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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
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四十五話 皇国殲滅作戦―撃槍―

 西門

 

 ソニックブームというものを知っているだろうか?

 一般に知られるものとしては、戦闘機が超音速飛行を行った際に発生する衝撃波が生む轟くような大音響である。

 戦闘機が音速の壁を破った際に先端にマッハコーンと呼ばれるものが生成され、そこから大音響が発生するのだ。

 身近ではないかもしれないが、銃弾も音速を超えるため小さな衝撃波が発生すると言われている。

 だが考えてみれば戦闘機も銃弾もより速く飛ぶために空気抵抗を受けにくい円錐型をしている。

 ならば、決して高速機動に向かない人型の狼と蟲が音速を超えた場合、一体どういった事態が発生するか?

 答えは、簡単だ。


 無造作に無作為に膨大な衝撃波が撒き散らされる、だ。


 少しでも近づけば凶悪なまでの衝撃波が襲いかかり即死は避けられず、繰り出される超速の斬撃は鎌鼬のごとく、真空刃を無差別に撒き散らす。

 そこは、竜巻の中心といっても過言ではなかった。

 

 人狼―――撃槍は妙に機械的な感じのする槍を突き出し、蟲―――グラスは踵落としで地面に叩き落す。

 城壁が砕けるほど槍をめり込ませ、続く動作でグラスは前方に蹴りを放つ。

 撃槍はその蹴りに対して顎を突き出し噛み付いた。

 鉄の鎧でも噛み切ることができるほど強力な顎ではあったが、堅牢な外骨格を持つグラスの装甲の中でも特に分厚い脚の装甲は噛み砕けない。 


「俺の脚は骨じゃねえぞ犬!」


「犬じゃねえ!狼だ!」


 噛みつかれた脚を支点として、グラスは飛び上がり撃槍の額にヤクザキックをぶちかます。

 撃槍はそれに気づき、牙を外ししゃがんで回避した。

 

「うへえ・・・涎でべたべただよ。拭くもんもってねえ?」


「針と刃が仕込んである布槍ならあるぞ」


「いるかそんなもん」


 グラスは足元にある瓦礫を砕けない程度に蹴り飛ばす。

 砲弾のようなスピードで瓦礫は撃槍に迫るが、なんということはなく撃槍は槍の石突で弾き防いだ。


「つまらん手を使うな蟲。飛石程度で俺に勝てると思うのか?」


 撃槍は心底つまらなさそうに槍をくるっと回して地面に突き刺す。

 だがそれは・・・


「ああ、そうだつまんねえなあ。そうだなあ!」


 グラスも同じであった。

 グラスは飽き性の男だ。数時間前まで熱中していたことでも、ちょっとしたことで飽きてしまう。

 ムーから【神風縮破】を受け継いだグラスは、自由気ままに風の性格も受け継ぎとても飽き性になっているのだ。


「見えてんだよ。さっきからよお」


 撃槍の手元を睨みグラスは怒る。


「何がだ?」


「お前の槍についてる奥の手だ。ちょくちょく隙あらばつかおうとしてるそいつだ」


 グラスは撃槍を指差す。

 正確には、槍に添えられた撃槍の右手を。


「お前と打ち合ってて気づいたことでな、お前は俺との戦いで右手だけは絶対に槍から放してない。ついでにいうと、その場所から右手だけ一切動かしてねえ。おそらくそこに神器の能力を発動するトリガーがあるんだろ?そのごついリボルバーと撃槍という名は伊達じゃねえはずだ」


「・・・こいつは驚きだ。てっきり脳筋の類だと思ってったんだが・・・俺の勘も鈍ったな」


「その答えは肯定と受け取るぞ。・・・俺は飽き性なんだ。これ以上遊びは続けるつもりはないぜ」


「それはこっちのセリフだ」


 実に面白いと言わんばかりに撃槍は口元をゆがめる


「お前の動きには何らかの武術の修めてる気がある。いわゆる癖だな。だが、歩術は相当なものを感じるがそれと同系統である蹴りは速さこそ恐ろしいが、それだけと言っていいほどお粗末だ。はっきり言って技術が釣り合ってない・・・お前の本当の戦い方は蹴りじゃないだろ?」


「・・・俺もお前のこと脳筋だと思ってたよ。見直した」


 頭を掻きながら、グラスは一枚のカードを懐から取り出した。

 手のひらサイズの縁が金で装飾された、豪奢な深紅のカード。

 グラスはそのカードの縁を両手で握りこみ。

 

「ばれちまったからには出さないわけにはいかねえな・・・あの光からしてそろそろ兄貴達も終わってるだろうし妹に負けるわけにはいかねえ。こいつを出させたんだから・・・少しは持てよ?」


 思いっきり上下に引き裂いた。

 真っ二つに引き裂かれた深紅のカードは光の粒子となり消え、グラスの目の前に集結し本来の姿を現す。

 長さは三メートル、色は血を塗りたくったようなどす黒い赤、柄には血管のように巻きつく装飾が施され、先端にはまるで雲丹のように大量の棘が生えている。

 遠目から見ればメイスにしかみえない、しかしそれが何かを知る者がいれば驚愕しただろう。

 数多の呪いと毒を撒き散らし、己が主にさえ刃向う神殺しの邪槍。


―――【邪槍《死に至る千の呪棘(ゲイボルグ)》】、と 


 撃槍も当然それが何であるかはわからない。

 しかし、撃槍の直感は絶対に触れる、いや、近づくなと警鐘を鳴らす。

 狼の獣人である撃槍は、槍が現れた瞬間に広がった濃密で濃厚な血と呪いと死の臭いを嗅ぎ取っていた。

 百人千人という数でなく、確実に億を殺し染みついた臭い、微かにしか嗅ぎ取れないが人であらざる者も混じっているその臭いは、数々の修羅場を超えてきた撃槍でも初めてのものだった。


「・・・随分と物騒なもんを出したな」


「おうよ、俺もこいつを使うときはふざけたかねえ。少しでも下手すりゃお陀仏レベルの危険物だからな」


 すると、グラスは脚を高く上げゲイボルグを脚の爪で挟み、空に飛び上がって竹馬をするように槍一本で直立する。

 どう考えても不安定で、今にも倒れそうに見えるがグラスは一切ぶれることなく直立し続ける。


「・・・なるほど、異常なまでの歩術はそれで身につけたのか。いや、身につけざるを得なかったのか?」


「まあな、この槍は兄弟の中でも俺と親父しか使えねえ。更に言うなら俺も一番装甲の分厚い脚じゃなければ使いたいとは思えねえ。棘に掠りでもすれば、一瞬で毒と呪いのオンパレードだ」


「・・・へえ、教えてもいいのかそれ?」


「どうせ気づいてんだろ?ばれてることを隠し通すなんて無理どころか無駄だからなあ・・・で?お前はどうするんだ?このままいくか?」

 

「いいや、ここまで出させておいて俺が何もしないってのは味気ないしな」


 そういって撃槍は槍を上空に向けて軽く投げ・・・

 ズルルルル!

 人間でも丸呑みできそうなほど大口を開き、空から落ちてきた槍を飲み込んだ。

 喉を大きく膨らませ、ずるずると撃槍の牙の中に槍は沈んでいく。

 槍を完全に撃槍の腹の中に収めた瞬間、変化は起きた。

 身に纏った鎧を弾けさせ撃槍の体が一気に三倍近くに膨張し、少し長めの硬質な毛はまるで金属のような光沢を帯びていく。

 爪と牙はより鋭利に、耳は機械的なアンテナらしきものへと変化し、目に灯る光はより無機質なものへ。

 もはやそれは生物だとは決していえない、機械でできた大狼とでもいうべきものだった 


《ふう・・・この姿になるのは二回目か・・・実にいい気分だ》


「こりゃまた随分と変化したな。俺の考えがあってれば神器との融合ってか?」


《正解だ、魂のみの結合だけでなく肉体にも結合させ身体能力と肉体強度を上げる、これが教皇様が施した改造によって作られた神器―――【撃狼《発条仕掛けの玩具槍(クルクルクロック)》だ。もっとも適合者は俺しかいなかったがな》


「へえ、なら今のお前をぶっ殺せば神器も壊れるってことだよな?」


《・・・もうばれたか。まあ、堅物も双子も死んだみたいだから当たり前なんだろうがな》


「敵討ちはいいのか?」


《俺はドライなほうなんだよ》


「そうか・・・ちなみにだが」


 ゲイボルグを脚の指で挟んだまま宙に飛び上がり、空を舞う。

 

「俺は飽き性の割には情が深い方なんだ―――親父様の神子を傷つけようとした罪は重いぞ、駄犬」


 マグナム。グラスはそう呟いた。

 その瞬間、背筋が凍りつくような極度の寒気が撃槍を触った。咄嗟の判断で撃槍は、真横に飛ぶ。

 ほんのまばたきをする間の一瞬で、グラスの脚がぶれた。

 そう見えたと認識した瞬間、音すら置き去りにして真っ赤な針が突き刺さった。

 

《神器の特性を利用した投槍術が、お前の本気か!》


 撃槍は吼えた。

 撃槍の目には、針の塊からまるで生物のように分離する瞬間が見えていた。

 そう、グラスの本気はゲイボルグのスキル【分裂】を利用した投槍術。

 一蹴りで百里を駆けると言われる剛脚から放たれる針は神速の一撃、例え光の速さで動けるものであっても目から脳へと到達し理解するまでに針は体に到達する。

 そこに最悪のゲイボルグが持つ呪いが加わるのだ。一撃必殺といっても過言ではない。


「よくわかったな!褒美としてお代わりだ、受け取れ!ショット!」


 ゲイボルグを持っていないほうの脚で空気を蹴って空に跳ぶ。

 再び、今度は先ほどよりも少しだけ長く脚がぶれた。


「っ!?」


 先ほどと同じように横に避けようと足を踏ん張るが、体は何故か横ではなく上へと動いていた。

 理性すらも超えた本能の独断、普段ならば決して役に立たないそれが今回は良い方向へと働いた。

 撃槍が先ほどまでいた場所どころか、城壁全体に赤い針が突き刺さっていた。

 

「これで、お前はもう下に降りれねえ。そして空は俺の領域だぜ」


 撃槍の前に槍を振りかぶったグラスが出現する。

 変身する前の形態や、飛翔魔術を備えていない撃槍は空を自在に動くことは出来ない。

 体全体が鋼の類に変化したため、空を駆けるには重すぎるのだ。

 前方には槍を振りかぶっているグラス、上には避けられず下は針の山、まさに絶体絶命の状況。

 しかし、撃槍はそんな状況で


《いや、そうでもなさそうだぜ?》


 実に楽しそうに笑った。 

 撃槍は牛でも飲み込めそうなほど大きくなった口を開き、舌を突き出した。

 その舌の先についていたのは・・・先ほどまで撃槍が使っていた槍に似たなにか。

 刃先はより細かく分裂して横へと広がり、全体的に巨大化している。

 槍の中間についたリボルバーがガキンと四分の一だけ回転し、生物のように刃が蠢き、


《バレット1―――ファイア!》


 撃槍の口の中で弾けた(・・・)

 無数の刃が空へと散らばり、グラスに襲い掛かる。

 

「おっと」


 グラスは危なげも無く上に跳び、それを回避する。

 だが撃槍の刃も無駄になったわけではない。重圧な刃の群れは重力に引かれ城壁へと落ちていき、赤い剣山を破壊しつくし足場を作った。

 ガシャンと派手に金属音を立て撃槍は城壁に降り立つ。


《刃を飛ばし敵を撃つ槍、それが俺の神器だ》


「敵に教えていいのか?」


《どうせ気づいてるだろ。ばれてることを隠し通すなんて無理どころか無駄だから・・・だったか?》


「・・・はっ、そうだったな!それじゃあお互いの手の内がばれたことだ。―――そろそろいくぞ」


 その言葉を最後に、一瞬にしてグラスと撃槍はそこから消えた。  

 撃槍が顎を突き出して連続で噛み付きを繰り出し、時折爪の斬撃を混ぜ、硬質な鉄毛で覆われた尾を鞭のようにしならせ放つ。

 迫り来る牙のギロチンをグラスは針を飛ばし牽制し、城壁を蹴り砕きながら突き進む。

 一進一退の攻防。だがその戦いも長くは続かなかった。

 ピシッ、と城壁に巨大な亀裂がはしった。 

 貫通する針に膨大な衝撃波、グラスと撃槍の強力な踏み込み、それらは戦場の足場となる城壁に深刻なダメージを与えるのは十分なものであった。

 丁度グラスと撃槍を分けるように城壁は崩壊していく。

 

《人の国の壁ぶっ壊してんじゃねえぞ蟲ィ!》


「てめえも原因だ駄犬!」


 崩れ落ちていく瓦礫を足場にし空を駆け、撃槍はグラスに突撃する。

 グラスは再び空を駆けて回避しようと空気を蹴ろうとする・・・が、グラスの命令を裏切るように脚は動かない。

 目を凝らせば、キラリと光るものが脚に纏わりついていた。

 極限まで削られた鋼糸、それが何重にも重ねられグラスの右脚を縛り固定していた。

 

「随分と硬てえな。普通の鋼じゃねえのか?」


《お前ら神どもを縛るため教皇様が開発された【楔糸】だ。眷属ごときのお前には抜けだせんだろう》


 いつのまに、という言葉は吐かない。

 グラスには予想がついていた、いや先ほどの攻防でしかありえない。

 

《くたばりな、蟲。バレット2―――ファイア!》


 撃槍の口から突き出された槍のリボルバーが四分の一だけ回転し、刃弾が炸裂する。

 離脱が困難と判断したグラスは無事な左脚で、刃を蹴り飛ばす。

 しかし、片足で捌ききるにはあまりにも数が多すぎるた。

 刃弾のいくつかが被弾してしまい左肩を抉り飛ばす。

 直ぐに再生してしまうほどの傷でしかないが、苦痛であることには変わりない。

 グラスの仮面のような顔に苦悶の表情を浮かぶ。

 

「くっ・・・!」


《まだまだ終わらんぞ。バレット3―――ファイア!》


「そうなんどもやらせるか!ホローポイント!」


 続けざまに放とうとする撃槍に、グラスは左脚で針を放つ。

 だが、撃槍はくるっと空中で一回転し、尻尾で打ち払った。

 右脚が不自由なため上手く捻りが加わらず、グラスの針は目に見えるほど速度が落ちていた。


《バレット3―――ファイア!》


「くそっ!ショットォ!」


 撃槍の刃弾を、奥の手の一つであるショットで打ち落とす。

 赤の針の軍勢と鋼色の刃の軍勢がぶつかり合い、撃槍の技は相殺された。

 針と刃は大地に降り注ぎ、撃槍とグラスは大地に降り立った。

 

《さて、お前がこれまで撃った針は全部で八百九十四発。コレでお前の残弾は後六発だ》


 撃槍は低く笑って告げた。

 グラスのゲイボルグは最初の頃と比べると一目瞭然、雲丹のように生えていた針の塊は今では両手で数えられるほどしか残っていなかった。

 撃槍はただ無謀に突き進んでいたわけではない。

 グラスの弾切れを狙い、冷静に針の数をカウントしていたのだ。

 

「それはお前もだろう?見たところ一回の発射で九十度、全部合わせて四発が限界のはずだ。もう三発じは撃っている。後一回凌ぎきれば俺の勝ちだ」


《・・・ああ、そういう風に考えてたのか。すまんな》


 撃槍は口を開き、リボルバーを回した。

 ()分の一だけ。


《俺の弾は全部で八発、三発撃ったから後五発。お前が俺に勝つには一本で俺の一発を抑えなければ勝てねえ》


「ちっ・・・ブラフだったか」


《引っかかってくれれば儲かりもんだったが・・・じゃあな、蟲。

 バレット4567―――


 突き出された槍の刃は喉の奥から次々に追加されていき、徐々に鋼色の塊へと変化していく。

 手持ちの針は六本、相手の残弾の五発中四発を一気に撃とうとしている。

 しかし、防ぐには針が足らない。あれだけの量の刃を弾くには、最低でも五百本はいる。

 グラスと撃槍の立場は一転していた。

 

《―――フルファイア!》


 リボルバーが百八十度回転し、引き金が引かれた。

 グラスは無事な方の右手を空高く上げる。

 祈るわけではない。そもそも飽き性のグラスには信仰心などは存在しない。

 親指を立てて拳を握り、真っ直ぐ振り下ろす。

 誰もが理解できるサイン、地獄に落ちろ、だ。


「弾けろ―――虚の一撃(ホローポイント)」 


 その瞬間、天から、地から、針が発射された。

 大地から突き出した針はグラスの前に柵のように重なり、刃弾からグラスを守る。

 天から降り注いだ針は、撃槍を囲むように突き刺さった。

 撃槍の体内には高性能なセンサーが大量に搭載されている。この世界ではありえないほどの、だ。

 それ故、あの激戦の中一本たりとも間違わず、正確な針の数をカウントすることができたのだ。

 そして、あまりにも正確すぎる観測や情報収集能力はある一つの結果を生み出す。

 不完全ながらも可能とする未来予測。いままでの戦いもこの結果(・・)を活用し生き延びてきた。

 だから、すでに理解していた。

 この針が避けられなかった時点で、次の場面がどうなるのかも。

 撃槍の認識速度すら超えて、グラスは目の前に迫ってきていた。

 楔糸で封じられていたはずの右脚を天高く振り上げて。 

 グラスの右脚には砂のようなものが揺れていた。それは石になった楔糸であった。


《・・・卑怯者が》


「お互い様だな。折角だ、お前が言うにはつまらねえものかも知れねえが存分に受け取れや」

 

 グラスの右脚が黄緑色に輝き、宙に光の線を描き、振り下ろされる。

 音より早く、雷よりも速く、第三宇宙速度よりも疾く、光の領域にも片足を踏み込んで。


 ―――【崩震脚】。


 刹那、世界が音を失った。


 先ほどまでとは比べ物にならないほどの膨大な衝撃波が地面を舐め尽くす。

 大地には隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが刻み込まれ、大地は悲鳴をあげ震え上がる。

 空一帯を覆い隠す土煙が舞い上がり、弾き飛ばされた岩が大地へと帰っていく。

 

 そして、岩にまぎれ異形が落ちてくる。

 それは外装が剥がれ無残な姿になった機械狼の頭。

 首から飛び出た大小さまざまなコードが火花を散らし、無機質な瞳はチカチカと点滅する。


《は・・・ははは・・・ざまあ・・えな。この・・姿までだし・・・このざま・・・だ》


 途切れ途切れの今にも息絶えそうな声で撃槍は自身を嘲る。

 グラスはその姿に同情することも無く、逆に純粋な驚きの視線を向けていた。


「・・・どんな強度してんだよ、石頭かお前」


《馬鹿・・・鋼頭だ・・・コアが入って・・・一番かた・・いに決まって・・・》


「ああもう、聞きとりにくいんだよ」


《聞かせるつも・・・ねえからな》        


 ぎこちない動作で口を開閉する。おそらく笑っているつもりなんだろう。


《針に気をとら・・・れすぎたの・・・が敗因か。まあ・・・いい・・・俺は負けた。さっさと・・・とど・・・めをさ・・せ・・・》


「そうだな。まあ、久方ぶりに楽しかったさ。地獄でゆっくり針山にでも浸かってな」


《ははは・・・もう針は・・・こりごり・・・だ》


 グラスは右脚を小さく振る。

 カンッと軽やかな音を立て、赤い針は撃槍の頭を穿った。

 コアを破壊された撃槍は完全に機能停止し、点滅していた瞳の光は消え、真っ黒に塗りつぶされていく。

 そして、ゲイボルグの【不定呪傷】が発動した。

 発動したのは呪いの中でも特に厄介であり忌避される石化。

 針が刺さった場所から凍りつくように徐々に鋼は石へと変わり、一つの石像を作り上げた。

 グラスは針を抜き、右足を振り下ろす。

 ドンッと、クレーターの中に更にクレーターを刻み、石像はただの石ころへとなった。


 ふうっと一息つき、グラスは手ごろな岩に腰掛ける

 実際、グラスはもっと簡単に撃槍を殺すことは出来た。ゲイボルグの【心臓を穿つもの】や【自動帰還】を使えばそもそも戦いにすらならなかった。

 だが、グラスはあえて使わなかった。

 知ってみたかったのだ。自分の実力がどれほどなのかを。

 しかし結果は、魂を融合した程度の相手にこれほどまでの苦戦、はっきりいってグラスもゲイボルグが無ければ勝てなかった。

 創造主たるムーやグラスの師匠ならば片手で瞬殺しただろう。

 

「・・・俺も、もっと研鑽しねえとな」


 蟲の声は、空しく消えていった。



 西門制圧完了。

 残り、一つ。

 

 

 


 

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