ろされる。

 

 その瞬間に立ち会った者は語り継いだ。


 その一撃は、確実に―――星をを揺るがしたと。



 

         *




「―――主様ああああああああああああああああああああああ!!!!」


 アゲハの悲痛な叫び声が響き渡る。

 思考は停止し、ただ一心に思うは自らを生み出した創造主の無事。

 己が主が下した命すら投げ捨て、主の下へ駆けつけようとしたアゲハの肩をベルゼが止める。


「待ちなさいアゲハ!」


「止めないでください兄様!主様が、主様が・・・!!!」


「落ち着きなさい、今我々がすべきことは、主様の命を果たすことです」


「何を言っているんですか兄様!主様よりも、命令が優先だと言うのですか!?」


「そうです」


 一瞬の躊躇いも無く、ベルゼは言い切った。

 絶句するアゲハに、ベルゼは眼を閉じて肩をすくめ、続ける。 


「よく考えなさい。我々の種族は魔蟲種。そして主様はその魔蟲種の頂点たる御方、魔蟲種の神です。我々でも、心臓を潰されようと頭を落とされようと生き延びることが出来ます。我々に出来ることが、主様に出来ないはずがありません。・・・あの程度で、我々の主様が死ぬはずがない」


「確かにそうですが・・・」


「よく考えなさいアゲハ。我々が遂行すべきは、主様が管理するこの世界を守ること・・・つまり、あの巨人及び巨人が生み出した怪物を止めることです。幸いにも、主様のおかげか巨人は活動を停止しています。・・・が、しかし、主様宛につい先ほど霊仙という方から報告がありました」


「霊仙・・・主様が会いに行った仙人の一人ですね。霊脈の修理が完了したのですか?」


「逆です。先ほどの一撃で、別の霊脈が吹き飛びました。詳細はわかりませんが、おそらくあの巨人の一撃はスキルによるものです。推測ですが、星限定で甚大なダメージを与えるタイプのスキル・・・実に奇怪なスキルです。そうでなければ、主様が一時的にとはいえやられるはずがありません」


『おい兄貴!さぼってないで早く蟲でも何でも出してくれ!手が、というか足が足りねえよ!』


 説得するベルゼの耳元に、可愛らしくも愚かな弟の声が聞こえてくる。

 いつものように、余裕のある声ではない。だが、まだ冗談が言える程度には大丈夫そうである。


「もう少し辛抱なさいグラス。先ほど確認しましたが、人間たちも到着したみたいです。まあ、主様と巨人の一撃で大半が沈んだみたいですが」


『ほとんど役立たずじゃねえか!というか、まじで、割と本気でやばいんだって!一人一方向っていっても、結構担当範囲でかいんだぞ!』


「わかってます。だから、彼ら(・・)を呼んだんですよ・・・まあ、随分と重役出勤でしたがね」


 白い雲が漂う青空に、暗雲が立ち込める。

 それは予兆。彼らがこの地に降臨すると世界へ示す合図。

 あらゆる世界にて、全ての種族の頂点に君臨し、時には神にすら匹敵するとさえ謳われる絶対強者。

 彼らの名は―――



 

          *




「ぎゃあああああああああああああ!!!」


「くそっ・・・マルスが腕を食いちぎられた!誰か後ろへ連れて行ってやってくれ!」


「そんな余裕あるやついねえよ!」


「誰かっ・・・だれかたすけ」


 ドンッと土ぼこりと共に”赤”が飛び散り、マルスと呼ばれた男は消えた。

 怪物が進行するたびに誰かが負傷し、そして救援すらできず、つい先ほどまで一緒に笑いあっていた仲間が絶望の表情で死んでいく。

 ここは地獄だ。

 巨人を討伐するため、近衛隊は死を覚悟してこの地に来た。そこに違いは無い。

 多少の悲劇も許容できる。その覚悟は出来ている。

 しかし、いつの間にか気絶し、隊長に叩き起こされてみれば目前には怪物たちの群れ。

 動揺するなというほうが、難しい話だ。

 

「くそっくそっくそがああああああああああああああ!!!【兜断ち】!!!」


 突進してくる棘の生えた甲羅をスキルで叩き割り、飛び掛ってきた蟲の怪物を蹴り飛ばす。

 もはや無我夢中で、自分がどんな怪物を斬っているかさえわからない。自分が、どんな情けない表情で剣を振るっているのかも。

 いくら斬っても殺しても、怪物は際限なく湧いてくる。

 無限の地獄と言える地獄の中、この戦線が崩壊しないのは彼らの存在があるからだろう。

 

 自分よりも前線から、真っ赤な血の飛沫が飛んでくる。

 その先にいるのは身の丈を超える刀を自由自在に操る袈裟の男と、奇怪な叫び声を上げ火を吹く道化、舞うように怪物の首を落とす踊り子そして・・・


「・・・はっ!」


 一息と共に大地を切り裂き、そのたびに怪物たちを空に打ち上げる龍人。

 圧倒的なまでの強さ、勝てるかもしれないという儚い希望。

 それら全てが彼らを戦場へ踏みとどませていた。

 しかし何十匹かともわからぬ怪物を切り裂いたところ、前線で奇妙なざわめきが伝わってきた。


 目を向ければ、龍人と互角に渡り合う大鬼の姿。

 大鬼は鋭い包丁のような石の剣を強引に振るい、龍人と打ち合っている。

 龍人は、決して負けてはいない。しかし、その大鬼に手間を取られ次々と怪物が横を通り抜けていく。

 心の中の黒いものが、一気に拡大する。

 ―――負けるかもしれない。死ぬかもしれない。

 希望のひとつが停止させられ、増大する恐怖が形となって自分に襲い掛かる。

 それをなんとか振り払おうと我武者羅に剣を振るい続け・・・ぞくっと背中に寒気が走った。

 気づけば仲間は遥か後方へ、必死の形相で後退するように自分へ叫んでいる。

 しまった、前に出すぎた。

 そう思った瞬間、四方八方から大量の怪物が襲い掛かってくる。

 ―――死んだな。こりゃ

 諦めは容易かった。

 世界の動きは徐々にゆっくりとなっていき、走馬灯のように過去の映像が流れていく。

 苦しい人生だった。農家に生まれ、必死に努力し、王国最強の近衛隊に入隊した。

 そこからも、いい思いをしたことはない。血反吐吐くまで訓練づけの日々。

 それでも、自分は優秀なほうではなかった。騎士団全体としてみれば優秀なほうかもしれなかったが、化け物としかいえない隊長格を見ると、そんな思いも霧のように空しく消えていく。

 何度も泥にまみれ、叩きつけられ、怒声を浴びせられた。


 だが、全て充実した日々であったことには違いは無かった。


 せめて・・・両親に最後に一目だけでも会いたかった。

 目をつぶり、そのときを待つ。

 だが、その時は五秒経っても十秒経っても来ない。

 恐怖に頭が麻痺して、痛みすら感じれず死んだかと思い目を開ければ・・・そこにあったのは怪物でなく薄く輝く壁であった。


『中々の蛮勇。惨めでありながら誇りすら感じられるその勇気。賞賛しよう』


 思わず聞きほれてしまうほどの、重圧な声。そして存在感。

 そこにいたのは―――


「・・・・・・龍・・・?」   

  

 美しく透ける水晶のような鱗、鋭くも美しき爪を供えた大翼、突き出した槍のような形をした頭、知恵を感じさせる瞳、長大でしなやかな鞭のような尾。

 違う、これは龍ではない。

 龍なんて、程度のものじゃない。

 こいつは・・・この御方は・・・・・・


「・・・龍を統べる者・・・五大龍帝・・・【無色なる風】エラクティン・・・!?」


『いかにも矮小なるものよ。龍神の命により、助太刀いたす。我が名はエラクティン。激動の空を統べし龍帝が一角』

 

 名乗りを上げ、エラクティンは翼をはためかす。

 バサッと一度その翼が振るわれると、辺りにいた怪物が何かで切り取られたように死んでいく。


「やれやれ、あなただけにはいい思いなどさせませんよ。エラクティン」


【#$”##$%!>???】


 妙に若々しい声と共に降り立つのは、風をその身に纏う青年。そして、翠色に点滅する光の球体。


『ならば動けよ風を極めし者、風仙。そして風の精霊王よ』


「精霊王・・・風仙・・・!?」


 自らの目前に並ぶ大物すぎる者達に、思わず目を白黒させてしまう。

 風仙・・・仙人。数少なき人類の最終進化形態に、滅多にその姿を現すことのない精霊王。

 これで驚かないものは、よほどの無知か大物のどちらか。

 無論この騎士はどちらにもあてはまらなかったが。 


「霊仙から緊急連絡があったと思えば、予想以上の事態でした。ここまで酷い状態であったとは」


【”##$#$%!!!!】


「あなたも、風を乱されるのが嫌ですか?私もですよ」


『無駄話をしている暇は無いぞ風仙。次が来るぞ』


「・・・ま、そうですね。さあ、数百年ぶりの全員集合です。はりきっていこうではありませんか!」


 風仙がパンと手を打ち鳴らせば、不可視の砲弾が怪物たちを蹴散らす。

 精霊王が大きく点滅するたびに、大地に傷跡を残し怪物たちは真っ二つになり、粉微塵に変わっていく。


「世界で最も豪華な戦力、人、精霊、龍、の総力戦です。この世界は渡しませんよ?巨人」


 青年は不敵に笑い、龍帝は不快そうに鼻を鳴らし、精霊王は激しく点滅を続ける。


 ここに、本当の意味での世界大戦が開始された。 

この話が終わったら、俺、今までの話全部見直すんだ・・・


訂正

・原因なんぞ見る間でもない→原因なんぞ見るまでもない

・でかいだぞ→でかいんだぞ

・情けない表情剣を→情けない表情で剣を

・その大鬼に手を取られ→その大鬼に手間を取られ

・入団→入隊

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