五十三・五話 各国
世界は、一瞬にして混乱に包まれた。
大轟音と共に出現した常識外れの巨躯を持つ巨人の出現。
救いは、巨人が向かう場所が自らの国ではないことか。
そう巨人はまっすぐとある場所へと歩みを進めていた。
元世界有数の危険地帯であり、現在この大陸で最も危険な場所。
大陸最強国家を滅ぼした、魔神の棲家。―――死霊平原。
天を貫くほどの巨躯を持つ巨人と、たった一日で国を滅ぼした魔神、どちらかが倒れれば儲け物、共倒れならなおよしと、そこまで切羽詰った雰囲気にはなっていなかった。
神々が世界の危機と大慌ての中、人間たちはどこまでものんびりとしていたものである。
だが、そんな温い雰囲気の中でも危機感を持つ者たちもいた。
白い髭を顎に蓄え、まるで武人のようにどっしりと待ち構えた初老の豪傑―――グラシリア王国第五十八代国王、エクス=グラシリアだ。
彼の王の前には、四つの窓が浮遊していた。
空中に浮かぶ四つの窓に映るのは、世界でも五つの指に数えられる大国の国主たち―――エクス=グラシリアと同じく危機感を持つ者たちだ。
『我々が独自にあの巨人を計測したところ、幻影ではないことはわかった。生物かどうかも怪しいがな。全く夢なら覚めてほしいところだ・・・』
神経質そうに顔を顰めるのは美しき銀色の髪を持つエルフの上位種―――ハイエルフ。
その美貌は男であるとわかっていても思わず見惚れてしまうほど、女であったならば視線を向けられただけで腰が砕けてしまいそうなほどの美貌である。
彼のハイエルフの名はセレス。
ファドーレン森国代表を勤める、自称他称問わず世界最強の魔術師だ。
『えらいことになってますなあ。ほっほっほ』
妙に訛った言葉で小さく笑い声を上げるのは、頭を白く染め上げた好々爺だ。
人を安心させるような穏やかなオーラを放っているが、騙されてはいけない。
この老人の名は、天下に響く大商会―――クイメル商会会頭、メントレ。
クイメル商国を立ち上げた中心人物の一人であり、今も尚、言葉巧みに交渉をし合う腹黒い商人たちの国の中で権力を持つものである。
『この事態を”えらいこと”で済ませるのは大物と言うべきか、不謹慎と言うべきか・・・』
そんな老獪に苦言を漏らすのは金色の髪を持つ少女だ。
少女の名はレイラ。元王国領の村であったものが独立した国―――エレメル湖国の象徴的存在だ。
現在も独立の際のいざこざで王国との中は険悪ではあるが、エクスとしてはそこまで悪くは思っていない。
元々〈シムル大森林〉が近くにあったとはいえ、そこまで収益は上がっていなかったのだ。
それに王国領が減ったとはいえ大部分は未開拓であった〈シムル大森林〉であった場所だ。
むしろ、たった数十人程度で国を創り上げ、たった百年で大陸有数の大国へとなったその手腕は賞賛に値するものである。
エクスとしても、是非自らの元でその腕を振るってもらいたかったが、それはもう叶わない話である。
『・・・・・・・・・・・・・・』
一人だけ眼を閉じ沈黙を保ち続けるのは、まさに武という言葉をそのまま人にしたような男だ。
彼の男の名は、ルフ。ドラグーン龍国を治める王だ。
国としての規模は五大国の中では最も小さいが、戦力としてだけ見ればどの国にも劣らない。
それもそのはず、龍国の国民は全て世界最強種たる龍の血を受け継ぐ龍人ばかり。
龍人の戦闘能力は、たった一人で精鋭騎士団中隊に匹敵する。
そしてその国を治めるルフが直々に出撃した場合・・・最悪国を共にしても相打ちが限度だろう。
それほど、龍人の戦闘能力は凄まじいの一言である。
『おやおや、ルフ様。さっきから沈黙を続けてるようですが、龍国としては何も無いのですかな?』
だが、その龍人を前にしてもメントレの口は止まらないようだ。
『・・・龍神様からは、何も連絡が無い。龍国としては、動きようが無いとしか言えん』
『ほう・・・ここまでわかりやすい脅威があるというのに動けないと申しますか。これはこれは困りましたなーどうしますかなエクス様。龍国の援助は受けられそうにないそうですよ?』
『・・・そこまでは言っておらん』
『いえいえ!別に意地を張らなくてもよろしいのです。わかっておりますよ、龍神様とやらの言葉が無ければ動けないのでしょう?私としては、もう少し柔軟に対応したほうがよいと思いますがね。セレス様もレイラ様もそう思いませんか?』
『我々に話題を押し付けるな老害。その口を閉ざせ』
『エレメル国とは関係ない発言でございますが・・・今は緊急時ですので仲違いを呼ぶような行動は慎んだほうがよろしいと思いますよ』
『ほほう!それではセレス様もレイラ様も龍国の不参加には何もないと申しますのかな?』
「そこらへんで終わりにしてくれメントレ殿。レイラ殿の言うとおり、今は緊急時だ。我々に悠長に話し合っている時間など無いのだ」
少しでも言質を取ろうと言葉を紡ごうとするメントレを止める。
確かに龍国が参戦できないのは痛いが、メントレのように不用意に煽って下手になるほうがもっと痛い。
『ほっほっほ、これはこれは失敬。邪魔な老人は黙っておくとしましょう』
朗らかな笑顔を浮かべ、メントレは口に指を当て笑う。
彼の老人の奇特な点は、ここまで場を乱しても誰もメントレに一定以上の怒りをもたないことだろう。
どんなに警戒していても話をするだけで警戒の鎖を解き、自らの懐に入れてしまう奇特さ、それがメントレの才能だ。
商人としても厄介ではあるが、国の代表としても厄介極まりないものである。
「さてと・・・前置きが長くなったが本題に入ろう」
エクスは、椅子の横に置かれていた机の上にある、水晶球をこんこんと指で叩いた。
すると水晶球は白い光を放ち、王の前に地図を照らし出した。
エレメル湖国製のどこでも簡単に地図を展開できる水晶球だ。
「現在の巨人の位置はここだ。そして、巨人は方向転換することなく進んでいるため進行経路はおそらくだがこうであろう」
半透明な地図の上に、デフォルメされた小さな人型が浮かび、人型の前に矢印が浮かび上がる。
この水晶球の便利なところは、自分が思い浮かべたことを地図に反映できると言うことだろう。
まあその分、ただの地図よりも数十倍以上の金貨を積まなければならないが。
『単純に考えれば、巨人は魔神の場所へと向かっているのだろうな』
『逆に魔神の棲家は通過地点であり、巨人の目的はその先とも考えられますのう』
『そちらのほうが、私にとってはよいのですが・・・』
レイラの発言に、皆が顔を顰める。
今の発言は、国の代表としては見過ごせないものがあった。
「レイラ殿・・・その発言は、魔神の存在を擁護しているように聞こえるぞ」
『・・・ああいえ、そういった感情はありません。単純に、あのサイズの巨人と魔神がぶつかり合った場合、どれほどの被害が出るかを考えるとと思いまして』
『確かにレイラ様の言うとおりですなあ。巨人の歩いた道は、山だろうが川だろうが全てまっさなら更地になっているみたいですからなあ。ただ歩いただけでそれほどの被害ですから、もし本気で戦われた場合・・・』
『・・・・・・最悪、大陸が割れる』
「ふむ、あらぬ疑いをかけすまなかったなレイラ殿」
『いえ、国を預かるものとしての反応としては正しいものです。私の不用意な発言が皆様を混乱させたことを謝罪します』
レイラが窓の向こうで頭を下げると、バンっという音が玉座に響き渡った。
音の発生源を見ると、一人の騎士が息を切らして立っていた。先ほどの音は、扉を勢いよく開けたものであった。
「なにごとか!今は会議中であるぞ!」
窓越しからであっても思わず腰をあげてしまうほどの怒号が、エクスの口から放たれた。
「伝令です!魔神監視していた兵士から情報あり!魔神の棲家、死霊平原を囲うように白い騎士が展開されました!」
しかし、騎士はエクス王の怒号に怯むことなく、むしろ負けないほど声を張り上げる。
更に伝令は続く。
「白の騎士の数は推定二十万以上!突如虚空から出現したとの報告です!白き騎士の装備は全て全身を隠すほどの大盾!城を背にして展開!先行部隊から、攻撃の許可が求められています!」
「ならん!先行部隊はそのまま待機!決してこちらから刺激するようなことはするなと伝えろ!」
「了解しました!!」
右手できっちりと敬礼を返し、伝令の騎士は走り去っていった。
それを見届けたエクスはふうっと一息つき、空中に浮かぶ窓に顔を戻す。
「見苦しいところを見せたな、すまない」
『どちらかというと暑くる・・・いえいえ、なんでもございません』
『我々の同胞である鷹からも連絡がついた。どうやら、魔神もすんなり通す気はないようだな』
『ただ、一つだけわかりませんのう。いくら盾が大きいと言えど、あの巨人の攻撃を防ぐほどではないはず・・・もしや、その白い騎士も巨人なのですかな?』
『鷹からの報告ではでかいにはでかいがそれほどではないみたいだ、せいぜい先ほど入ってきた騎士の一回りほどぐらいの大きくしたぐらいだそうだ。盾はその巨体をも隠すぐらいでかいらしいがな』
『もしかしてですが・・・それは、我々人間の侵入を防ぐためでは?』
「何故そんなことを・・・いや魔神にとって見れば、我々人間たちが目の前でうろちょろされると邪魔と言うことか・・・」
『だが、我々も指をくわえて黙って見ているわけにもいかん。獣人共と戦鍛冶師共は既に戦の準備を終え、出発に入っている。今回は特例だ、私も出る』
『ほっほっほ、先ほど議会が終わりました。我々クイメルは後方支援につきます。もちろん無料ですぞ』
『エレメル湖国も、私とお父様とお母様・・・そして戦闘系幹部に自衛団の団長を連れて行きます。既に出撃準備も終えております』
『・・・・・・龍神様からのお言葉を預かった。我々ドラグーン龍国は戦えぬ女子供を除いた全てが参加する。・・・龍神様も参戦なされるかもしれん』
「なんと!」
セレスは口をぽっかりと開け、メントレの細い糸のような瞳が限界まで見開かれ、レイラもエクスもあまりの衝撃に数秒唖然としてしまう。
龍神・・・全ての生物の力を合わせても勝つことは難しいと言われる世界最強種の中でも神の名を冠する龍、龍神が出撃するといったのだ。
王たちは一瞬だけその言葉に歓喜し・・・
「そこまで・・・最悪なのか・・・」
龍神が自ら出撃するという事態の重さに絶望した。
そこまでしなければ、この戦いを終わらせることは出来ないのだと。
『・・・・・・龍神様からの御言葉である』
―――此度の戦、我が出ても勝てる兆しは蝋燭が如き儚い。
死力を振り絞れ弱き者ども、この大陸と共に海に沈みたくなければな―――
ルフの言葉だけが、嫌に響き渡った。
各国の反応でございます。
まあ、あくまで大国だけ集まってやってるだけですがね。
それでも、現代でも言う安全保障理事会みたいな感じですかね?
キャラは増えましたが、正直言ってこれから出るかどうかって聞かれたら首を傾げざるおえない。
だから、あんまりキャラは増やしたくないんですよねー
それと初のレビューがついて大歓喜
ありがとうございました。




