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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第四章 最古の恐怖
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四十九話 指名手配

 皇国が滅亡してから(させてから?)一ヶ月が経過した。

 国が一つ世界から消えようと、人々の営みは変わらない。

 あるものは農業に、商業に、訓練に精を出す日々の連続である。

 唯一つ変わったといえば、散らばっていた悪意と恐怖が纏まったことであろうか。

 皇国滅亡の首魁、超上生命体の一角―――魔神へと。

 そんな最近人々の中で全ての魔物の根源かと恐れられる魔神は何をしているかというと・・・


『三千十九番から、五千六百十一番まで終わったぞ!』


「あいあいさー、それじゃあ後は一万八千九十六番まで追加しておくねー」


『くっそ!増やしてんじゃねえぞ寝坊梟!』


「私に当たらないでよー」


 ・・・絶賛書類と格闘中であった。

 四本の腕と三本の尾をフルに活用し、次々に書類をしあげていく魔神。

 もちろんこれは通常の業務による書類ではない。

 特例発動による後始末と、【楽園の蛇】出現の報告書、魂合成者の魂解体依頼書・・・書かなければならない書類はそれこそ山ほどある。本当に、山ができあがっている。

 もちろん、この山を片付けない限り下界に下りることは出来ない。

 代わり映えも無い書類仕事と終わりの見えない根回しに、魔神は少々イラついていた。

 いや、原因はそれだけではない。

 もう一つの原因は・・・


「はっはっはーファイトだムー。誰もが通る道だ」


 カンッ!


「そうさね。まあ、蛇が出てきたことよりかはまだ生きていたことの方が驚きだっださね」


 カンッ!


「あいつ一体何万年生きるんだろうな?よくもアレだけ生きて精神が磨耗して無いもんだ」


 カンッ!


「目標があれば頑張れるんじゃないさね。まあ、目標とされたこちらとしては溜まったもんじゃないさね」


 カンッ!


「確かに!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 カンッ!


「アハハハハハハハハハハ!」


 カンッ!

 

 ぶちッ、と何かが切れる音が聞こえた。

 音源はもちろん・・・俺の堪忍袋からだな。


『るっせええんだよ!カンカンカンと!人が仕事してる部屋で卓球やってるんじゃねえ!』


「馬鹿言うな。俺達はお前が脱走しないか見張る役目があるんだよ。そして見てるだけじゃ暇だからこうして暇つぶしをだなあ」


『ならその役目がさっさと終わるように、こっちを集中させろよ!だいたいなんで卓球なんだよ!』


「そりゃあ、贈り物が来たからさねえ」


『誰からだよ!なにをだよ!まさか、卓球セットなんて馬鹿なこと言うんじゃねえぞ!』


「いやいや、それなら俺達でも作れる。こいつはもっといいもんだ。ほれ」


 オーディンは器用に右手で卓球を続けながら、箱を投げてきた。

 丁寧かつ下品になりすぎない程度の装飾がなされた箱の裏にかかれていた送り主の名前の場所には、ESとだけイニシャルが刻まれていた。


『ES・・・?だれだこいつ?』


「おいおい、忘れてやるなよ可哀想に。つい最近あったばかりなんだろ?」


 最近あったばっかりと言われるが、残念ながら心当たりは全く無い。

 知り合いの神にESなんてイニシャルの奴はいないし、エレメル村の皆はオーディンのこと知ってるはずないし・・・と、考えていたところで一人だけ思いついた。

 だがいや待て、そいつが俺たちに贈り物なんて絶対にありえないはずだ、まさかそいつが送ってくるわけ、あるわけないに決まって・・・


『【楽園の蛇】・・・じゃねえよな?まさかそんなわけ・・・』


「「大正解だ(さね)」」


『いやいやいや!なんであいつが卓球セットなんか送ってくるんだよ!嘘もたいがいにしとけ!』


「だから卓球セットじゃねえって」


 オーディンは上に球を打ち上げた。

 くるくると回るそれは、よく見ると真っ赤なランプが点滅していて・・・って!


『爆弾じゃねえか!?』


「正解さね。蛇も嫌がらせかたまに贈って来るだよ。ただ座標がいまいちわかってないのか、無差別に大量に贈り付けて、たまに座標があったものだけがこっちに届いているだけみたいさね」


『なに冷静に話してるんだよ!衝撃与えたら爆発すんだろ!?今すぐ辞めろ!!』


「大丈夫大丈夫、この神々の努力の方向音痴の結果生まれた『触れた物体を三秒間だけ時間を停止させる』という存在意義のわからないラケットを使ってるから安心だ。ちなみに打ちもらした瞬間爆発する。どうだ、いつ爆発するかわからないドッキドキのバトルだろ?」


『それをわざわざ俺の部屋でやるなああああああああ!!!』


「大丈夫さね、もしも、爆発しそうになったらなんとかして・・・」


「―――隙ありい!」


「しまったさね!?」


 アマテラスがこちらを向いた隙をつき、オーディンは全力でスマッシュを放った。

 もちろん余所見をしていたアマテラスがそれに反応できるわけも無く・・・

 球は高速でアマテラスの脇を抜け、壁にめり込んだ。


「よっしゃあ!俺の勝ちだああああああああああああああああああああ!!!」


『爆弾がああああああああああああああああああああああああああああ!!!』



―――ドカーン



 大理石の大地に立ち並ぶ無数の塔。

 その一つの塔の最上階から、派手な音を立て爆炎が立ち上る。

 きっとその音は、とばっちりを受けた魔神の仕事が増えた音であろう。


 それと、その日を境にある主神二柱の部屋でイニシャルGが出現するようになったらしい。

 不思議なこともあるものである。

 まあ何がいいたいかというと、今日も神界は平和であるということだ。




          *




 書類処理は結局十日ほどで終了した。

 だが忘れてはいけない。神界と下界の時差は十倍あるのだ。

 つまり、神界で十日過ごせば下界では百日以上経過しているということになる。


『やはり見られてたか・・・教えてくれてありがとな、レイラ』

 

「どういたしましてー。それにしても、神様の世界も大変なんだねー。ポリポリ」


「行儀が悪いぞレイラ」


「ええー、ちょっとぐらいいいじゃん。あの爺さんたち私たちばっか疑ってきて、言質取られないように交渉するのって大変なんだよー」 


 クッキーを口にくわえながら机に突っ伏すレイラとそれを諌めるフラウ。

 現在の居場所は、エレメル国の地下会議場である。

 俺がいなかった間、下界ではどのような事態になっているかを聞きにきたのだ。

 ベルゼや冒険者ギルドにいかせているグラスから定期的に情報を手に入れていたが、当人達であるレイラからの情報も一応入手しておく。多いに越したことはない。

 ある程度、情報が集まったところで、俺たちの会話は情報収集から雑談へと移っていた


「私も一度その神界って場所行ってみたいなー」


『いいんじゃないか?レイラは既に半分神だし、神界に言っても大丈夫だろう』


「俺も行っていいか?」


『フラウは無理だな・・・いや、レイラも大丈夫か?』


「ええー!駄目なのムーちゃん?全部神様じゃないと駄目とか?」


『いや、別に資格がどうとかそういう話じゃないんだよ。神が放つ超高濃度魔力に耐えることができれば、正直鼠だろうが蟲でも誰でも大丈夫なんだよ。レイラは半分神だけど、もう半分は人間だからな・・・まずい場所に行かなければ七十二時間ぐらいならいけるか?』


「その時間を越えるとどうなっちゃうの?」


『発狂か、即死か・・・または最悪の場合は魔物化か。まあ、あまりよい結末ではないだろうな』


「・・・ムーちゃん、私やっぱりいきたくない」


「・・・俺もパス」


『・・・まあ、別に面白い場所もないし観光には向かないからいいんだがな』


 自分が住んでる場所が危険地帯とし見られるのも少し寂しいものがある。原因は俺だが。

 そうはいっても、神界の利点と言えば世界間移動が楽とかそのへんしかない。

 あ、もしかしたら自分が信仰する神に会えたりするかもという利点もあったか。

 あまり機能しているとは思えないがな。

 一口に神と言っても、それこそ腐るほどいるし、神界の広さは異常だ。あの中から特定の神を見つけ出すのは、よほどネームバリューがある神でないとほぼ不可能と言ってもいい。

 壁にかけられた時計をちらっと見ると、既に三時間経過していた。

 そろそろ城へ帰るとするか、神の仕事にストップなんて言葉はないから、あまり無駄に時間を使いすぎると書類が溜まってしまう。

 

『それじゃあ、俺も聞くことは聞いたし城に帰るとするよ』


「城か・・・私も行ってみたいけど、今この時期に見つかって変に勘くぐられると厄介だからね。残念」


「それ以前に、レイラにも色々と仕事が溜まってるんだが・・・そろそろ終わらせねえとあいつ泣くぞ?」


「うええええ、お父さんがやってよー」


「駄目だ、だいたいこの国の代表はお前なんだから、もっとしゃっきりしろ」


 仕事をさぼろうとする上司に、それを叱り付ける部下、まるで神界を見ているようである。

 少しだけフラウの苦労に共感を感じ、立ち去ろうとしたとき思い出した。 

 そうだ、まだ会ってないやつらがいる。


『レイラ・・・ラムールはどこにいったんだ?』


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 途端に凍りつく空気。

 あれ?なんか地雷踏んだ?


「ラムールさんね・・・」


「ラムールか・・・」


 二人して、何故か明後日の方向を見始めた。

 なんだこれ。

 ・・・もしかして、寿命で死んだか?

 確かにそれはありえる、レイラ達は俺のスキルにより上位種族に進化することによって寿命を延ばしているのだ。

 だが、ラムールは人間だ。

 強力な魔術は扱っていたが、それもあくまで人間の範囲内。

 百年という月日は、ラムールがこの世から去るには十分すぎる時間であった。

 ・・・悲しいものだな。あそこまで色々と世話になって礼すら言えず死んでしまったなんて。


『すまない・・・まずいことを聞いてしまったな』


「あー、いや、ムー・・・お前はおそらく勘違いをしている」


『・・・?何がだ?』


「えっと確かね・・・あった、これ見て」


 レイラは苦笑いのまま机の下から一枚の羊皮紙を取り出した。

 分厚い羊皮紙に書かれているのはラムールの横顔、八桁以上の数字とそして―――罪状。

 苦笑いのまま頬を掻き、レイラは告げた。 


「ラムールさんはね、現在SSSランク級の大陸指名手配犯・・・逃亡中で行方不明なの」


『・・・・・・はあ!?』


 どうやら、想定以上に厄介なことになってるみたいだ。

 いったい何をやらかしたんだ、ラムール・・・

いつも、更新した後感想がないかドキドキしてしまう。

これって、まさか―――感想乞食?


そして、すっかり空気になりかけていたラムールさん。

実は生きてます。

次回は・・・ギルドでのグラスの話を予定。


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