五十話 偽会
この話で五十話目ですね。
本当は閑話とか含むともっと増えますがサブタイで換算すると五十話目です。
目指せ百話!
世界中のあらゆるものには名前がついている。名づけ親は神ではない、人だ。
地面も、目に見ることの出来ない空気にも、そして存在すら確認できていない宇宙の彼方の銀河にも、ありとあらゆるものに名前はつけられている。
更に言うと、ほぼ同じようなものでも少しの差で名前によって区別されている。
空気などが良い例だろう。
一般的に生物が暮らす0~20kmは対流圏
オゾン層が存在する21~50kmは成層圏
さらにそこからは中間圏、スペースシャトルが飛び交う熱圏と続き、最後に外気圏と名づけられている。
俺とアゲハ、二人は高度30km―――成層圏と名づけられた場所を飛行していた。
理由はもちろん、他の生命体に見つからないようにするためだ。
人間に見つかれば面倒なのが集まり(しかも殺害不可)、魔物に見つかれば追い回される。
うん、やっぱり下を飛ばなくて正解だったな。
同行者はアゲハだ。
ベルゼは別件で忙しいし、グラスはギルド。アルゼンとアラクネは城の警備。というか、そもそも飛べない。
コーカサスは・・・飛べないと言うわけではないが移動が少々派手すぎる。
よって、最終的に残ったのがアゲハしかいなかったというわけだ。
『・・・やっぱり、連れて行くとしたらお前しかいないな』
「それはそれは、とても光栄ですわ」
笑顔をこちらへ向けるアゲハから、目を逸らす。
先ほどの言葉は、褒めている意味で言ったのではなく、ただ単純に常に手が空いてるのがアゲハしかいないという意味だったんだが・・・本人が納得しているならいいか。
変に言って傷つけるのも、アレだからな。
ため息をついて、古ぼけた地図を広げる。
街道などは流石に書かれていないが、国の場所、有名な場所、高低差がきっちりと書かれた地図の南端、赤い円で囲まれた山。
『本当に・・・こんな場所にラムールがいるのかねえ・・・』
話は数日前に遡る。
*
『はっ?ラムールが・・・指名手配?どういうことだ?』
「ちょ、落ち着け!顔が近い!」
あまりにも予想外な情報に、いつのまにかフラウに近づきすぎていたのか押し返される。
レイラから手配書らしきものを引ったくり、罪状の部分に目を通す。
罪状は・・・国家転覆罪?
『なんだこりゃ?』
「ああ・・・っと、ラムールさんって私たちが襲撃された時、王都に召喚されてたでしょ?それがどうも、ネロの手引きだったみたいでね・・・村に帰ってきたとき怖かったよ。髪の毛がこう・・・ブワっと茶色から蒼色に変わってね、今まで見たことの無いような蒼炎の龍に乗って王都でネロの襲撃に加担した奴らを片っ端から血祭り・・・じゃなくて火祭りにあげちゃったみたいで・・・それでその中にも一応貴族なんかいたみたいで王国から指名手配を受けちゃって・・・そこからまた、ネロが皇国の手を借りたことを知ったのか皇国でも・・・」
『・・・わかった、もういい』
非常に言いずらそうしていた理由が理解できた。
・・・なにやってるんだよラムール。俺より大立ち回りしてんじゃねえか。
「それで結局、色々といざこざあってラムールは二つの大国に喧嘩売った大犯罪者になったというわけだ」
『ざっくり纏めると、大暴れってことでいいのか?』
「ああ、大体間違ってねえ」
「私たちとしては擁護したかったんだけど、この村も若干忘れかけられていたとはいえ元々は王国の土地
ってことでちょっと引け目があってね・・・表立って手を貸したり反論すると戦争のきっかけを与えちゃうから・・・」
『揉み消すのは無理だったってことか・・・』
というか、五大国の内二つに喧嘩売ったことを最近できたばっかの国が消すのも無理があるか。
まだ信頼関係も、十分には築いていないだろうからな。
しかし、ラムールが行方不明か・・・
『残念だが・・・折角の再会とはいかないみたいだな。まあ、どこにいるかはわからんが偶然会えることを期待して・・・』
「あ、それなら大丈夫かもしれないよムーちゃん」
思い出したようにレイラが机の引き出しから、一枚の封筒を取り出す。
蝋で封がなされた封筒の差出人は・・・ラムール?
『これは?』
「数年前にラムールさんがくれた手紙。ムーちゃんがもしも帰ってきたら渡してほしいって貰ったの。もしかしたら、書いてあるかもよ?」
『俺が帰ってきたら?』
なぜ俺が帰ってくるとわかっていたのかなど色々と疑問は浮かぶが、とりあえず封を切る。
中から出てきたのは一枚の地図と数枚の手紙。
手紙はインクではなく、炎か何かで焼いたのか、焦げ跡で文字が書かれていた。
ラムールらしいと、苦笑しながら手紙を読む。
『「前略、私の現在の状況は既にレイラから聞いているでしょう。
なるべく痕跡は見つからないようにしたんですが・・・流石にギルドの目は欺けませんでした。
肝心なときは動かないくせに、こういう時はばっちり働くっておかしいですよね。
ですが安心してください、関係者は速やかに灰と炭の彫像になっていただきました。
愚痴は置いておいて・・・今や私は世界でも時の人です。
見つかっても撒くのが面倒くさいので、しばらく隠れることにしました。
地図を同封しておいたので、もしよかったら来て下さい。
エレメル村の住人が動くと、周囲があらぬ誤解を受けてしまうことになりますが、魔物のあなたなら自由に動けるでしょう。
最後に・・・エレメル村を守っていただき、ありがとうございました」・・・か、ラムールらしいな』
地図を見れば、南のほうにある山に赤い丸がつけられていた。
ここが、ラムールの隠れ家みたいだ。
今もいると言う確証はないが、書類整理以外やることもないので行ってみるか。
【楽園の蛇】も、他の神に頼んで捜索してもらったが見つからなかったしな。
神の中では、所在がばれたので既に別の世界に渡ったことになっている。
まあ、気をつけるに越したことは無いがな。
『レイラ、ここが何処か知ってるか?』
「うん、確か・・・有名な火山地帯のはず。
その中でも一番大きな火山で・・・噴煙は上がるんだけどずっと前から噴火してないから死に掛けているんじゃないかって言われてるやつなはず」
『名前は無いのか?』
「火山自体に伝説か何かがあるみたいで、地元の人間がその伝説のせいで火山を神聖視してるみたいでな・・・名前なんかつけようもんなら暴動がな・・・」
『・・・なるほど』
「正式な名称はないが便宜上〔炎霧山〕って呼ばれてるんだが・・・まあ、名づける意味なんてないんだけどな。資源も何も無いし、周辺は厄介な魔物しかいない荒野だし」
『人間は、とにかく名前をつけたがる生き物だ。名づけることで、それを理解したと自らを錯覚させるんだよ。無知は恐怖だからな』
簡単に言えば、闇を恐れるのはそこに何があるかわからない、みたいな感じだな。
『今はそんな切羽詰ってないし、明日から行ってみることにするよ』
「もしも会えたら、私たちからもよろしくお願いね、ムーちゃん」
「ついでに礼もな。・・・ラムールのおかげでちょっとだけ気が晴れたさ」
『わかった。伝えておく』
最近俺専用になってきた【次元門】を開き、エレメル国から去る。
「あ、ムーちゃん。一応訂正しておくけど、ラムールさんがばれたのは目撃者が多すぎたからみたいだよ。流石に日中でも蒼い焔は目立ちすぎだったみたい」
『・・・・・・・・・』
・・・どこが、痕跡は残らないようにしただよ・・・ラムール・・・。
*
そんなこんなあって現在、俺たちは噴煙が昇る火山の上空で滞空していた。
アゲハの飛行速度にあわせていたため三日と時間はくってしまったが、まだ許容範囲内だ。
書類は最大一週間まで溜められる。それだけ梟が泣くはめになるがな。
「主様、ラムール様がいらっしゃるのはどちらでしょうか?」
『〔炎霧山〕って場所らしいんだが・・・どれも同じようなやつにしか見えんな』
見渡す限り噴煙噴煙噴煙・・・上空にいるせいか煙くてしょうがない。
かといって、これ以上高度を落とすと見つかるかもしれないからな・・・。
「あ、もしかしてあちらでは?」
アゲハが指差す先には、ここらの火山の中でもふた周りほど大きな火山が噴煙をあげていた。
それも、気持ち悪いほど真っ赤な噴煙を。
フラウが言っていた山の名前は【炎霧山】・・・確かに炎の霧にも見えなくは無いがそのまんまだな。
それにしても、あんなに目立つ見た目をしているのに、何故気づけなかったのかとちょっとショックを受けたが、見つかったことはよろこばしいことだ。
俺の私情は置いておいた場合はな。
おそらく〔炎霧山〕と思われる火山上空まで飛行し、探索するが火山周辺に建物らしきものは無い。
洞窟か何かに篭っているのだろうか?いや、ラムールの性格からして地面を掘ってそこに篭るなんてことは考えられない。
どこか・・・別の隠れ家があるはずなんだろうが・・・。
「あの・・・」
遠慮がちに、アゲハが手を上げた。
『ん?なにかあったか?』
「はい、火口なのですが・・・あの噴煙は少々おかしいと」
『どういうことだ?』
「主様もご存知のとおり、火山の噴煙は普通あのような色にはなりません。おそらく、あの噴煙の色の原因は巻き上げられた塵が燃えることによって赤く見えているものなはずなんですが・・・」
『それなら、不自然なところは無いんじゃないか?』
「いえ、その現象が起きるにはここは熱すぎるんです。これほどの温度では、火口から飛び出る前に燃え尽きてしまいます。・・・おそらくですが、あれは幻術ではないかと」
アゲハの言葉にはっと気がつき、ラムールの地図を広げる。
地図の赤い丸は、確かに〔炎霧山〕を囲んでいた。それも、頂上付近を重点的に。
噴煙が上がる火口に飛び込もうとするやつなんていないし、仮にラムールの現在地としてあやしまれても地元の人間が反発するため大掛かりな調査は行えない。
なるほどな、確かに隠れ家の条件としては最高だな。
一匹の何の変哲も無い羽虫を【従体生成】で作り出し、火口へと飛ばす。
視覚だけ共有し確認するが、真っ赤な噴煙は近くで見るとパチパチと火花が散っているよう見える。
だが、羽虫を突入させてみれば何のことは無い、ただの常温の煙だ。
羽虫には強化も一切していない、おそらく手で叩けば死んでしまう程度の強さと頑丈さ、それなのに燃え尽きないと言うことは・・・
『・・・ビンゴ。よくやった、アゲハ。早速火口に飛び込むぞ』
「くすくす・・・承知しましたわ、主様」
*
念のためアゲハには氷を纏わせて突入してみたが、噴煙はただの水蒸気であった。
発生源は火口と思われていたものの真下にある湖、ここは火山ではなく穴が開いた山であった。
湖の周りには、真っ赤な炎が湖を囲むように燃え盛っている。
「どうやら、あの炎の色を使って煙を赤く見せさせていたようですわね。水蒸気の供給もこの湖から・・・地下水でも引いているのかしら?」
『まあ、そんなところだろうな。これで神聖視される理由がわかった。まあ、水もなにもないこの荒野でこれだけ巨大な水源は貴重だからな。国にも知らされたくなかったんだろう』
「くすくす・・・人間は愚かですね」
口元を扇子で隠し、笑うアゲハ。
「―――そんなことは、人間が一番よくわかってますよ」
そんなアゲハに向かい、一本の蒼い槍が放たれた。
蒼い炎で包まれた、まるでそこにないかの如く存在感が薄い蒼い槍だ。
俺は一瞬でアゲハの前まで移動し、蒼い槍の穂先を握りつぶす。
槍は、陽炎のように空気に溶けて消えた。
俺は槍が放たれた場所を睨む。
湖の畔にある人の背ほどしか高さの無い洞窟の中から、犯人は現れた。
そいつは俺の姿を見て首を傾げながらも、懐かしむように目を細め声をあげた。
「―――お久しぶりですねムー」
『手荒な歓迎だな、ところで・・・』
茶色の髪の毛は蒼に染まり、碧眼は深い黒へと変わっていた。
小さく纏められていた髪の毛は、腰まで伸びていた。
だが間違えることは無い。
『―――貴様は誰だ』
こいつは、ラムール以外の何かであると。
火山の噴煙とかその辺は、ほぼフィクションです。
おそらくそんな現象は無いと思います。
ラムールついに再会と思いきや、まさかの人物!?
偽者?本物?見間違い?
ムー、どうなる!?
訂正
・時の人間→時の人
・なぜ俺が帰ってわかっていた→なぜ俺が帰ってくるとわかっていた
・炎か何かで焼いたのが焦げ跡で→炎か何かで焼いたのか、焦げ跡で
・見つかったことによろこばしいことだ。→見つかったことはよろこばしいことだ。




