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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
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四十三話 皇国殲滅作戦―星杖―

―――南門


 空に七つに輝く流星が出現し、それを灰色の霧が覆い石化させ、流星は粉々に砕け散る。

 濁った黄色の槍が飛び交い、紅蓮の炎が焼き尽くす。

 地面は溶解し、城壁は焼き焦げ、辺りには肉と石を焼く臭いが漂う。

 南門は、地獄と化していた。

 地獄を作り上げているのはベルゼと星杖、彼らは一切周りの被害に対して興味を示さず、容赦なく魔術を放つ。

 

「『虚ろな闇は時を忘れる』」


「『紫紺の後光(パープルライト)』」


 錫杖がシャランと鳴ると、杖の先端から現実味の無い黒が漏れでてベルゼの体を覆う。

 星杖の先端の球体が小さく輝くと、極めて濃い紫紺の光線が放たれベルゼに迫るが、紫紺の光線は黒にぶつかると細かく分断されて消えてしまう。

 紫紺の光線が消えたのを見計らい、ベルゼは黒から現れる。


「どうした愚かな神の眷属よ。その程度か?」


「ブーメランと言う言葉を知っていますか?」


「ああ、知っている。これのことだろう―――『旋回緑刃(グリーンカッター)』」


 星杖の右手に緑色の刃が宿り、腕を振るうと緑色の刃が分離して、凄まじく回転しながらベルゼに迫る。

 ベルゼは嘆息しながらその鋭い顎を開け、その緑刃を喰った(・・・)。 

 残像も残すほど高速で頭がブレて、顎の形に抉られた緑刃は粒子となり消えていく。

 弾くでも無く、回避するわけでもなく、始めてベルゼが見せた行動、先ほどまでとは違う行動に、星杖は目を細めた。


「ああ不味い。何て不味い魔術ですか。様々な魂の魔力を混ぜすぎて大量の香辛料をぶちまけたような味がします」


 ベルゼは微かに顔を顰めながら、ガチガチと顎を鳴らす。 


「・・・なるほどな、今の程度の魔術ならお前も避けることも弾くことも出来ないのか」


「わざわざ追跡してくる魔術を避ける馬鹿ではありませんからね、逆に私程度の牙に負ける魔術しか撃てないなら貴方に勝ち目はありませんが」


「いや、それだけわかればいい。『乱散緑刃グリーンスプラッシュカッター』『赤の熱牢(レッドプリズン)』」


 星杖の持つ杖の先端の球体が緑色に輝き、霧吹きのように緑色の刃が噴出した。

 刃の形は様々、先端が湾曲したものもれば板のように平べったいものなど様々、だがどれも鋭利な刃を備えていることには違いない。

 更にベルゼを取り囲むように赤色の炎の牢が現れる。

 形状は四角、手を通すぐらいの隙間はあるが、ベルゼの巨体では通れそうにも無く、密度の高い炎で構成されているそれにもしも触れようものなら、即座に消し炭に変わるだろう。

 星杖が右手を上げると、緑色の刃はベルゼを取り囲むように移動する。


「追尾系統が避けられないなら数を用意すればいい、更にお前の行動はその炎の牢獄が制限する。いくらお前でも全方位からの同時攻撃を喰うことはできないだろう。口は一つしかないのだからな」


「・・・・・・」


 ベルゼは何も語らない。ただ、つまらなさそうに錫杖を回す。

 反応が無いことに若干苛立つ星杖だが、死の間際になんらかの悪あがきだと判断した。

 星杖は無言で右手を振り下ろした。

 空を切り裂きながら迫りくる無限の緑刃、そして囲むのは灼熱の牢。

 回避は不可能、しかし、ベルゼは決して諦めてなどいなかった。

 むしろ、失望していた。怒りを覚えていた。

 敵の力量を正確に測るすらことも出来ず、この程度の魔術しか使わない星杖を。

 そして、この程度で殺せると思われてしまう自分への不甲斐なさを。

 迫りくる危機を気にすることすらせず、ベルゼはため息をついて片手を前に出した。

 そして、ある一つの呪文を唱える。


「―――お借りいたします。《廃具の棺》」


 現れたのは一つの箱であった。何の代わり映えもしない、ただの小さな木製の箱。

 だが、ただ一点だけが異様に蠢く。

 妙に生物的な牙の生えた箱の口、そこには真っ黒な闇の中でぽつんと充血した瞳が浮かんでいた。


「《廃具の棺》起動―――収集開始」


 ベルゼがそう唱えると瞳は限界まで開かれ、全てを飲み込んだ。

 赤熱した牢も、無限の刃も、闇の舌が全て絡め取る。

 あまりの事態に、星杖も目を見開き驚く。

 

「・・・なんだそれは?神器・・・なのか!?」


「その質問に私が答える義務は無い・・・でしたよね」


 戦闘前に自分が言ったことを返され、星杖は舌打ちをする。

 だが直ぐに気を取り直し、杖の先端に浮遊する輝く球体を空に打ち上げた。 


「答えないならばいい、どうせ無限収納かその類のものだ。貴様ら神々とその眷属はやたらと自分の力を過度に強調し過信する、それが傲慢と知らずにな。だが、神であっても一つだけ逆らえないものがある」


「同じ神の力・・・その結果がその神器ですか?借り物を誇っても自らの格が上がりませんよ」


「違うな。これはすでに神のものでない。この杖―――【星杖《落天の箒星(メテオダスト)》】は教皇様の力により神の呪縛から放たれた神聖な武器・・・いや人聖の武器なのだ」


 星杖は自らの杖を天に掲げる。

 よく見ると、杖には大量の刻印が刻み込まれていた。

 無理やり剣で刻み込んだように乱雑で怨念がしみついた、紫色の刻印が。

 七色に輝く球体は、よりどす黒く変色し、暗雲が空を黒く塗りつぶす。

 だが、人外の感覚を持つベルゼは気づいていた。

 暗雲の隙間、空の果ての果て、宙から落ちる無数の隕石を。


「球体を座標指定に使用し、一帯に隕石を降らせる神器ですか・・・重力系の魔術により落下速度も上昇しており落ちれば甚大な被害を齎すでしょうね」 


「少しばかり訂正してやる、あれは石などで無い。より強大な鉄の塊だ。それに、発動すればここら一体は絶野へ変わるだろう」


「いいんですか?貴方の命だけでなく、仲間さんの命も、この国の教徒も大事な教皇とやらも死にますよ?」


「自滅などといった無様なことはせん、それに北と東と西のも耐えるだろうし、教皇様に当てるなどといったこともしない。教徒は死んだらその時だ。教皇様がいらっしゃれば、教えはいつであっても生き続けるのだ」


 ―――隕鉄が地上に落下するまで六十秒。


「《廃具の棺》とやらがなにかは知らんが、あれだけの大質量かつ大量の隕鉄の群れだ。全てを防ぐのは無理だろう」


「ええそうですね」


 ベルゼは肯定した。

 この世界では、星は特別な意味を持つ。

 不変にしてそこにあり続ける星は人々を導くものとしての意味もあり、方角に対する信仰が篭められている。

 一人一人は微弱な信仰であっても、信仰者は世界中の人間。

 膨大な数の信仰は、一種の神格を与えるのだ。

 すなわち、星は神と言い換えてもいい。小さな宇宙屑ならベルゼも対処できたかもしれないが、星杖が落としたのは最小サイズ推定二十メートル、最大のものは全長二百メートルにも及ぶ。

 とてもではないが、ただの眷属の身であるベルゼには対処はできなかった。

 星杖は勝ち誇ったように笑う。


「これで貴様らの敗北だ。他の門を攻めている馬鹿者どもも息絶えるだろうな」


「それはどうでしょうか」


 ベルゼは小さく微笑み、《廃具の棺》を開いた。


「私は防ぐのは無理と認めましたが、負けまで認めたつもりはありませんよ」


「ふん、負け惜しみだな。せいぜい無様に足掻くがいい」


 鼻でベルゼの言葉を笑う星杖を無視して、ベルゼは《廃具の棺》に手を突っ込む。


「この箱は、実は神器ではないのです。本当に、ただのゴミ箱。何の変哲も無い、ただのゴミ箱なんですよ」


 ずぶずぶと箱に手は沈んでいき、最終的には肩まで入ってしまう。

 

「更に言うと、この箱はお借りしているのです。私と同類の神、蝿の神様から。彼の方はとてもコレクションというものが大好きでして、この箱の中には集めたが不要になったものが入れられているのです」


 これも、彼の神のコレクションなんですよと、ベルゼは杖と王冠を指した。

 そしてそれに呼応するように、簡略化された蝿の紋章が王冠に浮かび上がった。


 ―――隕鉄落下まで後四十秒 


「気まぐれで出された試練に勝ち、報酬として与えられたものとしては少々不満に感じもしましたが・・・とんでもない、私は勘違いをしていたのです。神と眷属の価値観が同じであると」


 ずるずると《廃具の棺》からワームのようにうねる銀色のコードが現れ、ベルゼの肩に巻きつき機械的な音をたて接続されていく。

 全てのコードが接続されたことを確認すると、ベルゼは一気に腕を箱から引き抜く。

 その先にあったものは、明らかに箱のサイズと合わないくすんだ銀色の円筒。

 それはベルゼの体よりも大きく、手元の部分は覆い尽くすようになんらかの機材が接続されていた。


 ―――隕鉄落下まで後二十秒


 星杖には、一瞬それが何であるか理解できず、そして潮が引くように青ざめた。

 見るものなら理解できるその物体を、人はこう呼ぶだろう。

 ―――レーザー砲と。


「惑星破壊兵器〈アポカリプス〉・・・正式名称はもっと長いようですがね。ここではないどこかの国が開発したものであるそうですが、国が滅んでしまったため神が玩具として秘密裏に保管しておいたものらしいですよ・・・彼の神の興味を引くには少々物足りなかったようですがね」


「・・・どこかの国だと!ありえない、それは教皇様でも成し遂げられなかった・・・!!!」


 ―――隕鉄落下まで後十秒


「チャージは既に完了済み。モード”スプラッシュ”発射スタンバイ」


 瞬きの間にベルゼは場所を移動し、その砲口を天へ向ける 

 星杖は理解した。これが、神とそれ以外の生物の壁であると。

 だが・・・


「むざむざやらせると思ったか!」


 星杖は諦めなかった。

 ローブの内ポケットから予備の短杖を取出し、身体強化も発動してベルゼに迫る。

  

「『白銀の腕(シルバーアーム)』『赤銅の肉体レッドブロンズアシスト』『黄金の螺旋(ゴールドサイクロン)』!」


 口の端からは血をにじみ全身が引き裂かれそうな激痛に襲われても止まることなく、星杖は限界を超えて魔術を発動する。

 右手部分のローブが黄金の螺旋により細切れに変わり、細くひょろりとした腕は金属的な冷たさを持つ銀色に変色する。

 星杖は自らの命を失うことすらいとわない、それはアゲハがムーに捧げた忠誠心のように、鋼のように固い最後まで約束した忠誠であった。


―――隕鉄落下まで後五秒


「しねええええええええええええええええええ!!!」


 キュポっと、何か気の抜ける音がした。

 だがしかし、星杖はまだ一歩もそこから動いていない。

 ゆっくり、ゆっくりと星杖は首を傾け自らの胸を見た。

 ―――何も無かった。

 綺麗にくり貫かれたそこはぽっかりと穴だけがあり、まだ抉られたことに気づいていない臓器の断面が綺麗に見え、脈打つごとにぴゅうぴゅうと血が吹き出ている。

 

「ヤゴという生き物を知っていますか?水中に生息し、小魚を主な餌として捕食する虫ですが、はっきり言って水中に特化した魚に追いつくほど速く泳ぐことはできません。ならばどう捕食するかというと、ヤゴは顎が伸びるんですよ。顎だけを高速で動かし、愚かにも近づいてきた餌を食らう・・・まるで、今の貴方のようだと思いませんか?」


 ベルゼの口からは先端に牙がついた舌ようなものが揺れており、その先には星杖の心臓がどくんどくんと血を吐きながら脈打っていた。

 心臓どころか肺すら抉られた星杖は喀血しながら、落ちてゆくが、それをベルゼは舌で挟み掬い上げる。

 もちろんそれは、慈悲でなく。


「ああ、忘れていました。死体は髪の毛一本残さないという命令でしたね。貴方も自身の神器(かたみ)と逝けるならば本望でしょう」


 無慈悲な処刑宣告が下される。

 まるでゴミのように空へと放り投げられた。

 眼前に迫るのは巨大な隕鉄、だがこの隕鉄が当たるよりも早く後ろのアポカリプスが星杖を消滅させるだろう。

 瞳孔が開いた瞳から、静かに涙が落ち、震えながら音のない言葉を紡ぐ。

 

(教皇様の未来に栄光あれ・・・・・・)


「アポカリプス起動―――撃ち滅ぼせ、スターダストブラスター」


 光の速さまで加速された超重粒子が、傘を広げるように空に突き刺さる。

 黒い雲が立ち込める空を貫くように、極光の柱が突き抜けていった。

 


訂正

・強欲の宝箱→廃具の棺

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