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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第三章 百年後の世界
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四十二話 皇国殲滅作戦―四装―

そして、今回は頻繁に視点が変わります。ご注意を。

 その日はいつもと少し違う、雲一つない綺麗に晴れた日であった。

 

「ふわあああ・・・眠い」


「夜遅くまで賭け事などやっているからだ、馬鹿者が」


 皇国の城壁の高台の上で、床に固定された大型の望遠鏡と呼ばれるものを覗きながらあくびをする騎士と、それをたしなめる小型の双眼鏡と呼ばれるものを覗く騎士。

 彼らは、この城壁の上でいつもこれを覗いて索敵するのが仕事だ。

 魔物の群れや、敵軍がやってきた時に素早く発見するため、彼らには特別に双眼鏡と望遠鏡が渡されている。

 もち回しがきく双眼鏡で大雑把に索敵をしてだいたいどの位置にいるかを見定め、双眼鏡よりも遠く詳しく見ることのできる望遠鏡で、何が来ているかを判断する。

 一分一秒を争う戦時においては重要な役目かもしれないが、しばらく大きな戦争が起きていない時はほとんどと言っていいほど何もやってこないため、騎士がだらけてしまってもしょうがない。

 実際、教皇が直々に作られたものを使えるのは名誉ある仕事かもしれないが、高台での仕事は不便なものだ。

 用を足すときにも食事を取るときにも、いちいち下に降りなければならないし、夏は日がもろに当たって暑いし冬は吹雪が当たり寒い、それにこの仕事への選抜基準は見習い時代に一回も時間に遅れなかったかどうか、つまりある程度真面目かどうかなので本人の努力はあまり関係するものでない。

 いくら昔は真面目であっても、やりがいのない仕事をやらされ続ければ誰だってだれてしまう。

 望遠鏡をのぞく男もその一人だ。


「あーあ、この望遠鏡がもっと回ればな・・・人の家の中も見えたかもしれないのに」


「お前のような悪趣味なことを考える奴がいるからそれ以上回らないようになっているのだろう。いい加減にしないと今のことを隊長にいいつけるぞ」


「げっ、それはやめてくれ。あの隊長説教がしつこくてかなわねえよ」


「なら、無駄口を叩かず仕事につけ」


「へいへい」


 不機嫌そうに双眼鏡で周りを見渡す騎士に叱咤され、しぶしぶ何もない地平線を望遠鏡で覗く。

 だが、いつもより空が綺麗に晴れたその日は、違うものが写っていた。


「おい、あそこになにかいるみたいだぞ」


 双眼鏡を持ちながら騎士は目を細める。

 肉眼より遠くが見えるとはいえ、それほど遠くが見えない双眼鏡では小さな黒い点があるようにしか見えなかった。

 

「はいはい・・・なんだありゃ?」


 望遠鏡を素早く移動させてピントを合わせ、正体を確認する騎士は疑問の声を上げた。

 

「なんだ、あれはなんだった?」


「人じゃねえことは確かだ。腕が八本もあるし、背中からは羽が生えた蝿みたいな奴だ。おそらくは・・・蟲人か?」


「亜人だったか。しかし、一体何故ここに来たのだ?ここは亜人が興味をひくようなものは無かった筈だが・・・」


「おいおいやめとけ、俺たちゃ下っ端騎士だ。そんな難しいことを考える必要はねえ。暇つぶしに観察してようぜ」


 退屈しのぎが現れ嬉々として望遠鏡を覗き込む騎士にため息をつき、双眼鏡を持つ騎士は一応報告しておくかと連絡用の通信機と呼ばれる小さな鉄の塊を取り出す。

 上司に連絡をしようと電源を入れると、突然後ろで光が瞬いた。


「あああああああああああああああああ、目があああああ目があああああああああああああ!!!」


 望遠鏡を覗いていたときに運悪く光を見てしまったのか、騎士が目を抑えて床にのた打ち回る。

 しかし、もう一人の騎士はそんなことは気にも留めなかった。

 騎士は決して薄情者ではない。むしろ、新入りに対しても優しく、同僚には少々厳しいが困ったときには率先して助けてくれるほど気がいい人であった。

 つまり、そんな騎士であっても無視しかねないほどの事態が起きていた。


 視界に写っていた黒い点は、地平線すべてを埋め尽くすほどの黒い線となっていた。


 望遠鏡どころか双眼鏡も必要ない。肉眼でもはっきりと理解できる。

 それは、大軍と言っても過言でない魔蟲の群れであった。


「き、緊急事態!て、敵襲!敵襲!敵襲!」


 備え付けられた鐘を一心不乱に乱打しながら、通信機に向かって叫ぶ騎士。

 鐘の音はやかましくあたりに響き渡り、皇国はその鐘の音を聞いてどんどん騒がしくなっていく。

 鐘の音は、いつもよりも大きく響く。

 騎士は、鐘が壊れかねないほどたたき続けていた。だから気づかなかった。

 響き渡る鐘の音は、決してここだけではないと。


 


 これが歴史に名高き最悪とまで言われた災害―――【(しょく)】の始まりである



          

          *




 ―――南門前

   

 見張りの目は閃光で潰した、運悪く背中を向けてしまった奴がいたが、まあいいだろう。

 ベルゼはいつもの人間の姿ではなく、本性のまま飛行する。

 三メートルの巨体に、顔の大半を占める大きな複眼、羽というより板といったほうがいいほど分厚い翅が不快な音をまき散らし、八本の腕の一つには黄金の錫杖が握られ、頭の上には小さな王冠がのっている。

 まごうことなき蝿の怪物、化け物である。だが、怪物は一匹ではない。

 眼下に蠢くは大地を埋め尽くすほどの魔蟲達。全て、ベルゼが【従体生成】で作り上げた外見(そとみ)だけの怪物たちだ。

 命令がなければ動けないただの生きる人形でしかないが、ベルゼにとっては意識などないほうが好ましい。

 ベルゼは『暴食大蝿』と呼ばれる種族の新種『飢餓王蝿』であり、魔神(ムー)から付与された能力は【絶対捕食】と【蟲ノ王】である。

 流石に【絶対捕食】はスキルとしての格が高すぎて完全に受け継ぐことができず【悪食暴喰】まで劣化してしまったが、【蟲ノ王】は劣化せずに受け継がれていた。

 【蟲ノ王】は、全ての魔蟲種に対する絶対命令権だ。これが発動している限り、魔蟲種がベルゼの命令に逆らうことはない。だが、頂点の種族の一つたる『覇鎧蟲帝』基礎能力がその程度のはずがなかった。

 命令を受けたものの能力の底上げ、これがもう一つの効果である。

 普通ならば魔神が作った従体とその眷属が作り上げた従体は明確な壁というものが存在する、それもそのはず、創造者としての格がまるで違うのだから当たり前のことだ。

 しかし、【蟲ノ王】があればベルゼの従体であっても一時的に魔神の従体にまで底上げできるのだ。

 更にベルゼは配下の蝿を一体一体に放ち、リアルタイムで命令を下して底上げを途切れさせない。

 まさに、このスキルはベルゼのためにあるといっても過言ではなかった。

 強化された自我無き蟲達は、次々に門に突進を繰り返していく。

 だが流石大陸最大の宗教国家の首都、皇国全てをドーム状に覆う結界により蟲の進撃を許さない。

 内側からは攻撃が可能なのか、バリスタや魔術が飛び交い結界で止まった蟲を殲滅していく。


「これはいけませんね」


 いくらいくら死んでも補充が効くとはいえ、このままでは千日手、時間をかけるのはよろしくない。

 ベルゼは黄金の錫杖をシャランと鳴らし、魔力を練りこみ


「『泥の壁は微風に散る』」


 魔術を発動した。

 黄金の錫杖に澱んだ緑色の風が纏わりつき、澱んだ緑の風は周囲の空気を腐らせていく。

 だがそんなことをベルゼは気にも留めず、思いっきり振りかぶり投擲した。

 錫杖は一本の槍のように突き進み、結界に刺さり―――カランと軽い音をたてて結界は消え去った。


『―――――――――――――!!!???』


 上空にいるベルゼにも見て取れるぐらい皇国は驚愕の雰囲気に包まれ、辺りに悲鳴と怒号が響く。

 建国当時からすべての厄災からこの国を守ってきた、最強の防壁が消えた。それは最悪と言ってもいい事態であった。

 自らを遮っていた不可視の壁は消失し、蟲は再び特攻を開始する。

 相変わらず壁の上から攻撃は降り注いでいるが、先ほどほど圧倒的でない、むしろ押されている。

 蟲が自損することすら恐れず門にぶつかるたびに、門からは悲鳴のように軋む音が響き、壁からは石がボロボロと落ちていく。

 このままなら、制圧も殲滅も時間の問題であった。


―――イレギュラーが混じらなければ。


「『閃光と爆炎の絨毯(スカーレッドカーペット)』」


 ぼそりと呪文が唱えれると同時に、地表を埋め尽くすように閃光と爆炎が覆った。

 鼓膜がやぶれるのではないかというぐらいの轟音が空気を揺らし、衝撃はを撒き散らす。

 事実壁の上にいる兵士はたった一人を除いて耳を塞ぎしゃがみこんでいるが、次の瞬間その轟音すら上回る歓声の声が上がる。

 壁の上に佇む、ローブを羽織った灰色の髪のエルフの女へ。

 エルフの女は輝く球体が浮かぶ杖を掲げると滑るように空を飛び、ベルゼの前へ降り立った。


「亜人を差別する国の最強の騎士団が亜人とは、これ以上に滑稽なことはありませんね。そう思いませんか?まあ、国の人間には催眠で騙しているようですが」


「・・・・・・・・・」


「黙秘ですか?まあいいでしょう、我々の目的はあなたがたの抹殺、交渉の余地はありませんよ。ああそうだ、間違って殺してしまうのも後始末が面倒ですから聞きますけど、あなたは神罰騎士団の一員であってますよね?」


「答える義務は我にない。我はただ障害を取り除くだけだ」


「それは、この国のですか?それとも、一個人のですか?」


「・・・・・・・・・・」


 エルフはベルゼの問いに答えず、無詠唱で光の槍を放つ。

 だが予測していたのか、ベルゼは光の槍を錫杖で空へ弾いた。

 

「神罰騎士団、四装が一つ、”星杖”―――失せろ、蝿よ」


「偉大なる魔神様の第一眷属ベルゼ―――上等だ、やってみせろ。塵芥が」


 その瞬間、激しい閃光が炸裂した。




          *




 ―――西門城壁上


「おらおら!遅いぞおめえら!」


 ベルゼと星杖が激しくバトルを繰り広げる中、西門城壁上では緑の閃光が空を駆けぬけていた。

 音すら置き去りにして空を地を駆ける、脚部が異常に肥大化した異形―――グラスだ。

 元々軍隊の指揮などはあまり得意でないグラスは、西門への攻略を全てベルゼに丸投げして、一人城壁の上にいる敵を薙ぎ倒している。

 

「くそっ!ここを通すな!全力で持ちこたえろ!」


 豪奢な鎧を身に纏った騎士が指揮をすると、城盾(タワーシールド)を持った騎士達がパズルをはめるように陣形を組んでいく。

 下に降りるための階段の前に陣取られたそれは、簡易式の不沈要塞。元々タワーシールドの防御力は高く、さらにそこに刻印を刻みこみ法則に従い組み合わせることで、強力な結界を作り上げることもできる皇国が誇る技術の一つだ。


「いいぜいいぜ!そういうのは嫌いじゃねえ!」


 グラスはそれを見てにやりと笑い、高速で突進をしかける。

 

「馬鹿めっ!やれっ!」


 指揮官が剣を振ると、タワーシールドの中央から槍が飛び出た。

 槍衾だ。

 だが、グラスは止まらない。

 槍に触れる一歩前で空に飛び、華麗に空中で一回転を決め、


「せいやあっ!」


 そのままタワーシールドに突撃をすることなく、一歩前(・・・)の地面に踵落としを叩き込んだ。

 いくら不沈要塞であっても、要塞であるからこそ地盤が落ちては意味がない。

 どんな強固で堅牢な要塞も、柔な地盤では呆気なく崩れてしまう。

 グラスの踵落としは城壁の一部をめり込ませ、城壁を階段ごと破壊した。

 不沈要塞も突然崩れた足場に対応することもできず、悲鳴をあげながら雪崩のように城壁から落ちていった。

 

「ぎゃははははははははっ!わざわざそんな丸見えな罠にかかるかよ!」

 

 グラスの哄笑と共に蟲は門へぶつかり、甲高い音を響かせる。

 この門が落ちるのも時間の問題、事実若干とはいえ門には城壁の上から歪みが見えるくらい凹んでいる。

 

「さてと・・・それじゃあ、次の場所にでも飛ぶか」


「そいつは遠慮してもらう」


 グラスの真後ろからそう声がかけられると同時に、恐ろしい速さで何かが突きこまれた。

 瞬間的に殺気に反応することのできたグラスは上でなく右に飛び、それを回避する。

 もちろんグラスの回避は決して遅くない、普通の人間なら目で追うことは不可能だ。

 そのはずなのに・・・何かはグラスの目の前に迫っていた。

 グラスは避けることを辞め、脚を絡めるようにして何かを止めた。

 それは一本の槍であった。

 投槍でない、手に持って使う長槍をグラスの圧倒的なスピードについてきながら槍は突いていた。

 

「へえ・・・紙屑ばかりだと思ったら、中々面白い奴もいるじゃねえか」


「神の眷属にそう言ってもらえるとは光栄だな。俺も鼻が高いよ」


 槍を持った男は、そういってフードの中で笑った(・・・)

 だが、それは絶対にありえないことであった。 

 

「おいおい、お前神罰騎士団ってやつの一人なんだろ?なんで笑えるんだ?感情は限界まで削られてるんじゃねえのか?」


 グラスの圧倒的スピードを目で追うことはおろか、それについていくことは普通は不可能だ。

 それができるということは普通でない人間、つまりムーが言った魂の合成が行われた神罰騎士団でなければありえない。

 だが、魂の合成が行われたのならば感情を表に出すことはできない。発狂と廃人化を防ぐために感情を限界まで削られるからだ。

 なのに、目の前の槍を持った男は笑って見せた。それは一番最初に削られる感情であるはずなのに。

 槍を持った男は更に唇の端を吊り上げ大きく笑い、フードを取り去った。

 中から現れたのは、人の顔ではなかった。

 顔を覆うように生えているのは茶色の毛、双眼は鋭く、耳は頭の上に生えており、口元には鋭い牙が生えている。

 槍を持った男は人ではなく、どこから見ても完全なオオカミの獣人であった。


「さらにわからなくなってきたなあ、おい。なんで獣人がこんなとこにいるんだよ」


「ここに、俺が定めた主がいるからだよ。おしゃべりはもういいだろう、さあ続きをやろうぜ

―――神罰騎士団、四装が一つ”撃槍”だ。難しいことは考えるな、拳で語ろうぜ」


「偉大なる魔神の第三眷属グラス―――拳で語るのは嫌いじゃねえよ。だけど俺は拳じゃなくて脚だけどな」


 


           *




 ―――東門


 その集団は突然現れた。

 まるで霧の中が晴れたように現れた真っ白な鎧を纏った兵士の軍勢。

 緊急事態の鐘の音が聞こえ見張りが余所見をしていた隙に、集団はすぐ門の前まで迫ってきていた。

 そのことに誰も気づくことはなく、誰も気づくことはできない。


「くすくすくすくす・・・・・・」


 魅惑的で蠱惑的な大きな蝶の翅を広げたアゲハが笑う。

 身に着けているものはいつもの真っ黒なゴスロリでなく、赤と紫で彩られたそれは華美で派手であり、さして下品ではない戦闘ドレス。

 あくまでドレスの域を超えることないそれには、所々に金属的な冷たさを放つ装甲がつけられていた。

 そして両手に持つのは大小二つの扇子。 

 左手に持っている、貴金属や宝石で装飾された背丈ぐらいありそうな扇子は《虚栄》

 右手に持っている、何の飾り気もなくただ黒く凶悪な爪がついた扇子は《殺念》 

 どちらも、世界最高クラスに入る、魔神自らが創造した武器である。

 アゲハはふわりふわりと翅を軽く動かしながら―――されどその場所を微動だにすることなく―――虚栄を振るう。

 虚栄を使いアゲハが現在使用しているのは、光を屈折させ召喚陣を隠ぺいすることと、自分が見たものと音から気を逸らす魔術だ。


 真っ白な鎧をまとった兵士の軍勢は、アルゼンが【災禍の巣穴】から召喚した兵隊蟻だ。

 しかし兵隊といっても最下位の兵であっても装甲は固く、並みの刀剣では貫けぬほど硬い。

 だが、【災禍の巣穴】から召喚を繰り返し続けると、召喚陣の光から召喚していることがばれ、もしかしたら対策されてしまう可能性がある。そうなってしまえば、無限の召喚はなくなりいくら硬くても兵隊達は死ぬ。

 今この国は、何があっても不思議ではない、そうムーから言い聞かされているためアゲハは念に念をいれ召喚陣を隠していた。

 それに音をから気を逸らせているのは、またもや感づかれるのを防ぐため。

 無限に湧き続けるといってもいい兵隊達を丸ごと隠すのは容易いとは言わないが、一応アゲハにもできることだ、しかし姿を隠しても行動までは隠せない。

 一歩歩けばそれなりに音は立つし、ましてや武装を背負ったものが歩けば地面には足跡が残ってしまう。

 視界には何もいないが勝手にできていく大量の足跡など、何かがこちらに迫ってきていますと言っているようなものだ。

 そのため、見張りの兵士には兵隊蟻の行動全てが何も問題が無いかのように意識を誘導しているのだ。

 塔の上いる騎士は棒立ちのまま、ただ兵隊蟻が侵略するようすを眺めている。

 工作兵が門に取り付き、解体を始める。

 本来ならこんなにゆうちょに解体など出来ないだろうが、相手が黙ってみているなら別だ。焦ることもなく工作兵は余裕を持って解体を始める。

 

「くすくす・・・まあ、そうも行かないようね」


 一度目の爆破が起こる。

 だが、煙が晴れても門に傷は見えない。

 

「やはり、適当に作ったものではダメみたいね。工作兵は破城槌を用意、重装兵は待機、重馬騎兵は工作兵と連携して・・・あら、お客さんがきたみたい」


 門に取り付いていた工作兵の首が落ち、重装兵が螺子が切れたおもちゃのように動きを止め崩れ落ちる。

 そして見張りの騎士は、はっと気がついたように鐘を鳴らし始めた。

 誰の仕業かは、アゲハもわかっていた。

 何故なら不埒物は、アゲハの目の前まで接近していたのだから。


「舐められたものだな、ここまで好き勝手にやられるとは。なあ弟よ」


「はい姉様。だが、それもここまでです」


 現れたのは片方は長髪でもう片方は短髪の双子のダークエルフ。

 褐色色の肌に、急所のみを覆った小麦色の軽鎧。腰に付けられたのは短弓と矢。

 そして、姉と呼ばれたほうは体を丸ごと覆い尽くすような大剣を、弟よ呼ばれたほうは手のひらほどしかない短剣を持っていた。

 

「くすくす・・・こんにちは、ダークエルフさん。人間至上主義のこの国に何か御用でも?」


「ああ、門を破壊しようとしている馬鹿者が居るようなのでな。なあ弟よ」


「はい、姉様。もっとも首謀者は発見しましたのでこれ以上は大丈夫そうですが」


 そう双子は言い放ち、笑った。

 アゲハはグラスと同じく、それを訝しげに見る。 


「あら?感情はないのでは?」 


「お前たちが先に殺したもの達、あれは第一世代の者達だ。技術は常に発展し続ける、そこに終わりは無い。今日の最新技術は明日は時代遅れだ」


「教皇様は更なる強化の方法を発見なされました。故に私達には感情が存在します」


 双子は鏡合わせのように肩をくっつけ、刃をアゲハに向ける。


「常に停滞を望み、同じ場所にとどまることしか知らん神にはわからんだろうがな」


「くすくす・・・それは挑発かしら?―――死にたいの?」


「ご冗談を、あなたが私達を殺すことは出来ません」


「ああそうだ弟よ、自己紹介がまだであったぞ」


「そうでしたか姉様、ならば冥土の土産に聞いていってください、毒蝶」


「「神罰騎士団、四装が一つ”葬剣”―――その傲慢を胸に死ね」」


「偉大なる魔神様の眷属アゲハ―――やんちゃな子供には躾が必要ね」


 

 

           *




 ―――北門


 皇国は北に位置する国だ。

 冬には厳しい寒さが襲い、北方には険しい山脈が連なっている。

 山脈は《永雪山》といわれるほど年中雪が降り積もっており、平地では考えられないほどの寒波が常に渦巻いている。はっきり言って生物が生きていけるような環境ではない。

 それがゆえ、山脈に住む魔物は平地の魔物より格段に強い。

 厳しい環境と、食物が少ないため起こる壮絶な弱肉強食に打ち勝つことができる魔物だけが、生きることを許されるのだ。

 そのため、たまに集団で降りてくる魔物を討伐するために北門は通常の門よりも強固な陣が築かれている。

 だが、その陣は現在・・・


「破城槌が来るぞおおおおおおおお!!!」

 

 絶体絶命の危機にあった。

 騎士が叫ぶと、土煙を上げながら巨大な百足が門に激突する。

 頭に鋼鉄の角を装備した百足は自分の頭が潰れることすら躊躇わず、門に激突した。

 ガーンと金属同士がぶつかり合う激しい音が響き、騎士達は思わず耳を塞いだ。

 だがその体勢も一瞬でやめ、一秒でも惜しいかのように立ち上がった。


「くそっ、どうなってやがる!」


 騎士は悪態をつきながらクロスボウを引き、蟲の怪物へと矢を放つ。

 次々に金属の矢は突き立ち、ハリネズミのようになっていくが、構わず突進を繰り返す。

 また一匹、また一匹と蟲は息絶えるが、騎士達にとってはそこは問題ない。

 問題なのは蟲達よりも後ろに居る集団なのだ。


 真っ白といってもいい純白な鎧を纏った集団。  

 それは白雪の中に隠れるように白く、数が数え切れないほどそれは存在していた。

 そしてその集団の先頭、白に混じる一点の紅。

 紅一点とはまさにこのこと、そいつは隠れることすらせず堂々と立っていた。

 額に白熱した角を持ち、背負うのは巨大な白い斧。

 コーカサスであった。

 

 コーカサスは、少しばかり暇していた。

 主自らが命じたものとはいえ、攻めるのはベルゼの従体だけ。

 敵の騎士達は城壁の上から矢を射掛けるだけで、降りてくることもない。

 そのため空を飛ぶことも出来ないコーカサスは見ているだけしか出来なかったのだ。

 たった一人であっても、剣を持って戦おうとするものはいないのかと的外れなことを思っていた時、門の辺りが爆ぜ大地が揺れる。

 爆煙と土煙で状況は確認できない。だが、コーカサスは見ていた。

 城壁の上から一人の人影が飛び降りていたことを。


 コーカサスはアルゼンの兵隊を放置し、爆発地点に駆け出した。

 全身鎧を着ているはずなのに馬のごとき速さで大地を駆ける。

 数分もかからず、コーカサスは爆破地点に到達した。


 未だ土煙は昇り続けている。空高く地を舐める土煙は、全く晴れる様子がない。

 どう土煙を取り除けばいいか、コーカサスは思考するがその必要は無かった。

 何故なら、目標は自ら飛び出てきたのだから。

 奇襲の形で土煙の中から、叩きつけるように上から巨大な金属の塊がコーカサスに迫る。

 コーカサスは反射的に背から巨斧を抜き、金属の塊にぶつけた。

 ガキンッ!と金属と金属が派手にぶつかり合う音が響き、コーカサスの足元の地面が衝撃により亀裂が走る。

 そして、その衝撃で土煙も完全に晴れた。

 蟲達の残骸を踏みつけ、巨大な槌を振り下ろしていたのは筋骨隆々のコーカサスの胸ぐらいまでしかない男―――ドワーフであった。

 ドワーフは不適に笑う。 


「かっかっか!ワシの槌に耐えるか!」


 他の騎士達のように分厚い鋼で全身を覆うことなく、ドワーフは下に革ズボンを履いただけで、上半身は裸、とてもではないが戦に向かうような格好には見えない。

 だが、他の眷属よりも武人よりであるコーカサスは理解していた。

 目の前に居るドワーフにとって防具などは紙切れの鎧を纏う事と同じこと、本当の鎧はこの頑健な筋肉であると。


「・・・・・・何故・存在・・・?」


「ワシがここに居る理由か?そりゃここが面白いからだろ!」


 ドワーフは槌を横に構え体を捻り、真横から叩きつける。

 コーカサスはそれを、巨斧を地面に突き刺し止めた。

 再び巨大な武器同士がぶつかり合う、しかしそれだけではなかった。

 槌が斧と衝突した瞬間、槌の先から爆発が生じた。

 真横から発生した爆風にコーカサスは少しばかりよろけるが、だがそれだけ。それ以上の効果は無かった。

 しかし、ドワーフは焦らない。むしろ更に笑みを深めるのみ。


「面白い!面白いぞ!流石、神の眷属だ!」


「・・・・・・何故・それを・・・?」


「お前さんの正体を知っとる理由か?そいつは答えられんなあ!!」


「・・・・・・なら・問う・・・」


 一呼吸置いて、コーカサスは問う。


「―――それは・神器・・・?」


 ドワーフはその言葉を聴き一瞬とまり、大きく笑った。


「そうか、よくわかったなあ!こいつは神器だ!しかもただの神器じゃない!改造神器だ!」


 頭の上で槌を回し、再び地面に叩きつけドワーフは宣言した。

 コーカサスもそれに答えるように、巨斧を右手に構える。


「我らが教皇は、神のごときお方。お前さんをこれ以上通すわけにはいかん!よってここで死んで貰う!」


「・・・・・・問答・無用・・・偉大なる魔神様の第五眷属コーカサス―――いざ、参る」


「名乗りか!よかろう!神罰騎士団、四装が一つ”爆槌”!―――楽しませて見せろ!神の眷属よ!」

次回は決着つけます。


色々伏線張りますよ・・・回収できるか知らないですけど。



訂正

・腰ぐらい→胸ぐらい

 腰はいくらなんでも小さすぎるだろう。

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